英雄伝承~森人の章1~ 落ちこぼれと言われて追放された私、いつの間にか英雄になっていました

大田シンヤ

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放浪編

第32話

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「すまなかった」

 貝殻の家の中で目を覚ました時、一番最初に耳にした言葉は謝罪だった。
 目の前で頭を下げているのは決闘場で戦ったオフィキウム。その謝罪が何に対してのものなのかを察することはできたが、その前に気になることがあった。

「あの戦い、最後どうなったの?」

 最後の記憶はデレディオスに自爆覚悟の無窮一刺を放ち、間近に迫った所だ。
 デレディオスとの戦いの記憶が強烈過ぎてもう勘違いされていることとかどうでも良くなっている。

「あれならば、我の額に直撃したぞ。うむ、久しぶりに痛みを感じたわ!!」

 問いに答えたのは、部屋に入って来たデレディオスだ。

「……痛みだけかよ。あれだけやって」

「フハハハハ! 良い、良いぞ。その悔しさは常に持っておけ。戦士は強さに貪欲でなくてはな」

 快活に笑うデレディオスに呆れた表情を向ける。
 こちらが命を懸けて投じた一太刀がデレディオスにとっては痛いで済むものでしかなかった。
 本当に規則外だ。もしかして闘人族とは全員これぐらいの力があるとか言わないよな。

「それよりもリボルヴィアよ。目の前に頭を下げている男がいるのだ。そちらをまずは気にしてやれ」

「ん……あぁ、そうだったわね。別に問題ない。デレディオスのせいで殆ど勘違いについての怒りなんて消えたし、そもそも貴方に斬りかかったのは私の方が先だから」

 あの決闘場でも私を目の仇にオフィキウムはしていなかった。だから良いのだ。
 まぁ、許すのはオフィキウム個人であって海人族全体に対して嫌な印象は残っているが。
 特に決闘場の上で見下ろしていた海人族。あの男は嫌いだ。そのうち闇討ちでもしてやろうか。

「そうか、森人族の子よ。感謝する」

 ようやく頭を上げたオフィキウムに手をヒラヒラと振る。
 そこで気付く。私の手足が何十にも包帯が巻かれており、薬でも塗り込んでいるのか僅かに刺激する臭いが漂っていた。

「うわぁ、私ってかなりの重症だった?」

「それはもう重傷だった。筋肉断裂、骨はあちこち折れ、内臓も数か所破裂していた。特に背骨が危険だったぞ」

「背骨……あぁ、デレディオスの投石か」

「フハハハハ!!」

「笑い事じゃねぇぞ」

「確かにその通りだ。師よ、少しは弟子に謝罪があっても良いと思うのだが?」

「我は我自身のやることに後悔はせんと決めておる。つまり、あれは正しい行いだと言うことだ。謝罪などせん!」

「言い切りやがったこのクソ野郎」

「怒るでない。死にはしなかったのだから良いだろう。それに今の我はお主のために動いている最中なのだぞ?」

「何、看病でもしてくれたのか?」

「いいや、海人族にお主は人攫いではないと説得しておる所よ」

「その話ってもう終わったんじゃなかったの?」

 デレディオスの言葉に首を傾げる。
 可笑しいぞ。だとしたら最初のオフィキウムの言葉は何だったのだ。
 少し不満に思った所でオフィキウムが再び頭を下げて来る。

「申し訳ない。海人族たちの、特に子を産んだ母親たちの怒りが凄まじくてな。海人族の恩人である師の言葉で、勘違いだと説明を受けて納得はしたのだが……怒りをぶつける先がなくなり、どうしようもなくなったのだろう。人攫いではないと分かっても、余所者であるお前を敵だと思い込む者も少なくないのだ」

「……母親、か」

 文句でも言ってやろうとしたが、母親が怒っていると聞いて開きかけた口を閉ざす。
 子供を攫われた母親の気持ちは分からない。私の場合は、母親が攫われたのだから。
 母親と子供が二度と出会うことができなくなる痛みは知っている。それだけは多分、母も子も、どんな種族も同じ痛みだろうから。
 彼女たちは今その一歩前にいるのだろう。

「歩けるようになったら外に出ようと思ったんだけど、もしかして外に出ない方が良いかな」

「襲うことはないと思うが、そうしてくれると助かる。だが、そう長く拘束はしないと約束しよう」

「うん、ありがとう。私も傷が治ればすぐに出て行こう」

 疑いが晴れたのなら、この街に少しの間はいても良いのかもしれない。そう考えていたが、怨みを持つ者がいるのならば早く出て行った方が良いだろう。万が一があったら困る。
 それが父親だったり、私を舐め腐るクソガキなら容赦なくぶちのめすのだが、相手が子供と引き離された母親ならばどうすることもできない。

「お前は子供なのによく納得できるな。俺がその年頃は何をされても反発していた」

「もしかして誉め言葉? 有難く受け取っておこう」

 海人族の勇者の言葉に少し笑みを浮かべる。
 むふー。良い大人にこういうことを言われるのは嬉しいな。

「だが、今の時期ここから出ていくのはお勧めはせんな」

「え、どういうことだ?」

「今の時期は海が荒れるからだ」

 そう口にすると、オフィキウムは海について説明し始める。
 この時期になると海神が海中を泳ぎ始める。
 自分自身の種族の領域を守るため。己の存在を他者に知らしめるため。色々なことは言い伝えられているが、詳しいことは分かっていない。
 それで大丈夫なのかと言いたくなるが、星天に名を連ねる神の考えなど人が推し量れる訳もない。
 重要なのは海神が動けば、海が荒れると言うこと。
 どれぐらい荒れるのかと言うと、海人族一の戦士であるオフィキウムでも海の中を泳げなくなるくらいに海が荒れるらしい。
 そんな中で船を出すなど自殺行為。もしくは海神に身を捧げようとする信奉者だけだ。
 ちなみに、海神が海の中を泳ぐことを海神の行進と呼ぶらしい。

「なら、私はここに暫く拘束されるってことか?」

「あぁ、もう少し早く目が覚めていれば、違ったのだが……いや、それでも怪我で動けんか」

「そうだ。ちなみに私は何日ぐらい気を失っていた?」

「十日ほどだ」

「十日ァ!?」

 予想よりも大きな数字が出てきたことに思わず驚く。
 十日、あの決闘の日から十日が経っているのか。精々、三日四日だと思っていたのに。

「分かった。ちなみに私の怪我は何時ぐらいに治る?」

「国の神官たちの中で優秀な者を集めている。彼等が問題なければすぐに治療させることもできるぞ。だが――」

「分かっている。外には出られないだろ」

 言いにくそうにしたオフィキウムに変わって最後の言葉を口にする。
 それにしても――。

「なぁ、さっき言ってた神官って……もしかして輝術師のこと?」

「あぁ、そうだ。我々は輝力というものは神が与えられた力と考えているからな。それらを扱う者を神に仕える者として、神官と呼んでいる」

「そうなんだ。できれば、海人族の文化なんかを教えて欲しいな」

「構わん。こちらの事情を汲んでくれるのだ。それぐらいはするさ」

 外に出歩けない代わりにと口にした条件にオフィキウムは喜んで承諾してくれる。
 歴史が好き、という訳ではないが、これでも私は森人。歴史を知ることに苦はない。これで退屈は紛れるだろう。そう思って再び寝台の中に沈み込む。
 それにしても、お腹減ったな。
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