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第5話 逆恨み

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 真理ちゃんとのあいだに私が居るとは思っていないその男は、人気ひとけの無い路地に真理ちゃんが入った途端に、真理ちゃんに向かって走り出した。
 真理ちゃんしか視界に入ってないからしょうがないのだが、見えない私を追い越そうとしている。
 私は慌てず騒がず男の足の前に私の足を出した。躓いて派手に転ぶ男に気がついた真理ちゃん。ここまでは私の計画通りだ。さあ、逃げるんだ、真理ちゃん!

 しかし、私は日本人の習性を忘れていたようだ。そう、平和な国である日本で育った日本人の美徳を忘れていたのだ。異世界ならば怪しげな男が自分の後ろで転べば女性は先ず逃げるのだが、真理ちゃんは違っていた……

「あの、大丈夫ですか?」

 そう言いながら転んだ男に近づく真理ちゃん。ダメだ、このままだと真理ちゃんが危険だ。近づく真理ちゃんを見て転んだままの男が一瞬ニヤリと笑ったのを見た私は、真理ちゃんが男に近づくのをやめさせなければいけないと判断した。
 私は真理ちゃんにも私の姿が見えないのを忘れて転んだ男に真理ちゃんより早く近づき男に触り、男と一緒に転移したのだった。

(後から聞いた話である。突然姿を消した男にビックリした真理ちゃんは、幽霊が現れたと思って全速力で走って家まで駆け込んだそうだ。ゴメンナサイ……)

 私が男と一緒に転移した場所は小学生時代の隠れ家秘密基地で、今もボロボロになってはいるが辛うじて昔の形を残している誰も使用しない物置小屋だ。

 男は突然に周りの景色が変わったから、キョロキョロと辺りを見回す。

「な、何だ、一体…… どうなってる? さっきまで路地にいた筈だし、あの女が近づいて来てた筈なのに!! クソッ、あの女は何処に行ったんだ? やっとアイツに復讐出来る筈だったのに……」

 私は普段は絶対に使用しない【思考感知、解析】を男に向けて使用した。

あの野郎タケシの所為で俺は5年もムショに入れられたんだ。全く、あの無能を抱き込んで俺には被害が及ばないように手を回していたのに…… 何処でどう嗅ぎつけたのか、俺にまでたどり着きやがって…… 挙句にもう二度と悪さをするなよだとっ!! ふざけやがって! ムショから出た俺はアイツの事を徹底的に調べて娘がいる事を知った。だからアイツの娘を滅茶苦茶にしてやろうと狙って今日は絶好のチャンスだったのに…… クソッ!! もう一度狙ってやる。こうなりゃ、明日は多少人目があっても気にさせずに無理やり攫って滅茶苦茶にしてやるっ!! 車の用意が……』

 そこまで思考を読んで私はコイツは危険だと判断した。だから、何も考えずに魔法を使った。

「重力魔法…… 【重力3倍】」

「グッ、ウォッ!! な、な、な、ん、だ…… か、ら、だ、が、お、も、く、……」

 男は3倍の重力によって地面に押し付けられる。

 考えて見て欲しい。今までよりも3倍の重力が自分の体にかかる事を。3倍ならば体は潰れる事はない。ないのだが、動ける訳もない。そして地面に体を押し付けられた男に向かって、不可視のまま私は耳元で囁いた。

「愚かなる者よ、神は見ているぞ…… お前の考えが改まらない限り、その病は癒える事は無い…… 悔い改めるのだ……」

 本来であれば警察に未遂として届け出る必要があるのだろう。だが、この時の私はまだ異世界に居た時の感覚が抜けていなかった。異世界では身に迫る危機は全て自分で処理しなくてはならなかったので、今回もその感覚で男に罰を与えてしまったのだ。後々、この考えは変わってくるのだが……

 そうしてこの時の私は怯える男と一緒に大学病院前に転移して、男を放り出した。さぞかし珍しい病気だと言う事で確りと研究してくれる事だろうと思う。
 私の魔力を男に固定して、凡そ1年間、重力魔法が解けないようにしてある。2ヶ月毎に様子を見て、男の思考が改まったならば魔法を解除してやろうと思う。改まらない様ならばまた1年間、同じ様に続くだけだ。しかし、この男を運ぶ担架が壊れるかもしれないな…… そう思いながらも私はその場を後にしたのだった。

 翌日も私は教習所にやって来た。そしたら真理ちゃんから昨日の帰りに幽霊を見たという話をされて困惑してしまった。教習中になんの事か気がついたが……

 そして、夕方になり怖がる真理ちゃんを私が送る事になった。タケシは今日から出張とかで、隣の県に行ってるそうだ。

「タケフミさーん、お願いですから泊まって下さい」

 物凄く怯えてそう言う真理ちゃんに私は

「いやいや、年頃の娘さんしか居ない家にこんなオジサンが泊まる訳にはいかないよ。大丈夫、オジサンは少しだけ霊感があるから、真理ちゃんの家を見てあげるよ」

 と、それらしい事を言って安心させようとした。

「うう~、ホントですか? ホントにタケフミさんは霊感があるんですか?」

 何度も言うが私は嘘は吐けない。が、黙って微笑み頷くぐらいは可能だ。言葉に出せないだけで。もちろん霊感魔法だってあるから、さっきの言葉は嘘では無いのだが。

 私の笑顔の頷きを見て、渋々ながらも送るだけで許してくれた真理ちゃん。もしも、私が泊まったりしたら、タケシから殺されてしまうだろう。良かった、助かった。

 それから家に着き、門扉の中まで入らせて貰い、私は真理ちゃんに言った。

「うん、確かに良からぬ霊が2体程いるようだね。私が今から浄化してみよう」

 そう言って私はタケシの家の敷地内に範囲を絞って生活魔法の浄化を使用した。その際に真理ちゃんに聞こえる様に小声で、
「邪なる霊よ! その身を浄化せん! 聖光!」
 とそれらしく言っておいた。

 それにより異世界でいうところのゴーストが2体いたが、きれいサッパリ昇天したようだ。但し、地球のゴーストは物理的に人に危害を加えたりする力は無いようだったが…… 少しだけ嫌な気持ちにさせたり、気落ちさせたりする程度の存在のようだ。

 その後に何故か家から清々しい気が漂っているのに気づいた真理ちゃんが、

「凄い! タケフミさん、霊能者として生活出来るんじゃないですか!?」

 と大喜びしながら、提案してくる。その気はないので私は

「いやいや、この力はムラがあってね。私が気に入った人にじゃないと効果がでにくいようなんだよ」

 そう言ってその気が無いことを真理ちゃんに告げた。

「気に入った人…… タケフミさん、女性にそんな事を言うとその気になっちゃいますよ」

 と、注意を受けてしまった。

「おっと、それはいけないな。気をつけるよ」

 と素直に忠告に従う事を告げた私に真理ちゃんが笑顔でお礼をいってくれる。

「フフフ、ホントですよ。中には怖~い女性も居るかもしれないんですから気をつけて下さいね。でもタケフミさん、本当に有難うございます。助かりました。また、何かあれば助けて貰えますか?」

 そう聞かれたので、勿論だよと私は答えて、真理ちゃんが家に入り、鍵をちゃんとかけたのを確認してから、その場を後にした。

 良い事をした後は気持ちがいいなぁ。
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