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異世界を楽しむ

021話 ボク様の最後

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 私に手で制されたトーヤは何とか我慢して模擬戦場から出た。まさか、フェルちゃんまで入ろうとしてたのは私も気がついてなかったよ。ダメだね、私も怒りすぎて冷静さを失ってたみたいだ。
 私は落ち着こうと深呼吸をしたんだ。

「フフフ、リラ。ここで負けを認めたら痛い目を見ずに済むぞ。リラも痛いのは嫌だろう? まあボク様は優しいからリラが奴隷妻になった時には痛みが快感になるようにしてやるからな。それよりも今は諦めて大人しくボク様の奴隷妻になった方が痛い目に合わずに済むぞ! この3人はボク様のように優しくないぞ!!」

 ボク様のその言葉に怒りが再燃しそうになるけど私は冷静にと自分に言い聞かせて落ち着いたよ。

「名前も私に覚えられないボク様が何を言ってるのかな~。そんな悪い子はお仕置きが必要だねぇ~」

 私の挑発にボク様が簡単にキレた。

「このボク様を馬鹿にするとはっ!! お前たち、手足の1本2本ぐらいはへし折っても構わないから、痛めつけてやれ!!」

 と、護衛騎士に向かって命令したボク様は、サササーッと後ろに下がった。ホントに自分は何もしないつもりなんだね。前に出てくる騎士は3人。でも3人とも明らかに鍛錬不足だね。木剣を構えもしないでニヤニヤと笑いながら私の方にゆっくりと歩いて近づいてくる。
 面倒だし早く終わらせよう!

 私は身体強化を発動して木剣を構えて一瞬で3人に迫り、それぞれ1振りで正確に急所を叩いて無力化したんだよ。

 物も言えずに倒れた3人を見てボク様が慌ててるよ。

「な、な、な、何でだーっ!! ボク様の家の最強の騎士たち3人なんだぞっ!! 8歳の子供にやられる筈がっ!!」

 うーん、正直に言ってこの3人、フェルちゃんより弱いよ。私の後ろからフェルちゃんの声援が聞こえた。

「キャーッ! リラちゃーん、素敵よーっ!!」

 ダメだよ~、フェルちゃんはご令嬢なんだから、そんな大きな声を出しちゃ…… って、トーヤ親衛隊のお姉様方も大きな声を出していた……

「リラちゃーん! そこよ、そのクソ生意気なクソ餓鬼をやっちゃってーっ!!」

 セラスさん、ハレさんに後で怒られても知りませんよ~……

「リラちゃーん、ヤッてもセバスさんが隠滅してくれるからねーっ!!」

 私と名前が似ているレラさん、普段はとてもお淑やかな子爵家のご令嬢なのに…… 私をこの年で人殺しにしないでね~……

 そんな声援に背中をおされながら私はゆっくりとボク様に近づいていく。

「う、わーっ!! く、来るなっ、来るなーっ!! ボク様に近づくなーっ!!」

 叫びながらボク様が私に向かって火球を撃ってくるけど…… おっそっ!! ヒョロヒョロ~って感じで飛んでくるから、難なく躱してボク様に迫ると涙と鼻水を垂れ流しながらボク様が言う。

「ボ、ボク様は侯爵家のモノだぞっ! そのボク様を手にした木剣で叩いたりしたら不敬罪になるんたぞっ! リラ、お前も不敬罪になんかなりたくないだろう? だからボク様に対して敗けを認めるんだ!!」

 いや~、そんな崩壊した顔で言われてもねぇ~。それに、さっきサインした誓約書をやっぱり読んでなかったんだね。模擬戦だから、叩かれても不敬罪は適用されないってちゃんと書いてあったでしょ?
 ダメだよ~、ちゃんと読まなきゃ。

 私は構えた木剣を素早く斜めに振り下ろして、ボク様の右肩を打った。

「ギャーッ! 痛いーっ!! ボク様の体を打ったなーっ、不敬罪だ、リラ! もうお前なんかいらない、処刑だぁーっ!!」

 ってボク様が転げまわって叫んだ瞬間に稲光がボク様の体を打った。

「こ、これは神罰!! 何でだーっ! 何でボク様が神罰を受けるんだーっ!!」

 私は喚き散らすボク様に冷静に突っ込んであげた。

「誓約書に書いてあったでしょ? ちゃんと読まなきゃダメだよ~、ボク様」

 そんな私を睨んでボク様はまだ言う。

「グググッ、許さないぞー、リラ。よくもボク様を騙したなっ!! 普段から弱いフリをして、本当はこんなに強いなんて! だから、無効だっ! この模擬戦の無効をボク様は要求するっ!!」

 そこで立会人のシンくんが声を上げた。

「その要求を却下する。そもそも、リラさんは学園で一度も弱いフリなんてした事がないぞ! ボーク、見苦しいぞ!」

「貴様ー、シン、お前も共犯だなーっ! 二人まとめて許さないぞーっ!!」

 ボク様が狂ったように木剣を手にして迫ってきた。その前に立ちはだかったのは、シンくんとトーヤだった。
 トーヤはチラッとシンくんを見て半歩後ろに下がった。

 シンくんは冷静にドタドタと迫りくるボク様の動きを見て、その胴体に木剣を叩き込んだんだ。

「グエっ!!」

 カエルのような声をあげてボク様が気絶した。

「それまで! この模擬戦の勝者はリラ! 文句のある者がいるならばこのガイムが相手をしよう! 誰か文句のある者はいるか?」

 トウシロー師匠がそう言って侯爵家の面々を睨むと、全員が首を横に振って文句がないことを示したんだぁ。

「ならばこのボークとやらは平民になったとはいえ、元はお前たちの主家の者だ。取り敢えずは一度連れて帰るのだ。後の事はダルイマー侯爵殿がお決めになるだろう」

 そう言うと黙って侯爵家の面々はボク様を抱えて出て行ったんだ。でもホッと一息ついた私にシンくんが言った一言に驚いたよ。

「リラさん、もしも疲れていないなら、僕と模擬戦をして貰えませんか?」

「エエーッ! シンくん、本気ー?」

「うん、僕は本気だよ」

 真面目にそう言うシンくんを見て、それからトーヤを見たら頷いてたから私は模擬戦を受ける事にしたんだ~。

 条件はお互いに身体強化の使用は無しで、純粋に剣技、体術のみでの勝負になったよ。

 結果は…… なんと、私、敗けちゃいました~…… トウシロー師匠が私に突っ込みを入れてきた。

「リラは最近、身体強化に頼り切りになっていたからな。シン殿の普段の動きからその強さを見極めていなかったようだからちょうど良い薬になっただろ?」

 そ、そんなぁ…… 早く言って欲しかった…… ってそう言えば頷いたトーヤも気がついてたって事なのかな? 私がトーヤに視線を向けると、ドヤ顔で私にサムズアップするトーヤが…… お姉ちゃん、拗ねちゃうよ、トーヤ……

「リラさん、僕はアナタの婚約者として相応しいでしょうか?」

 シンくんが私にそう聞いてきたから、私はちゃんとお返事をしたよ。

「これからもずっと、私より強くいてね…… 婚約のお話、お受け致します」

 そう言ったら、シンくんの顔が真っ赤にそして後ろからお父さんの叫び声が、

「俺は認めんぞーっ、俺を倒さねば認めんっ!!」

 って聞こえてきたけど、レミさんとお母さんにしばき倒されていたよ…… そこにトーヤが駆け寄ってお父さんの肩をポンポンと叩いて慰めていたんだ。
 何だか可笑しくて、私はシンくんと二人見つめ合って笑ってたよ。

 ボク様はどうやら家に軟禁されたみたい。今回の神罰は期間は1年と短いからね。この1年で反省してくれるといいんだけどね…… もう、会う事もないだろうけどね。
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