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転機
幕間【風の独り言】
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僕がこの世界に転生して10年が過ぎた。今まで人前では前世と同じく一言で喋るクセがついてたんだけど、それが続くと本当に喋れなくなりそうだから僕は自分の周りを結界で囲んで、独り言を自分の部屋で良く喋っていたんだ。
「あーあー、マイクテスッ、マイクテスッ! 感度良好! って何を言ってるんだ、僕は……」
前世であればテレビを見ながら突っ込みを入れたりしてる所だけど、生憎とこの世界にはテレビが無いから、何かを言うのも一苦労だった。
「うーん、こうして考えてみたら前世だと独り言を言ってたつもりでも、テレビという相手がいたんだね。小さい頃(3~4歳)はあまり気にならなかったんだけどなぁ」
僕はそんなボヤキを口に乗せる。そんな時にふと前世で関わった人たちの事が気になってしまった。
「そういえば従妹の香織はあの後どうしたのかな? 元気で良い人を見つけて再婚でもしていたらいいけど…… それに部下たちも…… 元気にしているだろうか? 美弥ちゃんなんかはもうすっかりベテランさんかな? いや、ひょっとしたら寿退社してるかな? ああ、みんなに僕が元気で暮らしているって伝えられたらなぁ……」
そんな言葉が口をついて出てくるけど、勿論結界内部なので僕にしか聞こえていない。
その言葉を密かに聞いている存在が居た。その存在はとある神の眷属で、手違いで磯貝澄也を死なせてしまった事を未だに申し訳なく思っていたのだ。
だからこの10年、転生したトーヤを陰ながらずっと見守っていた。
そして、今、トーヤの言葉を耳にした神の眷属は、トーヤの「僕は元気に暮らしているよ」という言葉を風に乗せて人々に運んだのだった……
「えっ! 澄兄!?…… まさかね、でも確かに聞こえた…… 澄兄、どこかで生まれ変わって元気に暮らしているの? 私も元気に暮らしているよ。再婚して子供も産まれたよ……」
不意に聞こえた声に香織は答えるように呟いた。その言葉がまた風に乗せられてトーヤに届く。
「アレ? 香織の声が…… 空耳かな? いや、まだ10歳だしそれは無いか…… 神様からのプレゼントかな? でも、香織も再婚して子供が産まれたんだね良かったよ」
美弥は課長補佐に出世していた。澄也が亡くなった時に係長補佐であった山添が今では課長であり、何とその妻でもあった。子供が出来た時には夫婦で交代で育休を取得して子供が小学校に入ると美弥も完全に職場に復帰したのだ。
その全ては澄也が会社に対して育休取得を社員の権利として認めさせた事に起因する。男が育休を取る事にまだまだ他の会社では抵抗があるようだが、美弥の会社では美弥が入社した時には既に男性の育休が当たり前になっていたのだ。だからこそ子が産まれた時には課長補佐だった主人である山添も躊躇いなく育休を取得したのだった。その時に山添は
「磯貝課長は独身だったけど、あの人のお陰で今の風通しの良い会社があるんだよ」
と、亡くなった課長を偲んでいた。
そんな2人が寝室で寝ようとした時に声が届いた。
「課長!」「課長の声なのっ!?」
2人は顔を見合わせる。そして、
「そうか、美弥は課長の声を聞いた事が無かったよな」
「貴方はあるの?」
「一度だけな。あの声は一度聞いたら絶対に忘れないよ。耳に凄く心地良かっただろ?」
「うん、凄く素敵な声だった…… でも、良かった…… 課長も何処かで元気に暮らしているのね……」
「ああ、そうだな…… 俺たち2人が結婚したって聞いたら課長は何て言うんだろうな…」
それから2人は話が盛り上がり、ベッドで夜の運動会が始まった……
「えーっ! 美弥ちゃんと山添くんが結婚したんだー。いやー、それはおめでたいねっ!!」
トーヤは心からそう思い、届けばいいなと思いながら2人に祝福を送る。
これはトーヤの独り言からの切実な思いを感じ取った、ある神の眷属が起こした風のサプライズのお話……
「あーあー、マイクテスッ、マイクテスッ! 感度良好! って何を言ってるんだ、僕は……」
前世であればテレビを見ながら突っ込みを入れたりしてる所だけど、生憎とこの世界にはテレビが無いから、何かを言うのも一苦労だった。
「うーん、こうして考えてみたら前世だと独り言を言ってたつもりでも、テレビという相手がいたんだね。小さい頃(3~4歳)はあまり気にならなかったんだけどなぁ」
僕はそんなボヤキを口に乗せる。そんな時にふと前世で関わった人たちの事が気になってしまった。
「そういえば従妹の香織はあの後どうしたのかな? 元気で良い人を見つけて再婚でもしていたらいいけど…… それに部下たちも…… 元気にしているだろうか? 美弥ちゃんなんかはもうすっかりベテランさんかな? いや、ひょっとしたら寿退社してるかな? ああ、みんなに僕が元気で暮らしているって伝えられたらなぁ……」
そんな言葉が口をついて出てくるけど、勿論結界内部なので僕にしか聞こえていない。
その言葉を密かに聞いている存在が居た。その存在はとある神の眷属で、手違いで磯貝澄也を死なせてしまった事を未だに申し訳なく思っていたのだ。
だからこの10年、転生したトーヤを陰ながらずっと見守っていた。
そして、今、トーヤの言葉を耳にした神の眷属は、トーヤの「僕は元気に暮らしているよ」という言葉を風に乗せて人々に運んだのだった……
「えっ! 澄兄!?…… まさかね、でも確かに聞こえた…… 澄兄、どこかで生まれ変わって元気に暮らしているの? 私も元気に暮らしているよ。再婚して子供も産まれたよ……」
不意に聞こえた声に香織は答えるように呟いた。その言葉がまた風に乗せられてトーヤに届く。
「アレ? 香織の声が…… 空耳かな? いや、まだ10歳だしそれは無いか…… 神様からのプレゼントかな? でも、香織も再婚して子供が産まれたんだね良かったよ」
美弥は課長補佐に出世していた。澄也が亡くなった時に係長補佐であった山添が今では課長であり、何とその妻でもあった。子供が出来た時には夫婦で交代で育休を取得して子供が小学校に入ると美弥も完全に職場に復帰したのだ。
その全ては澄也が会社に対して育休取得を社員の権利として認めさせた事に起因する。男が育休を取る事にまだまだ他の会社では抵抗があるようだが、美弥の会社では美弥が入社した時には既に男性の育休が当たり前になっていたのだ。だからこそ子が産まれた時には課長補佐だった主人である山添も躊躇いなく育休を取得したのだった。その時に山添は
「磯貝課長は独身だったけど、あの人のお陰で今の風通しの良い会社があるんだよ」
と、亡くなった課長を偲んでいた。
そんな2人が寝室で寝ようとした時に声が届いた。
「課長!」「課長の声なのっ!?」
2人は顔を見合わせる。そして、
「そうか、美弥は課長の声を聞いた事が無かったよな」
「貴方はあるの?」
「一度だけな。あの声は一度聞いたら絶対に忘れないよ。耳に凄く心地良かっただろ?」
「うん、凄く素敵な声だった…… でも、良かった…… 課長も何処かで元気に暮らしているのね……」
「ああ、そうだな…… 俺たち2人が結婚したって聞いたら課長は何て言うんだろうな…」
それから2人は話が盛り上がり、ベッドで夜の運動会が始まった……
「えーっ! 美弥ちゃんと山添くんが結婚したんだー。いやー、それはおめでたいねっ!!」
トーヤは心からそう思い、届けばいいなと思いながら2人に祝福を送る。
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