恋愛ツーリスト

日向の翼

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第六稿

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「その薬を口に入れた後に起こった出来事は、あなたにとって大切な学びになるでしょう。気を付けて欲しいのは、一日、一錠までと言う事です。それを守らないとこの薬の効果は現れません。いいですか、これだけは守って下さい。後、その薬は常温だと溶けてしまいますので、冷蔵庫で保管して下さいね」
当たり前だ。チョコなんだから普通なら溶けるだろ。そんなもん、わざわざ言わんでも分かる。ツッコミ所満載の言い方だけど、でもこれって占いなんだろ。こいつ途中から、医者になってるぞ。ちゃんとキャラクター守れよ。ガキんちょめ。演じるなら演じきりなさい。このガキィ。そんでポッター野朗。
「おっともうこんな時間だ。もう結構です。俺、帰らないと。今日は大変参考になりました。占って貰ってありがとうございました」
ポッター。とまあ、面白かった事に対するお礼をこのイカれたガキに言ってブースを出た。すると急に酔いが覚めた感じになり、一緒に来た面子の顔が浮かんで来た。そうだ。あいつらどうしたかなあ。下の階に下りて行くと皆の姿が見えた。
「先輩、どこ行ってたんすか」
「あっ30男。遅いよ。来んの。皆、待ってたんだよ」
ああ、ムカつくこの女を思い出したとさ。若さこそ一番。この神話は不滅なのか。エイジング(加齢)は悪なのか。若くて心が悪魔のような女。年は取ってるが菩薩のような女。果たしてどっちが美しいのか。
「うるせいな。それより、お前ら、お目当ての人にちゃんと占って貰ったのか」
「皆、占いは終わりました。だからここで皆で先輩を待ってたんっすよ」
あっそう。
「じゃあ、これで解散って訳だ。」
さすがにここで終り。ここにいるのは男と女だから、後はご自由に。でも俺はどの女の子にも興味なかったので、連絡先の交換とかはしないで集団からとっとと離れた。後で聞いた話だが、この後、カラオケをオールでやったらしい。俺はそこまで付き合いきれません。あと、俺の事を30男と言ったヤケにつっかかっって来た女。菊池が言ってた。「あの子、先輩に気があったんですよ」だって。一昔前の俺なら、悔しがってるかも。いや、それはないか。俺、ああいうタイプ、昔からスルーしてたから。ああいう女はウザイっていう感想しかない。
2・14これはただの数字ではない。この数字が持つ意味。これは人間には男と女という。二種類に分かれて存在してるって事を証明する事の出来る数字だ。特に我が国に置いて、この日だけは女性が大胆になれる。子供の頃から、この日は女の子から告白していい日だと呪文のように、彼女達は植え付けられて来た。どんなにモテない男でも、1ミクロくらいは淡い期待を胸に抱いてしまう。そんなある意味常軌を逸しているそんな日だ。そもそもバレンタインデー。これは西欧発祥の宗教に置ける聖人を称える日なのに、いつの間にかイベントと化してしまった。本とに外国から見れば、マジで滑稽に写るだろう。それでもこの国の人間は楽しければ何でもいい。これも日本人の編集能力が生んだ賜物なのか。皮肉が内包されているというのに。今、現在彼女がいない俺が今日貰ったのは、会社の女子からの義理チョコ。この年で貰う義理チョコはあまり嬉しくないけど。俺が小学生だったら、それはもう飛び上がって喜んだ事だろう。あの年頃は恋愛よりも、チョコの数にこそ価値がある。それが仲間ウチの自慢だったから。安アパートの自分のウチに帰り、テーブルの上に並べたこのチョコを見てたら、昔の事を思い出し、なんだかおかしくなって来て、俺は一人でツボに入って笑った。大声で笑ったら、真上に住む奴に、床をドンドンと叩かれた。狭くて安い部屋。勿論壁も薄く、音漏れも酷い。劣悪な住環境。基本、ここは眠るだけで、くつろぐ所じゃないんだ。あー最悪。早く引越してえ。
2月14日の夜。公序良俗を掲げるこの業界に身を置いて俺は生計を立てている。大同小異。あたかも知ってるつもり。遡ると軽挙妄動が覆いは事実。この前も徹夜でやった企画書を反古にされた。それなのに、今日まで何もしなかった。これって健忘症なのか。でもまだ、今日という日は終わっていない。次のプレゼンに出す企画書を仕上げる為、俺は真面目な奴に成りすまし、徹夜する覚悟で、リサイクルショップで2千円で購入した折りたたみの机に向っていた。だって部屋が狭いんだから、しゃあないじゃん。今日、帰ったらやろうと思っていたが、合コンと称した飲み会でいささか長引いてしまった。自らの意思の弱さに嘆きながらも必死に睡魔と戦う。さすがにこれをどうにかしないと進まないので、こういう時の常套手段。カフェイン注入を思い出し、コーヒーを淹れる。俺は無類のコーヒー好きであり、少し濃いめの一杯を飲む。カフェインの取りすぎは、酒の飲みすぎと同じように中毒症状を引き起こすので、最近は、一日2杯までと決めている。依存症にはなりたくないので。そこは自制心との戦いだ。でも今日はそのカフェインに頼るしかないんだ。何事も適度が一番。今日は朝に一杯。昼に一杯だから。これで3杯目だ。このくらいは許容範囲だろう。コーヒーを注いでる時に思い出した。コーヒーにチョコを入れて飲む健康法があるらしい。今日会社の女の子に貰った義理チョコとさっき占いの館であのガキに貰ったチョコ。俺はそのチョコの大きさから、会社の女の子に貰ったチョコを食用に。あのガキに貰ったのをコーヒーに砂糖の代わりに入れる。大きさもちっちゃいチョコだし。
「あっやっぱ、ただのチョコじゃん。何が薬だよ。あのペテン師が。めっさチョコの味するし」
ガキだから許すけど。俺はそのチョコをコーヒーに入れて溶かして飲んだ。コーヒーとチョコの香りが織り成す何とも言えないフレーバー。その好みの感じがたまらない。
「合うじゃん、これ」
それを口に出さずにはいられない。例え独り言でも。一人暮らしとは言え、俺は思った事を口に出した方が人間生きてる感じがすると信じこんでる節があるから、隣、近所に迷惑にならない程度に声に出すようにしている。
ガキに貰ったモノが気になる。チョコを眺めては、一度視界から離し、少し経ってからまたそれを見る。その繰り返し。このままゴミ箱へポイ棄てか。それか誰かにやるか。あのガキが言っていた。“これはあなたに必要なだけの薬”であると。つまりこれは俺だけの為に処方された薬。…らしい。本とにこれが薬なら、一体どんな効果があるのか。どうみてもチョコにしか見えないんだけど。室温も外の気温もてんで変わらない俺の暖房なしの部屋。もうとっくに溶けてる筈なのに、まだ2月の東京は冬真っ只中で寒く、チョコも溶けないで、その原型を留めている。溶けないチョコレートを夕食後のデザートとして食べた。
「うまっ」
ビター過ぎず、スイーツ過ぎず俺にとっては最高に好みの味。これも俺専用って事なの?って思うが、とにかくまたこれを食べてしまった。
その日はいつも出る時間よりも早く家を出た。そして今日は外周りだ。営業用に訪問先で配る資料のチェック。そしてシュミレーションを兼ねた戦略会議。ちゃんと前日にミーティングもしてある。それに今日はフレックスだ。とにかく時間はいいから、成果を出せとだけ上司にハッパをかけられている。俺はそれでも早く家を出たかった。なぜなら、昼休憩を多くとって、今日という日を利用して行列の出来るラーメン屋でラーメンを食べたかったから。不純な理由。そんな腹積もりでいた俺。だがこの後、思わぬ事が身に起きるなどとは、露にも知らなかった。いつもと景色が違う。この時間は普段通る事がない。見ると、地元の小学生や中学生達。それにビジネスパーソンが結構な数で、通学、出勤している。どっから湧いて来たんだこのガキ共とか思いながら、スーツを着た俺がその脇を通る。子供達は楽しそうに話をしている。それが昨日見たTVの話である事は、数秒間、ソバ耳を立てた事で分かった。いつだって、そんなたわいもない事が会話になり、子供の楽しみになる。子供達がそんな会話で盛り上がれるこの国はまだまだ、平和だと、オッサンになりかけている30男は、そう思いながら誰も分からない程度にクスっと笑った。でも頂けないと思ったのは、公共の迷惑も考えないで、道路の真ん中を横に並んで友達としゃべりながら、学校に通学する子供達の姿だった。確かにこの時間。この場所は、車両通行止めになっている。朝のパトロール的なPTAも当番の大人が来ている。仕事をリタイヤした年配の地域ボランティアの人の姿も見える。その人達は注意しないのか。いくら車は来ないとはいえ、あまり、よろしくない光景だ。注意した方がいいのか。今日たまたま出くわした俺が、PTAを差し置いて注意するのもどうかという思索を巡らした。どうせあと数十メートルだし。と思って見てると、キィー。ゴンッ。バタ。
自動車ではない車両が、かなりのスピードでそのガキ共の元へ突っ込んで行くのが、遠巻きに見えた。俺はとっさにその音に反応して、そのガキ共の元へ走って行く。
道の真ん中を歩いていたのも悪いとはいえ。反射的に善モードの俺は気づいたら、子供の下へ駆け寄って行った。
「大丈夫か?」
「痛い」
「どこが」
「色んなとこ。あー痛っ」
「頭は大丈夫か」
「うん、頭より、腕と足とかが痛い」
「とりあえず、学校までオジサンが連れてってやる」
「オジサンじゃなくてまだお兄さんっぽいじゃん」
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