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最悪の結末*
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あまり寝付くことができないまま朝を迎えた。史弥さんは朝も早い。そっと扉を開けて玄関を確認すると彼の靴はなかった。胸を撫で下ろしてリビングに向かう。昨夜あんな事があった場所で食事をする気になれなくて、パンと飲み物だけ持って自室へと戻った。
何とか仕事を始めたけれど、夜になるのが怖くて、何度も時間を確認してしまう。無常にも時間は流れていって、あっという間に終業時間になってしまった。外に出てしまえばいいのではないか。そう思った僕は慌てて用意をして部屋を出た。
「あれ、聡くん?」
エントラスでインターホンの前にいる由弥くんと鉢合わせた。
「早めに来て正解だった。逃げるとか許さないからね?」
「なんで……」
「ほら、戻るよ」
「嫌だ」
「そんな事言っていいの?」
スマホを掲げられて言葉を失う。
「行こうか?」
にっこり微笑む由弥くんに肩を抱かれて、家へと引き返す。
「今日はじっくり聡くんを堪能しようと思っていたのに、逃げ出そうとするなんて許せないな」
「ごめ……」
「1回で済むと思わないでね?」
「え?」
「何回も犯してやるから。ベッド?リビング?それとも浴室とか?どこでしようか?」
楽しそうに笑う由弥くんがリビングに入っていく。
「聡くん、何してるの?早く来たほうがいいんじゃない?」
動画が脳裏をチラついて慌ててリビングへと向かう。
「ソファでしよっか?」
「床でいい」
「痛くないの?」
「大丈夫だから」
「そう、ならいいんだけど」
床の上に座る由弥くんが自分の上に「座って」と告げた。動かない僕に「早く」と急かす。
「聡くん、いいの?」
あの動画のことをチラつかされて、彼の上に向かい合って座った。ギュッと抱きしめてまた今日も「好きだよ」と囁いた。今すぐ彼を突き飛ばして逃げたい。でも、そうして待っているのは史弥さんに知られるという地獄だ。逃げても逃げなくてもどちらも同じなのか。ギュッと目を閉じて流されるように彼の口づけを受け入れた。そして、そのまままた彼に抱かれた。何度も何度も彼は僕の中でイッて、そのたびに心が擦り切れていくような気がした。
翌日もその翌日も彼はやってきて、宝物に触れるかのように優しく抱いた。彼が愛の言葉を囁くたびに胸が苦しくなって涙が出る。いつまでこんな事を続けるんだろう。虚ろな目で彼を見ながらそんなことばかり考えていた。
史弥さんとは完全に会わない毎日を送っていた。会うのが怖くて、ほとんど部屋に籠もっている。土日も体調が悪いと言って部屋から出られずにいた。食欲がないと嘘をつき、彼が眠ったのを確認してカップラーメンを食べた。
優しい彼は、多分そんな僕を心配してくれたのだろう。悲劇の日は何の前触れもなくやってきた。
いつものようにやってきた由弥くんを迎え入れて、リビングで彼に組み敷かれている時だった。ガチャリという音が聞こえたのは。
「待って、由弥くん。扉が……」
「何?」
彼は薄ら笑いを浮かべながら腰を動かした。
「や……ヤダ……待って……止まって!」
僕の声とリビングの扉が開く音が重なって、ドサッと何かが落ちる音がした。
「どういう……こと?」
怖くて史弥さんの方を見ることができない。
「分からない?見たまんまだよ」
「やっぱり二人はそういう」
「違……」
そう言おうとして彼の方を見た。驚愕の表情を浮かべる彼がいた。僕の声を掻き消すように「そうだよ。だから邪魔しないで」と由弥くんが冷たく言い放った。
「そうか」
史弥さんは一言だけそう呟いて部屋を出ていった。
「待って!」
僕の声は彼に届くことはなく、扉が閉まる音が響いた。
「案外早くバレちゃったね」
「わざと?」
「当たり前じゃん。だからここで聡くんを抱いたんだよ?いつか見せてあげようと思って」
「そんな……」
「かわいそうな聡くんに兄貴の秘密を教えてあげる」
「ひみつ……?」
「兄貴の心の中にはずっと死んだ恋人がいる。だから兄貴の心は手に入らないよ。永遠に」
そうか、だから最初に僕を愛することはないと言ったのか。永遠に彼の心は手に入らないのか。
「……だと思っていたんだけどな」
何かをポツリと呟いた後、彼が続きを始めた。揺さぶられながら、抵抗する気も起きなくて目を閉じた。
彼がいつ帰ったのかも分からず、気付いたら床に座っていた。どんなに心が壊れそうでも明日は仕事をしなければならない。休むわけにはいかなくて、シャワーを浴びようと立ち上がった僕の目に史弥さんが落とした袋が見えた。その中を覗き込むと、鍋の材料が入っていた。いつか体調を崩した日の翌日に作ってくれた事を思い出して声を上げて泣いた。彼に知られることが怖かった。でも全部打ち明けていたら良かったのではないか。僕とは違うけれど、家族愛のような愛情を彼は僕に向けてくれていたのではないか。後悔の念が僕を襲う。冷蔵庫に食材を入れて、シャワーを浴び、ベッドに倒れ込んだ。全て夢だったら……そんな事あるはずもなく、うつらうつらしていたら夜が明けた。
食欲はなかったけれど水分だけ補給した。気持ちを奮い立たせて画面に向かう。一度始めてしまえば余計なことを考えなくて良くて、仕事に没頭した。そうして時間は過ぎていき、業務が終わった。明日は打ち合わせがあるから外出しないといけない。やつれた顔をどうにかしなければと考えて、史弥さんが買ってきてくれた材料を使って鍋を作った。この日は当然史弥さんが帰って来ることはなく、由弥くんも姿を現すことはなかった。
ずっと部屋に閉じこもっていたせいか、久しぶりに外へ出ると空気の暖かさに驚いた。もうすぐ4月も終わりだもんな。新緑が芽生え始めている木々達が季節の変化を感じさせた。
打ち合わせの合間にできた時間を使って役所に離婚届を取りに行った。きちんとけじめはつけなければならない。オフィスでのミーティングも終えて、何とか周りに不審がられずに1日を過ごすことができた。
帰宅して、早速離婚届に署名した。愛することはないとお互いに言い合って始まった結婚生活。短い間だったけれど、彼を好きになって一緒に過ごした日々は宝物だと思う。GWの旅行もキャンセルして、荷造りを始めた。と言っても引越し先が決まっているわけではない。誰も知らない場所に行きたい。
「ノートPCがあれば、とりあえず仕事はできる」
仕事道具をまとめて、スーツケースに入るだけ荷物を詰めた。あとは全部処分してもらおう。ここに帰って来ることは二度とないのだから。家を出ていくのはGW初日と決めている。旅行のために取得していた有休はそのまま使うことにした。
度々由弥くんが訪ねてきたけれど、一度も会うことはしなかった。ブロックして連絡も絶った。史弥さんからはなんの音沙汰もなく、GWが近づいてきた。
トキさんにだけ離婚することを伝えた。驚いて問い詰められたけれど何も言わない僕にそれ以上何かを言うことはなかった。史弥さんに連絡先を伝えるから仲介をお願いしたいと伝えると渋々応じてくれた。最後のお願いにするからと心の中で呟く。
出発の日の朝。史弥さんにメッセージを送った。離婚届のこと、残っている荷物は処分してほしいこと、トキさんの連絡先、他にも何か伝えておきたい事があったように思ったけれど、最後にごめんなさいと記して彼との連絡を絶ち、少ない荷物を持ってマンションを後にした。
何とか仕事を始めたけれど、夜になるのが怖くて、何度も時間を確認してしまう。無常にも時間は流れていって、あっという間に終業時間になってしまった。外に出てしまえばいいのではないか。そう思った僕は慌てて用意をして部屋を出た。
「あれ、聡くん?」
エントラスでインターホンの前にいる由弥くんと鉢合わせた。
「早めに来て正解だった。逃げるとか許さないからね?」
「なんで……」
「ほら、戻るよ」
「嫌だ」
「そんな事言っていいの?」
スマホを掲げられて言葉を失う。
「行こうか?」
にっこり微笑む由弥くんに肩を抱かれて、家へと引き返す。
「今日はじっくり聡くんを堪能しようと思っていたのに、逃げ出そうとするなんて許せないな」
「ごめ……」
「1回で済むと思わないでね?」
「え?」
「何回も犯してやるから。ベッド?リビング?それとも浴室とか?どこでしようか?」
楽しそうに笑う由弥くんがリビングに入っていく。
「聡くん、何してるの?早く来たほうがいいんじゃない?」
動画が脳裏をチラついて慌ててリビングへと向かう。
「ソファでしよっか?」
「床でいい」
「痛くないの?」
「大丈夫だから」
「そう、ならいいんだけど」
床の上に座る由弥くんが自分の上に「座って」と告げた。動かない僕に「早く」と急かす。
「聡くん、いいの?」
あの動画のことをチラつかされて、彼の上に向かい合って座った。ギュッと抱きしめてまた今日も「好きだよ」と囁いた。今すぐ彼を突き飛ばして逃げたい。でも、そうして待っているのは史弥さんに知られるという地獄だ。逃げても逃げなくてもどちらも同じなのか。ギュッと目を閉じて流されるように彼の口づけを受け入れた。そして、そのまままた彼に抱かれた。何度も何度も彼は僕の中でイッて、そのたびに心が擦り切れていくような気がした。
翌日もその翌日も彼はやってきて、宝物に触れるかのように優しく抱いた。彼が愛の言葉を囁くたびに胸が苦しくなって涙が出る。いつまでこんな事を続けるんだろう。虚ろな目で彼を見ながらそんなことばかり考えていた。
史弥さんとは完全に会わない毎日を送っていた。会うのが怖くて、ほとんど部屋に籠もっている。土日も体調が悪いと言って部屋から出られずにいた。食欲がないと嘘をつき、彼が眠ったのを確認してカップラーメンを食べた。
優しい彼は、多分そんな僕を心配してくれたのだろう。悲劇の日は何の前触れもなくやってきた。
いつものようにやってきた由弥くんを迎え入れて、リビングで彼に組み敷かれている時だった。ガチャリという音が聞こえたのは。
「待って、由弥くん。扉が……」
「何?」
彼は薄ら笑いを浮かべながら腰を動かした。
「や……ヤダ……待って……止まって!」
僕の声とリビングの扉が開く音が重なって、ドサッと何かが落ちる音がした。
「どういう……こと?」
怖くて史弥さんの方を見ることができない。
「分からない?見たまんまだよ」
「やっぱり二人はそういう」
「違……」
そう言おうとして彼の方を見た。驚愕の表情を浮かべる彼がいた。僕の声を掻き消すように「そうだよ。だから邪魔しないで」と由弥くんが冷たく言い放った。
「そうか」
史弥さんは一言だけそう呟いて部屋を出ていった。
「待って!」
僕の声は彼に届くことはなく、扉が閉まる音が響いた。
「案外早くバレちゃったね」
「わざと?」
「当たり前じゃん。だからここで聡くんを抱いたんだよ?いつか見せてあげようと思って」
「そんな……」
「かわいそうな聡くんに兄貴の秘密を教えてあげる」
「ひみつ……?」
「兄貴の心の中にはずっと死んだ恋人がいる。だから兄貴の心は手に入らないよ。永遠に」
そうか、だから最初に僕を愛することはないと言ったのか。永遠に彼の心は手に入らないのか。
「……だと思っていたんだけどな」
何かをポツリと呟いた後、彼が続きを始めた。揺さぶられながら、抵抗する気も起きなくて目を閉じた。
彼がいつ帰ったのかも分からず、気付いたら床に座っていた。どんなに心が壊れそうでも明日は仕事をしなければならない。休むわけにはいかなくて、シャワーを浴びようと立ち上がった僕の目に史弥さんが落とした袋が見えた。その中を覗き込むと、鍋の材料が入っていた。いつか体調を崩した日の翌日に作ってくれた事を思い出して声を上げて泣いた。彼に知られることが怖かった。でも全部打ち明けていたら良かったのではないか。僕とは違うけれど、家族愛のような愛情を彼は僕に向けてくれていたのではないか。後悔の念が僕を襲う。冷蔵庫に食材を入れて、シャワーを浴び、ベッドに倒れ込んだ。全て夢だったら……そんな事あるはずもなく、うつらうつらしていたら夜が明けた。
食欲はなかったけれど水分だけ補給した。気持ちを奮い立たせて画面に向かう。一度始めてしまえば余計なことを考えなくて良くて、仕事に没頭した。そうして時間は過ぎていき、業務が終わった。明日は打ち合わせがあるから外出しないといけない。やつれた顔をどうにかしなければと考えて、史弥さんが買ってきてくれた材料を使って鍋を作った。この日は当然史弥さんが帰って来ることはなく、由弥くんも姿を現すことはなかった。
ずっと部屋に閉じこもっていたせいか、久しぶりに外へ出ると空気の暖かさに驚いた。もうすぐ4月も終わりだもんな。新緑が芽生え始めている木々達が季節の変化を感じさせた。
打ち合わせの合間にできた時間を使って役所に離婚届を取りに行った。きちんとけじめはつけなければならない。オフィスでのミーティングも終えて、何とか周りに不審がられずに1日を過ごすことができた。
帰宅して、早速離婚届に署名した。愛することはないとお互いに言い合って始まった結婚生活。短い間だったけれど、彼を好きになって一緒に過ごした日々は宝物だと思う。GWの旅行もキャンセルして、荷造りを始めた。と言っても引越し先が決まっているわけではない。誰も知らない場所に行きたい。
「ノートPCがあれば、とりあえず仕事はできる」
仕事道具をまとめて、スーツケースに入るだけ荷物を詰めた。あとは全部処分してもらおう。ここに帰って来ることは二度とないのだから。家を出ていくのはGW初日と決めている。旅行のために取得していた有休はそのまま使うことにした。
度々由弥くんが訪ねてきたけれど、一度も会うことはしなかった。ブロックして連絡も絶った。史弥さんからはなんの音沙汰もなく、GWが近づいてきた。
トキさんにだけ離婚することを伝えた。驚いて問い詰められたけれど何も言わない僕にそれ以上何かを言うことはなかった。史弥さんに連絡先を伝えるから仲介をお願いしたいと伝えると渋々応じてくれた。最後のお願いにするからと心の中で呟く。
出発の日の朝。史弥さんにメッセージを送った。離婚届のこと、残っている荷物は処分してほしいこと、トキさんの連絡先、他にも何か伝えておきたい事があったように思ったけれど、最後にごめんなさいと記して彼との連絡を絶ち、少ない荷物を持ってマンションを後にした。
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