愛する事はないと言ったのに

マイユニ

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最後に

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「聡真、あーん」

 口を開けて作ってもらったスープを食べさせてもらう。休みの間中、ほとんどセックスをしていた結果、あまり動く事ができなくなって、こうして甲斐甲斐しく彼に世話を焼いてもらっている。今までとの温度差がすごい。

「美味しい?」

「美味しい」

 結局、離れて暮らすのは嫌だけど、向こうにも行きたいという僕の我儘を聞いてくれて、平日はこっちで、週末は向こうで過ごすという事になった。元々2個借りていたから別に問題はないらしい。以前住んでいたところは引き払うことになっている。

「ご馳走様でした」

 最後まで全部食べさせてもらった。もういいよと言っても彼は譲らなかったのだ。甘すぎる。食べ終えた食器を片付けるために彼は部屋を出ていった。ずっとベッドの上にいると時間の感覚がなくなってくる。蜜月ってこんな感じなのかな。また扉が開いて史弥さんが入ってきた。

「すぐに必要なものってある?取りに行こうと思うんだけど」

「パソコンくらいかな。でも運ぶの大変だよね?」

「大丈夫だよ?新調してもいいけど」

「いや、まだ使えるから大丈夫」

「そう?じゃあ取ってくる」

「ごめんね、ありがとう」

「聡真はゆっくりしてて。だいぶ無理させたし」

 そう言って僕の頬に触れる。ゆっくりと唇をなぞられて背筋がゾクリとなった。

「ダメだな」

「ん?」

「何回してもすぐに聡真が欲しくなる」

「すごいね、史弥さんは」

 絶倫って言葉をよく聞くけれど、史弥さんがまさにそうだと思う。情事を思い浮かべて疼き出す僕も大概だとは思うけれど。

「する?」

「でも、さすがにしんどいでしょ?」

「エッチな気分になった。だから、しよ?」

「ほんと、聡真ってエロいよね。煽るのもうまいし」

「そんな事ないでしょ。キスして?」

「もう……本当に……ヤバい」

 天を仰ぐ史弥さんの元へ近づいて唇に触れると、すぐに押し倒されてまた甘い時間を堪能した。

 心配をかけたトキさんや姉、颯真さんに報告して、引越手続きを済ませ少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。

 打ち合わせがあって外出した日、5月だというのに真夏のような暑さで今日はさっぱりしたものが食べたいなと夕飯のことを考えながら歩いていると僕の名前を呼ぶ声がした。振り返ると人混みの中に由弥くんがいた。どうして?記憶が蘇って体が震えだす。竦み上がる足をどうにか動かして人混みを掻き分けた。けれど、すぐに「待って」と言われて腕を掴まれた。

「ひっ、は……離して」

「ごめん。ちょっとでいいから時間もらえないかな」

 首を振って拒絶した。また何かされるかもしれない。恐怖心が募っていく。

「最後に謝りたかったんだ」

「……」

「本当に少しでいいから」

 最後にという言葉と必死な彼の姿に「人がいるところなら」という条件を出して、賑わっている近くのカフェに入った。向かい合って座り、彼の言葉を待つ。

「時間くれてありがとう」

「うん」

「俺のこと聞いてる?」

「海外に行くって」

「うん。二度と日本には帰らないことになってる。だから安心して。後、動画とか全部消したから」

「そう」

「本当に酷いことしてごめんね」

 許すとは言えなくて目を伏せた。どんなに謝られても彼に対する恐怖心はずっと心の中にある。

「俺がこんな事言う資格ないけど、本当に好きだった」

「うん」

「兄貴と幸せになってね。今日はありがとう。会えて良かった」
 
 立ち上がる彼を見て「元気でね」と声をかけた。クシャッと顔を歪めて泣きそうな笑顔で「聡くんも元気でね」と言って、彼は僕の前からいなくなった。あんな事がある前に彼と過ごした時間はとても楽しかったし、感謝もしている。もう会えないならその事を伝えてもよかったのではないか。いつかあの時言っておけば良かったと思うかもしれない。慌てて立ち上がって店の外へ出た。駅の方へ向かっているはずだ。辺りを見回しながら走ったけれど、彼は見つからず駅に着いてしまった。スマホを取り出して彼に電話をかけた。4コール目で「はい」という彼の躊躇いがちな声が聞こえた。

「今、どこ?」

『どこって……』

「伝えたいことがあるんだけど」

『何?』

「あのね、漫画貸してくれたり、遊んでくれたりしてありがとう」

『え?』

「すごく楽しかった」

『そっか』

「それはすごく感謝してる」

 話しながら歩いていると、道路の向こう側で立ち止まっている彼が見えた。

「あっ、いた」

 辺りを見回してキョロキョロする彼に、道路の向こう側にいることを伝えるとこっちを向いた。

『ありがとう。こんな俺にそんな事言ってくれて。待って、こっちには来ないで』

 歩き出そうとする僕を彼が制した。

『別れるのが辛くなる。ごめんね』

「いや……」

『じゃあね。ありがとう』

 ツーツーという電子音が鳴り響く。スマホを耳から離して画面をタップした。また顔を上げると、彼は雑踏の中に紛れて見えなくなっていた。
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