先輩は僕の××をご所望です

マイユニ

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初めての先輩の部屋で

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 今日も僕の足取りは重い。
「ハァ」
 もう何度目になるか分からないため息をつく。
 拓真に協力を仰ぎ、先輩にいかに見つからずに過ごせるかというミッションに挑んでいる。
 会わなければ何も起きることはない。
 1日を無事に終えてホッと胸を撫で下ろす。
 もちろん家に帰るまでは安心できない。
 猛ダッシュで駐輪場へ向かってペダルを漕いだ。
 やった、意外とできるもんだ。
 明日もこの調子で行くぞ。

 翌日
 昼休みを無事に終えて、後は午後の授業を残すのみ。
 授業が終わったら、誰よりも早く教室を出て……
 頭の中で駐輪場までの最短ルートを思い描く。
 よし、今日もいける。

 ホームルームを終え教室を飛び出す。
 談笑している生徒たちをすり抜けて、目的地へと急ぐ。
 あと少し、あと少し……
 駐輪場が見えたところで足が止まる。

「あーおーいーくーん、帰りましょー」

 金髪の悪魔が僕の自転車に跨って待ち構えていた。

「どうして……
 3年生の教室の方が遠いはずなのに」

「んー?
 サボってここで待ってた」

「サボって……?」 

「俺からは逃げられないって
 てことで、帰ろうぜー」

「僕の自転車……」

「俺んちまで乗っけてやるよ」

「二人乗りはダメだと思います」

「真面目か!
 じゃあ、俺が乗るからついてきて」

「は!?行くわけないじゃないですか!」

 馬鹿なの?
 この人馬鹿なの?

「じゃあ、あおのこと担いで行こうかな
 軽そうだからたぶんいけるな
 自転車は置いてく事になるけど」

「いやいやいや……」

「人が多くなってきたよ?
 みんなに見られながら担がれたいの?」

「嫌に決まってるじゃないですか」

「はい、じゃあ大人しくついてきてくださーい
 鍵貸してくださーい」

「分かりましたから
 大きな声出さないでください」

 ただでさえ目立つのにそんな大きな声を出して注目を浴びるのは勘弁してほしい。
 僕は大人しく鍵を渡した。
 どうしてこうなるんだよ。

「あおはいい子だな~」

 ポンポンと頭を撫でられた。
 鼻歌交じりで自転車をゆっくり漕ぐ先輩の後ろをトボトボとついていく。
 地面にめり込みそうなほど足が重い。
 人知れずため息をつく。

 どれくらい歩いていただろうか。
 ここと言って2階建てのアパートの前で自転車を停めた。
 階段を登る先輩のあとに続く。

「入ってー」

「おじゃまします」

 靴を揃えて部屋に入る。
 キスをした時に嗅いだ甘い香りがする。
 先輩の匂い。 

「あっ、一人暮らしだから気使わなくていいよ
 適当に座ってて」

 ベッドにTVボードと本棚、それとテーブルが配置されたシンプルな部屋は、片付けられていてきれいだ。
 驚いたのは観葉植物と花の多さ。
 色々なところに緑があって、さり気なく飾られている花たちが彩りを添えている。
 男っぽい部屋を想像していたから、何というか……
 意外と居心地がいい……。
 TVボードの隣にある本棚にはビッシリと本が並べられていた。
 あまりジロジロ見るのは失礼かなと思ったけれど、気になって見てみると、植物に関する題名の本がたくさんある。
 またまた意外で驚く。

「何か飲む?」

「いえ、大丈夫です」

「ふーん」

 テーブルの前に腰を下ろすと、隣に先輩が座った。
 近すぎる距離を少し開けようと横にズレると、先輩も同じようにズレてくる。
 またズレると、その分距離を縮めてくる。
 もう諦めよう。

「シャワー浴びる?」

「へ??」

 シャワー??

「うそうそ、冗談だよ
 そんな顔すんなって」

 先輩が僕を見て大笑いしている。

「そっ、そんな事言わないでください」

「かわいいな、あお」

「ちょっと、何顔近づけてきてるんですか!?」

 先輩の口に手を押し当てる。

「キスぐらいいいじゃん
 もうしてるんだし」

「事故です、あれは事故」

「これからもっとすごいことするのにな」

「しません、絶対にしないですから
 だいたい男同士なのにするとか意味がわからない」

「あぁ、そうか
 知らないよな
 今度勉強会しようか」

「何のですか?」

「男同士でどうやってやるのか」

「はっ??」

 またおかしなことを言い始めた。

「今度一緒にゲイビ見よう」

「ゲイビ??」

「まっ、おもしろい動画だよ
 楽しみにしてな
 おすすめのやつ揃えとくから」

 ゲイビ、ゲイビ……覚えておいて後で検索しよう。
 嫌な予感しかしない。

「これって度入ってんの?」

 先輩が僕の眼鏡を取ってかけた。

「なんだ、伊達じゃん
 かけててもかわいいけど、俺の前では外すことな」

「どうしてですか?
 眼鏡返してくださいよ」

「いろいろやりにくいから」

「やりにくいってなんですか」

 意味深な笑顔が怖い。

「もう帰ってもいいですか?」

「来たばっかじゃん
 今日はあおと親睦を深めようと思ったのに」

「深めません」

「眼鏡かけてあげるからこっち向いて」

 仕方なく先輩の方に顔を向ける。

「隙あり」

「ン――ッ」

 バチーン
 思いっきり先輩の頬を叩く。

「いてーな、叩く事ないだろ」

「また……またした
 眼鏡返してください
 もう帰ります」

 眼鏡をふんだくって立ち上がり、そのまま帰ろうと歩き出した僕の腕を先輩が勢いよく掴んだ。
 僕はバランスを崩して、先輩の上に座ってしまった。
 どうしてこんな事に……。
 恥ずかしくて両手で顔を覆った。
 先輩はまた大笑いしている。

「あおかわいすぎるんだけど
 腹いてー」

「すみません、今すぐにどきます」

「いいよ、このままで」

 先輩が僕の腰に腕を回す。

「嫌です、はなせー」

「はぁ、すごいかわいい」

「かわいいかわいいって言わないでください
 その言葉嫌いなんです」

 先輩から距離を取ろうと力をこめる。

「超かわいい
 世界一かわいい」

「喧嘩売ってるんですか?」

「だから顔隠してんの?
 かわいいって言われたくないから?」

「先輩みたいな危ない人に捕まりたくないって理由もあります」

「あおって結構はっきり言うんだな
 そこもタイプだわ」

 あなた限定ですよ。

「僕はタイプじゃないんで」

「でも、俺からは逃げられないよ?
 残念だったね」

「逃げますよ、絶対に」

「アハ、それは楽しみだな」

 はぁ、ほんとに楽しそうに笑いやがって。
 すごく疲れた。

「もう疲れたので帰ってもいいですか」

「疲れるようなことしてないじゃん
 今からする?」

 もう一発叩こうと先輩の方を見て手を振り上げたが、その手を掴まれて抱き寄せられる。

「うわ」

 先輩をダイレクトに感じて、少しドキドキしてしまった。
 違う、これは何ていうか、そのなんだ?
 もう訳が分からない。

「あお、1回だけ
 1回でいいから俺の夢叶えて」

「1回したら解放してくれますか?」

「する、約束する」

「分かりました
 でも、今日じゃないですよ
 僕何も分からないし
 ゲイビってやつ見てみます」

「一緒に見ないの?」

「見たいんですか?」

「見たい」

「やる事増えてるんですけど……
 まぁ、いいか」

「じゃ、今日は解放してあげようかな」

 そう言ってパッと腕を離されたから慌てて先輩の上から退いた。
 
「そうだ、スマホ出してよ」

「嫌です」

「連絡先交換しようよ」

 やっぱり、そんな事だろうと思った。
 僕は鞄を持って今度こそ帰ろうと立ち上がる。

「じゃあ、お邪魔しました」

 そう言いながら玄関に向かう。

「無視すんなよ」

 先輩が追いかけてきた。

「僕スマホ持ってないんで」

「写真撮ってたじゃん」

「写真?」

「なんでもない
 じゃあまた待ち伏せしようかな」
 
 先輩が楽しそうに笑う。
 頭を下げて玄関を出た。
 また待ち伏せされるのか。
 とてつもなく憂鬱だ。

 その日の夜、僕はゲイビについて調べて安易に一緒に見ると言った事を後悔することになった。
 これを一緒に見るのか……?
 ちょっとよくない気がする。

 先輩の罠に嵌ってしまったようで、どうやって抜け出せばいいのか頭を抱える日々が始まった。
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