先輩は僕の××をご所望です

先輩の初めてを奪う＊

「あー、今日も癒やしてくれるんだな」

　最近の癒やしは花壇の花達だ。
　前にみつけてからちょくちょく足を運ぶようになったのだが、最近は毎日眺めている。
　いつも水やりをされた後で、雫がキラキラしていてよりきれいに見える。
　
「はぁ、今日も待ってるのかな」

　さすがに毎日ではないけれど、待ち伏せされて屋上に連行されたり、放課後は買い物に行こうと言われて連れ回されたりしている。
　断ることもあるのだが、それを続けるとキレられそうで怖いから程々に付き合ってしまう。
　先輩の家には何度か行ったが、ただ漫画を読んだりゲームをするだけで特に何も言われないから、もしかしたらもうあのことはなかったことになっているのではと内心期待しているが、そうなるといったいいつ解放されるんだろうという不安が出てきて悩みは尽きない。

　昼休み、今日も屋上だ。

「あお、放課後俺の家な」

「今日はちょっと……」

「じゃあ、明日」

「明日も……」

「明後日」

「……明後日も」

「いつならいいんだよ」

「だって、もうすぐテスト始まるじゃないですか
　勉強したいんです」

「俺の家でやれば？」

「人がいると集中できないんで」

「ふーん、じゃあテスト終わったらな」

「……えー」

「ちっちゃい声でえーって言ってんの聞こえてるからな」

「分かりましたよ、終わったら行きます」

　パンをかじりながらヤケクソで答える。
　
「それまでは屋上だけで我慢するか」

　こっちは屋上すら我慢してるんだよ。
　まったく噛み合わない。

「早くテスト終わんないかな」

　こっちは永遠に終わってほしくありません。
　
「じゃあ、もう行きますね」

「おぉ、またな」

　またな……か。
　当たり前のように言われてため息をつく。
　いつになったら元通りの生活が送れるんだろう。

　テストが始まり、先輩とは会わなくなった。
　喜ばしい事なのに少し違和感を感じる自分がいて戸惑う。
　あまり集中できなくて、結果は思っていたよりも悪かった。

　駐輪場に向かってトボトボと歩く。
　何も考えずに寝たい。
　だが、そんな僕の思いとは裏腹に先輩は待っていた。
　
「あお、元気ねーな」

「テストが思ったよりできなくて」

「ま、そういう時もあるだろ
　まだ1年だし」

「誰のせいだと……」

　誰のせいなんだ？
　先輩のせいではないだろう。

「あお？」

「なんでもないです
　家行くんですよね？」

「おぉ」

「行きましょう」

　自転車を押して歩き出す。
　隣に先輩が並んだ。
　なんだかムシャクシャする。

「先輩、今日しましょうか」

「なに？」

「セックスです」

「どうした、急に？」

「いいじゃないですか
　やる気になってるんだから逃さないほうがいいですよ」

「分かった」

　今日で終わりにする。
　そうして、明日から元通りの生活を手に入れる。
　この時はそんな事を考えていた。

　先輩の家に足を踏み入れる
　いつもと同じ甘い香りが僕を出迎える。

「あお、ゲイビ見たの？」

「いや、見てはないです
　どんなものかは分かりましたけど」

「見る？」

「見たいんでしたっけ？」

「いや、別にいい」

「そうですか……」

「シャワー浴びる？」

　今日は冗談じゃない。
　本当に僕は先輩と……。
　急に現実感が押し寄せてきて逃げ出したくなる。
　どうして僕はあんな事を言ってしまったんだろう。
　
「あお？」

　先輩の言葉にハッと我に返る。

「はい」

　ここと言って案内された。

「じゃあ、ゆっくり浴びて」

　パタンと扉が閉じられた。
　
　一人になって、大きく息を吐く。
　もう後戻りはできない。
　意を決して服を脱ぎ、浴室に足を踏み入れる。
　シャワーで全身を軽く流し、何となくいつもより丁寧に隅々まで洗う。
　泡を流して、浴室を出た。
　用意されていた自分の家のものとは違う香りのするバスタオルで体を拭く。
　このバスタオルも甘い香りがした。

　どうしよう。
　不安に押しつぶされそうになる。
　何か気を紛らわせるものはないだろうか。
　ふと目についたテレビのリモコンを見つけて、勝手につけてすみませんと謝りながら電源を入れた。
　変なボタンを押したのか、急に画面が切り替わった。

「アッ……アァ
　気持ちいい」

　テレビに絡み合う男二人が映し出された。

「えっ、なんで！？
　どうしよう
　消さなきゃ」

　焦ってしまってうまく操作できない。
　違う、消すだ、あー、ヤバい。
　
「あお？」

　振り返ると先輩が立っていた。
　最悪だ。
　テレビからはまだ喘ぎ声が聞こえている。

「すみません、間違えて何かボタン押しちゃって、それであの、これがついちゃって」

「あぁ昨日見てたやつ
　今から、これやるんだけど大丈夫？」

「へ？」

　ものすごく間抜けな声が出た。
　画面を見る。
　男の人を組み敷いて腰を振る男の人。
　
「だっ大丈夫です
　できます」

「無理しなくていいけど」

「無理じゃないです
　ほんとに……できます」
　
「じゃあキスするよ？」

　テレビを消して、僕の返事を待たずに強引に僕の唇を奪う。
　優しい触れ合うようなキスを何度かしていると、唇の隙間から舌が入ってきて、僕の舌を絡め取る。
　息ができない。
　上顎や歯列をなぞられて頭がクラクラとしてくると同時に快感が押し寄せてくる。

「プハっ……」

　ようやく開放された僕は荒い息を吐きながら必死に呼吸をした。
　顔をあげると先輩の目付きが変わっている。
　欲を孕んだその瞳がとても魅惑的で、僕は吸い込まれるように先輩の顔に近付いて唇を重ねた。

　何度も深い口づけを交わし、どちらのものとも分からない唾液を飲み込む。
　キスがこんなにも気持ちがいいものだなんて知らない僕はその魅力にすっかり落ちてしまい、股間が熱を帯び始める。
　先輩は僕の変化に気づいたのか耳を甘噛みしながら「これからもっと気持ちよくなるから」と囁いた。
　律儀に着込んだブラウスのボタンに手をかけられて、あっという間に身ぐるみを剥がされ、一糸まとわぬ姿をさらけ出す事になった。
　先輩も全て脱ぎ捨て、僕をベッドへと誘う。

　向かいあって座らされた僕はどうすればいいのか分からず先輩を見つめた。

「あお、今からやることを俺にもやってみて」

　僕を押し倒し、首筋、鎖骨へと唇を這わす。
　だんだん下に降りてきた先輩の唇が、僕の乳首を舐め始めた。
　片方を手で弄られて自分の声じゃないような声が出た。
　驚いて手で口を塞ぐと、その手を退けられて、耳元で声出していいからと囁かれる。
　その低い声音に背筋がゾクゾクとする。
　散々弄られて股間がさらに熱を帯びていく。
　もっと続けてほしいと思った矢先に刺激的なお手本は終わりを迎え、僕がする事に。

　高揚する気持ちのまま、先輩の上に跨って見様見真似で先輩の乳首を弄る。
　反応を伺う冷静さが少し出てくる

「アッ……」

　先輩の口から甘い吐息が漏れる。
　今度は舐めてみる。
　こんな感じだったかな……

「ン……」

　上目遣いで先輩を見る。
　感じてる……ような気がする。
　分からないなりに、そのまま舌を転がしたり摘んだりを繰り返す。
　先輩が自分のものを僕に擦り付けるように腰を動かし始めた。

「アッ……ちょっと……待って
　イキそ……」

　動きを止めて、先輩の股間に手を伸ばす。
　先っぽが少し濡れてる。
　そのまま擦ってみる。

「アッ、待てって」

　先輩が焦って動きを止めようとする。
　僕は動きを止めずに聞いてみる。

「このまま触ってたらいっちゃいますか？」

　コクコクと頷く先輩を見て、ちょっとかわいいと思ってしまった。
　乳首を舐めながら、先輩の硬くなったものを上下に扱いてみる。

「アッ……あぁぁ……
　やっ……ア゛ァ！！両方……ヤダァ……」

　その声に僕のものがどんどん硬くなっていく。
　僕の動きで先輩が感じてる。
　それが僅かに興奮をもたらす。
　もっともっと……

「あっ…、んんん…っ！
　ああぁっ、きもち、い゛っ…
　ん゛んっ！！イク……ッ！！」

　ビュルっと先輩の精液が迸る。
　先輩をイかせることができた……
　謎の達成感が僕の気分をさらに高揚させる。

「次はどうしたらいいですか？」

「あおも」と言って先輩の大きな手が僕のものを包みこみ上下に扱き始める。
　人に初めてされたその行為はとても気持ちが良くて、すぐに達してしまった。

　ただ僕の熱は冷めることなく、また緩く勃ち始める。
　荒い息を吐きながら、次はどうすればいいか問う。
　アドレナリンがドパドパと出ているようで、何でもできる気がしてくる。

　じゃあ、ここといって躊躇いがちに足を開いて自分で後ろの孔に指を入れる。

　ここに挿れるんだ。
　ゴクリと唾を飲み込む。

「これ、つけて
　素手でやるのは抵抗あるだろうから」

「なんですか、これ？」

「指につけるゴム
　手貸して」

　そう言って、指にゴムを付けてくれた。
　渡されたローションを手に取り、指に纏わせる。
　挿れますよ？と聞くとまた頷いた。

　恐る恐る指を挿入する。
　熱い……先輩の中はこんなに熱いんだ。
　指を出し入れして、先輩の反応を見る。
　僕の股間が痛いくらいに勃ってきた。

　指を増やしていいと言われ、2本差し挿れる。
　いろいろと動かしてみる。
　先輩の中が僕の指を離すまいとするかのように食い付いてくる。

　先輩の喘ぎ声はとまらず、それが堪らなく唆られる。
　
「アッ……」

　コブのようなところに当たった時にひときわ大きな声が出た。
　たぶんここだ。
　重点的に擦ってみる。

「アァッ、そこ……やだ
　イグィグ……ン……ア゛ッ……！！」

　先輩の目から涙が零れ落ちる。

「すみません、痛いですか！？」

「ちが……大丈夫……」

　不安に思いつつも僕はまた再開させ、ひたすら同じところを擦り続けた。
　先輩はビクビクと反応しながら腰を動かして誘ってくる。
　
「アッン……やっ……奥……欲しい
　挿れてほし……」

　涙目で縋る先輩の姿にゾクゾクした。

「いいんですか？」

「う……んっ」
　
　ゴムをつけようとするがうまくつけられない。
　見かねた先輩がつけてくれてた。

　ここに僕のものを挿れて大丈夫なんだろうか。
　一抹の不安が頭を掠める。

　早くという先輩の声に後押しされて、足を開いて亀頭を孔に擦り付ける。
　それだけで先輩は反応した。　

　ズブズブ……先輩の中に僕のものを挿れていく。

　先輩の中は指で感じるよりも熱くて、想像の何十倍も気持ち良かった。
　あまり急いで動いてはいけない気がして、ソロリソロリと腰を動かす。

「動いて……いいから」

　その言葉を聞いてズンと奥まで突いてから、勢いをつけてピストンする。

「アァ……はげし……ウゥッ――」

　やりすぎてしまった。
　加減が分からず、またユルユルと動かす。
　僕の混乱が伝わったのか、あおが気持ちよくなれるように動いていいと笑って言ってくれた。

　僕じゃなくて先輩を気持ちよくさせてあげたい。
　そんな気持ちが芽生えていた。

　痛くしないように、でもゆっくりすぎるときっと物足りないと思われそう。
　僕の限界が近付いてきている。

「先輩、ごめんなさい
　ちょっと動きます」

　動きを早くさせる。　
　気持ちいい……
　無我夢中で腰を動かす。

「アッアン……イグ、イ゛ッちゃう
　あっ…、んんん…ッッ！！！！！」

「僕も……イきそうです」

　さらに加速させて絶頂を迎えた。
　先輩も一緒に果てた。
　聞こえるのはお互いの荒い息遣いだけだ。
　僕は自身のものを引き抜いて起き上がった。

「あの、先輩
　大丈夫ですか？」

　先輩の方を振り返って尋ねる。
　先輩はまだ寝転んだままだ。

「気持ちよかった
　あおが初めてでよかった
　ありがとう」

　先輩の笑顔に不覚にもドキッとしてしまう。
　僕どうしちゃったんだろう。

「それならよかったです……」

　先輩から視線を外して俯く。
　目を合わせるのが何だか恥ずかしい。

「ごめんな、無理やり付き合わせて
　これで終わりにするから」

「はい」

「今までありがとな」

　これで終わりなんだ。
　僕は元に戻れるんだろうか。
　一抹の不安が胸をかすめた。