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ハネムーン計画と王女様との遭遇
「ハネムーンですか?」
ベッドに寝転んでいるとフェリクス様がそんなことを言い始めた。
「うん、休暇を取ろうと思って」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ」
「そうですか」
「行きたいところはあるか?」
行きたいところ……どこだろう?
「うーん、そうですね。あっ、北の辺境伯様のところへ行きたいです」
「なぜ?」
「お手紙でお礼はしましたが、やはり直接会ってお礼を言いたいとずっと前から思っていたんです」
「寒いぞ? 暖かいところのほうがいいんじゃないか?」
「雪が積もった山があると聞きました。見てみたいです」
「海は? 見たことあるか?」
「海? ないです」
「とても大きくてきれいだし、釣りもできるぞ」
「そうなのですか? それもいいな」
「南のほうがいいと思う」
何故かめちゃくちゃ南を推してくる。でもでも、北へ行くのも捨てがたい。
「両方は無理ですかね?」
「両方?」
「はい! 北と南両方行っちゃうとかワクワクしませんか?」
「そんなキラキラした目で言われると……」
「そうしましょうよ! ハネムーンだし?」
「……分かった」
渋々といった感じでフェリクス様が了承してくれた。よかった、言ってみるものだな。
「わーい、楽しみですね」
「南はいいとして……北がな……」
「なんですか?」
「なんでもない。ルシアン」
抱き寄せられて唇を塞がれた。
「ん……」
普通に話していたのに急にスイッチが入っちゃうのすごい。いつものようにたくさん愛し合って眠りについた。
◆◆◆
「ハネムーン? いいねぇ。どこに行くの?」
片付けを終えて、先生お手製のパンケーキを頬張りながらハネムーンのことを切り出した。
「えっと、北の辺境伯様の領地と、あとは南の方へ。フェリクス様のご友人がいらっしゃるところみたいで」
「北へ行くの嫌がってなかった?」
「あまり乗り気じゃなかったですね」
「だろうね」
「分かるんですか?」
「可愛い可愛いルシアンくんを他の男に見せるなんて、彼絶対に嫌がりそうだから」
「なんですか、それ」
「めちゃくちゃいい男だったりして」
「先生、楽しそうですね」
「うん、楽しい。嫌そうにしてる顔、めちゃくちゃ想像できる。アハハ」
めちゃくちゃ楽しそう……。
「フェリクス様がいるのに、他の男の人なんて目に入りませんよ」
「絶対に聞かせたくないセリフ」
「いつも言ってますよ? 先生のところすら嫌がるから」
「大変だねぇ。そうだ! プレゼントをあげる」
「なんですか?」
席を外したかと思ったら、小瓶を持って現れた。
「はい、これ」
「なんですか、これ?」
「ハネムーンの夜、眠る前にお茶に混ぜてみて。すっごーくリラックスできるから」
「ふーん? ありがとうございます」
「ハネムーンの日まで使っちゃだめだよ」
「わかりました」
「絶対だよ」
「わかりましたって」
「ふふふ。よければ、感想聞かせてね」
「はい」
何だろう。蜂蜜みたいな? 疲れるかもしれないからリラックスできるのはありがたいかも。
「それにしても、これ美味しいですね」
「簡単に作ることができるから、作り方教えてあげるよ?」
「こんなにふっくら焼けるんですか?」
「大丈夫。僕お手製の粉を使ったらね」
「先生って多才ですよね。その粉売れるんじゃないですか?」
「うん、売ろうと思ってる」
「そうでしたか。さすがです」
「ちなみにさっき渡した蜜もとあるところで売ってるんだよー?」
「そうなんですか?」
「ハネムーンから帰ってきたらお店教えてあげる。きっとフェリクスくんは知りたがるだろうなー」
「物凄く勿体ぶりますね」
「ふふふふふ」
「怖いです……」
いつも以上におかしな先生に別れを告げて、家路についた。
◆◆◆
ハネムーンの段取りは全部フェリクス様がやってくれて、もう来週というところに迫っていた。フェリクス様は休暇前ということもあってか忙しいらしく毎日帰りが遅い。
今日は王妃様に呼ばれて、王宮に来ている。たまにお茶しましょうとお誘いを受けて来るのだが、ぜんっぜん慣れない。毎回緊張しすぎて胃が痛い。
「ルシアン様、ようこそおいでくださいました」
「こんにちは、ミラ様」
王妃様の侍女であるミラ様が優雅に微笑まれた。どの方も気品があって驚いてしまう。
「今日は庭園なのですね」
「はい、ルシアン様は自然がお好きだと小耳に挟まれたそうで」
「そうでしたか」
「しばし、お待ちくださいませ」
「はい」
周りが花に囲まれたガゼボで待っていると、ガザガサと物音がした。なんだろう? 何かいる? 目を凝らしていると茂みから小さな女の子が出てきた。
「いたた……」
水色のワンピースには草やら枝がついて泥だらけだし、頭にも葉っぱがついている。あれ、あの目の色?
「あなた、だぁれ?」
ピョコンと跳ねるように僕の前に近づいてきた彼女がその愛らしいお顔を傾けた。
「僕はルシアンと申します」
「ルシアン……? 知っているわ! フェリクス兄様と結婚された方だわ」
「フェリクス兄様?」
あれ? このお方はもしかして?
「エミリア様ー?」
「あっ、見つかっちゃう。かくれんぼしてるの」
そう言ってテーブルの下に潜り込んだ。うそ、どうしよう。エミリア王女様だ!!
「ルシアンも一緒に遊びましょう?」
机の下から僕を見上げて楽しそうに誘ってくださった。
「僕も?」
「うん、そうよ」
王妃様がいらっしゃる間までならいいか。
「構いませんよ」
机の下から出てきた彼女が「やった」と言って飛び跳ねた。仕草がいちいち可愛らしい。
「それにしても、派手に汚してしまいましたね」
「へへへ、いつも汚しちゃうの。大人しくしているの大嫌いだから」
「そうですよね、分かります」
「分かる? お淑やかにって先生に言われるんだけど、全然できなくて」
「今はそのままでもいいのではないでしょうか? もちろん先生の教えはきちんと覚えたほうがいいと思いますけれど。体を動かす事は大事だと思いますしね」
「そうかしら」
「かけっこはお好きですか?」
「大好きよ?」
「では、勝負しましょう。僕が追いかけますので、捕まったら負けですよ」
「いいわ。負けないわよ」
「いきますよー?」
「きゃあ、待って」
駆け出したエミリア様を追いかけ始めた。なかなかに足が速い。
「待てー!」
「きゃはは、やーだよー」
「よーし、つかまえた!」
「じゃあ、次は私ね! 早く逃げて!」
「分かりました! 捕まりませんよー?」
「絶対に捕まえてやるんだから!」
何度か交代して走り回っていると流石に疲れてきた。
「エミリア様……休憩……」
「もう! エミリアは全然疲れてないのに」
「年の差……」
ぐったりしていると王妃様が顔を覗かせた。
「あら、エミリア?」
「母上!」
「まぁ、随分と派手に汚してしまったわね?」
「あ……あの……」
俯きながら服を握りしめる彼女を見て咄嗟に言葉が出た。
「申し訳ございません。僕が追いかけっこをしようと提案致しまして、それで……途中でバランスを崩されて汚れてしまったのです」
「そうなの?」
「そうですよね? エミリア様」
エミリア様に目で頷いてと訴えると控えめに「う……うん」と仰られた。
「そう」
「あぁ、エミリア様、こちらにいらしたのですね」
先ほどエミリア様を探していた方が息を切らしながらやってきた。
「着替えてきなさい。イネス、お願いね?」
「かしこまりました。参りましょう、エミリア様」
「はい……」
「エミリア様、よろしければまた遊んで下さいませ」
「うん! またね!」
服のことを指摘されてしょんぼりされていたけど、最後は笑顔を見せてくれてよかった。
「ルシアン、お待たせしてごめんなさいね」
「いえ」
豪華なアフタヌーンティーセットが用意されて、心のなかで大興奮する。
「エミリアのことだけど」
「はい」
「嘘でしょう?」
「いえ、本当に」
「どうせ生垣の間を通り抜けたりしていたのでしょう」
す……するどい。さすがです、王妃様。
「とってもお転婆だから、あの子」
「子供らしくていいと思います。王族としては良いのか分かりませんが……」
「ほほほ、いいのよ。皆、幼い頃はあんな感じだったから」
「そうなんですか」
「私があんな風に走り回ったりできなかったからなのか、子供たちには伸びやかに過ごしてほしいと思ってしまうの。もちろん教育は受けさせないといけないけれど」
「素敵だと思います」
「また、遊んでやってちょうだいね。遅くに生まれた子だから遊び相手がいなくて」
「僕で良けれは是非。体力はあまりないのですが……」
「ありがとう。さぁ、どんどん召し上がってちょうだい。ルシアンが美味しそうに食べる姿を見たいわ」
……フェリクス様と同じようなことを仰られているような。有り難く頂戴しよう。
「いただきます」
微笑む王妃様に見守られながら、一口また一口と胃袋の中に収めていった。残してしまってはもったいないからね。
「ご馳走さまでした」
「そうだ、フェリクスのところへ寄って帰ったらどうかしら? きっと喜ぶわ」
「宜しいのでしょうか?」
「少しくらい平気よ」
「それじゃあ、是非」
「案内させるわ」
しばらくすると、案内役の男性がやってきた。彼に連れられてフェリクス様の執務室へお邪魔する事になった。
――コンコンコン
「はい」
「失礼致します」
出てきたのはエミール様だった。
「おお、これはこれはルシアン殿」
「エミール様、お久しぶりです」
「今日はどうされたのです?」
「王妃様とお茶を。ここに寄ってはどうかと提案されて」
「ありがとう、下がっていいよ。そうでしたか」
「おい、エミール。誰だ?」
奥にある大きなデスクに座るフェリクス様が顔を上げずに尋ねた。書類の山がいくつもできている。忙しいのに迷惑だったかもしれない。
「エミール!……ルシアン?」
ようやく顔をあげたフェリクス様と目があった。
「ごめんなさい。忙しいのに」
「いや……いやいやいや」
ガタンと立ち上がったフェリクス様が慌ててこちらへ向かってきた。
「私は少し席を外しますね」
「どうした? ああ、今日は母上と」
「はい、それでこちらに寄ってはどうかと提案して下さいまして」
「座って?」
「いえ、もう帰ります」
「いいから」
「はい……」
目の前にあるソファに座ると、先に座ったフェリクス様が「違う」と言って膝の上に座らされた。後ろからぎゅっと抱きしめられて……何か嗅がれてる?
「あの、嗅がないでくれますか?」
「ルシアンの香りは落ち着くから」
スーッと思いっきり吸い込む音が聞こえた。
「もう。変態じゃないですか」
僕を無視して一心不乱にスースーしている。怖いんだけど……。
「フェリクス様?」
「うん?」
「もういいですか?」
「うん、次はこっち向いて」
グルンと向きを変えられて向かい合うような形になった。
「ルシアン、キスして?」
「お仕事中でしょう?」
「いまは休憩時間だからいい」
「1回だけですよ?」
「うん」
チュッと軽くするつもりがガシッと頭に手を添えられて離れられなくなった。
「ンッ……ンン……」
めちゃくちゃ濃厚なキスをされて、ようやく解放された。
「ちょっと……こんなところで……」
「誰もいないし」
「いませんけど」
「けど?」
「ふしだらです!」
「はは、すまない」
「お仕事頑張ってくださいね?」
「うん。ルシアンが来てくれたから頑張れる」
「それならよかったです。今日も遅くなりますか?」
「そうだな、遅くなる」
「……分かりました。じゃあ、帰りますね」
「うん、気を付けて」
立ち上がって、見送りに出てくれた彼と別れた。今日も遅いのか。寂しいけど仕方がない。気落ちしながら家路についた。
フェリクス様は言った通り、日が変わる少し前に帰ってきた。シャワーを浴びた彼が、ベッドに倒れ込んだ。
「母上から聞いたんだが、エミリアと会ったそうだな」
「はい、一緒に遊びました」
「ルシアンが庇ってくれたとエミリアが言っていたそうだ」
「エミリア様が?」
「よく分からないが、自分が悪かったと謝っていたと聞いた」
「そうでしたか。叱られないようにと思って言ったのですが、余計なことをしましたかね?」
「いや、そんな事はないよ。大層ルシアンのことを気に入っていると言っていた」
「そうか。それは嬉しいです」
「俺のルシアンなのに、皆がルシアンに惹かれる」
「嫌われるよりいいでしょう?」
「うーん」
「フェリクス様のご家族に受け入れられていると感じられるので嬉しいですけどね」
「俺のルシアンなのに」
「あなた様のものですよ、僕は。さぁ、今日はもう寝ましょう。お疲れでしょう?」
「いや?」
そう言って抱き寄せられた。
「あの?」
絶妙に足を絡めて、僕のものに彼の硬いものが当たるように擦り始めてきた。
「や……待って……だめ……」
「ん?」
「あっ……擦り付けないで」
「どうして?」
「したくなっちゃうからぁ」
「もっとその気になればいい」
「やぁ……ん……休ませてあげようと……思ったのに」
「それは無理だな」
彼の手がお尻に伸びて、中に入れられたかと思うと割れ目をなぞり始めた。徐々に濡れ始めているのが分かる。
「ああっ……もうっ……」
「ルシアンを抱かないと良い睡眠が取れないからな」
「仕方ないですね……」
覆いかぶさる彼の背中に手を回して、ゆっくりと唇を重ねた。
ベッドに寝転んでいるとフェリクス様がそんなことを言い始めた。
「うん、休暇を取ろうと思って」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ」
「そうですか」
「行きたいところはあるか?」
行きたいところ……どこだろう?
「うーん、そうですね。あっ、北の辺境伯様のところへ行きたいです」
「なぜ?」
「お手紙でお礼はしましたが、やはり直接会ってお礼を言いたいとずっと前から思っていたんです」
「寒いぞ? 暖かいところのほうがいいんじゃないか?」
「雪が積もった山があると聞きました。見てみたいです」
「海は? 見たことあるか?」
「海? ないです」
「とても大きくてきれいだし、釣りもできるぞ」
「そうなのですか? それもいいな」
「南のほうがいいと思う」
何故かめちゃくちゃ南を推してくる。でもでも、北へ行くのも捨てがたい。
「両方は無理ですかね?」
「両方?」
「はい! 北と南両方行っちゃうとかワクワクしませんか?」
「そんなキラキラした目で言われると……」
「そうしましょうよ! ハネムーンだし?」
「……分かった」
渋々といった感じでフェリクス様が了承してくれた。よかった、言ってみるものだな。
「わーい、楽しみですね」
「南はいいとして……北がな……」
「なんですか?」
「なんでもない。ルシアン」
抱き寄せられて唇を塞がれた。
「ん……」
普通に話していたのに急にスイッチが入っちゃうのすごい。いつものようにたくさん愛し合って眠りについた。
◆◆◆
「ハネムーン? いいねぇ。どこに行くの?」
片付けを終えて、先生お手製のパンケーキを頬張りながらハネムーンのことを切り出した。
「えっと、北の辺境伯様の領地と、あとは南の方へ。フェリクス様のご友人がいらっしゃるところみたいで」
「北へ行くの嫌がってなかった?」
「あまり乗り気じゃなかったですね」
「だろうね」
「分かるんですか?」
「可愛い可愛いルシアンくんを他の男に見せるなんて、彼絶対に嫌がりそうだから」
「なんですか、それ」
「めちゃくちゃいい男だったりして」
「先生、楽しそうですね」
「うん、楽しい。嫌そうにしてる顔、めちゃくちゃ想像できる。アハハ」
めちゃくちゃ楽しそう……。
「フェリクス様がいるのに、他の男の人なんて目に入りませんよ」
「絶対に聞かせたくないセリフ」
「いつも言ってますよ? 先生のところすら嫌がるから」
「大変だねぇ。そうだ! プレゼントをあげる」
「なんですか?」
席を外したかと思ったら、小瓶を持って現れた。
「はい、これ」
「なんですか、これ?」
「ハネムーンの夜、眠る前にお茶に混ぜてみて。すっごーくリラックスできるから」
「ふーん? ありがとうございます」
「ハネムーンの日まで使っちゃだめだよ」
「わかりました」
「絶対だよ」
「わかりましたって」
「ふふふ。よければ、感想聞かせてね」
「はい」
何だろう。蜂蜜みたいな? 疲れるかもしれないからリラックスできるのはありがたいかも。
「それにしても、これ美味しいですね」
「簡単に作ることができるから、作り方教えてあげるよ?」
「こんなにふっくら焼けるんですか?」
「大丈夫。僕お手製の粉を使ったらね」
「先生って多才ですよね。その粉売れるんじゃないですか?」
「うん、売ろうと思ってる」
「そうでしたか。さすがです」
「ちなみにさっき渡した蜜もとあるところで売ってるんだよー?」
「そうなんですか?」
「ハネムーンから帰ってきたらお店教えてあげる。きっとフェリクスくんは知りたがるだろうなー」
「物凄く勿体ぶりますね」
「ふふふふふ」
「怖いです……」
いつも以上におかしな先生に別れを告げて、家路についた。
◆◆◆
ハネムーンの段取りは全部フェリクス様がやってくれて、もう来週というところに迫っていた。フェリクス様は休暇前ということもあってか忙しいらしく毎日帰りが遅い。
今日は王妃様に呼ばれて、王宮に来ている。たまにお茶しましょうとお誘いを受けて来るのだが、ぜんっぜん慣れない。毎回緊張しすぎて胃が痛い。
「ルシアン様、ようこそおいでくださいました」
「こんにちは、ミラ様」
王妃様の侍女であるミラ様が優雅に微笑まれた。どの方も気品があって驚いてしまう。
「今日は庭園なのですね」
「はい、ルシアン様は自然がお好きだと小耳に挟まれたそうで」
「そうでしたか」
「しばし、お待ちくださいませ」
「はい」
周りが花に囲まれたガゼボで待っていると、ガザガサと物音がした。なんだろう? 何かいる? 目を凝らしていると茂みから小さな女の子が出てきた。
「いたた……」
水色のワンピースには草やら枝がついて泥だらけだし、頭にも葉っぱがついている。あれ、あの目の色?
「あなた、だぁれ?」
ピョコンと跳ねるように僕の前に近づいてきた彼女がその愛らしいお顔を傾けた。
「僕はルシアンと申します」
「ルシアン……? 知っているわ! フェリクス兄様と結婚された方だわ」
「フェリクス兄様?」
あれ? このお方はもしかして?
「エミリア様ー?」
「あっ、見つかっちゃう。かくれんぼしてるの」
そう言ってテーブルの下に潜り込んだ。うそ、どうしよう。エミリア王女様だ!!
「ルシアンも一緒に遊びましょう?」
机の下から僕を見上げて楽しそうに誘ってくださった。
「僕も?」
「うん、そうよ」
王妃様がいらっしゃる間までならいいか。
「構いませんよ」
机の下から出てきた彼女が「やった」と言って飛び跳ねた。仕草がいちいち可愛らしい。
「それにしても、派手に汚してしまいましたね」
「へへへ、いつも汚しちゃうの。大人しくしているの大嫌いだから」
「そうですよね、分かります」
「分かる? お淑やかにって先生に言われるんだけど、全然できなくて」
「今はそのままでもいいのではないでしょうか? もちろん先生の教えはきちんと覚えたほうがいいと思いますけれど。体を動かす事は大事だと思いますしね」
「そうかしら」
「かけっこはお好きですか?」
「大好きよ?」
「では、勝負しましょう。僕が追いかけますので、捕まったら負けですよ」
「いいわ。負けないわよ」
「いきますよー?」
「きゃあ、待って」
駆け出したエミリア様を追いかけ始めた。なかなかに足が速い。
「待てー!」
「きゃはは、やーだよー」
「よーし、つかまえた!」
「じゃあ、次は私ね! 早く逃げて!」
「分かりました! 捕まりませんよー?」
「絶対に捕まえてやるんだから!」
何度か交代して走り回っていると流石に疲れてきた。
「エミリア様……休憩……」
「もう! エミリアは全然疲れてないのに」
「年の差……」
ぐったりしていると王妃様が顔を覗かせた。
「あら、エミリア?」
「母上!」
「まぁ、随分と派手に汚してしまったわね?」
「あ……あの……」
俯きながら服を握りしめる彼女を見て咄嗟に言葉が出た。
「申し訳ございません。僕が追いかけっこをしようと提案致しまして、それで……途中でバランスを崩されて汚れてしまったのです」
「そうなの?」
「そうですよね? エミリア様」
エミリア様に目で頷いてと訴えると控えめに「う……うん」と仰られた。
「そう」
「あぁ、エミリア様、こちらにいらしたのですね」
先ほどエミリア様を探していた方が息を切らしながらやってきた。
「着替えてきなさい。イネス、お願いね?」
「かしこまりました。参りましょう、エミリア様」
「はい……」
「エミリア様、よろしければまた遊んで下さいませ」
「うん! またね!」
服のことを指摘されてしょんぼりされていたけど、最後は笑顔を見せてくれてよかった。
「ルシアン、お待たせしてごめんなさいね」
「いえ」
豪華なアフタヌーンティーセットが用意されて、心のなかで大興奮する。
「エミリアのことだけど」
「はい」
「嘘でしょう?」
「いえ、本当に」
「どうせ生垣の間を通り抜けたりしていたのでしょう」
す……するどい。さすがです、王妃様。
「とってもお転婆だから、あの子」
「子供らしくていいと思います。王族としては良いのか分かりませんが……」
「ほほほ、いいのよ。皆、幼い頃はあんな感じだったから」
「そうなんですか」
「私があんな風に走り回ったりできなかったからなのか、子供たちには伸びやかに過ごしてほしいと思ってしまうの。もちろん教育は受けさせないといけないけれど」
「素敵だと思います」
「また、遊んでやってちょうだいね。遅くに生まれた子だから遊び相手がいなくて」
「僕で良けれは是非。体力はあまりないのですが……」
「ありがとう。さぁ、どんどん召し上がってちょうだい。ルシアンが美味しそうに食べる姿を見たいわ」
……フェリクス様と同じようなことを仰られているような。有り難く頂戴しよう。
「いただきます」
微笑む王妃様に見守られながら、一口また一口と胃袋の中に収めていった。残してしまってはもったいないからね。
「ご馳走さまでした」
「そうだ、フェリクスのところへ寄って帰ったらどうかしら? きっと喜ぶわ」
「宜しいのでしょうか?」
「少しくらい平気よ」
「それじゃあ、是非」
「案内させるわ」
しばらくすると、案内役の男性がやってきた。彼に連れられてフェリクス様の執務室へお邪魔する事になった。
――コンコンコン
「はい」
「失礼致します」
出てきたのはエミール様だった。
「おお、これはこれはルシアン殿」
「エミール様、お久しぶりです」
「今日はどうされたのです?」
「王妃様とお茶を。ここに寄ってはどうかと提案されて」
「ありがとう、下がっていいよ。そうでしたか」
「おい、エミール。誰だ?」
奥にある大きなデスクに座るフェリクス様が顔を上げずに尋ねた。書類の山がいくつもできている。忙しいのに迷惑だったかもしれない。
「エミール!……ルシアン?」
ようやく顔をあげたフェリクス様と目があった。
「ごめんなさい。忙しいのに」
「いや……いやいやいや」
ガタンと立ち上がったフェリクス様が慌ててこちらへ向かってきた。
「私は少し席を外しますね」
「どうした? ああ、今日は母上と」
「はい、それでこちらに寄ってはどうかと提案して下さいまして」
「座って?」
「いえ、もう帰ります」
「いいから」
「はい……」
目の前にあるソファに座ると、先に座ったフェリクス様が「違う」と言って膝の上に座らされた。後ろからぎゅっと抱きしめられて……何か嗅がれてる?
「あの、嗅がないでくれますか?」
「ルシアンの香りは落ち着くから」
スーッと思いっきり吸い込む音が聞こえた。
「もう。変態じゃないですか」
僕を無視して一心不乱にスースーしている。怖いんだけど……。
「フェリクス様?」
「うん?」
「もういいですか?」
「うん、次はこっち向いて」
グルンと向きを変えられて向かい合うような形になった。
「ルシアン、キスして?」
「お仕事中でしょう?」
「いまは休憩時間だからいい」
「1回だけですよ?」
「うん」
チュッと軽くするつもりがガシッと頭に手を添えられて離れられなくなった。
「ンッ……ンン……」
めちゃくちゃ濃厚なキスをされて、ようやく解放された。
「ちょっと……こんなところで……」
「誰もいないし」
「いませんけど」
「けど?」
「ふしだらです!」
「はは、すまない」
「お仕事頑張ってくださいね?」
「うん。ルシアンが来てくれたから頑張れる」
「それならよかったです。今日も遅くなりますか?」
「そうだな、遅くなる」
「……分かりました。じゃあ、帰りますね」
「うん、気を付けて」
立ち上がって、見送りに出てくれた彼と別れた。今日も遅いのか。寂しいけど仕方がない。気落ちしながら家路についた。
フェリクス様は言った通り、日が変わる少し前に帰ってきた。シャワーを浴びた彼が、ベッドに倒れ込んだ。
「母上から聞いたんだが、エミリアと会ったそうだな」
「はい、一緒に遊びました」
「ルシアンが庇ってくれたとエミリアが言っていたそうだ」
「エミリア様が?」
「よく分からないが、自分が悪かったと謝っていたと聞いた」
「そうでしたか。叱られないようにと思って言ったのですが、余計なことをしましたかね?」
「いや、そんな事はないよ。大層ルシアンのことを気に入っていると言っていた」
「そうか。それは嬉しいです」
「俺のルシアンなのに、皆がルシアンに惹かれる」
「嫌われるよりいいでしょう?」
「うーん」
「フェリクス様のご家族に受け入れられていると感じられるので嬉しいですけどね」
「俺のルシアンなのに」
「あなた様のものですよ、僕は。さぁ、今日はもう寝ましょう。お疲れでしょう?」
「いや?」
そう言って抱き寄せられた。
「あの?」
絶妙に足を絡めて、僕のものに彼の硬いものが当たるように擦り始めてきた。
「や……待って……だめ……」
「ん?」
「あっ……擦り付けないで」
「どうして?」
「したくなっちゃうからぁ」
「もっとその気になればいい」
「やぁ……ん……休ませてあげようと……思ったのに」
「それは無理だな」
彼の手がお尻に伸びて、中に入れられたかと思うと割れ目をなぞり始めた。徐々に濡れ始めているのが分かる。
「ああっ……もうっ……」
「ルシアンを抱かないと良い睡眠が取れないからな」
「仕方ないですね……」
覆いかぶさる彼の背中に手を回して、ゆっくりと唇を重ねた。
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5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
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隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。