魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

文字の大きさ
4 / 78
CHAPTER_00 始まりは長い一日 ~have long way to go~

(02)アルバイト ~part-time~

しおりを挟む

「ただいまー」

「おかえり、おそかったじゃん」

 風呂上がりの姉――マリコが出迎える。
 タオルを頭に巻き、全身から湯気を出す。シュウの体まで温かくなる。

「色々あって……ご飯ある?」

「うん、置いてるよ」

 シュウのアルバイト終わり、マリコだって働いているのに、時間が合えばいつもご飯を作ってくれていた。
 背丈はシュウと同じくらいで気の強い性格のマリコは、シュウにとって自慢の姉であった。
 マリコの前では頭が上がらない。

 リビングに入ると、父のコウヘイがイビキをかいて寝転んでいる。

「父さん……風邪引くよ」

 近くにあったブランケットをそっとかける。

 勤務時間が不規則なコウヘイが、リビングで寝るのは日常茶飯事さはんじだ。
 コウヘイはだらし無さこそ年相応だが、ガタイのいい体は引き締まっており、これまた自慢の父である。

「――なによ、なんか嬉しいことでもあったの?」

 いつの間にか背後にいるマリコ――
 タオルで頭を拭き、歯ブラシをくわえながら鋭い質問を投げてくる。

「え? なにもないよ」

「なに、可愛い子にでも会ったの?」

 マリコには、昔から嘘が通用しなかった。

「か、かわいいとか、そうじゃなくて……」

「ふーん」

 いやらしそうに微笑ほほえむマリコ――
 シュウは恥ずかしくなって顔をそらす。

「はーい、実は私からも朗報がありまーす!」

 マリコは突然大きな声で宣言した。
 手には一枚のチラシを持ち、シュウに見せつける。

「じゃーん!」

 A4サイズの、よく見るアルバイト募集のチラシだった。



 憧れのセントラルで働きませんか?

 高時給・高待遇・昇給あり
 住込みでセントラルをピカピカに磨き
 生徒たちに安全な学園生活を!

 清掃員専用寮完備・朝夜2食付き
 技術不要・職歴不問・年齢不問
 お問い合わせは・・・
                  』


「……セントラル? なにこれ?」

「ちょっとセントラルよ! 国立魔法学中央学園、世界で1番・・の魔法学校よ!」

「魔法……」

 先ほど街で助けてもらった、エリスのことを思い出す。

「見た? この好条件、食事も付いてるのよ!」

「そんな甘い話あるかな……それに住み込みはちょっと――」

「なによ、あんたの分までご飯作るの面倒なのよ」


 シュウは、アルバイトをいくつか掛け持ちしているが、そこは年端としはも行かぬ若造――
 時給はどれもタカがしれている。
 父のコウヘイも時給の低い監視員だ。
 魔法が発展した現代――
 まだまだ動ける凛々りりしい父でも、年寄りが働ける場所は数少ない。

 一方のマリコはなんと正社員・・・――
 物価の高いこの街で、姉の収入源は命綱だった。バリバリ働くハナミヤ家イチの稼ぎ頭でありながら、家のことも中心的にこなしていた。
 
 これ以上、文句を言うことはできない。

「わかったよ、どこに電話すればいいの?」

「素直でよろしい、もう応募しておいたよ」

「え゛!」

 それにしても、気が早すぎる。
 住み込みで働くのだから、気持ちも含めた色々な準備が必要であろうに――

「若くて元気があるよって言ったら、明日にでも来てって!」

「あ、明日?! いくらなんでも……」

「ふああっ……んじゃあ私寝るから、おやすみー」

「ちょっとっ、姉さん!」

 姉は、あくびをしながら自分の部屋に戻る。
 チラシを持って呆然と立ち尽くす。リビングにはコウヘイのイビキだけが響き渡った。

 チラシを見ながら、頭の中を整理するのに時間が掛かってしまった。

「セントラルかあ……」

 エリスは多分、歳が近い。
 魔法使いなら通っていてもおかしくない。

 もしかしたら、もしかすると――

「また、会えるかなあ……」

 ついつい顔がニヤついてしまう。
 働くことも忘れ、なんだかんだ期待に胸ふくららますシュウだった。




 ○○○○○○




 駅のホーム、シュウは都心部行きの列車を待つ。
 いつもは地下鉄ばかりのシュウにとって、街の中心へと続く上の・・列車たちは新鮮だった。

 しばらくホームで待つと、先のとがったひと際目立つ列車が悠然ゆうぜんと現れ、きしむ音なく静かに停まる。
 車輪一つ一つに浮かび上がる魔法陣が淡く輝く。
 動力の1つが魔法になっているらしい。

「セントラル行き……これかな?」

 足を踏み入れようとすると、入り口付近に立っていた係員に体を抑えられる。

「何してる! これは、セントラル行きだぞ」

「え、だ、だからセントラルに行きたくて」

 当然のことを言われ、当然のことを答える。
 何がいけないか理解できない。

「この列車は関係者しか乗れない! 部外者は鈍行どんこうでいけ!」

 なるほど、快速だ特急だのたぐいらしい。とはいえこれから関係者になりに行くのだ。乗れないはずがない。

「関係者です! 今日から働くんです! それに、これじゃないと間に合わないし――」

「しるかっ!」

 列車から突き放され、扉は発車の合図とともにピシャリと閉まる。

「そんなあ……」

 仕方がない、鈍行で行こう。
 悔しがっているヒマはない。急がないと初日から遅刻だ。辞めさせられるかもしれない。


 エリスに会えないかもしれない――


 すぐさま地下の鈍行に乗り換える。
 1駅、1駅とゆっくり目的地へと進む。
 電車に揺られながら、シュウの不安な気持ちはつのばかりだった。




 ○○○○○○




「――す、すげえ……」


 国立魔法学中央学園、通称セントラル――


 数時間かけてようやくたどり着いたそこは、まるで1つの巨大都市――

 上空には監視のためか、機械と魔法陣がセットでロボットが飛び交っていた。
 大きな正門には監守が二人――
 遅刻時間更新中のシュウは意を決し、恐る恐る中に入ろうとした。

「――まて、何の用だ」


 ――ですよね……

 予想通り、ガッチリと止められた。


「きょ、今日からこの場所で働く予定でしてー」

 嘘はついてないはずなのに、汗が止まらない。

「働く? 若いな……何の仕事だ? 魔法は使えるのか?」

「いえ、魔法は使えないんですけど――」

「なにっ?」


 ――魔法も使えないやつが何故ここにいる!

 そう言わんばかりに監守がにらみつけてくる。

「よくわからんが許可できない。帰りたまえ」

「ま、まってください! ただでさえ遅れててっ!」

 思い切って強引に入ろうとするが、やっぱり監守に押さえつけられる。

「おねがいですぅー 通してくださーいっ!」

「こんの、こうなったら力づくで――」


「――おいっ」


 学園の中から、野太く、頼もしい声が響く。
 その場の全員が声の方を振り向いた。そこには、大柄な男が立ち構えていた。

「ダイモン……」

 監守は苦い顔で呟く。

「騒がしな、なにごとだ?」

「不法侵入者だ。何度も注意しているが言うことを聞かない」

「ちがうんですっ! 何度も言ってますが、今日からここで清掃のアルバイトがっ!」

 ダイモンを見るとシュウの若さに驚いたのか、一瞬だけ目を丸くする――が、すぐに渋い顔に戻った。

「そいつはウチで世話する。開放してやれ」

「いや、しかし――」

「学園にも許可は取ってある。見にくるか? なんでもいいから早くしろ」

「……ちっ、掃除屋ふぜいがっ」

 監守は、大男には聞こえない声でボヤいた。
 状況は分からないが、素直に開放してくれた。正確には学園の中に突き飛ばされた。 

 シュウは、そのままトコトコと大男に歩み寄る。

「……初日から遅刻とはな、早くいくぞ」

「あ、はい! すみません!」

 大男は背を向ける。
 シュウは慌てて後ろを追いかけた。


 ようやく辿り着いたの場所は、外も中も古びれ、ジメッとした倉庫――
 倉庫の中央にはソファとテレビ、隅には数々の掃除用具が置いてある。始めは緊張したがすぐに慣れてきて、むしろ広々としたその空間は、場所に見合わず快適さも感じられた。

「あの、さっきは助かりました! だいもん、さん? なんとお呼びすれば……」

「なんでもいい。それより急ぐぞ、ただでさえ遅れてるんだ」

 いつの間にかシュウは、清掃用の青い作業着に着替えさせられていた。

「ここには、他に誰か?」

「お前と俺だけだ。とにかく人手が足りない」

 あたりをキョロキョロと見まわす。
 室内には小さい螺旋階段があり、2階もあるようだ。

「2階にお前の部屋がある。後で見るといい……ほら、これ――」

「おれの、へや?」

 ダイモンから脚立に雑巾、それと洗剤の入った霧吹きスプレーを渡される。

「床に窓、基本の場所はお掃除ロボットがやってくれる。ロボが手の届かない細かなところをこいつで拭くんだ」

「拭くって……あの、どこに行けば?」

「分担割は後でする。とりあえず今日は――高等部棟を担当しろ。放課後まであんまり時間が無い。早く済ませろ」

「は、はい!」

 ダイモンは倉庫を出ていった。自分の持ち場を回るのだろう。

 色々と説明不足で厳格なダイモンだが、不思議と優しさも感じられた。
 アルバイト経験の豊富なシュウだから言える。
 この仕事なら長く続けられる――

 シュウも急いで校舎へと向かった。


「……高等部棟って、どこだろう――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...