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CHAPTER_00 始まりは長い一日 ~have long way to go~
(03)巻き込み事故 ~involve~
しおりを挟む10分、15分――学園内を彷徨った。
学園内が想像以上に広くて迷ったのもあるが、見る景色すべてが興味深く、ついつい無駄に歩き過ぎてしまっていた。
恐らく高等部棟には着いている。
定かではないが、とりあえず今いる場所の一番上の階から掃除することにした。
「――天井たけぇ……」
まるで高級ホテルだ。脚立が必要なわけである。
その分、階段は1フロア上がるだけで確実に体力を奪いに来る。
「人手が足りなくなる理由も、分かるな……」
数々のアルバイトで培った知恵と体力と精神力には自信がある。給料も良いし、これはまさしく天職になるかもしれない。
最上フロアに到着してあたりを見渡すと、すぐ近くに1人、女の子が突っ立ていた。
少しカールが掛かったセミロングの髪に、おっとりとした顔立ち――
だが、どこか活発でエリスとはまた違う上品さを感じられる。
女の子は廊下に並ぶ背の高い業務用ロッカーを前に、ひたすらに悩んでいた。
「うーん……あっ!」
女の子はこちらに気づき、何かを閃いた様子で近づいてくる。
「すみませーん! その脚立、借りてもいいですかー?」
女の子はシュウの持つ脚立を指差した。
おっとりした感じから打って変わり、屈託のない真剣な眼差しを向けてくる。元気はつらつに聞いてくるそのお願いを、シュウは断れるわけがなかった。
「友達が面倒みてるモルモットがこの上に逃げちゃったみたいで、ロッドは教室に置きっぱだし、今取りに行ってもらってるんですけど……」
「ロッド?」
「はい、だから魔法も使えなくて……そしたらちょうどいいのがそこに――」
可愛らしい理由、歳は近いだろうに何だか微笑ましかった。
「全然いいですけど、気を付けてくださいね」
「はい! ありがとうございます!」
元気な返事に満面の笑顔、それだけでシュウも元気になる。
「――よい、っしょ」
結局シュウが脚立を支え、女の子がそれを登る形になった。
ふと女の子のスカートの下から太ももが垣間見え、シュウはとっさに顔を伏せる。
「ど、どうですか? いそうですか、ね?」
女の子は脚立の上で背伸びし、ロッカーの上を覗き込む。
「うーん……あっ、いた!」
女の子はロッカーの上にゆっくりと両手を伸ばし、モルモットを包み込む。
「見つけましたーっ」
嬉しそうにシュウを見る女の子、ひと安心――
――と思いきや、モルモットに気を取られ、右足を滑らせた女の子の体が宙に浮く。
モルモットは手から離れ、床に無事着地すると一目散にどこかへ逃げて行く。
「あぶないっ!」
シュウはギリギリのところで、女の子を受け止める。ちょうど、女の子をお姫様抱っこする形になった。
『あっ……』
2人は同時につぶやき、見つめ合う。
慌てて脚立から手を離したため、バランスを崩した脚立はガシャンと大きな音を立てて倒れこむ。
それでも2人は見つめあい、しばらく固まっていた。
「……あ、あわっ――」
やがて女の子が慌て始める、顔がみるみる赤くなり、反射的に降りようと体を動かした。
「まって、無理に動くと――」
シュウはバランスを崩し、後ずさる。なんとか踏ん張るも、不運なことにちょうど落としていた霧吹きスプレーを踏んでしまう。
シュウはバランスに耐え切れず、背後の床に崩れ落ちた。
「てててっ……だい、じょうぶ?」
女の子の無事を確かめようと目を開ける。
すると、目の前には白色の布が広がっていた。うっすらレース模様も描かれている。
「……し、ろっ?!」
シュウは慌てふためき、目の前のソレをどかそうとする。しかし、何を思ったか女の子のお尻をガシリと掴んでしまった。
「ひゃっ!!」
「ご、ごめん! 今のは違くて――」
『キャーッッ!!!』
突如、階段の方から大きな叫び声が鳴る。
シュウと女の子は驚き、2人して声がする方を振り向いた。
「へ、へ、へ……ヘンタイよーっ!」
階段にいた女子生徒は、シュウを指差して叫ぶ。
近くの教室からは「なになに?」と女子生徒がゾロゾロ現れた。
「い、いま……ヘンタイが、り、リンちゃんのお、おしりを――」
「な、ちがう! まて! おちついて!」
女子生徒たちは、鬼の形相でシュウを睨みつけ、ジワリジワリと迫ってくる。
「みんな、ちがうの! これはね――」
『つかまえろーっ!』
リンと呼ばれた女の子――彼女の制止むなしく、誰かの号令をきっかけに複数の女子生徒がシュウに走り迫る。
シュウは本能から猛ダッシュで走り逃げた。
「まてぇーっ!」
「ちがうんだーっ! ちがうんだってー!」
人数差がすごい、アンフェアな鬼ごっこ――
逃げ切れる気がしなかった。
それでも逃げ続けると、角を曲がったところで誰かにぶつかりそうになる。生徒ではない、大人の女性だった。
その女性の隣にはもう1人、歳を取った女性もいる。
シュウはとっさに体を避け、なんとか走り続ける。
「アンナせんせー! いま、ヘンタイが……痴漢が逃げてまーす!」
追いかける女子生徒の1人が、ぶつかりそうになった女性――アンナに助けを求める。
アンナは素早く事態を察し、逃げるシュウに向かって手を振りかざす。
直後、シュウの前には橙色の巨大な魔法陣が現れ、ぶつかる。
魔法陣は分厚い鉄板のように硬く、耐え難い衝撃が全身に走る。
「いってーっ! なんだっこれ――」
アンナの動きは素早かった。
自身の足先に2種類の魔法陣を繰り出すと、立ち止まったシュウのもとに物凄いスピードで迫る。
そして、腰から取り出した紋章入りの白い棒を、魔法によって警棒の形に≪変形≫させ、それをそのままシュウに振りかざす。
「ぬわっ!」
シュウは、警棒から身を守ろうと腕をかざす。
警棒の威力を腕1本で防げるわけがない。
最悪骨が危ない。
もうダメかもしれない。
でも、必死だった――
ダメに思われたシュウの腕、その前には魔法陣が現れていた。アンナが繰り出してきた数々の魔法陣とは、模様がまったく異なる魔法陣――
警棒はその魔方陣に弾かれ、反動で宙を舞う。
「――っ?!」
予期せぬ魔法陣の出現に驚くアンナ、その隣にいた女性も目を見開いていた。
予想外の事態に驚き、一瞬だけ怯むアンナだったがすぐさま体制を立て直し、鍛え上げた体術でシュウの体をひっくり返す。
同時にシュウの両手を後ろにやり、両手の間に魔法陣を出現させる。
シュウの両腕は背中でガッチリ固定され、あっという間に身動きが取れなくなった。
<さすが、アンナ先生、かっこいいわ>
<なんでヘンタイが要るの? わたくし、怖いわ>
周りがザワザワ騒がしくなる。その喧騒の中、リンは人をかき分けてやっとこさシュウのところに追いついた。
「はあ、はぁ……アンナ先生、誤解なんです! 彼は、その男性はわたしを助けようとしただけで――」
「わたくし見ましたわ! ヘンタイがリンちゃんのお、おしりを、これでもかと揉みしだくサマを――」
「だからそれも誤解で――」
「静まりなさい!!!」
鶴の一声とはまさに――
アンナの隣にいた女性からだった。
絢爛な衣装を身に纏い、威厳ある態度で発したその言葉は、あれだけ騒がしかったフロア一帯を一瞬で無音にした。
「授業が始まってるわ、みんな教室に戻りなさい」
集まっていたギャラリーは散り散りに、各々の教室へと戻っていく。リンは、未だ拘束されているシュウを心配そうに見つめ、廊下に立ち尽くす。
「リン、話はあとで聞くから、授業に戻りなさい」
「でも……」
「リンさん」
「……はい」
静かでいて威圧が強い呼び声に、リンは従わざるを得なかった。心配そうにシュウを見つめながら、どこかの教室へと戻っていく。
「……さあ、いろいろと話してもらうわよ」
シュウもその威圧に怯み、以降一切の言い訳もできないまま、どこかへと連れられてしまった――
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