魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_00 始まりは長い一日 ~have long way to go~

(04)圧迫面接 ~pressure~

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 部屋の奥にたたずむ大きな机と大きな椅子、壁に掛けられた数々の賞状と彫刻品――
 恐らく、校長室だ。人生で入るのは初めてである。

 シュウは、校長が座る机に向かい合う形でソファーに座らせられる。その右後ろには、アンナが立った。

「校長のマリー・メリージュよ。あなたの後ろにいるのは副校長のアンナ・ベルト、よろしく」

「よ、よろしくお願いします!」


 これからお世話になる学園の、1番偉い人――

 深く、深く頭を下げる。


「それで、一体あなたは何者かしら」

「お、おれは、清掃員のアルバイトで雇われたものでして」

「アルバイト? そう……」

 マリー校長はメガネを上げ、シュウの全身を見渡す。値踏みをされている感覚だ。

「もう少し格好には気をつかいなさい。仮にもセントラルの校舎に足を踏み入れるのだから」

「……はい」

 汚いものでも見るかのような冷めた目――
 内心いい気はしなかった。

「リンとはなにがあったの?」

「あの、女の子のことですよね?」

 マリー校長はうなずきもせず、まっすぐシュウを見つめ、目だけで肯定する。

「ロッカーの上に友達が育ててたモルモットが逃げちゃったみたいで、それで……脚立を貸したんです。でも脚立に乗った拍子ひょうしで転んじゃって、それで誤解されるようなかたちに――」

「そう……」

 マリー校長は、興味なさげに相槌あいづちを入れる。そして静かに、冷たく声を発した。

「あくまで清掃員として、生徒たちには関わらないで頂戴。あなたが掃除している間、生徒は勉学で忙しいの。アルバイトであろうと、この学園での言動には気をつけなさい」

「……その言い方には、納得できません」

 勇気を出して歯向かったつもりが、マリー校長は特に反応を見せなかった。
 反論を聞く耳は、持ち合わせていないらしい。

「今回話したいのはそんな些末さまつなことではないわ。あなた、アンナ副校長が捕まえようとしたとき魔法を使ったわね」

 言葉の節々にどうもトゲがある。痴漢の容疑者なのだから当然といえば当然だが、好意的に思われてはいないらしい。

「魔法? おれ、魔法なんて使えません」

 決してとぼけたわけではない。身を守るには必死だったが魔法を使った覚えもなければ、使える覚えもなかった。

 その態度は、マリー校長とアンナにも伝わったらしい。

「まあいいわ。使えるにしても使えないにしても、あなたには1対1one on oneの模擬戦に参加してもらう」

「……もぎせん?」

 聞き慣れない言葉だった。

「どういうことですか?」

「模擬戦に勝てばあなたを本校の特進クラス・・・・・に入学させる。大好きな掃除も自由にやってもらって構わないわ」

「へ?」

 理解が追いつかない。マリー校長は構わず話を続ける。

「特進クラスは、本校でも特例の魔法省まほうしょう直属クラス――魔法省幹部への教育と育成を目的としているわ。このクラスの生徒は特別職の公務員とみなされ給料が支払われる。少なくとも清掃員なんかより・・・・・高い金額のね」

「……給料」

 相変わらずのトゲばかり気になって肝心な内容がイマイチ頭に入ってこないが、給料という言葉にだけには体が反応してしまう。少しだけ、期待もしてしまう。

「ただし、負けたらこの学園セントラルからは永久に出て行ってもらう」

「出ていく?! そんな――」


 ――コンコン


 校長室の扉が叩かれる。来客のようだ。

「入ってちょうだい」

 マリー校長の掛け声に合わせ、扉がゆっくりと開かれる。

 落ち着いた様子できれいな髪をなびかせ、1人の女子生徒が校長室の中を進む。


 ――エリスだ


「悪いわね、授業中に呼び出して」

「いえ……それで?」

 エリスとは目が合わなかった。エリスは、マリー校長をまっすぐ捉えて目を離さない。

「今日の模擬戦を1対1にしたわ、対戦相手も急遽きゅうきょ変更した」

「……どういうことですか?」

「彼がその相手よ。アンナ、彼を闘技場の更衣室まで連れて行ってちょうだい」

「あっ、ちょっとまって――」

 シュウはアンナに肩を引っ張られ、校長室から退散させられる。結局、最後までエリスと目が合うことは無かった。


 もっと話したかったのに――




 ○○○○○○




 この日、最後の授業中――

 リンの耳に、先生の言葉は一言も届いていなかった。シュウのことが心配でしょうがなかった。

「――っさん……リンさん!」

「わわっ!」

 ようやく先生の声に気づく。

「だいじょうぶ? 体調悪いの?」

 先生もリンが痴漢をされたと思い込んでいるのかもしれない。やたらと心配そうに声をかけてくれる。


 ただ、好都合かもしれない――


「ちょっと、気分が悪くて……保健室にいってもいいですか?」

「もちろんよ、だれか付き添いは――」

「だいじょうぶです! ひとりでいけます、から……」

 苦笑いでごまかしながら、リンは授業を抜けることに成功した。
 その足で、リンは急いで校長室へと走っていった。




 ○○○○○○




「納得できません! 彼は一般人・・・ですよね?!」

 机を叩かんばかりにマリー校長へと近づいて食って掛かるエリス、校長は冷淡れいたんな態度を崩さない。

「まだ分からないわ、もしかしたらとてつもない・・・・・・魔法使いかもしれない……あなたも気をつけなさいね」

「おっしゃるイミが分かりません」

 ひたすらマリー校長を睨み続ける。
 校長はそれを受け流し続けた。

「あなたもそろそろ準備を始めなさい。模擬戦は放課後すぐよ」

「……はぁ」

 深いため息が漏れる。

 エリスは諦めた表情でマリー校長から体を背けた。
 出入口に向かうが、最後に1つだけ言っておきたいことがあった。

「……約束して下さい」

「なにかしら?」

「私が勝ったら、彼にはなにも・・・しないでください。仕事も、しばらくしたらで良いので、続けさせてあげてください」

「ええ、分かったわ」

 エリスは、つのるイライラを抑えながら校長室を後にする。

 扉を開けた瞬間、校長室の外から扉に耳を当てていたリンがよろけて倒れそうになる。

「……リンさん?」

「あははー エリスさん、がんばってねー」

 リンは必死にごまかしながら、校長室にソロリと入った。

「リン、まだ授業中でしょう?」

「校長先生! さっきのは、ほんとにほんとにタダの誤解でして! だから、クビとかそういったのは――」

「リン、落ち着いて。事情は聞いたわ」

「え? そしたら――」

「誤解をさせる行為をしたのは間違いないわ、処分は受けてもらう」

「そんな……」

 リンは肩から落ち込んだ。
 自分のせいで彼が職を失ってしまうようで、なんだかいたたまれなかった。

「でもね、彼には魔術師の素質があるかもしれない。だから模擬戦を行い、その結果を以って今後の処分を判断することにしたわ」

「――も、模擬戦?! まさかエリスさんとですか?」

「ええ、だから授業をちゃんと受けて、あなたも是非観戦を――」

「あの、失礼しました!」

 リンも慌てて校長室を後にする。

 エリスと話せば、もしかしたら分かってくれるかもしれない。


 急に静かになった校長室――

 マリー校長は立ち上がり、窓の外をジッと眺めながら、思いにふける。


「――サラ……あなたなの?」


 窓の外――
 マリー校長は、空を見つめながらポツリとつぶやいた――
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