魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

文字の大きさ
26 / 78
CHAPTER_02 バカなチカラは使いよう ~what’s the strength on my mind~

(07)聞き込み調査 ~survey~

しおりを挟む

 翌朝、リオラはクラスに姿を見せなかった。
 クラスどころか、学園の寮でもリオラを見かけた者はいなかった。

「リオラちゃん、学校休んだことなんて無いのに……」

 リンが心配そうにつぶやく。
 放課後、シュウは廊下でリンと緊急会議を開いていた。
 リオラが休んでいることは、まだ大ごとにはなっていない。
 日ごろから身勝手な振る舞いが多いこともあり、先生たちは気まぐれなズル休み程度に思われ、生徒たちは「明日になればヒョコっと現れるだろう」と楽観的に考えている。
 シュウとリンには、そうは考えられなかった。

「……何かあったの?」

 特にいい案も浮かばないまま、静かに時間が過ぎていく。
 その様子を見兼ねたように、エリスが通りかかった。

「エリス、実はリオラのことなんだけど――」

 最近いつもと様子が違うこと、今日の休みのこと、そして嫌な予感がすること――
 エリスは、疑いもせず聞いてくれる。

「エリスちゃんは何か聞いてないよね?」

「ええ、ごめんなさい。ただ……」

「ただ……?」

 エリスも心配そうに考え込む。嫌な予感がしているのは同じようだった。

「ただ、リオラさんが事件に巻き込まれたとしても、大抵のことなら何事も無かったように授業に出ないかしら」

「……たしかに」

 この学園の特進生は、その肩書かたがきだけで世界でもトップクラスの魔法使いであることを意味する。
 大概の事件であれば大した労力もかけずに1人で解決でき、リオラの能力なら尚更であるように思えた。

「でも、もし前の・・件みたく一般人が強力な魔法を使えるようになっていて、それに巻き込まれているのなら――」

 3人の間に不穏な空気が流れる。
 前回の二の舞は、何としても避けたかった。

「前の事件について、ちょうど今からマリー校長に報告することになっていたの。よかったら一緒にどう?」

 シュウもリンも行きたい気持ちは山々だが、それよりもリオラのことが気になった。急がないといけない気がした。
 今は放課後で生徒も少なくなっていき、これから聞き込みできる人数も減っていく。

「悪いがエリスにお願いしてもいいか? おれらはリオラを見かけた人がいないか聞き回ってくるよ」

「ええ、わかったわ。くれぐれも気を付けて――」

 マリー校長への報告はエリスに一任することにし、シュウとリンでリオラ探しへと走り出る。

「まずは、ルヴィかロイに心当たりが無いかだけでも……」

「そうだね、2人ならまだいると思うし――」

 シュウは、足早に一般クラスの教室へと移動する。
 一般クラスの教室は、顔の広いリンでさえ抵抗がある。特進生をよく思わない生徒は数多い。

 しかし、事態は急を要する。
 シュウたちは、なりふり構わず教室の中を覗き込む。すると、運良くもすぐ近くにルヴィが立っていた。

「どうしたのリン――とそのカレシ」

「ち、違うってば!」

 リンは早口で事情を話す。ルヴィも真剣に話を聞いてくれた。

「――それで知ってること、なんでもいいんだけど……」

「そうねー、リオラさんていう人と話したことないし、まるで検討がつかないわ」

「そうだよね……」

「あ、でも魔法武術になら詳しい人がいたな。たしか有名な道場の息子だったとか」

 リンとシュウは、顔を見合わせた。
 有力な情報を得られるかもしれない。

「となりのクラスだったかなあ、話したことはないんだけど――」

「紹介してくれ!」

 ほとんど会話したことのないルヴィに、シュウは食い気味で迫る。若干引かれてしまうが、そこはリンの苦笑いで許してもらう。

「帰ってなきゃいいけど……」

 ルヴィも連れて隣のクラスへと移動すし、目的の人物はまたも入り口すぐそばにいた。ここまで順調にコトが進んでいる――が、その男の子は露骨ろこつに嫌悪感を示す。

「な、なに……?」

「リオラっていう生徒、見てないか? 知ってることがあれば――」

「みみ、見てないっ! しらないよっ!」

 何かを知っている慌てっぷり――
 帰ろうとする男の子を、シュウはやんわりと足止めする。

「なんでもいいんだ! 道場のことでもいいから、なんでも教えてくれ!」

「うっ……」

 懇願するシュウに戸惑っている様子、話すかどうか迷っている感じだった。ダメ押しでリンからも両手を合わせて懇願する。

「お願いっ!」

「……僕から聞いたって、言わないでよ」

 ひどく怯えている、リオラに口止されていたのだろう。
 男の子は、諦めて話し始めた。

「昨日、そのリオラさんって人におどされたんだ。道場破りが次に来る場所を教えろって」

「場所を知ってるのか?!」

 シュウとしても驚きだった。
 道場破りの順番に規則性でもあるのだろうか。

「たまたまだよ。道場破りは来る前に果たし状を送ってくるんだけど、それが知り合いの道場にも来たって……」

「果たし状……」

 これまた耳慣れない、時代錯誤な言葉ワード――

「それで今日、その道場の人から聞いたんだけど、道場がボロボロに壊されてたって……でもリオラさんの姿は見当たらないし、どうしたもんかって……」

「どういう、こと……?」

 今回もまた、イヤな予感は的中していた。
 顔面が青ざめるシュウに、男の子は不思議そうにして話を続ける。

「昨日の夜、リオラさんは道場に来てたらしいよ。魔法の練習で使うから全員今すぐ出ていけって――」

「昨日で間違いないんだな?」

「うん。人の話は聞かないし、セントラルの特進生だって言うから逆らうのも怖かったみたいで……今日どこに行ったかは僕にも分からないよ」

 こうしてはいられない。急ぐ必要がある。
 ルヴィと男の子にお礼を言い、シュウとリンはその場を走り去った。




 ○○○○○○




「銀色の仮面・・については分かりましたか?」

 校長室ではいつも通りマリー校長が奥に鎮座し、そのすぐ後ろにアンナ副校長が毅然きぜんとした態度でたたずんでいた。
 2人の圧にも屈さず、エリスはマリー校長に喰ってかかる。
 質問にはアンナが答えていく。

「現在調査中です。事件当日、仮面をつけた生徒は監視カメラでも確認することはできませんでした。エリスさんの言う仮面についても一般に流通しているものではないようです」

「……彼が持っていたは?」

 彼とは、学園で爆破事件を起こした男子生徒のことである。
 事件の最後――その男子生徒は、赤黒く輝く、半透明な石の破片を、口から吐き出して倒れこんだ。石は魔法軍が持ち帰り、研究施設で調査をしているはずだった。

血の金剛石ブラッディ・ダイヤと呼ばれるものでした。こちらも詳細は調査中です」

 質問されたこと以外は必要以上に話さない。
 それでいて、本当に聞きたい内容はにごされる。

 エリスにとって、骨が折れる時間だった。
 その様子を見兼ねたか、マリー校長が補足する。

「ブラッディ・ダイヤはここ数年で登場した違法の魔法具よ。ここペンテグルスの郊外でも取引の記録があるようね」

「ブラッディ、ダイヤ……」

「体内の血液と混ざることで魔力を爆発的に高めるらしいの。それもロッドとは比較にならないほどに――」

 魔力を高める道具や薬物は、これまでにも数多く存在した。ただし、どれもロッド以上の効果は見込めず、魔法軍にもあっと言う間に摘発され、社会現象になるような代物しろものは今まで現れなかった。
 いくら違法な手段で魔力を高めても、一般クラスのいち生徒が、学園に混乱を招くほど強力な魔法を簡単に・・・手に入れられるとは、エリスには到底考えられなかい。

「魔法を使えない一般人でも少量を服用すれば覚醒状態に入り、一時的な魔力向上と血圧上昇、その他たくさんの副作用が人を快楽に導いて苦しめる――」

 もし爆破事件と同じような魔法を誰しもが使えるようになれば、世界は強力な魔法使いであふれ、さらなる混乱を招いてしまう。
 今度はアンナが補足する。

「確認できている限り、出回っている数はごくわずかで値段も気軽に買える金額ではありません」

「だったら、どうやって彼は――」

 爆破事件を起こした男子生徒は、どのようにしてブラッディ・ダイヤをを知り、どのように手に入れたのか。

「ブラッディ・ダイヤの入手経路については、今なお分かっていません。体内から排出されたダイヤは、市場では決して出回らない量が確認されています。体調に異常をきたしたのも、ダイヤの副作用が原因でしょう」

「そんな……」

「ダイヤの成分の多くは魔法の使用によって揮発きはつし、研究では人間の血液に酷似こくじした成分しか確認できていません。こちらも依然調査中です」

「これで満足かしら、エリス?」

 マリー校長から呼んだにも関わらず、校長は早く終わらしたそうにエリスを見る。

 マリー校長には、まだまだ聞きたいことがある――
 エリスは喰い下がった。

「いま起きてる道場破りの件、ご存知でしょうか」

 マリー校長は肯定も否定もせず、エリスをただ見つめる。

「……この件も、ブラッディ・ダイヤが関係している可能性はあるでしょうか」

 マリー校長は動かない。
 状況を察してか、代わりにアンナが話し始める。

「断定はしていません。ただ、魔法軍も動いていることは確かです」

「魔法軍はもう目星がついているんですね?」

「それは――」

「たしか、待ち伏せするとか言ってたわ。学園から1番近い道場だったかしら」

「マリー校長?」

 アンナは、目を丸くしてマリー校長に振り向く。
 校長があっさりと、場所まで教えてくれたのは意外だった。
 当の校長は口が滑ったわけでも無さそうで、むしろ顔はニヤついている。

「エリス、勝手な行動はつつしみなさいね」

 最後の言葉の意味が分からない。
 真意は理解できないが、エリスにとって聞きたいことが聞けたことに違いはなかった。
 一礼を済まし、エリスは校長室を後にする。

 エリスが出て行ってから、アンナはすぐにマリー校長に問う。

「よろしかったのですか?」

「なんのこと?」

「止めなくて、よかったでしょうか……」

「止めるつもりは毛頭なかったわ。むしろ、きつけたつもりよ」

 マリー校長は満足そうに笑みを浮かべ、何かを思い出すように遠くを見つめる。

「また一歩、近づけるかしら……サラ?」

 それは、エリスやシュウたちに何かを期待している顔だった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...