魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(12)振り返ってみて ~research~

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「――うっ……?」

 倉庫の朝、シュウはリビングで目を覚ます。

 キッチンの方から騒がしい音がする。それに、ハッキリ言って焦げ臭い。

「ふわわっ!」

 シャエラの慌てふためく声がリビングにまで響く。シュウは寝起きの目をこすり、キッチンにまで目を凝らした。

「よし、できましたわっ!」

 シャエラは制服の上にエプロンを羽織り、嬉しそうにリビングへと戻ってきた。そして、手に持っていた料理たちを食卓に並べていく。

「シャエラ、これは……?」

「人様のお家にお邪魔したら、家事を手伝うのがマナーと心得てますわ!」

「あんまり聞いたことないけど……」

「ささっ、熱いうちに召し上がりになって!」

 シャエラは自信満々でシュウを座らせる。
 食卓の上の料理たちは、元の食材が分からないほど黒ずんでいて、それはそれは美味しくなさそうだった。ダイモンは逃げるようにして出口に向かう。

「仕事に行く、責任もって食うんだぞ」

「え? だって今日は休日――」

「いいな?」

「はっ、はひ……」

 屈強な上司ダイモンに逆らうなんてできない。シャエラは気にせず食卓の前に座り、シュウも一緒になって手を合わせた。

「いただきますわ!」
「い、いただきます」

 シュウは、恐る恐る料理を口に運ぶ。

 外はカリっと、中もカリっと――
 せっかくシャエラが作ってくれたから、しっかりと味を噛みしめる。

「うーん、少し焼き過ぎましたわね」

「ぜ、絶妙な味だな!」

 甘味と苦味と辛味と酸味を足し、数字の3で割って出た「余り」のような味わい――
 なるべくシャエラを傷つけないよう、シュウは料理の全てを平らげて感想を述べた。


「――それで、今日はどうしますの?」

 朝食のあと、準備を終えたシュウたちは、倉庫の外に出て周囲を見渡した。休日ということもあり、歩いている生徒は数少ない。部活動も消極的なこの学園は特にだった。

「もうすぐ来るはずなんだが……」

「よっ!」

 待ちわびたシュウのもとに、人影が差す。

「リオラさん? それにマイカまで」

「へっ、やっと正気に戻ったか」

「会長……っ!」

 吐き捨てるように言うが、リオラはリオラなりに嬉しそうだった。マイカもほっとした気持ちでシャエラに擦り寄っていく。

「会長、ご無事でしたか……?」

「ええ、この通りですわ。寮には帰れておりませんが、シュウさんのベッドもなかなかの寝心地でした」

 マイカは素早い反応で距離を詰め、シュウの胸ぐらを掴む。

「きさまっ! 会長に何をっ?!」

「ご、誤解……っ!」

「まま、まさか……は、破廉恥ハレンチをっ」

「誤解だぁ!」

 マイカの気迫は凄まじく、シュウは息ができなくなるほど締め上げられる。当のシャエラは、何で怒っているか分かっていなそうだった。

「それでシュウさん、どうしてお2人ふたりが?」

「昨日エリスやリンに相談したんだ。そしたらみんなを集めてくれて」

小生しょうせいとアドリーはリン殿から連絡を受けまして――アドリーはエリス殿と一緒に映像を解析しています」

「リンは実家に帰っちゃったけど、向こうで手伝えることがあれば手伝うってさ」

「リンさんまで……」

 シャエラの目に涙が浮かぶ。
 支えてくれる人がこんなにもいるのかと――シャエラはみんなの優しさを実感し、噛み締めていた。

「心配させやがって、これで規則に縛られる無意味さが分かったか?」

「わたくしは、リオラさんの服装を認めたわけではございませんからね!」

 胸元が開いたリオラの私服を指摘し、バチバチに睨み合う2人――これでこそリオラとシャエラといった具合だ。

「ま、まあ。その話は今度にするとして……」

「それで、これからどのように動きましょうか?」

「まずはシャエルの足取りを追いたいところなんだが、何から調べればいいか……」

「会長の妹ぎみが運んだ『十字架』は?」

「あれなら魔法軍が持っていくとこを見たぜ」

 各々が今後の行動について考えるが、いい案は浮かばない。暗雲が立ちこむも、シャエラはあることを思い出した。

「それなら、魔法軍の報告書がありますわ」

「「報告書?」」

「実は一昨日おととい、事件について魔法軍が調べた見解を貰っておりますの。思い出したくなかったから中身は見ておりませんが……
 もしかすると十字架について詳しく書いてあるかもしれませんわね」

「どこに置いてるんだ?」

「生徒会室の、わたくしの引き出しにしまっております」

「確認したいですね。急ぎましょう」

 方針が定まらない今、少しの手掛かりでも欲しかった。シュウたちは足早に生徒会室へと移動する――




 ○○○○○




「あれ? 確かにここに入れたはずなのですが……」

 シャエラが開けた引き出しには、あるはずの報告書が見当たらなかった。
 リオラとシュウも一緒になって他の引き出しを開けていく。マイカは廊下でアドリーと連絡を取っていた。

「だめだ、見つからないな……」

「ホントに入れたのか? テキトーにゴミ箱にでも捨てたんじゃ」

「失礼でらして、リオラさんみたいなことしませんわっ!」

 そうは言っても、報告書が見つからないのもまた事実だった。気分が下がる生徒会室にマイカも戻ってくる。

「見つかりましたか?」

 全員が揃って首を横に振る。
 ここで手掛かりが見つからないとなると、誰も代替案を持ち合わせていない。マイカも連ねて落ちこんでしまった。

「アドリーからはなんと?」

「映像に『違和感』があるから、小生にも見て欲しいと――これから女子寮に戻ろうと思います」

 シュウたちは、生徒会室を後にしてマイカを見送った。残された3人で作戦を練る。

「つっても手掛かりがねえなあ。妹が働いてる場所とか、もっと情報はないのか?」

「同じペンテグルスのようですが、詳しくは聞けておりませんの」

 情報ヒントが少なすぎる。それに、これ以上学園で調べられることも無さそうだった。

「どうしようかなあ……ん?」

 考え事をしながら周囲を見渡したとき、シュウは倉庫に戻っていくダイモンの姿を見つける。どこに逃げたかと思えば、休日でも仕事をしていたそうだ。

「ダイモンさん!」

 シュウは思わず声を掛け、ダイモンに近づいた。シャエラとリオラも後ろをついて行く。リオラとダイモンは初対面だった。

(だれだ?)

(シュウさんの親分様ですわ。わたくしもお世話になりましたの)

 シャエラは色々勘違いしているが、ひとまず気にしないことにしてダイモンに駆け寄った。

「どうしたんですか? 掃除ですか?」

「大きな荷物を受け取っててな。魔法軍が突き返してきやがった」

 大きな荷物――シュウの頭にピンとくる。後ろのシャエラとリオラも顔を見合わせていた。

「ダイモンさん! それってもしかして、『十字架』みたいな?」

「ああ、巨大な十字架だ。調べるだけ調べて処分はこっち……廃棄場に運ぶのも一苦労だ」

 イライラしているダイモンを余所よそに、頭を下げてお願いする。

「お願いです、案内して下さい!」

 真っ直ぐダイモンの目を見つめて頼み込む。
 その真剣さが伝わったのか、ダイモンは理由も聞かずに廃棄場まで案内してくれた。




 ○○○○○○




 エリスは眼鏡メガネを掛けて女子寮の自室にこもり、空中に投影されたモニターを見つめていた。
 アドリーから渡された事件当時の監視カメラ映像を何度も繰り返し、まじまじと見つめる。
 映像には、違和感が満載だった。

 まずは、夜遅い時間――監視システムが作動している時間に、どのようにして少女は学園に侵入し、堂々と大きな荷物を運び込めたのか。監視システムはザルではない。
 この問いに対する答えは、アドリーにも手伝ってもらい、すぐに分かった。それは単純に『申請』が出ていたからだった。
 シャエラによく似た少女は、業者を名乗って入場手続きを済ませ、正式な手順を踏んで学園に入り込んでいた。
 堂々と大きな十字架を運んできた少女だが、監視員から見て特に怪しい雰囲気は無かったそうだ。その業者についてはリンに連携し、学園の外で調べてもらっている。

 次に、少女の犯行の手順――
 大きな十字架を運んできた後、一度監視カメラから姿を消し、今度は台車を引きずって戻ってくる。
 ――なぜ2回に分けたのか?
 ――どこから少女を運んできたのか?
 ――いつ、どのようにして女子生徒を気絶させ、台車に乗せていたのか?

 他にも、数十秒の犯行に気になることが散見される。
 そもそも、ピンポイントで雑に切り取られた映像自体に違和感を覚えざるを得ない。それでも、この雑な映像だけで暴動が起きかねないのだから末恐ろしい。

 最後に、エリスが1番気になっていることがある。それは少女が現れた2回目、台車を引きずっている途中――
 時折、少女がつける仮面がゆがんで見える。仮面だけじゃなく、体全体がブレることもあった。映像の乱れかとも思ったが、1回目の少女や少女以外の物体については歪んで見えることが無い。

「――ふぅ……」

 エリスは深呼吸をし、目を凝らして映像を繰り返す。
 目の疲れに耐えながら、歪みの正体を探る――
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