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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(13)不安定な姉と少女 ~ghost~
しおりを挟む「――よっと」
リオラは、ゴミの山から大きな十字架を、ダイモンの手を借りることもなく軽々と持ち上げて下に降ろす。
「ほんと、力だけは器用ですわね」
「人付き合いが不器用なヤツに言われたくねーな」
シャエラとリオラは目を離せば喧嘩する。一緒にいると気が疲れてしょうがなかった。
「にしても大きいな……」
シュウは思わずつぶやいた。
1人の女の子で運ぶには荷が重すぎる。真犯人が誰かは置いといて、校舎の前まで運んだ苦労がうかがえる。
そして、十字架は大きさだけじゃない。何よりも目立ったのが大きく描かれた≪波動魔術≫の魔法陣――
「どうしてこんなの描いたんだ?」
「これは想像ですが……」
シャエラは、暗い顔で十字架にそっと触れる。妹に話しかけるように十字架を撫で、心配の様子を見せる。
「シャエルは、わたくしよりも魔力が強くありませんから……」
空中に描くことができる魔法陣――
ただし、適性が無い魔法陣は描くことさえ困難になる。その適性を補うため、インク等の物理的な手段で魔法陣を描くことは1つの有効な手段らしい。昨晩シャエラを包んだ段ボール紙も同じ理屈だった。
シュウが呆然と魔法陣を眺めている中、リオラはクンクン匂いを嗅いで十字架の端に顔を近づけた。
鼻まで利くとは、まるで狂犬――
「なんか言ったか?」
「い、言ってないぞ!」
口が裂けても言えるわけなく、シュウは恐る恐るリオラに尋ねる。
「な、なにしてるんだ……?」
「これ――」
リオラは匂いを嗅いでいた場所に、何かをすくい取るように指を擦らせた。リオラの指には、金属のサビにも見える「赤黒い」粉末がこびり付く。
「ブラッディ・ダイヤか……」
リオラのつぶやきに、シュウとシャエラも固まってしまう。
予想の内、最悪の事態に当たってしまった。やはり、シャエルはブラッディ・ダイヤを使って犯行に及んだのか――
不安が募る中、シュウの持つデバイスが通話の着信を知らせる。
『もしもし! シュウくん?』
リンからの通話――外から慌てて掛けているらしく、後ろの雑音が騒がしい。
『あのね、エリスちゃんから頼まれて、十字架運ぶのを依頼された業者について調べてたの』
「分かったのか?」
『うん。そんなに遠くなかったから行ってみたんだけど――』
『がっはっはっ!』
リンはその業者の職場にいるらしい。電話越しで鳴る雑音は、ずっと社長の笑い声だった。
「ず、ずいぶん元気な会社だな」
『あはは、それが何でも屋さんみたいな会社なんだけど……』
シャエルが務めているのは、ペンテグルスの繁華街に社屋を構える小さな便利屋だった。金額次第で可能な限りの依頼を引き受け、仕事の内容も多岐に渡る。リン曰く、明るく元気な風通しのいい会社であり、怪しい様子は一切見当たらないそうだ。
『でもね、気になることがあって……』
リンは、電話先でも分かる不安気な声を漏らす。
「どうしたんだ?」
『妹さんのシャエルちゃん、ちょうど今ね、新しい仕事に行ってるらしいの。前と同じ学園名義の依頼で』
「ほんとか?!」
『うん、それも女子寮に呼ばれてるらしくって――』
デバイスを握る手に思わず力が入る。今回もまた嫌な予感に襲われ、胸がザワザワと騒がしくなる。
『わたしも、なるべく早くそっちに行くね』
「ああ、ムリはしないでくれ。じゃあ……」
リンとの通話を切り、会話の内容をシャエラとリオラにも共有する。ダイモンは遠くでシュウたちの様子を見つめていた。
「シャエル……」
シャエラの不安も当然に増す。シュウたちは、急いで女子寮へと向かうことにした。
○○○○○○
「――マイカ! 来てくれたのね!」
マイカが急いで女子寮に戻ると、その入り口には書記のアドリーが律儀に待ち構えていた。
アドリーが扉を開け、中には古風なエントランスが広がる。
学園の女子寮は男子生徒が住まう寮とは完全に独立しており、その規模もケタ違いだった。大きな中庭を囲むように、背の高い建物が連なっている。
寮内では多くの女子生徒が1人1部屋を割り当てられ、生活を共にしている。しかし、今日は休日ということもあり、寮内に残る生徒はさほど多くなかった。
「アドリー、映像で気になることがあるとか?」
「うん、エリスさんの部屋に来て欲しいんだけど――」
マイカが振り向くと、アドリーは話の途中で何故か口を止める。警戒の目でマイカの後ろを見据えていた。
「マイカ……後ろっ!」
アドリーの声を機に振り返ると、そこには『血の涙の仮面』を付けた銀髪の少女が立っていた。
気付いたときには少女の右手が、マイカを引っ掻くような素早い動きで飛び出してくる。
「うくっ――」
ロッド前にかざし、ギリギリのところで右手を防ぐ。その勢いで体が後ろに飛ばされてしまう。
「アドリー! みんなを避難させて欲しい!」
「うん!」
アドリーは、少女とは逆方向に走って声を上げる。
ロッドを警棒に変形させ、マイカも本格的な臨戦態勢へと入った。
――この方が、会長の妹君?
確かに髪色と背丈ははシャエラに近しい。
2人はジワジワと距離を詰め、少女はタイミングを見計らってマイカに飛び込んだ。
「はやいっ」
少女が繰り出す鋭利な右手を前に、マイカは防戦一方になる。警棒で右手を弾くたびに反動を受け、どんどん後ろに押されていく。
「だがっ――」
少女の攻撃を防ぎつつ、マイカは手に持つロッドに≪衝撃魔術≫を仕掛けた。直後、ロッドが熱を帯びて眩しく光る。
生徒会が持つロッドには、局所的な≪衝撃≫に反応して発光する特殊加工が施されていた。本来は、暗闇で避難誘導等に利用できる緊急時の機能だが、その光はあまりに強く、使用者でも一瞬は目がくらむほどだった。
そしてマイカの狙い通り、少女は光に怯んで体勢を崩す。マイカはその隙を逃さなかった。
「はあっ!」
少女の肩を狙い、マイカは明るく光る警棒を突き刺した。
まずは足を止める。多少の怪我はやむをえまい。
それでも、なるべく痛みが少ない場所を選んで突いた――
つもりだった。
「なっ……?」
警棒は掠ったわけでも無く、確かに少女の体に突き刺さった。
それなのに、マイカには突き刺した「感触」が無い。少女の体は幽霊のように透き通り、警棒は抵抗なく貫通していた。
「うぐっ゛!」
驚いて固まったのを見計らい、少女の右手はマイカの腹部を狙って強烈な打撃をぶち込む。マイカの意識は、あっと言う間に遠のいていく――
○○○○○○
「みんなっ! お願い! 急いで中庭に避難してっ!」
アドリーが走って叫ぶ声を聞き、エリスは眼鏡姿のまま慌てて部屋を飛び出した。
「アドリーさん、何が起きたの?」
「妹ちゃんが……シャエルちゃんが、マイカちゃんに襲い掛かってっ……!」
アドリーは、息を切らしながら落ち着きなく話し出す。アドリーの大声を聞き、ほとんどの生徒が「なになに?」と不思議がって廊下に出てくる。
「アドリー、落ち着いて……みんなも聞いて。理由はあとでちゃんと話すから、静かに私についてきて!」
エリスの部屋は、寮の最上階に位置していた。
精一杯大声を張ってドアを叩き、下の階に降りるまでになるべく多くの生徒に声を掛けていく。
エリスの名前とその実力を知らない生徒はいない――みんな素直にエリスの後ろをついていく。
なるべく冷静に対処するが、広い女子寮内で全員を避難させるのは難しそうだった。それに、下にいるマイカの安否も気になる。
「エリスさん、早くしないと……」
「ええ、急ぎましょう」
不思議がる――あるいは不安がる生徒を束ね、エリスとアドリーは1階まで階段を降り、全員を中庭へと誘導する。
「みんな、ここで待って居てちょうだい!」
全員が素直に言うことを聞いてくれることを祈り、2人は建物の入り口付近に走って向かった。そして、角を曲がってすぐに気づく。
エントランスの真ん中に立つ仮面の少女――
その足元には、血を吐いて倒れるマイカの姿があった。
「マイカッ!」
アドリーの叫び声を聞き、少女は素早い動きでエリスに襲い掛かる――
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