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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(14)女子寮での戦い ~domitory~
しおりを挟むエリスは、流石の反応だった。
少女の素早い動きに対応し、少女の行く手を≪防壁≫で阻む。
≪防壁≫にぶつかった少女は、後ろへ飛んで体勢を立て直す。
――おかしい
仮面に目を凝らすと、やはり違和感が感じられる。
時折、自分が眩暈でも起こしたかのように仮面が歪んで見える。
少女はなりふり構わず襲ってくる。エリスは対抗してロッドの端を魔法で切り離し、銃弾のように続けて放つが、どれも素早い動きで避けられてしまう。
痺れを切らしたエリスは、少女を足止めしようと今度は床に向けて≪衝撃≫の魔法陣を張る。
直後に床は強い≪衝撃≫でエグられ、その破片が飛散して辺りを煙が包む。煙の中、閉ざされた視界の中で少女を的確に捉える。
槍のように尖らせたロッドを、急所は外して勢いよく突き刺した。
「――っ?!」
エリスが突いたロッドは、当たり前のように少女の体をすり抜ける。予期せぬ出来事に隙が生まれ、少女はその隙を突く。
エリスに攻撃の手が迫る中、アドリーの気合が入った声が響く――
「えぇえいっ!」
アドリーは少し離れた位置から≪防壁≫の魔法陣を繰り出していた。
少女に向かって放たれた防壁――それが、大きな声に振り向いた少女のお腹に直撃する。
「――んに゛ゃっ!」
≪防壁≫の硬さに敗れ、少女はぐったりと床に倒れ込む。
アドリーが息を切らして立つ反対側で、エリスはホッと一息をついた。
「ありがとう、アドリーさん」
「ううん、それよりマイカが!」
エリスとアドリーは、走ってマイカに駆け寄った。
息はあるようだが、口元にも血を付けて気絶している。
「エリスさん、≪治癒≫は使えますか?」
「ええ、でも骨まで達していたら完治は難しいかもしれない」
「とにかく移動しましょう! マイカを中庭までお願いできますか? 私はシャエルちゃんを部屋まで運んで見張ってますので」
「ええ、分かった。マイカを治したらすぐに行くわ」
アドリーは床に倒れたシャエルに駆け寄り、引きずって自室に向かう。
エリスもマイカを抱えて急いで中庭へと出た。
中庭では、集められた女子生徒たちが騒ぎ、うろたえている。なるべく負担の少ない地面にマイカを寝させ、怪我の具合を確認した。
「まずいわ、思ったより傷が深い……」
服を捲ったお腹には、真紫色の大きなアザが広がっていた。この様子だと、骨にまで怪我が及んでいる可能性が高い。
エリス程度の≪治癒魔術≫では、その効果が知れた。
「――エリスちゃん、その子どないしたの?」
「ソアンさん」
同じクラスのソアンが声を掛けてくる。
ソアンは≪治癒≫を適性魔術とし、その実力は学園内でも随一であり、これほどの助け舟は無かった。
「なんも分からんけど、タダ事じゃなさそやなぁ」
ソアンは、マイカの怪我の様子を見てすぐに手をかざす。
「お願いできる?」
「任せとき、ウチの領分やから……」
マイカの腹部にかざされる黄色の魔法陣――
気を失って青ざめていたマイカの顔に、生気が戻っていくように見えた。
○○○○○○
シュウたちも女子寮に到着し、異様な空気感を感じつつ早速中に入る。
そして、偶然にも入り口でアドリーに会う。
「よかった、みんなも無事に来れたんだ」
「アドリー、一体どうなっておりますの?」
シャエラは、入り口に広がる戦闘の跡を見て不安な顔をする。心臓が高鳴るのを感じながら、辺り一帯を見渡した。
「マイカが大変なの。エリスさんが中庭で看てくれてるんだけど、みんなも行ってあげて」
「マイカが?!」
不穏な発言にシャエラは驚き、急いで中庭へと向かおうとする。シュウとリオラもついて行くが、シャエラだけ途中で足を止められた。
アドリーには、もう1つ伝えるべきことがあった。
「シャエルちゃんが……シャエルちゃんらしき人を、捕まえたの」
「えっ……?」
シャエラは、またも信じられない様子だった。
一度に想定外の出来事が起き過ぎていた。
「今は私の部屋で寝てる。念のため手足も縛ってて……シャエラちゃんだけでも先に来れるかな?」
「そう、ですわね……」
シャエラは、判断を仰ごうとシュウを見る。まずは、本当に犯人がシャエルなのかを確認する必要があった。
「アドリーの言う通りだな、先に行っててくれ。おれたちもマイカの様子を見て早くそっちに合流するよ」
「ええ、分かりましたわ」
シャエラは、終始不安気な面持ちでアドリーと一緒に寮の中を進む。シュウとリオラが中庭に向かうと、そこでは数人の女子生徒立ち尽くし、地べたにはマイカが横たわっていた。
「エリス!」
女子寮の敷地内にシュウの声が響く。
低い声に驚いた生徒たちが、一斉にシュウを振り向いた。
<オトコよ、女子寮にオトコがいるわ>
<さっきからどうなってるの? 頭が痛い>
大声を出したのは失敗だった。
男子禁制の女子寮であることをすっかり忘れていた。
中庭が騒がしくなり、混乱がより大きくなる。まずはみんなを落ち着かせないと――
「おいっ! こいつは実は女だっ!」
リオラは、大きな声で宣言した。
(なんてこと言うんだっ!)
(いいだろ、捕まりたくないだろ)
(うっ……)
「……うふふー そうですのー! みんなよろしくねー」
シュウは、裏声を駆使して演じて見せる。演技に騙されたのか、女子生徒たちはすんなり嘘を真実として受け止めた。
魔法の適正には男女差があり、一般的には男性の方が適性が低いと言われている――にも関わらず特進クラスにいるシュウをみんな不思議がっていた。みんな、長年抱えていた謎が解けた具合だった。
「うぅ、これからどう生きれば……」
「いいだろ、元気出せ……よっ!」
泣き詫びるシュウを、リオラは強引に引きずってエリスのもとに向かう。横たわるマイカは、ソアンが≪治癒≫を施したお陰で穏やかな表情を作り、ぐっすりと寝息を立てていた。
「あくまで応急処置やから、早く病院に行かんと……」
「シュウ、シャエラさんは?」
「本当に妹なのか、確認しにアドリーの部屋に向かってる」
「そう、だったら――」
エリスが何かを言い掛けたところで、寝ていたはずのマイカの腕がピクリと動く。周囲の驚きをよそに、マイカは何かを言いたげに体を細かく動かしていた。
エリスは声を聞きとろうと顔を近づけるが、続いて周囲の女子生徒たちが再び騒ぎ出す。
<ねえ、電波繋がらなくなったんだけど>
<ちょっと、ドアが開きませんよ?>
「今度はなんだ?」
シュウは自身のデバイスを確認すると、確かに電波が入らなくなっていた。
そして、建物に繋がるガラス製の扉に目を向けると、数人の女子生徒が押し込んでも開けられずに困り果てていた。
扉の奥――建物の中に繋がる窓一面には、いつの間にか黒く濁った橙色の≪防壁≫が貼られていた。リオラも神妙な面持ちで辺りを見渡す。
「なんだこれ?」
「まさか、閉じ込められたんかなぁ……?」
見渡す限りに周りを囲む≪防壁≫――
シュウたちに不穏な空気が張り詰める。
○○○○○○
「シャエラちゃん、こっち――」
案内されるがまま、シャエラはアドリーの部屋に到着する。アドリーは慌てず、ゆっくりと扉を開く。
その奥には、手足を縛られたシャエルの姿があった。
「……エル? ――エルっ?!」
そこにいたのは、確かにシャエルだった。
仕事で使っているであろう作業着を羽織り、部屋の奥の壁に寄り掛かっている。アドリーには構わず、急いでシャエルの元へと駆け寄った。
「エル! シャエルなのねっ?!」
シャエラの目に涙が滲む。目の前にいるシャエルは目を閉じたまま――
シャエラには気づいてくれない。
「エルっ……!」
ついにシャエラの目からは涙が溢れ出す。それでも冷静に、妹の体をこの手で確かめた。
「――ない、大丈夫……」
シャエルは目を覚まさない。
だが、体は怪我1つ無さそうで綺麗なままだ。作業着は汚れているが、仕事でついた昔からの汚れに見えた。その作業着のポケットをまさぐっても、シュウが言う『ブラッディ・ダイヤ』らしきモノは見当たらない。
ただ、ひらすらに眠っているだけだった。
ひとまず安心したシャエラにも周りを見渡す余裕が出てくる。特に変わりのない女子寮の1室――
だが、いつもアドリーが座っているであろう机、その横にあるゴミ箱が特別目についてしまう。
「報告書……」
ゴミ箱には「報告書」が捨てられてた。
それは、魔法軍から渡された事件の調査報告書――
生徒会室の引き出しに入れたはずの報告書が、そのまま捨てられていた。
「アドリー、これは……」
シャエルを抱えたまま振り返るシャエラ――
その先には眼鏡を外し、怪しく微笑むアドリーの姿があった。
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