魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(16)ペテンの策 ~fake~

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 温かい――

 沈んだ意識の中で、誰かの温もりを感じる。
 シャエルは、その温もりに覚えがあった。温もりに包まれて、眠っていた意識が呼び起こされていく。
 本当に、温かい――


 シャエルは、親せきの家に預けられた後、義務教育を卒業しても進学はせず、すぐに就職した。
 多少なりとも魔法が使えることをアピールすると、学歴が無くとも就職先には困らなかった。若さゆえに給料は期待できないが、待遇もさほど悪くない会社に入ることができた。

「がっはっは! 期待してるよっ!」

 就職先の社長は、いつだって能天気に大声を張る。うるさいくらい元気な社長がシャエルは嫌いじゃなかった。

 シャエルが務めるのは小さな便利屋だった。家に上がりこんで掃除もすれば、鍵を失くされた扉も開ける。
 魔法の出番はそこそこに多い。たとえ魔力が弱かろうと、細々と経営している零細企業からすればシャエルの存在は貴重に違いない。

 会社に愛され、そこそこに忙しい毎日を送っていたシャエルだが、ある日妙な依頼を受けることになる。

「セントラル、ですか?」

「そうだ! なんでも魔法が使えるヤツをよこせと言ってきてな。失礼だから断ってやろうとも思ったが、アッパレお金を積んできやがった!」

「それで、私ですか……?」

うちではシャエルちゃんしかいないからなっ! がっはっは!」

 こっそり社長に教えてもらった金額は、思わず引き受けてしまうのも納得の金額だった。何より社長が嬉しそうで依頼を断る気にはなれなかった。

「あそこはいいぞー! 建物も近代的で、目が飛び出すぞっ!」

「目が飛び出す……」

「ホントに飛び出しやしないさ! がっはっは!」

 国立魔法学中央学園、通称セントラル――
 シャエルにとっては、夢に見た機会チャンスだった。

「……いやだった?」

「いえ、がんばりますっ!」

 社長に敬礼し、シャエルは依頼を快く引き受けた。
 依頼主は、学園の生徒会名義――その依頼は、理解に苦しむ内容だった。


 手始めに、大きな木製の部品をキャンバスとして、紫色の絵の具で≪波動≫の魔法陣を描く。小さいころに散々習わされた魔法陣は、苦労することなくすんなりと描けた。

 次に、その部品から大きな十字架を組み立てる。何でも演劇に使うそうだが、最も妙なのが十字架を置く場所だった。
 学園セントラルの校内、それも校舎の入り口のド真ん前――

 シャエルは、重い十字架を死ぬ思いで指定された場所まで運ぶ。それで仕事は終わり――
 結局、最後まで1回も魔法を使わなかった。

「なんだろ、これ……」

 木製の十字架は、校舎の前で不気味にそそり立つ。
 不信感はぬぐえないが、「おカネのため」とシャエルは必死に自分を納得させる。

「おねえちゃん……」

 その日、結局姉のシャエラに会うことは叶わなかった。
 夜も遅いのだから当然である、期待していたのが間違いだった。姉に思いをせながら、その日シャエルは学園を後にする。


 しばらくして、再び同じ客から指名があった。
 今度は、「エントランスの空調設備が壊れたから直してほしい」と――

 休日の仕事依頼で、場所は学園セントラル近くにある専用の女子寮――シャエルに再びチャンスが訪れた。
 仕事当日、シャエルは指定された空調の機械をいじくる間、通りがかる女子生徒の姿をチラチラとのぞく。


 ――大好きなおねえちゃん
 シャエラは、いつだってシャエルのことを守ってくれた。

 シャエラに会いたい。
 離れ離れになったけど、またいつか会えると信じていた。

 そして、シャエラは必ずこの学園に通っている。
 この前はチャンスを逃したけれど、この女子寮なら、今度こそ――




「――んっ……」

 シャエルはゆっくりと目を覚ます。
 夢の続きか――近くからシャエラの声がする。

「エルっ!」

「……おねえ、ちゃん?」

 久しぶりに見る姉の顔は、必死に何かを訴えていた。起きたばかりで耳も遠ければ頭も回らない。

「逃げてっ!!」

 あまりの姉の必死さに戸惑い、シャエルは辺りを見渡して入口付近で視線が止まる。
 見知らぬ女性が立っている。女性はゆっくりと近づいて、そして目の前に黒い拳銃が突き付けられた。

「……え?」

「おはよう、そしてさようなら――」

 女性は笑顔のまま、拳銃の引鉄ひきがねを引く――




 ○○○○○○




「「――だあああぁあっ!」」

 アドリーが引き金を引く直前、寮の建物が激しく揺れる。寮内には、男女のうなり声と建物が割れる轟音が鳴り響く――
 アドリーは焦りを隠せず、ひとまずは黒い拳銃を引っ込めた。

「なに? まさか私の『壁』を……?」

 壁を壊した男女は1つ隣の部屋に行きついたようだ。
 うっすらめる声が聞こえた直後、隣の部屋とを隔てる分厚い壁が続けざまに破壊される。
 壊された壁に寄っていたアドリーは、その≪衝撃≫をモロに受ける。吹き飛ばされそうになるのを何とか踏ん張り、前にいるシャエルの小さな体を持ち上げて早々に移動した。
 さらに、部屋の隅にいた「透明」な体にも崩れた壁の破片がぶつかった。

「――にゃにゃっ! 痛いにゃーっ!」

 透明な体は魔法が解け、本来の姿を映し出す――
 ネコのように尖った八重歯が特徴的な、背丈の低い、幼い少女が姿を現した。

「ナージャ、こっちに来なさい!」

 ナージャと呼ばれた少女は、破片がぶつかってできたコブを押さえながら、部屋の入り口近くにいるアドリーに駆け寄った。≪衝撃≫のお陰でシャエラの拘束も解かれる。
 崩れた壁から舞う煙が落ち着き、シャエラは悠然ゆうぜんと立つ男女の姿をハッキリと捉える。

「シュウさん、リオラさんっ!」

「リオラっ、部屋を間違えるなっ!」

「仕方ねーだろ、うろ覚えだったんだ」

 隣の部屋から壁をぶち破ってきたのは間違いだったらしい。最も、この≪衝撃≫の威力だったら隣の部屋を挟んで正解だった。

「マイカは? エリスさんはっ?!」

「2人とも無事だよ、下でみんなを守ってくれてる!」

 マイカの無事を知り、シャエラは胸をなでおろす。
 シュウは、アドリーに向かって大声を張る。

「アドリィーっ!」

 部屋の入り口に立つアドリーを睨みつける。リオラもそれに続いた。
 シュウの片目が照らす白い光は、だんだんと輝きを失って元の瞳に戻ってしまう。

「私の≪防壁まほう≫を壊すなんて、それが例の魔法の力かしら?」

「にゃんにゃんだこいつらー」

「おねえちゃん! この人が私に仕事をっ――んーっ!」

 アドリーの腕に抱えられたシャエルは、状況が飲み込めないながら、ヒントになりそうな事実を伝えようとする。それを黙らせようと、アドリーはシャエルの口元を手でふさいだ。

「アドリー、どういうことだ! 何が目的だ!」

「当然、話す義理は無いよね」

「どこでブラッディ・ダイヤを手に入れた?! 今までの事件もお前が黒幕か?!」

「話聞いてるの? これだから学生ガキは嫌いなの」

「このワタシに手間かけさせやがって、タダで済むと思うなよ?」

「おーこわっ」

 アドリーは、余裕の表情を崩さない。終始、シュウたちを馬鹿にして笑ってみせる。お互いの睨み合いが続く中、シュウとリオラはじっくり距離を詰めていく。

「……ナージャ、お願い」

「人使いが荒いにゃー」

 名前を呼ばれたナージャは手を突き出して詠唱えいしょうを始める。直後、ナージャの体全体が≪変形≫の魔法陣と同じ青色の輝きに包まれた。

 シャエルを人質に取ったアドリーとナージャ――
 カメレオンのようにして、3人の姿はあっと言う間に透けていく。

「まてっ!」

 シュウが叫んだ時にはアドリーの笑った顔も透けてしまい、姿が完全に見えなくなってしまう。リオラは逃さまいとすかさず床を殴った。

「ナメんなっ!」

 リオラが殴った場所からは、目に見えない大きさの魔法陣が大量に放たれる。部屋の外にも向かって微細な≪衝撃≫の魔法陣が四方八方に飛んで行った。
 そのままリオラは目を閉じて、自身の「感覚」に集中する。

「――見つけたっ!」

 リオラは魔法陣同士がぶつかったときの『共鳴現象レゾナンス』を利用し、魔法に包まれて見えなくなったアドリーたちの姿を感覚で追っていた。
 ≪衝撃≫の魔法に特化したリオラだからこそできる、特異な魔法陣の使い方だった。

「……アドリーは上だっ! ワタシは同じ階の子ネコを追っかける!」

「分かった、シャエラも行こう!」

「はいですわっ!」

 勢いよく部屋を飛び出し、シュウとシャエラは階の上――屋上へと走って向かう。リオラは同じ階に逃げたと思われるナージャを追い掛けた。

 リオラが全速力で廊下を走ると、ちょうど角を曲がる「影」が目に入る。

「覚悟しろよーっ!」

 自分より背丈が低い幼女だろうと、リオラは容赦する気が無い。
 腕をまくって勢いよく角を曲がる。


『――バーか! バーか!』


 曲がった先には、ゆっくりと進むネコの玩具おもちゃ――
 昔、リオラにもよく遊んだ覚えがあった。

 玩具を床から取り上げると、モーターと一緒に魔法陣を纏ったボイスレコーダが取り付けてあり、ナージャのフザけた声で音を発っしていた。

『バーか! バ――キィ゛ッ!』

「くそっ……」

 リオラはボイスレコーダを取り外し、自慢の右手でバキバキに握りつぶす。ナージャもアドリーと一緒に屋上へと向かっていたのだ。
 リオラも急いで引き返し、屋上へと走る――
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