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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(17)大好きなおねえちゃん ~big-sister~
しおりを挟むシャエラとシュウは逃げるアドリーを追い掛け、走って寮の屋上へと向かう。まだ姿は見えないが、足音からも分かる――階段を登った先にシャエルを抱えたアドリーがいるのは間違いなかった。
「アドリー! おまちなさいっ!」
アドリーは待つこともなく、止まることもなく屋上へと入る。シャエラたちもすぐに屋上へと追いついた。
「――アドリーっ!」
シャエラたちは目の前の状況を即座に判断し、追い掛けていた足を止める。アドリーは、屋上の縁――地面スレスレのところに立ち、地面よりも外の離れたところに≪防壁≫を繰り出していた。
「アドリー、あなたっ……」
そして、その≪防壁≫の上には、手足を縛られたシャエルが乗せられていた。
「は、残念。遅かったね」
「――んーっ!」
シャエルは青いテープで口を塞がれ、モゴモゴ声を出せないでいる。床代わりの≪防壁≫は面積が狭く、下手に動けば踏み外してもおかしくない状況だった。
もし≪防壁≫から落ちてしまえば、シャエラの体は中庭へと真っ逆さまに――
「こうなったら作戦変更よ、この子はもう用済み」
「エルっ!」
「シャエラ! 待てっ!」
シャエラは、シュウの声を無視して駆け出した。
シャエルを、妹を助けたい一心で屋上の外へと一直線に突き進む。
「――さよなら」
シャエラは、猛スピードで走りながら足元に≪防壁≫を張り、下から≪衝撃≫を加えることで勢いよく空中に飛び出す。浮遊の要領で一気に距離を詰めるが、それよりも早くアドリーは動いていた。
アドリーは指を「パチンッ」と鳴らし、シャエルの下にある≪防壁≫を解除する。
「エルっ――」
――シャラララ……
優しい鐘の音が鳴る。
シャエラは、聞き逃さなかった。
『なにかあったら、これを鳴らしますの……』
『そしたら、わたくしがいつでも助けに参りますわ』
かつて自分が発した言葉が思い起こされる。
鐘の音が聞こえても状況は変わらない。足場を失い、シャエルは真っ逆さまに落ちる。
アドリーは変わらず屋上の縁に立ったまま、再び黒い拳銃を構えて空中に向ける。
シャエラは、地面に向かって落ちるシャエルのすぐ近くにまで辿り着いた。
同時に、屋上にはリオラも辿り着いていた。
「シャエラっ! そいつは――」
「分かっていますわ」
「……んーっ?」
「失礼あそば、せっ!」
鐘の音が聞こえた瞬間――
シャエラは、≪防壁≫の上にいたシャエルが僅かに歪んでいたのを見逃さなかった。
「んにゃ゛っ!!」
真っ逆さまに落ちるシャエルを踏み台にし、さらに奥の空中へと飛び跳ねる。踏み台にされたシャエルは魔法が解け、元のナージャの姿がハッキリと現れた。
「はにゃにゃにゃー」
ナージャは踏みつけられた頭部を両手で押さえ、地面に向かって情けなく落ちていく。
シャエラは、鐘の音だけを頼りに手を伸ばした。
「エル! そこにいるんでしょ!」
手を伸ばした先――ナージャの魔法が解け、何も無いはずの空間が歪む。そして、歪みの下から本物のシャエルがハッキリと映し出される。
アドリーは空中のシャエルに銃口を向け、容赦なく引鉄を引いた。
「エルっ――」
シャエルの体に手が届いたところで、一気に抱き寄せる。シャエルのことを、シャエルと同じ大きさの体で抱え込み、≪防壁≫をガムシャラに出した。
慌てて張った≪防壁≫だったが、ギリギリのところでアドリーが放った弾丸を防ぐ。シュウは弾かれた弾丸の近くに≪相転≫の魔法陣を張り、自身の手元まで持ってくることに成功する。
「これが、ブラッディ・ダイヤ……」
「ちっ」
アドリーの顔に初めて焦りが見える。一方、弾丸から難を逃れたシャエラたちは、真っ逆さまに中庭へと落ちていく。
重力を生で感じる間、シャエラは妹の口を塞いでいるテープを剥がし、2人はまっすぐ見つめ合った。
「ぷはぁ――おねえちゃん!」
「エル、エルなのね……っ!」
2人は見つめ合いながら、涙ながらに抱きしめ合った。
だが、当然ながら時間に猶予はない。2人が落下する速度は、倍々で増えていく。
「おねえちゃん、怖い」
「だいじょうぶ――」
中庭の地面に向かって豪速で落ちる――
その中で、シャエラは冷静に自身の体に≪防壁≫を張った。下では、エリスも魔法陣を張って待ち構えている。
「エリスさんっ」
「――きゃっ」
臨機応変なエリスには感謝しかない。
シャエラたちの体は≪防壁≫と≪衝撃≫の合わせ技でふわりと宙に浮き、ギリギリのところで無事に地面へと降り立った。
流石の落下速度にシャエルは腰を抜かし、足にも力が入らなくなって地面へと倒れ込む。シャエラは、地面に倒れる前にしっかりとその体を支えた。
「エル、ケガは? 痛いところはない?」
「うん、大丈夫だよ」
「エル……よかった、無事で――」
「おねえちゃん……」
シャエラは、シャエルの体を改めて強く抱きしめる。シャエルの首元から――首元のネックレスからは優しい鐘の音が聞こえる。
シャエルも姉の体を強く抱きしめ返す。お互いがお互いの温もりに包まれ、2人とも思わずホッとした。
「……エル、わたくしを恨んでおりませんの?」
「どうして? おねえちゃんを恨むわけないよ?」
「そうですの……?」
「当然だよ。大好きだよ、おねえちゃん」
「わたくしもですわ、エル……」
抱きしめ合って、お互いの存在を確かめ合う。
久しぶりの再開に、涙は止まりそうにない――
そんな2人を邪魔するように、屋上からは乾いた拍手が鳴り響いた。
「すばらしい姉妹愛ね、ホレボレするわー」
状況が掴めない生徒たちで辺りは静まり返り、中庭には冷たいアドリーの声が良く響く。シャエラは、下から見上げてアドリーを睨みつけた。
「アドリー、あなたを信頼していたわたくしがバカでしたわ」
「やっと気づいたの? だるいわー」
「寮に張り巡らされてる魔法陣もあなたの仕業ね!」
「だったらぁ? で? どうするの?」
「早く魔法を解きなさい! そして――」
シャエルを抱えたまま立ち上がり、アドリーに向かって手を突き出した。シャエルの温もりを感じ、今まで以上の力が手先にみなぎる。
「今すぐ皆さんを解放しなさい!」
「解放ねえ……」
「アナタの目的は分かりませんけど、皆さんは関係ありませんわっ! わたくしに恨みがあるなら、わたくしだけを狙いなさい」
「あーそうねえ、それでぇ?」
「もし要求を飲めないと仰っても、わたくしは皆さんを必ずお守りしますわ!」
「そう、なら仲良く倒れなさい――」
「させるかぁ!」
屋上の上では、リオラが不意をついてアドリーに襲い掛かる。
しかし、距離を詰めてくるリオラにはとっくに気付いていたアドリーは、≪防壁≫を床代わりにして空中に身を投じる。
「倒れるのはお前らだ!」
「どうかしら? ナージャ、早くおいで」
「もう帰りたいにゃー」
ナージャは、寮の外壁――途中階の窓縁に足を乗せて休んでいた。上空からの呼び出しを受け、魔法で空中を飛び跳ねて渋々アドリーの元に這い上がる。
「早く終わらしてにゃ」
「そうね、私も飽きた。終わらせよっか」
ナージャが乗った途端、アドリーたちが乗った≪防壁≫はグングン上へと登る。
「逃げんじゃねえっ!」
リオラが追い掛けようとした直前、アドリーは遥か高い位置から地面に向かって≪防壁≫を繰り出した。
それも、寮の建物を覆ってしまうほど巨大な魔法陣――
大きさだけではなく、分厚さも規格外の≪防壁≫であり、硬さを見た目だけで物語っている。
「今日1番の壁よ、しかと受け止めてね」
上空に浮かぶ巨大な≪防壁≫の魔法陣――
それは、シャエラたちがいる中庭の地面に向かってゆっくりと迫っていった。
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