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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~
(18)思いの波動 ~zigzag~
しおりを挟む「な、なんだよこれ」
「でかすぎる……」
空気を圧しながらゆっくりと落ちる巨大な≪防壁≫――
リオラとシュウがいる屋上からでは、視界に収めることもできない。
上空を見上げ、呆然と立ち尽くす今この瞬間も、巨大な壁が建物ごと押し潰す勢いで迫ってくる。壁をいち早く止めないと、建物だけでなく生徒全員の身が危なかった。
「そうだシュウ! 前みたいにでっけえ≪波動≫を喰らわしてやれ!」
「……いや、その必要は無さそうだぞ」
空を見上げて慌てふためくリオラを余所に、シュウは屋上の縁から中庭を覗き込んでいた。
上空の壁よりも気になるものが、中庭で繰り広げられていた。
「それより、おれたちも早く降りたほうがよさそうだ……」
「どういう意味だよ?」
シュウと一緒になってリオラも中庭を覗き込む。
今度は目線を下げたその先――
中庭の中央にいるシャエラを源に、上空の壁と同じくらい巨大な魔法陣が繰り広げられていた。
「シャエラめ、勢いづきやがって……」
巨大な紫色の魔法陣――
それは、かつて学園の闘技場でシュウが見せた魔法陣よりも、わずかばかり大きく見えた。
上空の壁に対抗して光り輝く魔法陣は、≪波動≫を放つ準備を着々と進めている。
「急ごうリオラ!」
「おう」
今にも暴れ出しそうな魔法陣を目の当たりにし、リオラたちは急いで寮の階段を降りて行く――
○○○○○○
「皆さま方、お願いですわっ! わたくしに向かってロッドを投げてちょうだい!」
理解の早い生徒たちは、なるべくシャエラの体に触れるよう自身が持つロッドを投げ入れていく。
「エリスさん、補佐をお願いできます?」
「ええ、もちろんよ」
エリスは、これから放たれるであろう≪波動≫の反動から全員を守る準備を始める。ソアンは、未だ横になっているマイカを抱えて体を丸めた。
マイカは、薄い意識の中でぼんやりと目を開ける。その目には、色鮮やかに輝く紫色の魔法陣が映し出された。
「会、長……」
その光を見たマイカの口元が緩む。
マイカが憧れている会長の姿そのものだった。
マイカだけでなく、その魔法陣の光に魅せられた生徒は数多く、一部の生徒は自身のデバイスでカメラを立ち上げ、シャエラの勇姿を鮮明に記録する。
「アドリー、これまでの全てを返して差し上げますわ」
「返す? 私の壁がアンタのちんけな魔法で崩れるとでも思ってるの?」
アドリーの壁は最初の勢いそのままにゆっくりと降りていく。寮の建物にぶつかるのは時間の問題だった。
「これは、わたくし1人の魔法ではございません」
「あ?」
「妹のシャエル、それに学園の生徒をよくも傷つけてくれましたわね?」
シャエラは精一杯の力を込める。ただ、これだけ大きい魔法陣――
適正があるとはいえ、魔力にも限界があった。魔法陣から肝心の≪波動≫を放つのが難しい。
「生徒たちは安全に学園生活を送る義務がありますわ。それをアドリー、あなたなんかに潰させませんっ……」
もう少し――
もう少し、時間が必要だった。その時間が足りない。
そんなシャエラの手に、小さくも、たくましく成長した手が添えられる。
「おねえちゃん、わたしも――」
微力ながら、シャエルも自身の魔力を精一杯込める。
「はっ! 強がったところで結果は変わらないの」
アドリーも対抗して魔力を込める。
巨大な≪防壁≫の厚みが、僅かに増して見えた。
「みんなっ! なるべく私の周りに集まって!」
ついに≪防壁≫が建物の一番高いところに触れ、有無を言わさず砕き落としていく。エリスは、なるべく生徒を一カ所に集め、落ちてくる瓦礫からみんなを守った。
しかし、寮にいる全員が避難できているとは限らない。事態は一刻を争っていた。
「くっ、おねがいっ……!」
「ざんねん、ここまでね」
アドリーは笑いもせず、冷たい顔で中庭を見下ろした。
――間に合わない
エリスが感じていることは、シャエラも承知だった。
それでも、シャエラは最後の力を振り絞って魔力を込める。その気持ちに、愛する妹が応える。
シャエルだけじゃない――
周りにいる生徒全員が祈り、力を込める。
「学生の力は凄まじい。あなたには負けない力をきっと秘めている。我々生徒会は、それを最大限に引き出していく――」
「ん……?」
シャエラは、過去の自分にも言い聞かせていた。同じ過ちを繰り返さぬよう、言葉に出して意識する。
そしてシャエラの魔法陣はついに動き出し、激しく回転を始める。
「わたくしは、生徒会長――皆さま方に頂いたこの力、決して無駄にはしませんわっ」
そして、魔法陣からはついに光が溢れ出す。
「その力、とくと受け取りなさいっ!」
「うそ、まずっ――」
魔法陣の中心から放たれる一筋の線――
すぐに線の周りを≪波動≫が包む。
その≪波動≫は落ちてくる瓦礫を粉々に打ち消しながらアドリーの壁にぶつかり、壁の動きを止めてはお互いの魔法が拮抗する。
同時に耐え難い揺れが女子寮全体を襲い、エリスを含む生徒たちは体を丸めてうずくまった。
なんとか中庭に降りてきたシュウとリオラも、隅っこに座ってその揺れに耐える。
「そんなっ、わたしの壁……がっ――」
アドリーの壁は目に見えて押され、やがて中心に亀裂が入る。
シャエラとシャエルは、休ませることなく≪波動≫を放ち続ける。
そして、とどめの魔力を≪波動≫に込める――
「わたくしは生徒会長、シャエラ・エイブリン! 皆さま方の力を、思いを……決して無駄にはしませんのよっ!」
「そんな、はずっ――」
アドリーの壁は≪波動≫の威力に耐えられず、派手に壊れてその姿を消す。壁を壊してもなお≪波動≫は進み続け、空高くにいるアドリーとナージャの姿を明確に捉えた。
アドリーは咄嗟に別の≪防壁≫を繰り出すも、その≪防壁≫ごとまるっと≪波動≫の光に包まれる。
「はあ、はあ、はぁ……」
やがて≪波動≫は収まっていき、うずくまっていた生徒たちはゆっくりと顔を上げる。いつの間にか中庭を囲う≪防壁≫も解かれていた。
魔法を出し切ったシャエラとシャエルは、支え合ったまま膝から地面に崩れ落ちる。
「おねえちゃん、やったね」
「エル、ありがとう……」
粉となった残骸が舞う中で、シャエラとシャエルは再びお互いを確かめ合う。
周りにいる生徒たちは、美しくも儚い≪波動≫の余韻に浸る――
上空には、澄み切った青空が広がっていた。
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