魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(21)これからのこと ~worry~

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 オフィスビルの最上階――
 関係者以外の侵入を決して許さないその一角に、数人の魔法使いが集まっていた。

「それにしても派手にやったね、あんな大勢の前に出るのは久々だから緊張しちゃったよ」

 赤髪の少年フィンは、笑いながらソファに座り、空中に映し出されたニュース映像に目を向けた。ニュースは学園セントラルの話題で持ち切りで、修復中の女子寮が上空から報道される。

「やっと生徒ガキの振りを止められると思ったらさ、色々やりたいことが出てきちゃって……詰め込みすぎちゃったみたい」

 アドリーもソファで紅茶を飲みながら、自身のデバイスでニュース記事を開く。

「――ただの失敗」

「うるさいわねロシエ! あなた助けに来てくれなかったじゃない!」

 ロシエと呼ばれた女性――
 白シャツとサロペットの迷彩服に身を包み、背中には大きな狙撃銃ライフルを携えている。冷淡でか細い、突き刺すような声をアドリーに掛ける。
 ロシエは、ナージャのおでこにできた傷を手当てしてあげていた。

「私まで行く必要なかった――どう、ナージャ?」

「うー、ムカつくにゃー!」

 ナージャは未だに腹を立てていた。
 自身の体に傷を付けられたことが余程気に喰わないらしい。

「フィン! 次はいつアイツらと戦えるにゃ?!」

「うーん、ボクにも分からないよ。まだ先のことだから」

「うにゃー! むかつくにゃー!」

 ナージャの騒がしい声が部屋中に響く。
 メイシアはフィンの後ろに立ち、目を閉じて静かに時を過ごしていた。


『――鎮まりなさい』


 突如、女性の透き通った声が一角を包む。
 声を聞いたナージャの体は、途端に黙り込んで震え上がった。

「ら、らいにゃ様ぁ……」

「ライナ様、お早い到着で――」

 フィンは頭を下げて丁寧に挨拶し、ライナと呼ばれる女性を出迎える。
 大人びた雰囲気を帯びながら、シワ1つない若々しいライナ――落ち着き払った態度で部屋の奥、大きな窓辺へと進む。

「ナージャ、あなたは強い。学園セントラルの生徒なんて相手する必要ないの」

「でもだにゃぁ……」

「そうね――フィン、編入生・・・の様子はどうなの?」

 ライナにとっても1人だけ気になる生徒がいる。フィンは質問に対して嬉しそうに応えた。

「想像以上だよ、彼はこれからもっと強くなる」

「私のも破られたし」

「そう……」

 アドリーは悔しそうに、ライナは安心したように窓の外を見る。

「今回の件で魔法軍も本格的に動き出す。ターニングポイントよ」

 部屋の中には、一気に緊張感が走る。魔法使いたちは息をのみ、各々がライナの言葉を受け止めた。

「目的は変わらない。ゆっくりと、徐々にあぶり出して見せる……だから、これからもお願いするわね?」

 全員がライナの言葉にうなずいた。
 ライナは窓の外に広がるペンテグルスの街から目を離さない。

「マリー、サラ……ようやく始まるわよ」

 窓の外を見つめ、ライナは昔を思い出して微笑んでいた。




 ○○○○○○




「シュウさん、それにリンさんも……本当にありがとうございましたですわ」

 放課後の清掃中――
 リンと雑談をしながら窓辺を拭いていると、帰りのシャエラにも話しかけられた。後ろには包帯が巻かれたマイカの姿も見える。シュウの清掃員姿を知る者がどんどん増えていた。

「マイカ、無事でなにより」

「明日からは朝から登校できそうです。これもシュウ殿や皆さんのお陰であります」

「いやー、それほどでもー」

 珍しく感謝され、照れ臭くなったせいか、無意識に雑巾で頭を拭いてしまう。マイカは苦笑いするしかない――

「それでシュウさん、話しておくことがございまして……」

「うん?」

 シャエラは少しだけ暗い顔をする。苦い思い出をぶり返していた。

「生徒会に、空きが出てしまいまして……」

「ああ――」

 アドリーは身分を偽りながら優秀を演じていたらしく、その穴は生徒会にとっても「大きい」そうだ。

「それで来年の編成まで、シュウさんを生徒会役員に任命することにしましたの」

「……へ?」

「生徒会のみんな納得して下さいましたわ。満場一致で決定でございます」

「けってい?」

「ええ、決定事項ですわ」

 シャエラは、嬉しそうに鼻を鳴らす。戸惑いを隠しきれないシュウの横で、リンも苦笑いだった。

「まってくれっ! もっといいヤツがいるだろ! ほら、リンとか一般生とも仲いいし」

「ちょっとぉ、巻き込まないでよぉ」

「シュウさん、決定事項ですから」

「そんなぁ……」

 諦めてくれと言わんばかりの態度に、諦めざるを得なかった。数々の補習で苦しむ中、清掃に加えて生徒会の仕事が入るといよいよ破裂パンクしてしまう。

「明日から楽しみにお待ちしておりますわ。それと……」

 話の途中でシャエラは頬を赤らめ、シュウのことを恥ずかしそうに覗き見る。後ろのマイカも不思議そうにシャエラを見ていた。

「会長?」

「……その、たまにでよいので」

「たまにでよいので?」

「……また、シュウさんのベッドで休ませてくださいね?」

 シャエラの唐突な発言を理解しきれないリンとマイカ――言葉が足りていないのだから当然である。2人は唖然あぜんとして思考が止まる。

「また、わたくしのことを温めてくださいまし?」

「シャエラ、いろいろ語弊ごへいが――」

「きさまっ!」

 案の定、マイカが繰り出したロッドがシュウののどもとに押し当てられる。さらに、隣のリンまで厳しい表情を向けてくる。

「やはりかっ! 会長に破廉恥はれんちしたのかっ?!」

「するか゛っ!」

「シュウくん、どういうこと?! ちゃんと説明してっ!」

「誤解だってぇえ゛っ!」

 マイカのロッドが喉深くに喰い込んでいく。今度はシャエラが状況を飲み込めず、不思議そうにやり取りを眺めていた。

「もう1つお話したいことがあったのですが……」

 シャエラが何か話しているが、それどころではなく――

「シュウ殿っ!」
「シュウくんっ!」

「くるっ、ぐるしいっ……」

「……それどころでは無さそうでしてね」

 生徒会長様はお忙しいようで、「失礼しますわ」と一足先に去ってしまう。
 リンとマイカの尋問は、シャエラが去った後もしばらく続く――




 ○○○○○○




 ――チュンチュン

 倉庫に差す木漏れ日と爽やかな小鳥のさえずり――
 昨日リンとマイカに締められた首がジンワリと痛む。

「――ふんふ、ふんふふーん……」

 いつもと違い、爽やかな鼻声まで聞こえてくる。
 それに、倉庫では嗅いだことのない香り――

「……ダイモンさん?」

 シュウは、首を押さえながらもスッキリ目を覚ました。

「朝ごはん? なんだ?」

 香りは、キッチンの方からだった。寝起きの千鳥足で部屋を出て香りのもとに向かう。

「ふんふんふーん――あっ、おにい様! おはようございます!」

 キッチンには、エプロンを下げた銀髪の女の子が立っていた。昨日の今日でシャエラと見間違うが、目をこすって見直すとシャエラよりも穏やかな表情をしている。

「しゃえ、る……?」

「ちょうどお料理ができましたよ! 召し上がってください」

 シャエルは穏やかな笑顔を向け、その笑顔だけで1日の活力がみなぎってくる。
 ダイモンは既に食卓に座り、テーブルの上には見事な朝食たちが並べられていた。

「ダイモンさん、これは……?」

「学園の外は狙われる可能性があるからと、会長様直々のお願いだ」

「突然すみません……」

「いや、構わないけど」

 果たして部屋は余っていたか――
 気を遣ってダイモンを見るが、主は余裕の態度で朝ご飯頬張っていた。

「人手が足りない、断る理由はない」

「そ、そうですか……」

「人様のお家にお邪魔したら、家事を手伝うのがマナーと習いました!」

「そ、そうなの?」

「……だめ、でしょうか?」

「いやっ! いい! いいんだけどさ……」

 確かに断る理由は無い、シャエルの泣きそうな顔を見せられては断ることもできない。
 できないのだが――

「やったぁ! ごしどう、ごべんたつ――お願いしますね、お兄様っ!」

「は、ははっ……」

 妹か弟が欲しいと思う時期もあったか――
 念願が叶ったわけだが、何故か額には汗が垂れ、思わず苦笑いが込み上げてくる。最近は、どうにも気苦労が絶えない……
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