魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~

(02)覆面チーム ~mask~

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「――マジック・ボール?」

 学園の食堂にて――
 シュウとリン、そして一般生であるロイとルヴィがそれぞれ並び、2組が向かい合って座る。関わりの深さに違いはあれど、それぞれが友人関係にあり、自然と4人で集まることは珍しく無かった。
 シュウの疑問には、お姉さん肌のルヴィが答えていく。

「割と昔から続く競技スポーツで、この学園にも施設があるんだけど……ホントに知らないの?」

「うっ、すまん……」

「あ、謝ることじゃないよ。シュウくん、ね?」

 何でも魔法を使い、5人1組で戦うスポーツらしく、魔法学が進んでいる諸国では競技人口も多いそうだ。
 リンは気を遣ってなぐさめてくれるも、その笑顔がかえって辛い。一方でロイは追い打ちを掛けるように鼻で笑う。

「ほんと世間知らずだな」

「うるせえ、ロイは知ってるのかよ」

「当然だろ。TVでもやってんだから」

「うぐっ……」

 我が家にある唯一の娯楽テレビは、いつも姉か父がチャンネル権を握っている。アルバイトで忙しい身に見たい番組も無かったが、ネットニュースにも興味がわかないシュウは、いつも話題や流行トレンドから後れを取っていた。

「まあ知らないのは良いとして、今度そのマジック・ボールの大会があるの」

「大会、近くで?」

「ペンテグルスにある公営の競技場よ。毎年やってる大会なんだけど……」

 学園セントラルを有する魔法大国の首都ペンテグルス――
 この場所で毎年開催される親善大会らしいが、プロがこぞって参加する世界大会とは違うらしい。あくまで『マジック・ボール』の魅力を発信したり、マジック・ボールを通した地域の活性化や隣国との友好化を目的とするアマチュア大会だった。

 試合は、事前に行われる予選を経て16チームのトーナメント形式で行われる。
 学園セントラルの学生は地元代表として例年参加しており、予選通過のシード枠を貰っていた。大会には、基本的に部活動で経験が多い一般生が出場する。一般クラスに混じってリンも出場したことがあるそうで、学園として優勝は何度も経験していた。

「なんだよ、今年もリンに出て欲しいのか?」

「ううん。そうなんだけど、そうじゃないっていうか……」

 ルヴィは歯切れが悪そうで、話すべきか迷っている様子だった。
 悩んでいるというよりは、考えているようにも見え、リンも親友として心配そうにその様子を見つめる。

「どうしたの? 気になることでもあるの?」

「うん……まずはね、これを見て欲しいの」

 ルヴィが机の真ん中に自身のデバイスを置く。他の3人は一斉に立ち上がり、覗き込むようにして机の上に目を向ける。
 画面には、大きな見出しと一緒に仮面を付けた5人組の女性が写される。

 赤黒いウェアに身を包み、5人の顔は『血の涙の仮面』で覆われていた。

「ルヴィ! これは?!」

 シュウは思わず声を張る。食堂中にシュウの声が響くが気にしていられない。リンも画面を見つめながら手を震わせていた。

「女子寮に現れたっていう仮面・・をつけた男女の話を聞いてピンと来たの。リンからも話を聞いてもしかしてと思ったんだけど……気にしすぎかもしれないんだけど、話したほうが良いかなーって」

「話してくれっ! 何でもいい!」

「ルヴィ、わたしからもお願い」

 リンも一緒になってルヴィを真っ直ぐ見据える。あまりの真剣さに戸惑いながらも、ルヴィはゆっくりとうなずいた。

「マジック・ボールって競技人口は多くても、プロの世界はそこまで広くないの。活躍できるのが強い魔法使いに限られるからね」

「実際、俺もルヴィもプロの世界じゃまるで通用しない。プロたちとは、そもそもの魔術適性が違い過ぎる」

 ロイも一緒になって補足する。
 プロとして戦えるには、まず一定以上の魔力と適性が求められる――想像以上にシビアなスポーツだった。

「だから世界で活躍する上位チームには変動が少ないの。世界ランキングのトップ10は例年ほぼ変わらない」

「強い選手が出てきても強いチームがすぐに取っていくしな」

「じゃあ新しいチームができるのも少ないのか」

「そう。でもね、ちょうど1年前――とある覆面ふくめんチームがプロとして突然現れたの」

 ルヴィは画面の中を指差した。
 画面に映る5人の女性からは、怪しい雰囲気がただよって見える。

「昨年末に開催された世界選手権チャンピオンシップ――仮面を付けた彼女たちは初出場で世界ランキング1位のチームを下し、見事初優勝に輝いたの」

「ゆ優勝って……待ってくれ、覆面チームって顔は見せてないのか? そんなことがプロの世界で許されるのか?」

「ルール上は禁止されていないわ。でも、シュウにも想像つくだろうけど、マジック・ボールのファンからは批判が絶えなかった」

「じゃあ、正体は公開されて――」

「いいえ、彼女たちは未だ仮面を被ったまま……唯一のスポンサーであるAE社も本件に関して沈黙を貫いている」

 AEエージェントエナジーカンパニーと言えば、シュウもよく耳にする大企業だ。魔法軍とも密に関わり、本国のインフラストラクチャ――主に電力分野を支えている。魔法を供給源とした電力は、シュウたちが安全に暮らす生活のかなめでもあった。

「そんな大企業が黙ってられないだろ」

「そう、そもそも彼女たちを雇ったのも多くの社員が知らないところで行われていたみたい。株主からも反感を買い、社内でも不満が爆発したのか……ついこの前、彼女たちは正体を明かすことを表明したわ」

「なるほどな、じゃあ本人たちに話を聞く機会も――」

「それがそうとも行かなそうなのよ」

 ルヴィは声色を変える。ここからが本題のようだった。

「なんだよ、まさか引退でもするのか?」

「そうよ、次の大会を最後にね」

 シュウとリンは息を飲んだ。
 何となく話の筋が見えてきていた。リンは自分の考えが正しいかを確かめようと、恐る恐る質問を投げかける。

「ルヴィ、もしかしてその大会って……」

「ええ、彼女たちは何故かこの親善アマチュア大会を最後の試合として定め参加を表明した。そして、この大会の『決勝戦』の場で仮面を取ると――」

「そんな! 新人チームとは言えプロだろ? 世間が騒ぐんじゃ」

「もう騒いでるわよ。大会関係者は大にぎわい。問い合わせが後を絶たないそうよ」

「俺の友達で親が実行委員をやってるらんだが、そいついわくTV中継の依頼も殺到しているらしい。実況席も設けるんだとか」

「当日は厳戒態勢が予想されるわ。彼女たちと直接対決するしか、会話のチャンスは無いでしょうね」

 5人の女性が偶然『血の涙の仮面』を付けていたとも考えられる。しかし、他では決して見かけないこの仮面から過去の事件が思い返される。
 ブラッディ・ダイヤ、そしてフィンという赤髪の少年、事件の影で暗躍あんやくする者たち――
 少しでも真相に近づけるなら、シュウたちには逃したくない機会チャンスだった。

「じゃあ勝ち進めばいいんだろ? 今までだって優勝してるんだから問題は――」

「大ありなのよ、これを見て……」

 ルヴィは、画面に表示される記事の後半を指差す。書いてあったのは、さらに事態をややこしくさせる一文だった。

「触発された他のプロチームが参戦……」

「現時点で2つのプロチームが参加を表明してる。話題性も有るけど、新人チームに負けたプロたちはリベンジに燃えているようね。特に世界ランク1位の『アトラータフェレース』は本腰を入れてるみたい」

「じゃあ、てことは――」

「彼女たちと決勝まで当たらないなら、私たちは世界のプロたち相手に勝たなくちゃならない」

 ルヴィの言葉が重くのしかかる。今の話だけでは、覆面チームから話を聞き出すのは困難に思えた。リンまで黙り込み、重い空気の中でルヴィは改めて話を続ける。

「そこで相談、特進クラスあなたたちで大会に出てみない?」

「「えっ?」」

 シュウとリンは同時に間抜けな声を出す。ルヴィにとっては、あくまで軽い提案だった。

「仮にも世界の学園セントラル、世界の特進生よ? もしかしたら、もしかしないかなーって」

「……リン、どう思う?」

「うん。やってみる価値はあるかもね」

 早くもシュウの決意は固まり、リンも画面に映る女性を見つめながら既に覚悟を決めていた。

「まずはエリス辺りに話してみたいな」

「登録できるメンバーは交代要員を含めた7人まで、サポートもできるバランスのいいチーム構成でお願い」

「大会はいつだ?」

「最初の試合は2週間後、そこから1週またいで準決勝、決勝……せめて1週間は練習に時間を使いたいから逆算すると――」

 思っていたより猶予ゆうよが無い。まずはチーム集めからだが、シュウには早くも暗雲が立ち込めていた。ところが、リンは思いのほか緩い顔を上げる。

「なんだよ、ずいぶん余裕そうじゃんか」

「ふふん、実はね……」

 リンは一足先に立ち上がり、自慢げに微笑んで見せる。

「わたし、イイ人を知ってるんだよね」

 ルヴィとロイも揃って首をかしげる。
 その自慢げな顔が、シュウには何故か頼もしくは見えない――
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