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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(05)命運の鍵 ~key~
しおりを挟む魔法大国には、学園を有する首都ペンテグルスとは別に、国王の住む王都『シャルトン』が存在する。
王都はペンテグルスの隣に位置するが、マリー校長は自動車で長い時間を掛けて移動していた。長旅になるため、副校長のアンナには学園の留守を頼んでいる。
ペンテグルスよりも自然に溢れていながら、王都には厳重な警備が敷かれている。上空には監視ロボットがうじゃうじゃ飛び回り、王宮に着くまでは幾重にも重なった検問を通過しなければならない。
「次、名前と要件を述べよ」
「マリー・メリージュ、勅令のもと国王への謁見に――」
警備員はマリー校長の顔にデバイスをかざし、あらゆる情報を読み取っては手元のデータと照合させる。警備員が満足するまで確認は続き、数分経ってようやく検問の1つを通過できる。骨が折れる作業であった。
「やれやれね……」
「もうすぐですよ」
運転手の気遣いは無視し、マリー校長はタメ息混じりに窓の外に目を向ける。外には豪勢な王宮が見えてきた。
今まで以上の警備員に囲まれながら、車を降りて王宮の中へと進む。そして、年寄りには堪える距離を歩かされて通された広い居間――
奥の1段高い場所には、本国の君主――ジャナン国王陛下が鎮座する。
「マリーちゃん、遅かったじゃない」
国王の前には、魔法軍中央基地の長であるメンディス局長が先に膝をついていた。マリー校長は局長を無視して国王の前にひれ伏せる。
「学園長、お久しぶりですね」
「お久しぶりです。陛下――」
ジャナン国王は豪華に着飾った衣装を纏い、冷たい顔のまま表情1つでマリー校長に挨拶する。
マリー校長は不運にも、国王直々に「呼出し」を喰らっていた。話題についてもある程度察しはついているが、それは隣に並ぶメンディスにとっても同じことだった。
「2人とも遠くまでご苦労です。お飲み物を?」
「「いえ」」
「そうですか、では楽にしてください」
マリー校長もメンディス局長も同時に返事をし、同時に姿勢を楽にする。姿勢を楽にしたところで、居間を漂う独特な緊張感は変わらなかった。
「早速ですが局長、先日学園の女子寮で起きたテロリズムについて、調査の進捗とご意見をお聞かせ願います」
「はい」
テロリズムと言うが、犯人の正体・目的は魔法軍でさえ掴めていない。学園に潜入していたアドリーを除き、顔・姿さえハッキリとは捉えられていなかった。
「事件の主犯格でもあるアドリー・クロスですが、もちろん偽名で入学しており、顔情報の分析からAEカンパニーの元研究員であることが判明しています」
「AE社はなんと?」
「当たり前のようにテロとの関係は否定しています。情報は全て開示いただきましたが、進展はありません」
「そうですか……ブラッディ・ダイヤについては?」
「依然、成分分析中です。学園の生徒が入手したダイヤ――あれほど大きな結晶を犯人はどこで入手し、管理しているのか……恐縮ながら見当もついておりません」
「なるほど。ではもう1つ、ペンテグルスで勢力を伸ばしている違法カルテルとの関連についてはどうでしょう?」
「『ロンファンゲート』のことですね。同じく調査中ですが、今のところは噂に過ぎません」
「分かりました。引き続き調査願います」
メンディス局長は、国王の返事に合わせてわざとらしく1歩下がり、次の出番を嫌味たらしくマリー校長に譲る。
「学園長は、個別に情報を掴んでいたりしますか?」
「いえ、何も」
「そうですか……生徒たちは目まぐるしい活躍をされているようですが、何も聞いていませんか?」
「局長からあった話以上のことは、何も――」
「ここのところ学園での事件が多発しております。生徒の安全を守るためにも、勝手な行動は控えさせるよう学園長として厳粛な管理を願います。それから――」
国王はメンディス局長のときよりも厳しく詰めていく。表情も語気も変えないが、空気はより重みを増していた。
「それから、≪絶対魔術≫を使う少年――局長からも聞いています」
マリー校長がメンディス局長を睨むと、局長は苦笑いをしてごまかした。
「私も母の二の足は踏みたくありません。学園長の自由にしていただいて構いませんが、あくまで公に知られないことが条件となります」
「心得ております」
「……彼は、記憶を?」
「いえ、魔法も満足に扱えないようです」
「そうですか……彼はずいぶん派手に動き回っているようで、現時点で心配は尽きませんが、騒ぎにはならないようくれぐれもお気を付け下さい」
「承知しました」
「そろそろマジック・ボールの大会もありますね。今次の大会は各国からの注目度も高いです。そう言えば、参加を表明したプロチームの1つは、AE社がスポンサーでしたね」
国王はふいに冷たく2人を見下ろし、対する2人は黙ったまま何も言い返すことが出来ない。
「首都ペンテグルスの平穏は、我が大国の命運も握っております。どうかよろしくお願いしますね」
それは、国王なりに微笑んでいるつもりらしいが、とても目線は合わせられなかった。
○○○○○○
「みんなさすがね……」
ルヴィは思わず感心していた。特進クラスさながらの魔力や飲み込みの早さだけではない――
リオラは、さっそく器用に競技用ロッドを振り回し、遠心力を掛けて上手いこと魔法球に≪衝撃≫を加えていた。カホの≪防壁≫も折り紙付きでキーパーとしての活躍を存分に期待できる。
中でも目を引いたのがシャエラの≪波動≫だった。
マジック・ボールのプロ選手であっても≪波動魔術≫を扱える人物は数少ない。また、魔法球と≪波動≫の相性は思いのほか抜群で、≪波動≫による魔法球の「不規則」なコントロールが可能となり、相手チームを惑わせること間違いなかった。
「これは期待できるわね」
一方、シュウに目を向けると――
いつものことながら苦戦を強いていた。
「うっ……」
魔法球にロッドを振り回し、タイミングよく≪衝撃≫の魔法陣を張ることが出来ない。この競技の難しいところでもあるのだが、この点を乗り切れなければ選手としての活躍は絶望的だった。
「うっ、うぅ……」
みんなに置いてけぼりにされて子供のように涙目になるシュウを、ルヴィは苦笑いで見守ることしかできない。
その様子を見兼ねたのか、はたまた母性をくすぐられたのか、近くで練習していたエリスが我が子を慰めるように話し掛ける。
「シュウ、平気?」
「うぅ、できないよぉ……」
「焦ることは無いわ。本番まで1週間以上ある。基本の魔法陣は出せるんだから、とにかく当てることに集中して」
「うぅ、エリスぅ……」
エリスに元気づけらたシュウは、あからさまに元気を取り戻していく。
「いい? 恐らくだけどこのマジック・ボール、≪相転≫が大きなカギになるわ」
シュウもエリスと同じく、6つの基礎魔術の中では≪相転魔術≫を得意としている。そしてエリスの言う通り、マジック・ボールでは≪相転≫で何通りにでも試合を展開できるようになる。
「だから諦めずに頑張りましょう。私も精一杯サポートするわ」
「おう! ありがとうエリス!」
最終的にシュウは、楽しそうに練習に励んでいた。エリスと一緒に練習できてコロリとやる気が溢れていた。ふとルヴィは嫌な予感がし、離れたところにいたリンに目を向ける。
「やっぱり……」
リンは物憂げにシュウたちの様子を眺めていた。一緒に練習に混ざればいいものを、変に遠慮して結局気になっている。
リンらしいと言えばリンらしいのだが――
「……リンっ! それからエリスとシュウも、相談があるの」
エリスとシュウは、不思議そうにルヴィに振り向く。
親友としては、放っておけなかった。
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