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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(06)そう甘くない ~severe~
しおりを挟む「――ふぅ……」
エリスは女子寮の1室、自身の部屋で大きなディスプレイを前に頭を働かせていた。外はすっかり暗くなり、部屋の灯りは消して卓上のスタンドライトだけ――
いつもは見せない眼鏡姿で画面と睨めっこをする。実はド近眼であることを知る者は少ない。
「……だめね」
ブラッディ・ダイヤの正体――
シュウの白い魔法陣――
インターネットでいくら調べても出てこない。エリスは一度諦めてブラウザのトップページに戻った。
トップページには、エリスの欲している話題に見合ったニュースが表示される。
その中でもマジック・ボール関連のニュースは、閲覧数もさることながら注目度が高い。仮面を被った謎のチーム『サンルナール』は、その強さとミステリアスな雰囲気から人気高く、マジック・ボール自体には興味が少ないエリスのブラウザでさえ、数々の関連ニュースが飛び込んでくる。
タメ息混じりに他のニュースも呆然と眺め、個人的に気になっているニュースをタップする。
『貧困域でのデモが過去最高潮――ペンテグルスの今後を問う』
魔法学の台頭により、人々の業務は部分的に奪われて行った。魔法の発展とともに失職者の数は増加傾向にある。
仕事を魔法に奪われ、故郷に帰ることもできない者はペテングルスの隅に追いやられ、彼らによるデモ活動も年々激しさを増していた。社会的にも危険視され、ニュースではその悲惨な状況を貧困域の画像と共に伝えている。
「……?」
特に頭も働かせずに眺めていたが、エリスの目に特別1枚の画像が目に付いた。
「これ、まさか……」
四角く区切られた画像の4枚目――
中央に写る老いた浮浪者の右奥に、見覚えのある模様がボヤけて写っていた。エリスはその箇所を中心にズームしてじっくりと見つめる。
「魔法陣……よね?」
真っ赤なペンキで描かれたようで綺麗な形ではないが、確かに魔法陣を成している。
それも、シュウが放つ白い魔法陣と同じ模様――
ページの内容で魔法陣について触れられることは無かった。同じ画像を検索しても他ではヒット一切しない。
「調べてみる価値は、ありそうね……」
エリスの目は乾いて限界を迎える。
眼鏡を外し、眉間を指で押さえながら、エリスはディスプレイの電源を切った。
○○○○○○
「――やっぱりね……」
いつもの食堂で、ルヴィは重たい息を吐く。同じ席で昼食を食べていたシュウとロイ、そしてリンが不思議そうに振り向いた。
「これ、見てちょうだい」
その疑問に答えるかのように、ルヴィは自身のデバイスをみんなが見える位置に置く。
「トーナメント表、か……」
「あ、わたしたちの名前もある」
「もう予選は終わったのか?」
シュウの質問にルヴィが頷く。
いよいよ日も近づいた親善大会では、学園やプロ―チームのシード組を含め、予選を突破した16チームがトーナメント形式で試合を行う。
「大事なのは右と左――当然のように仕込まれたわね」
ルヴィはトーナメント表の端と端を指差した。
一方のチームには『アトラータフェレース』、もう一方には『サンルナール』の文字が入力されてある。
前回の世界大会でしのぎを削った両チーム――決勝戦でこの2チームが当たるよう、トーナメント表は調整されていた。決定方法に「抽選」とも書かれていないので、世論を考えれば当然の判断だった。
「――んでもって俺たちは……」
ロイは、残念そうに学園と表示されている箇所を見る。不運にも、決勝戦までいかないと『サンルナール』とは当たらないトーナメント表だった。
「でもさ、3回勝てばいいんだろ?」
シュウの能天気で楽観的な発言に、ルヴィはイラっとして顔を歪ませる。リンは苦笑いで、慌ててルヴィのことをなだめた。
「あのねえ、その3回戦で戦うのは世界1位のチームよ? 簡単に勝てると思ってるの?」
「思っては、ないけど……」
「あんた今日、個人練追加ね。掃除とか知らないから」
「だめだ! それだけはっ!」
「イヤなら上手くなりなさい! それだけ、分かった?」
「はぃ……」
ルヴィ監督の怒りは収まらない。それだけ本気で挑まないと勝てない相手だった。シュウは自信を無くす一方だが、必死に追いつこうと努力を続けるしかない――
○○○○○○
「――いいえ、今のだとタイミングが遅すぎる」
「こうか?」
「そうね、ただもっとロッドの威力を球に乗せる感じで……」
放課後、練習ではエリスとペアを組むことが多かった。同じ≪相転≫の使い手として、エリスはいつも的確なアドバイスをくれる。
シュウとしては実技の練習にもなり、都合がいい面も大きかった。
「ただ強くってだけじゃなくて、パスも大事になってくる。試しに私に向かって軽く魔法球を打ってみて」
「おう、分かった」
魔法球の扱いは、シュートよりもこのパスが難しい。飛んできた魔法球を適度な速度で打ち放ち、最終的にはリオラを始めとするアタッカーのシュートに向けて繋いでいく必要がある。
他のチームに魔法球を取られないようにしなくてはならないし、そのためには密な連携と的確なコントロールが必要になる。
「よっ、と――」
これが何回練習しても失敗が目立った。今回もエリスに向かって打ったつもりが、遠くで練習するリンの方にまで飛ばしてしまう。
「わるいリン、上手くいかなくて……」
慌ててリンのもとに駆け寄り、リンが拾ってくれた球を受け取りに行く。リンは、何とも複雑な表情をシュウに向けていた。
「あ、ありがとう」
「……ずいぶん楽しそうですね」
「な、なんだよ。悪いのかよ」
「いいえー、わたしが魔法を教えてるときはイヤイヤでらっしゃるのに、今日はずいぶん楽しそうでして」
「喋り方がシャエラみたいになってるぞ」
「そうですか、そうですか。それは失礼ござんした」
「……それは誰だ」
「リン、落ち着いて」
ルヴィが間に入るも、リンの気持ちは落ち着かない。シュウに魔法球をぞんざいに渡すと、リンは怒って去ってしまった。
「これっ」
「いでっ、なんでおれが――」
「ちゃんと飛ばしなさい!」
結局リンとルヴィが怒っている理由は分からない。
分からないが、とにかく今は練習を――
本番まで残された時間は、刻々と減っていった。
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