魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

文字の大きさ
58 / 78
CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~

(07)最後の練習 ~pre-match~

しおりを挟む

「ドルハさん、いらしてたんですね」

「レイジーか」

 レイジーは学校を休み、試合前最後の『アトラータフェレース』全体打合せに参加していた。選手だけでなく、マネージャや広報など他関係者も参加する面倒な会議だ。
 実力は高くてもまだまだ若い身――レイジーは打合せ場所に1番乗りで早く着いたつもりが、チームのエースであるドルハが先に待ち構えていた。ドルハはチーム最年長の「男性」でありながら、未だに選手としてマジック・ボールの最前線で活躍する。

「ドルハさんが1番先に着いちゃ、みんな萎縮いしゅくしちゃいますよ」

「知るか、下らないことに呼び出しやがって」

「ふ、ほんとですよね……」

 ドルハは己の強さだけでなく、全体を見渡した統率力にも優れている。リーダシップを遺憾なく発揮してチームを勝利に導く姿から、他メンバーの信頼も厚い。

「編成は決まりました?」

「キーパーにトピー、アタッカーにグロリア、シャクにはフェンダーからガンナーを担当してもらおうと思ってる。限界までこのメンバーで進む」

「……本気ですね」

「小娘たちに負けてられないからな」

「口が悪いですよ」

 今回の編成は、かつて『サンルナール』に苦汁を飲まされたメンバーだった。いつも冷静なドルハのはずが、レイジーには焦っているように見える。

「レイジー、こんな大会出る必要ないぞ? 学友にも誘われてるんだろ」

「やめてください。私だって本気なんです」

「そうか……」

 レイジーが『アトラータフェレース』と契約してからまだ日は浅い。それでもチームの一員として本気で取り組んでおり、前回の世界選手権での敗北はレイジー自身にも苦い経験だった。

「まずは決勝に行って奴らの仮面を引っぺがす。いいな?」

「はい!」

 例え小規模の大会であろうと、気合は十二分にあった。




 ○○○○○○




 練習も板につき、本番まで残り3日になったところで学園セントラルの面々は、グラウンドを貸し切って真ん中に集まっていた。グラウンドの両端には、マジック・ボールの本戦同等のゴールが設置してある。
 状況については、ルヴィが前に立って説明する。

「最後の練習試合よ。時間は半分にするけど、ゴールもコートの広さもより本番に近い形で行う。強力な助っ人にも来てもらったから覚悟してちょうだい」

「上等だ、ワクワクするぜ」

「本気で挑ませていただきますわ」

 学園セントラルの特進クラス暫定ざんていチーム――
 アタッカー:リオラ
 ガンナー :シャエラ
 フェンダー:エリス、シュウ
 キーパー :カホ

 不慣れなシュウをエリスがカバーする安定の布陣、分厚い攻撃陣に堅牢なキーパーに対するはマジック・ボール経験者チーム――
 ガンナーには≪変形≫を得意とするリンが、アタッカーをルヴィとロイが担い、後ろも同等の実力を持つ競技経験者が固める。

「……いくわよ?」

「いつでもいいぜ」

 リオラとルヴィ、アタッカーの2人が近づいて睨みあう。
 試合に使う魔法球は、コートの中央上空に射出され、アタッカー同士で球を奪い合うところから勝負は始まる。
 ルヴィがコート外に立つ生徒に合図し、破裂音に合わせて魔法球が勢いよくマシンから放たれる――


「はっ!」
「うりゃっ!」


 試合開始、マシンのタイミングを知り尽くしているルヴィがわずかに早く上空に飛び出した。
 2人とも足元に魔法陣を張って勢いよく宙に舞い上がる。

「うそっ?!」

 大きく差を広げていたはずが、いつの間にかリオラが先を越す。高くに浮かぶ魔法球を先に捉えたのはリオラだった。

「うーりゃぁあっ!」

 リオラは、ロッドを大きく振りかぶって魔法球に向ける。ロッドの先には赤い魔法陣が光り輝く。ルヴィのブロックも間に合わず、ロッドは勢いよく魔法球にぶつかった。

「ひいぃっ!」

 何故かリオラの後ろにいるカホが悲鳴を上げる。
 それほどの勢いで、魔法球は相手チームのゴールに向かって一直線に飛び込んでいく。ア然とする経験者たちの横を目にも止まらない速度で通り過ぎていく。
 当然、相手キーバーの≪防壁≫も間に合わない。


 ――プォン


 魔法球は、ゴールの青枠ブルーラインに直撃して力なく地面に落ちる。ゴールが青く光り、特進チームに2ptが入った。

「冗談だろ……」

 焦るロイを置いて、すぐに次の魔法球がマシンから放たれる。慌てて上空に構えていたルヴィが何とか魔法球を確保した。

「リン! 1回下げるわよ!」

 ルヴィの合図に合わせ、リンは一気にコートを駆ける。そのままルヴィのパスをロッドで受け取り、さらに前へと進む。

「行かせないぜっ」

 正面に立ちはだかるリオラに対し、リンは物怖じせずに距離を詰める。そして、ギリギリまで近づいたところで上空を進むルヴィにパスを送る。

「もらったっ!」

「ごめんね、リオラちゃん」

「あ? ――んあ゛!」

 魔法球を奪おうとしたリオラだが、そのリオラのロッドを≪変形≫したリンのロッドが掴んでいた。リオラの体制は崩れ、地面に顔から転んでしまう。
 リンはリオラの屍を超え、気にせず前に進む。

 上空では、魔法球を持つはずのルヴィにシャエラが近づいていた。

「通しませんわよ」

「残念、もう持ってないの」

 ルヴィは素早いパスを後ろにいるロイに出していた。ロイも魔法球を受け取ったあと、素早く地上のリンに向かってパスを回す。

「ありがとう!」

 順調にパスを受けて進み、ゴール近くにはエリスが堂々と待ち構える。

「エリスちゃん、負けないよ」

「私も、手加減しないわ」

 先に仕掛けたのはエリスだった。
 魔法球を抱えるロッドに向かい、エリスは短く≪変形≫させていたロッドを振るう。なるべく細かい動きが取れるようにした策略だった。
 リンは、一度魔法球を浮かせ、エリスのロッドと同じような形に自身も≪変形≫させる。ロッド同士が互角の力でぶつかり合い、2人とも体がのけ反ってしまう。そして、リンは後ろに近づいているロイの姿を捉えていた。

「えいっ……ロイくん、お願い!」

 今度はロッドを長く≪変形≫させて魔法級にぶつけ、後ろにいるロイに的確なパスを出す。
 しかし、ロイに気づいていたのはエリスも同じだった。それもリンより早く気づいていた。

 パスを出した方向に、緑色に光る≪相転≫の魔法陣が浮かぶ。

「そんな、これを見越してっ――」

 リンが気づいたときには遅かった。
 魔法球は≪相転≫の魔法陣を通り、同じくリンの近くに浮かんでいた魔法陣から勢いを落とすことなく飛び出してくる。

「あうっ……」

 魔法球はリンの体にぶつかり、力を失って地面に落ちる。『ノックポイント』を獲得した特進チームに、今度は1ptが入る。

「魔法陣と詠唱えいしょうの速さがプロ並み――いえ、プロ以上かも……」

 結局、20分という時間の中で経験者チームが得点を得ることはできなかった。
 最初で最後の練習試合は、特進チームの圧勝で幕を閉じた。




 ○○○○○○




「強すぎるわ……これなら決勝もも、優勝まであるかもしれない」

 試合後、ルヴィは満足気に頷いていた。当初は期待もせずに提案していたが、今では本気で優勝を狙えるかもと意気込んでいる。

「かか、かち、勝ちましたね」

「おれたちは何もしてないけどな」

 カホも嬉しそうにしていたが、うっかり水を差してしまった。
 事実、シュウとカホには試合中ほとんど球が回ってきていないのだから仕方ない。

「あとはパスワーク、チームの結束ね。残りの時間でそこを中心に教えるから、最後まで気を抜かないでちょうだい」

 ルヴィの監督コーチっぷりもすっかり板についていた。ひとまず今日の練習は終わりとし、各々が散らばって行動する。

「シュウ、少し話したいことが――」

「ぬあっ! こんな時間か、掃除しなきゃ……」

 エリスが声を掛けようとした瞬間に、シュウは慌ててその場から離れてしまう。
 シュウにも話を聞いてほしかったが仕方ない――

 エリスは、帰ろうとしていたシャエラに声をかけた。

「シャエラさん、ちょっと……」

「え? わたくし?」

 普段接点が少ないだけに、シャエラは戸惑っていた。
 エリスは、気にせずシャエラを連れて校舎に戻る――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...