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CHAPTER_04 マジック・ボール ~the moon sets and the sun rises~
(08)前夜の思い ~evening~
しおりを挟む本番を明日に迎え、『アトラータフェレース』のエース――ドルハは念入りに競技用ロッドを磨いていた。粗めの研磨剤で磨くことで、魔法球をより掴みやすくなる。
マネージャに作業を頼む選手が多い中、ドルハは昔から自分でやらないと気が済まない。大事な試合前には必ず磨き、勝つための一種の習慣でもあった。
「サンルナール……」
ドルハには、意地があった。
長年『マジック・ボール』の最前線で活躍し、世界一となったチームのエースを務め上げてきた。こと『マジック・ボール』なら誰よりも詳しく、誰よりも強い自負があった。最近ではチームメイトの育成強化にも力を入れ、そろそろ引退も考えていた頃合いだった。
それがぽっと出の覆面チームに敗退を期し、監督を通してスポンサーにも怒られている。
ドルハにとって、他人にとやかく言われることは重要ではない。単純に自分が悔しいだけだった。
『マジック・ボール』に命を懸けて生きてきたのに、まるでその生き様を全否定されたようで腹立たしかった。
「このままでは、終われないな……」
――どうして負けた?
――偶然か実力か、それとも別の理由が?
引退なんてできない。
勝てなくてもいい。疑問が晴れないとドルハは終われなかった。
目をつむり、考えを巡らし、ロッドを磨く手にも力が入る――
○○○○○○
「よし、なんとか間に合うな」
試合前日にも関わらず、シュウは放課後の清掃に勤しんでいた。『マジック・ボール』を軽く見ているつもりはない。ダイモンにも「今日はサボっていい」と言われていた。
それでもシュウは、自分から進んで清掃に力を入れていた。清掃でソワソワする気持ちを落ち着かせる目的もあった。
「明日かぁ……」
ふと、暗くなった夜空を見上げる。
この2週間、長いようであっという間だった。シュウが本試合に出て活躍するかは分からないが、味わったことのない緊張感が胸をザワつかせる。
「よしっ」
高ぶった気持ちを落ち着かせようと、最後の窓縁を磨く手に力を込める。
「――相変わらずだね」
「リン?」
清掃も終わりといったところで、暗い廊下の奥からリンが姿を現した。気のせいか、リンも浮足立っているように見える。
「手伝ってあげよっか?」
「んや、もう終わるところだ」
最後のひと拭きを終え、シュウとリンは並んで廊下を歩く。
「ここまで来たら優勝したいよな」
「だね」
目的はあくまでサンルナールの正体――ひいてはブラッディ・ダイヤとの関連を探ることだ。そのはずが、練習を重ねていく中でいつの間にか『マジック・ボール』の魅力に気づかされていた。
シュウだけでなく、大会に参加する全員が感じていたことだった。
「掃除してる場合じゃなかったか」
「そお? やれることはやったし、気晴らしにイイと思うけどな」
「エリスには休んどけって言われちゃった。でも、なんか落ち着かなくてさ」
「ふーん……」
リンは、ずいぶんと浮かない顔を上げる。エリス同様、大事なときにまで清掃をするシュウに思うところがあるのか――
「緊張をまぎらわせたくてさ……こんなときまで掃除なんて、ダサいよな?」
「そ、そんなことないよ!」
シュウの一言で打って変わり、リンは真剣な顔でシュウに訴えかける。あまりの真剣さに、戸惑って口をつぐんでしまう。
「緊張なんて誰にもあるし、それに、それに……
「お、おう?」
「それに、わたしは、好きだよ? 掃除してるシュウくんのこと……」
「ははっ、作業服も板についてきたしな」
「そういうことじゃなくて……」
「ん? なんか言った?」
「なんでもないっ!」
何故か気まずい空気が流れる。
そういえば、近頃リンと会話する機会を取れていなかった。沈黙が続き、どうも話題にも困る。
「……ねえシュウくん?」
「どうした?」
先に口を開いたのはリンだった。
そんなとき、廊下の隅に捨ててある飲み物ボトルが目に付いてしまう。
「シュウくんって、エリスさんのこと――」
「まったく、こんなとこにポイ捨てして」
シュウは話を中断してボトルを拾う。
「捨てた人は置いといて、どうして誰も拾わないんだろうな」
「……そうだね」
「あ、ごめん。話の途中だったよな、エリスがどうかした?」
「……ふふっ」
当然のようにボトルを拾い上げるシュウ――
リンは満足気に笑って先を行く。
「な、なんだよ」
「ううん、なんでもない」
結局、リンが言いたかったことは見当もつかなかった。
そのあとは特に会話もなく、シュウは倉庫に、リンは女子寮に戻る――
○○○○○○
「いよいよ明日ね」
『血の涙の仮面』を付けた5人の女性――
その真ん中にいる女性がしみじみと呟く。
そこは、学園が保有している『マジック・ボール』専用コート、翌日の試合会場前だった。
夜の暗がりの中、コートは明るく照らされている。5人はその灯りを見上げていた。
「また、ここに戻ってくるなんて……」
「ほんとね、ジュリ」
ジュリはチームの中で1番の≪衝撃魔術≫を扱い、アタッカーとしてチームを率先して引っ張る存在だ。
「初戦は誰だっけ?」
「アマチュアチームよ、気にすることないんじゃないかしら」
質問にはカイラが答えた。
カイラはバランスの取れた魔法使いであり、フェンダーとしてその才能を遺憾なく発揮する。
「タムはどう思う?」
「特進の連中が気になるけど、決勝は『アトラータ』との対決になる。と思う」
テイタムは分析能力に優れており、チームのブレインとして立派にキーパーを務め上げる。用心深さも人一倍強く、テイタムのキーパーは鉄壁ともいえる。
「リシェル、そろそろ行こっ!」
「そうね、ダナン……」
ダナンは明るさの裏で常に冷静を保ち、チームでもお姉さん的な存在だ。アタッカーがメインだが、公私含めてチームを影で支える。
中央にサンルナールのエース――リシェルが立つ。ダナンの呼びかけに応じ、5人は会場に背を向けて立ち去った。
5人全員が羽織るスポーツジャージには、背中に「AE」の頭文字が血の色で描かれている。
「――私たちは必ず勝ってみせる」
リシェルは、歩きながら自分にも確かに言い聞かせた。
「――そして、真実を白日のモトにさらす」
並ぶ4人も歩きながら頷いた。
リシェルは、最後にもう一度だけ会場に振り返る。
「これが、私たちの復讐――」
競技用ロッドを磨き続けるドルハ
メガネを掛けて調べ物をするエリス
清掃用具を倉庫にしまうシュウ
自室のベッドでモヤモヤ体育座りのリン
リシェルは、試合会場を睨みつける――
思い渦巻く親善大会、その前夜――
3チーム3様の時間が過ぎていく。
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