モンスターの預かり屋さん

ねこじゃ・じぇねこ

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傷だらけの人魚姫

6.戦うお姫さま

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「あ、あなたは……」

 メイプルがおそるおそるたずねると、ローズマリーはキリっとした表情で答えました。

「私はローズマリー。水の国の女王マリーゴールドの血を引く娘の一人だ……」

 ひかえめながらもはっきりとそうげられて、メイプルたちは思わずたじろいでしまいました。女王の娘。それはつまり──。

「おひめさまってこと?」

 おどろくシロップの言葉に、ローズマリーは落ち着いた様子でうなずきました。

「ああ、そういうことになる。姉が数名いるからおそらく次期女王にはえらばれないだろうけれどね」

 それでも、お姫さまはお姫さまです。
 メイプルたちはすっかりとまどってしまいました。騎士というだけでもある程度は地位のある人魚なのだと分かってはいたのですが、まさかお姫さまだなんて誰も思っていなかったからです。
 それに、大変なことだとメイプルたちはそれぞれ思いました。

「なるほど、こんなご時勢じせいだっていうのに、水の国の女王さまは相手国への報告にお姫さまをよこしたってわけかい?」

 思わずそう言ったポポに対し、ローズマリーは軽くうつむきながら答えました。

「こんなご時勢だからだろう。母なりの考えがあってのことだった。光の国とは対立しているが、光の王は決して暴君ぼうくんなどではない。彼にこの度の報告を信頼しんらいしてもらうためにも、ある程度の地位のある者こそが向かうべきだと。地の国や風の国も同じだ。私の妹たちが使節団をひきいて向かったのだ。彼女らは無事に帰る事が出来ただろうか……」

 不安そうにつぶやくローズマリーを前に、メイプルはますます気まずさを感じてしまいました。
 輝く心にパートナー妖精。
 光の国に生まれ育って以来、メイプルのそばにはいつも明るさがありました。彼女の成長を見守ってくれた光の国の人々は、誰しも輝く心を持っていて、自分たちが正しいと信じた道に向かって歩んでいきます。
 そのきらめきが、メイプルはずっと好きだったのです。それだけに今、心がひどくゆらいでいることに気づいたのです。

 ──わたし……ずっと信じていたんだ……。

 メイプルは思いました。

 不死鳥のハイビスカス、闇の国出身のポポ、火の国から流れ着いたフェンネル……みんな誰しも困っているからこそ、光の王さまのおふれを無視してでもかくし通してきました。
 この度のローズマリーだってそうです。彼女が水の国の騎士であり、王女であろうと、兵隊へいたいさんたちのまえにき出すつもりなんて全くありません。
 けれど、その一方で、メイプルはこれまでの自分が抱いていたある事に気づいたのです。

 ──わたし、ずっと思っていたんだ。光の国は間違まちがわないはずだって。

 王さまだけではありません。
 この国に暮らす人々の輝く心のことを、メイプルはもっと信じていたのです。
 根拠こんきょなんてありません。あるとすれば、きっと愛着でしょう。
 この国に生まれ、幸せに暮らしてきたからこそ、メイプルは故郷の事が大好きだったのです。だからこそショックだったのです。光の国で起きてしまったことが。

「まさかとは思うが、あんたをやったのは光の王さまなのだろうか……」

 そこへポポがおそろしい事をつぶやくと、一瞬だけ、不安になるくらい、あたりがしんと静まり返りました。
 けれど、その沈黙ちんもくるように、ローズマリーは答えました。

「分からない、というのが正しい。さっきも言った通りだ。誰の差し金かはハッキリとしていない。だが、そうでないと私は信じたい。光の王は、たしかに気むずかしそうな印象いんしょうだった。しかし、母が信じていたように、暴君などではないと感じた。きっと、どうしても魔石を研究したい理由があるのだろう。そちらばかりに気を取られているようだった。彼のその思いが、私たちをおそう動機につながるとは思えない」
「では、いったい誰がやったのかしら」

 シロップが考え込んだその時、フェンネルがしっぽをゆらしながらローズマリーにたずねました。

「ねえ、お姫さま。お姫さまはこれからどうしたい?」

 すると、再び周囲しゅういは静まり返りました。ローズマリーもまた一瞬だけきょとんとしましたが、体をすこしねじり、魚のしっぽをぴちぴちとゆらしてみてから、おそるおそるといった様子で答えました。

可能かのうであれば、ここで少し休ませて欲しい。長居ながいはしないし、迷惑めいわくをかけそうなら、すぐに出て行くと約束する」

 そんな彼女に対して、メイプルはすぐさまうなずきました。

「いいよ。好きなだけ休んで。迷惑なんてなにも思わなくてもいいから、どうか無理だけはしないでね」

 必死になってうったえるメイプルを前に、ローズマリーはきょとんとしました。予想していた以上にやさしい返答だったためでしょう。しかし、すぐに笑顔を取り戻すと、目を細めておじぎをしました。

「……ありがとう。本当にありがとう」

 その目じりには真珠しんじゅのような小粒こつぶなみだが光っていました。

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