モンスターの預かり屋さん

ねこじゃ・じぇねこ

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居場所のないモンスターたち

8.本当の平和が戻る日まで

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 メイプルたちの命がけの引っ越しの日から、あっという間に数か月の時が経ちました。
 新しい施設はすっかり預かり屋さんとして機能していて、あらゆる国から集まってきたモンスター好きの人々がメイプルたちの仕事を手伝ってくれました。
 ここではハイビスカスはもちろん、ポポやフェンネルもかくれる必要はありません。堂々どうどうと姿をあらわして、メイプルたちのお手伝いをすることができるようになりました。

 新しい環境で、メイプルたちはとにかく目の前のモンスターたちに向き合い続けました。
 光の国から共に引っ越してきたモンスターたちはもちろん、その後もさまざまな経緯けいいで長旅をしてやってきたモンスターたちもたくさんいました。
 いずれも、預けられた日はもとのお家や家族の事をこいしがってなきました。
 けれど、メイプルたちや先に預けられていたモンスターたちがやさしかったおかげでしょう。それぞれのペースで少しずつ心を開いてくれるモンスターたちが大半でした。
 それでも、メイプルがふと考えるのは未来の事でした。せめて、あのおそろしい戦いが終わってくれれば。しばらくの間、ただひたすらそればかりを願いました。
 終戦の報道ほうどうがようやくあったのは、そんな日々の果てでした。闇の国側が全面降伏ぜんめんこうふくする形で終結しゅうけつし、光の国では戦勝パレードが行われることになったという報道でした。

 ──……終わったんだ。

 その日、メイプルは静かにそう思いました。

 その翌日より、新しい預かり屋さんのもとには連絡が来るようになりました。
 それは、預けられたモンスターを迎えに行きたいという光の国からの相談が大半でした。どんなにれ親しんでいても、やっぱりお家にまさるものはないのでしょう。
 本当の飼い主が迎えに来てくれると分かると、モンスターたちは目を輝かせて喜びました。そして、数か月ぶりの再会をよろこぶ場面を何度も目撃もくげきすることになり、メイプルは心から思ったのでした。やっぱり、あの時に引っ越したのは間違いじゃなかった、と。
 光の国の人々は、愛するモンスターを命がけで守ってくれたメイプルたちのことをたたえました。そして口々に願ったのは、再び光の国に戻ってきてくれることでした。
 メイプルは迷いました。
 きっと光の国ではモンスターを預かる人がまだまだ少ないはずだと。
 けれど、うんと考えたすえにメイプルは彼らに言いました。

「ごめんなさい、みんな。わたし達はまだここを離れることができないの。まだ誰も引き取りに来ないモンスターがいるし。それに──」

 戦争に勝った光の国と風の国、地の国は戦争の痛手いたでもありながら、すでに明るい空気が戻ってきているようです。
 けれど、負けた方は違います。闇の国、火の国、水の国は、その痛手にくわえて負けてしまったためにたいへんな損害そんがいを受けました。
 勝敗が決まるきっかけは、戦地からさらに光の国側の兵隊さんたちが闇の国の内部まで攻め込んだためでもあったので、特に闇の国では被害が大きかったのです。
 家をこわされ、困っている人達が多い事をメイプルは知っていました。デーツが各国の新聞を取り寄せていたために知る事が出来た記事でもありました。
 困っている人を助けたい。メイプルのその願いにすがるように問い合わせてきたのは、敗戦国となった国々に住むモンスター好きの人達でした。
 彼らの悲痛な声を聞きながら、メイプルはここから立ち去らない決意を日に日に固めていったのです。

「本当の平和が戻る日までは、わたしはここを動かないつもりです」

 メイプルがそう宣言せんげんするようになると、ポポはひそかにある決意をかためました。平和になりつつあっても、相変わらずカエルの姿のままで、元に戻る方法もなかなか見つかりません。フェンネルががんばってさがしてくれるのですが、手掛てがかりは見つからないままでした。それでも、パームとの関係も変わっていませんでした。時代が変わっても、がんばり屋のポポのことを、パームは遠い光の国からずっと思い続けていたのです。
 ある日、ポポはパームとの電話の中で、あることを告げました。

「なあ、パーム。大事な相談があるんだ」

 それから半年後、新しいメイプルの預かり屋さんがさらににぎやかになりつつあった頃に、ある大きなイベントが開催されました。
 それは、ポポとパームの結婚式でした。
 ポポの姿はやっぱり変わっていません。カエルながらとても立派りっぱな正装に身を包み、パームと並んで、メイプルたちみんなの祝福しゅくふくを受けていました。おいわいしてくれるのはモンスターたちも一緒です。
 そんな晴れやかなムードのなか、シロップはこっそりポポにささやきました。

「それにしても、どうして気が変わったの? 一生に一度のことだからカエルのままはいやだなんて言っていたくせに」

 すると、ポポはじらいながら言いました。

「きっと時代のせいだね。この激動げきどうのなかで、オイラ思ったんだ。一生に一度の事だからこそ、後回しにしちゃいいけないこともあるんだって。それに気づいたんだ。カエルだろうと人間だろうとオイラはオイラだ。パームもそう言ってくれた」
「ふうん。お熱いのね。でもいいことよ。おめでとう、ポポ。お幸せに」

 こうして晴れてパームと夫婦ふうふになったポポでしたが、ふたり一緒に暮らせるわけではありませんでした。
 パームにはお店もありましたし、かといって光の国で今のカエルの姿のまま一緒に暮らすのはまだまだ少し不安だったのです。
 それでも、パームはたびたびメイプルたちに連絡を入れましたし、頻繁ひんぱんに会いに来てくれましたので、ポポもさみしくありませんでした。
 むしろ、その日を待ち望んでこれまで以上にがんばり屋になったくらいです。それにポポにもポポのやりがいというものがありました。メイプルのもとで預かり屋さんを手伝うことは、いつの間にか生きがいにもなっていたのです。

 それは、フェンネルも同じです。これまでとは比べ物にならないほどの自由を手に入れたフェンネルに、メイプルたちは言いました。
 好きなだけ遊んでいていいんだよ、と。フェンネルは大喜びで初めのうちはたくさん遊んでいました。ところが、遊びあきてきたのか、いつの間にかフェンネルもまたメイプルたちを積極的に手伝うようになったのです。
 とくに光の国では馴染なじみのうすかったモンスターが来た時などは、フェンネルの心の図書館が役立ちました。これまでだってそうでしたが、これまで以上に心強いスタッフになってくれたのです。

 そうした仲間たちに支えられながら、ある夜、メイプルはシロップに語りました。

「ねえ、シロップ。わたしね、ここへ来てから毎日がこれまで以上に光輝いているように思えるの。どうしてかな。つらくて悲しいこともいっぱいあったし、大変なことばかりだった。でもね、色んなことをちゃんと知る事ができた気がするの。たくさんの人やモンスターたちが不幸になるようなこと──たとえば戦争なんてしちゃいけないとかそういうこと。それにね、闇の国の人達みたいにこれまであまり知らなかった国の人達と関わるようになったからかな。世の中がものすごく開けて見えるような気がするの」
「あら、それはつまり今まで以上に成長したってことなのでしょうね。すばらしいことよ、メイプル。でも、今日は早く寝ましょう。明日もまた、たくさんのモンスターたちと向き合わないといけないのだから」
「うん、そうだね。おやすみ、シロップ」
「おやすみ、メイプル」

 夜の挨拶あいさつを交わして明かりを消すと、メイプルは程なくしてすやすやと眠ってしまいました。
 その真横で寄り添うように眠りながら、シロップもまた心からの笑みを浮かべていました。シロップは感じていました。これまで以上にメイプルの心が輝いている事を。
 その輝きは光の国にいた時とは比べ物になりません。そのことは確かでした。

 本当の平和が戻る日はいつなのか。それは、シロップにも分かりません。
 闇の国も火の国も、そして水の国も、あのおそろしい戦争の被害から立て直すには時間がかかりそうです。それは、戦いに勝ったはずの光の国、地の国、風の国も同じです。
 その間にも、色々な事情を抱えたたくさんのモンスターたちがメイプルのもとにはやって来ることでしょう。けれど、シロップは信じていました。
 もしも、本当の平和が戻る日がいつになろうと、メイプルは希望を捨てずにモンスターに向き合い続けるでしょう。そして、シロップもまた、そんなメイプルのそばで一緒にお世話をすることでしょう。
 そして、たくさんの人々やモンスターたちの居場所ができることで、本当の平和が戻る日が近くなるはずなのだと。
 シロップはそう思いながら、すやすや眠るパートナーのおでこにそっと口づけをしました。そして、心の中でささやきました。

 ──がんばろうね、メイプル。

 希望のともし火が心の中にともったからでしょう。その後はシロップもまた安心して眠りにつくことができました。
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