死神、はじめました!

Tale

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#1 50ぱーせんとは1000000ぱーせんと

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「・・・」



 僕は、正面に座る茶髪の友人、幸介こうすけが持つ裏向きに向けられた二枚のトランプと睨めっこしていた。



「諦めろよ透、俺に勝てるわけないだろ」



「うるさいな!これに負けたら僕のハンバーグ無くなっちゃうんだぞ!」



 現在僕たちは、幸介を含めた数人で、給食を賭けてババ抜きをしている。



 僕たちの通う高校は給食制で、生徒一人一人に決められた量のおかずや白飯などが配給される。



 味は絶品で、生徒や職員からも評判は良い。



 だがまぁ、高校生の食欲ともなれば規定の量なんかで足りるはずもなく、ナイスなおかずがテーブルに並んだ日には定期的にこのギャンブルが開催されているのだ。



 通称「給食ギャンブル」。



 ・・・絶妙にダサいな。



 そして、この給食ギャンブルの頂点に君臨するのが、今僕が対峙している男、神田幸介かんだこうすけ



高校からの友人で、顔立ちはそこそこ整っており、ある程度女子からの人気もあるそうだが、内面はただのバカである。



 筆記テストではいつも最下位争いに参戦しており、進級も危ぶまれる程度と聞いた。



 しかし、そんな残念な一面をも無かったかのようにしてしまうのが、彼の持つ、圧倒的なまでの運である。



 ついこの間でいえば、幸介はマーク式の試験で全教科満点という偉業を成し遂げた。



 そのせいで、成績は低いのに超難関大学のS判定を貰って新聞に載るという訳の分からない事態も起きたりした。



 後々彼に聞いてみれば、適当に塗ったら全部当たったとか平気で抜かすのだから、本当に彼の持つ運は恐ろしい。



 そういえば、あの伝説のロイヤルストレートフラッシュ13連敗も神田幸介によって築かれた神話の一つである。



 そんな、神に好かれ、運に導かれた男に、現在僕のハンバーグは奪われようとしていた。



「おい、早く決めろって。どっち選んでも変わらないから」



「うるさいうるさいうるさいうるさい!もしかしたら、もしかしたら僕が勝つことだってあるかもしれないじゃないか!!!」



「無いね。断言するよ」



 幸介はそう言い切り、周りの皆もそれに頷いた。



「何だお前ら!いくら僕が運悪いからって!」



 でも実際、給食ギャンブルを何度かやってきて複数人の勝者が出た事はあっても、その中に幸介が居なかったことは、一度として無いのだ。





 たとえどんなに不利なゲームを持ちかけても、確率が関与する勝負であれば彼は必ず勝利する。



 神田幸介とはそういう男なのだ。



 ・・・じゃあ何で負けると分かっているのにギャンブルなんてやっているのか、という話になってしまうのだが、そこはまあ、男のロマンであろう。



 もし奇跡的に、天文学的確率ででも幸介を踏破することが出来たなら。



 その先に広がるのは楽園エデン、無数のハンバーグである。



 そんな楽園への切符を手に入れるため、僕はもう一度幸介の持つトランプと睨めっこをする。



 そして、出した結論は。



 左。



「僕は、この手でハンバーグを掴む!」





 僕は思いっきり、トランプが裂けてしまうのではないかと思うほどに強く、左のカードを引き抜いた。



 その刹那、幸介の瞳からは灯が消える。



 ・・・やったか!?



 思わず期待に胸を躍らせる。



 しかし、僕の手に握られていたのは。



 ペアとなるスペードのAではなく、道化師の描かれた無駄に豪勢な紙切れ、いわゆるジョーカーだった。



「何・・・だと」



 思わず膝から崩れ落ちる。



 そして幸介は先ほどまでの虚ろな表情とは一転し、喜々とした顔を浮かべる。



「やっぱ透には、ジョーカーがお似合いだな」



 そう言いながら、幸介は地べたに横たわる僕が握るトランプを、悩むこともなく適当に引き抜いた。



 しかし勿論、この男にかかれば。



「よし、スペードのA。俺の勝ちだ」



 1/2、50%はこいつにとって1000000%。



 朝飯前も朝飯前、もはや夜飯前なのである。



 これが神に愛され、運に導かれた男、神田幸介。



 そうして勝利した幸介は、僕と数人の友人の皿に盛られたハンバーグを箸で鷲掴みにし、自分の皿に移した。



 そうして自分のもとに残ったのは、野菜しか残っていない皿一枚と、白飯のみである。



 何度も目にした光景ではあるが、やはりそれはとても虚しいものであった。



「クソっ、何で!?今回ばかりは勝ったと思ったのに!」



「確率で俺に勝とうとすることがまず間違いなんだよ」



 幸介がドヤ顔でそう言い放つ。



「何だテメェ。あれだ、お前罪人ギルトだろ。罪生か何かで運を操ってるんだろ!絶対そうだ!」



「そんな訳ないだろ。俺が罪人ギルトだったらとっくにお前ら殺してるよ」



「え」



「いや冗談だけど」



 そんなこんなで、本日の給食ギャンブルは、これにて終了した。



 結果から言えば、ただ幸介の勝ち星が一つ増えただけなのだが。



 いや、ハンバーグも増えてるな。



 許すまじ神田幸介。







 最高に質素な昼食をとりつつ、気付けば昼休みは終わりに差し掛かっていた。



「なぁ透、そういえば今朝のニュース見た?」



 たらふくのハンバーグで腹を満たした幸介が、僕に問いかける。



「いかにも今思い出したって感じだな」



「実際そうだから。で、見た?」



 今朝のニュースっていうと、まぁあれか。



、ってやつね」



 昨日の夜、国内で一番の大きさを誇る国立刑務所から、罪人ギルトが一名、脱獄したというのである。



「それそれ。あれについてどう思う?」



「どう思うって言われても」



 ニュースを見る限り、疑問点はいくつかあった。



 まず、重警備で有名な国立刑務所が罪人ギルトの脱獄をまずまずと許すなんてことが有り得るのか。



 そもそも罪人ギルトは刑務所に収容される際に拘束具で罪生を封じられるため、使だしな。



 それに。



「透、今回脱獄したのって、手を刀に変える罪人ギルトなんだろ。なのに、何で脱獄に炎を使ったんだろうな」



 そう、今回脱獄したのは、名前こそ忘れたものの、手を刀に変える罪人ギルトなのである。



 それなのに何故か、その罪人ギルトは脱獄時に自らの手刀ではなく、のだ。



 調べによるとその罪人ギルトの独房内は壁一面黒焦げになっていて、溶岩でもビクともしないと言われた特製の鉄格子がドロドロに溶かされていたようだ。



 ここに、僕は何か取っ掛かりを感じていた。



「・・・ニュースだけじゃ情報が少なすぎて分からないけど、もしかしたら選んだんじゃなくて、選ばざるを得ない状況だったんじゃないのか」



「どういう意味?」



 幸介はキョトンとした表情でこちらを見つめる。



「つまりだ。その罪人ギルトにはが居たんじゃないかってことだよ。自分の罪生では脱獄が不可能と判断したのか、はたまた別の理由かは定かじゃない。だけど、重警備を破るほどの炎となれば、マッチやライターってレベルじゃ到底不可能だ。だとしたら、やっぱり何者かが関与していると見ても良いんじゃないか。それも、



 まあ別に僕は現場を見た訳ではないから結局のところ憶測なのだが。



「なるほどね。透にしては実に面白い意見だ」



 頬杖を突きながらそう言う幸介。



「お前何様だよ」



「ハハッ、幸介様さ」



「なんやこいつキモすぎるやろ」



 思わず関西弁が出てしまうほどにはこのおちゃらけ豪運馬鹿に腹が立った。



「まぁでも多分、透の読みは当たってると思うよ」



 幸介は自信げに言う。



「何でそう言い切れるんだ」



「まぁまぁ落ち着けって。今朝兄貴が教えてくれたんだけどさ、事件当時の刑務所の管理人がな、黒装束の怪しい男を見たって言ったらしいんだよ」



「何でそんなこと知ってんだ・・・って、そういえば局の人だったな。お前の兄ちゃん」



 局きょく。



 正式には死立厚生執行局しりつこうせいしっこうきょく



 死神が運営している、罪人ギルト撲滅に向けて動いている組織。



 局は現在二つの役割を担っており、一つは昔で言う司法に当たる、執行局、『断罪担当だんざいたんとう』。



 死神は、無力化した罪人ギルトであればその罪人ギルトの影に入ることで直接罪に対して裁きを与えることが出来るため、決められた死神が罪人ギルトの影に入り、罪本体を裁いている。



 正当な手順で行うことで、罪人ギルトを人間に戻すことが可能である。



 そして、もう一つは昔でいう警察、執行局、『執行担当しっこうたんとう』。



 こちらはあらゆる現場に赴き、実際に罪人ギルトと交戦して無力化するのが仕事。



 生半可な実力では罪人ギルトに返り討ちにされるため、局の中でも選りすぐりの精鋭しか『執行担当』には認定されない。



 ちなみに、通常の死神には協議によって武器の携帯は許可されていないのだが、『執行担当』には武器の携帯が許可されている。



 そして局には人間も働いており、主に書類の整理やデータの編集などと雑務を担当している。



 幸介の兄もここで働いているそうだ。



「そういうこと。兄貴はそん中でも聞き込みとか現場の調査とか、そういう部類だからさ、情報の回りが早いんだよ」



「なるほど。死神の会社で仕事してるとか、兄ちゃんも大変だな」



「まぁそうでもないらしいけどね。少なくとも『断罪担当』の死神は皆優しいって。『執行担当』は・・・って感じ」



 その・・・にどんな意味が含まれているのかはあえて聞かないでおこう。



 と、僕らが今朝のニュースについて話を咲かせていると、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。



「時間か。じゃあ透、また後で」



「おう」



 そう言って、幸介は自分の机へと戻っていく。



 しばらくして教室には教師が入ってきた。



「よし、授業始めるぞ。今回は自由落下からだ」



 なんにも授業の支度をしていなかったが、どうやら科目は物理らしい。



 四、五分話を聞いてみたが文系の僕にはまるで呪文を唱えているようにしか聞こえなかったので、諦めて寝ることにした。



 ばいばいニュートン、僕も夢の世界にとするよ。
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