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2章 雑貨屋でバイトはじめました

初任給

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北西エリアは普段は俺のような男はあまり近づかないエリアだ。
女性向けの服やアクセサリー、雑貨なんかを扱う商店街が多く、いつも若い女性があつまっている。
エルデネンス女子の流行の最先端といった場所のようで、4日前にミアナに連れられて来たことがある。


そのためか、大通りよりも道幅こそせまいものの、店の数は多く人通りも良い印象だった。


ふと、アリウムが足を止めた。

「ここが私のお店予定地。まだお店の内装は途中らしいんだけど、バックスペースは完成してるから、そこで干しましょう」


腰から下げていたキーホルダーから大きな鍵を選び、建物の鍵穴に差し込む。
クルグルモランとは対照的な、白い壁の目立つ綺麗で清潔感のある外装は、いかにも女性向けというような印象だった。
……いくらイケメンに転生しているとはいえ、男の俺が働いていても大丈夫なんだろうか。


まだかろうじて壁紙が貼られているだけで棚も何もないショップスペースを抜け、バックスペースに向かう。
バックスペースにはお店の外装には合わない、古くて大きな棚が置かれていて、そこには木箱や色とりどりの瓶・包装紙などが置かれていた。

しかし、テーブルや椅子などの置かれていないバックスペースはひどく広く感じだ。


「朝香草のポプリは日陰干しで作るの。ちょっとまってて。」


そう言って、アリウムは壁に立てかけられていた大きなリネン生地を床に広げた。
そして、袋から一つずつ朝香草の花を取り出すと少しずつ間をとりながら布の上に並べはじめた。
それを見て、俺も見よう見まねで朝香草を並べ始める。

20Lの袋いっぱいに詰まった朝香草を並べるのはひと仕事といった感じで、先に袋の中身を並べ終えたアリウムを手伝わせてしまうことになった。



余分についている茎や、ゴミなどの取り除く作業もあったためかすべての朝香草を並べ終わる頃には窓の外はすっかり明るくなっていた。

バックスペースにかけられた壁掛け時計を見ると、すでに午前8時を指していた。


「ケント、貴方朝食は食べてきたの?」

ふう、と一つため息をついてからアリウムは時計を見ながら言う。


「あぁ、食べてきたよ。ミアナがわざわざ起きて作ってくれたんだ。」

俺がそう言うとアリウムは、含み笑いを浮かべながら小さな声で、

「熱いわね」

と言った。

「ミアナが優しいだけだって!」

感情に抑揚のない印象のあったアリウムがこういった話で茶化してくるというのは少し予想外だったが、それだけ気を許して貰えるようになったのだろうか?


「まあ良いわ。今日はこれ以上やってもらう作業が無いから、これが報酬……と、明日からは朝食も出すからミアナさんにはゆっくり休んで貰って」

そう言って、銅色の硬貨を4枚渡される。
たしかこの硬貨は1枚50ミン。だいたい現代日本で考えると1000円くらいの価値らしいから今日の報酬は4000円といったところか。
お礼を言ってから受け取ると、アリウムが少しだけ眉を下げる。

「お店がオープンしたらもう少し渡せると思うから。……あ、明日は朝8時にこの店に来て。じゃあね」

そういってアリウムが小さく手を振る。
再度お辞儀してから棚も何もないショップスペースを通り、店の外に出る。


街はもう活気あふれる朝の街へと変貌していた。
学校もないのに、子供たちは元気に町中を走り回っている。

……何かミアナにお土産でも買っていこうかな。
もらったばかりの4枚の硬貨を、そっとポケットの中で握りしめて屋敷へと向かった。



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