最強スキルは勇者でも聖女でも賢者でもなく肝っ玉母ちゃん!?

紅葉ももな(くれはももな)

文字の大きさ
2 / 18

第一話『日常崩れ去る!?』

しおりを挟む
 眩い閃光に目を瞑りまだ五歳になったばかりの歳のひと回り歳の離れた弟を守るために腕に抱き締め気がつけば、三ツ塚由紀(みつづかゆき)は石材が敷き詰められた冷たい床の上に座り込んでいた。

 なにやら赤い塗料で不思議な模様が座っている床に描かれており、目の前に日本ではありえない……大変ファンタジーな衣装を纏ったカラフルなコスプレ集団がこちらを見下ろしている。
 
「おお! 勇者様方ようこそいらっしゃいました! どうか凶悪な魔族の手によって苦しめられている人類をお救いください!」

 集まっているコスプレ集団の代表者だろうか……それまで聞いたことがない言語の筈なのに彼らの言葉が不思議なことに理解できる。

 これから何が起こるのかわからないけれど、厄介事に巻き込まれたのだけは間違いないだろう。

 ……………………

 まず自己紹介となぜこのような不可解な出来事に巻き込まれたのか経緯をおさらいしようと思う。

 改めまして私の名前は三ツ塚由紀(みつづかゆき)十七歳、三ツ塚家六人姉弟の長女です。

 三ツ塚家の朝は早い、朝五時頃に隣に寝ている五歳の末の弟の奏音(かなと)を起こさないように注意して部屋を出る。

 手早く洗顔などを済ませて由紀が通う高校の制服に着替えると、制服を汚さないように着慣れた奏音の好きなキャラクターのワッペンが付いた割烹着を重ね着する。

 エプロンも試してみたものの、料理で跳ねた油などで袖口が汚れてしまうため今ではすっかり長袖タイプの割烹着だ。

 水を汲んだヤカンをガステーブルの上に乗せて火にかける。

 毎朝味噌汁を作っていたけれど、最近ではコーンスープだったりコーヒーだったりと、それぞれが飲みたいものを自分で用意するようになったのでお湯だけ用意すれば良いから楽ちんだ。
 
 我が家は三年前程前のある日、なんの前触れもなく母が失踪した。

 もちろん夫婦仲が悪かった訳じゃないよ。

 子どもが六人も居るのに、夫婦仲は娘の由紀が恥ずかしくなるくらいラブラブで近所でも有名なおしどり夫婦だったから。

 馴れ初めを聞いたところによると、父親の三ツ塚アルトリードの母国に旅行に来ていた純日本人の母、三ツ塚友里(みつづかゆり)に一目惚れした父が熱烈アピールの末、日本に籍を入れる形で結婚までこぎつけたらしい。
 
 金髪碧眼のラテン系っぽい外国の血を引くアルトリード父さんは日に焼けた小麦色の肌に少し癖のあるセミロングヘアを適当に後ろで一つに結んでいる。

 寝起きなんか寝癖で髪の毛があっちこっちに跳ねまくっているけれど、こんなんでもファッションモデルが出来るくらいにイケオジだ。

 母が失踪した当時、アルトリード父さんはお母さんを捜して、捜して捜して……残された由紀や弟達まで気が回らなかったんだよね。 

 完全に育児放棄も良いところで、当時十四歳だった由紀は、必然的にお母さんの代わりをすることになってしまった。

 受験に家事に家計管理、弟達の世話とまぁ気が付けば既に三年、主婦業も板につきこれならいつでも嫁に行けるでしょってレベルになってしまった。
  
 洗面所に行って夜のうちに回しておいた洗濯機から濡れた服を取り出して、クリスマスプレゼントに買ってもらった衣類乾燥機に移し替えてスタートボタンを押せば、機械音が響いたあとガラリガラリと回り出す。

 保育園へ行く奏音(かなと)と、最近は少しだけ落ち着いたのか仕事へ行くようになったアルトリード父さん、そして女子高校生になった由紀の分のお弁当を作りながら、熱したフライパンに7人分の目玉焼きとウインナー、既に千切りになった状態でパック売りされているキャベツを皿に乗せて、彩りにぷちトマトを一個乗せれば朝ごはんの完成だ。

 由紀は、作りながら朝食を済ませるのが日課だ。

 ちなみに三ツ塚のルールで御飯かパンかは食べたい人が自分で用意することになっている。

「姉ちゃんおはよ~」

「そうちゃんおはよう! 悪いんだけど遥斗(はると)と陸斗(りくと)起こしてくれる?」 

 由紀の次に起きてくるのは大体長男の三ツ塚蒼汰(みつづかそうた)だ。

 由紀より二歳年下の十五歳で今年春に高校受験を控えており受験勉強の真っ最中だ。 

「わかったついでに星夜(せいや)を起こして奏音(かなと)連れてこさせるよ」

「お願いします!」

 蒼汰に頼んだのは更に下の弟達を起こしてもらうお仕事だ。

 一応格安スマホで目覚ましのアラームは掛けているはずだけど、まず起きない。

 特に十三歳になる次男の星夜は外見も良いし頭も良いからモテるみたいだが、朝低血圧でまず起きられないのが玉に瑕だ。 

 三男の陸斗と四男の遥斗は一卵性の双子で今年十歳の小学校五年生になった。

 陸斗はなにかと残念なやんちゃ坊主だし、遥斗はいつも眠そうにおっとりしているので一卵性の双子でここまで性格に差が出るのかと星夜(せいや)が夏休みの自由研究テーマにしていた事もある。

「姉ちゃんおはよ~」

 次々と起きてきた弟達を洗面所に、送り出して洗顔が終わった順で食卓に座っていく。

「おねぇちゃんおはよう」
 
 蒼汰と手を繋いで眠い目を擦りながら起きてきた奏音を抱き上げる。

「かなちゃんおはよう、お着替えしよっか?」

「うん!」  

「そうちゃんありがとう、ご飯食べちゃって」

「はーい」

 他のみんながご飯を食べ始めるのを見ながら奏音の着替えを手伝って保育所用のリュックサックにお弁当と水筒を詰める。

「よし出来た! かなちゃんはご飯にする?それともパンにする?」   
 
「ぼくパンがいい! いちごジャム塗ったやつ!」

 かわいい笑顔に癒やされながら、既に食べ終わった陸斗に奏音のお世話を頼んで食べ終わった食器を洗っていると、大きな欠伸(あくび)をしながらアルトリード父さんが起きてきた。

「父さんコーヒーは?」

「すまん貰えるか、ブラック濃いめで頼む」

 ちなみにアルトリード父さんはインスタント派だ。

 豆からドリップするコーヒーは薄く感じるようで、顆粒状のインスタントコーヒーを濃い目に入れるのが好きだ。

「父さん、今日かなちゃんの迎え頼んでもいい? 朝はいつも通り私が乗せていくから、私帰りにスーパーで特売の卵と牛乳買ってきたいの」

 由紀が通う高校との間にある奏音の保育所にチャイルドシート付き自転車で送り届け、そのまま高校へ向かうのが由紀の日課だ。

「あぁ大丈夫だ、今日の撮影は午前中で終わる予定だからな」

 そんないつものやり取りをしていたとき、ガタガタと家具が小さな音を立てて揺れだした。

「やだ、地震?」

「おねぇちゃんこわいよぅ」 

 洗い物の手を止めて奏音の側へ移動する。

 次第に強くなっていく地震にすぐに逃げられるように椅子から奏音を抱き上げた。 

 その途端、由紀達の足元を中心にしてぶわりと光の線が床一面に走りなにか模様が浮かびあがってくるじゃぁないですか!

「うわっ、なんだこれ魔法陣か! 見ろよ遥斗!  かっけぇ!」 

「痛いよ陸斗」
 
 陸斗は隣に座っていた寝ぼけている遥斗の肩をつかんで興奮しながら揺さぶっている。 
     
「なんだかわからないがとりあえず外に出よう」

「くそっ、油断した! いいかお前たち、魔王城を目指せ!」

「ぶっ、父ちゃん魔王城ってウケる」

「うるせぇ陸斗! 真面目に聞きやがれ! 魔王城を目指せ! わかったな!」

 いつになく真剣な様子で声を荒げるアルトリード父さんの迫力にみんなで頷く。

 眩い光に視界を奪われ、アルトリード父さんの声が遠ざかる……気が付けば、腕に抱いた奏音と一緒に石材が敷き詰められた冷たい床の上に座り込んでいた。 
   
「痛ってえなぁ……なんなんだよいったい……」

「陸斗は頑丈だから大丈夫……」

 どうやら何処か身体をぶつけたらしく、悪態をつく陸斗に遥斗がなにも問題ないといつもどおりのテンションで頷いている。
 
「しかしここは一体……」

 周りを見渡す蒼汰と思案顔で考え込みだした星夜を見る。

「今流行の異世界転移、もしくは勇者召喚というやつでしょうか?」   

「星夜兄ちゃんまじ!? ひゃっほう!」

「ひゃっほう……?」

 星夜の言葉に陸斗が、嬉しそうに両手を突き出すように上げて雄叫びを上げると、遥斗が陸斗のマネをして両手を上げた。

「ねぇちゃん、ここはどこ? ぼく……おうちに帰りたい」

 腕の中からクイクイと奏音が胸元の衣服を引っ張った。

 不安そうな大きな瞳は今にも泣き出しそうなくらいに潤んでしまっている。

 奏音の身体を抱き直してその背中をトントンとあやすように優しく撫でた。

 「そうだね、早くお家に帰れるようにお父さんに説明してもらおうか、なにか知ってそうだったし」

 この不思議体験の最中に、いきなり魔王城を目指せなんて言う冗談なんだか本気なんだからわからない事を言っていたのだから、きっとなにか知っているだろう。

「そういえば父ちゃん居なくね?」

 そう言われて周りを見ればアルトリード父さんが居ない。

「一体親父(おやじ)はどこ行きやがったんだよ、ほんと大事なときにいやがらねぇよな」

 お母さんが居なくなった時といい、今回といい……本当に頼りたいときに居ないのが我が家の父、アルトリード父さんだ。

「本当に……ね」

 四方をレンガに囲まれた様な室内をよく見れば、私達を遠巻きに取り囲むように赤や青、紫や緑と色とりどりの髪色をしたコスプレ見たいな服の人々が息を潜めていた。

「おわっ、何だ!?」
 
 やっと周りが見えたのか陸斗が声を上げると、それまで様子をうかがっていた外野が一斉に歓声をあげる。

 辺り一帯が異様な熱気に包まれる中、どうやらその熱気に気圧されたらしい陸斗が由紀の背中に、しがみついた。
 
 そんな人々よりも一段高い場所にいた壮年の男性が右手を上げると騒がしかった歓声が静まっていく。

 毛皮で縁取りされた真紅のマントを羽織り、高そうな衣装を着ており、顔にはたっぷりとした髭を蓄えその頭上には王冠が鎮座していた。
 
「おお! 勇者様方ようこそいらっしゃいました! どうか凶悪な魔王を倒し魔族の手によって苦しめられている人類をお救いください!」

 はい!? なんですと!?
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。 聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎ 望みはカフェでのスローライフだけ。 乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります! 全30話予定

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界転移して冒険者のイケメンとご飯食べるだけの話

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社畜系OLの主人公は、ある日終電を逃し、仕方なく徒歩で家に帰ることに。しかし、その際帰路を歩いていたはずが、謎の小道へと出てしまい、そのまま異世界へと迷い込んでしまう。  持ち前の適応力の高さからか、それとも社畜生活で思考能力が低下していたのか、いずれにせよあっという間に異世界生活へと慣れていた。そのうち家に帰れるかも、まあ帰れなかったら帰れなかったで、と楽観視しながらその日暮らしの冒険者生活を楽しむ彼女。  一番の楽しみは、おいしい異世界のご飯とお酒、それからイケメン冒険者仲間の話を聞くことだった。  年下のあざとい系先輩冒険者、頼れる兄貴分なエルフの剣士、口の悪いツンデレ薬師、女好きな元最強冒険者のギルド長、四人と恋愛フラグを立てたり折ったりしながら主人公は今日も異世界でご飯を食べる。 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】 【途中から各ルート・エンドに入ります。特に正解ルートはないので、自分の好みのキャラのルート・エンドを正規だと思ってもらって大丈夫です】

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香
恋愛
連日の残業と終わらないプロジェクトの果てに、OLの佐藤美月は過労で意識を失う。次に目覚めた時、そこはアーサー王が治める国「キャメロット」だった。 森で魔物に襲われ絶体絶命の私を救ってくれたのは、「太陽の騎士」と呼ばれる最強の騎士ガウェイン。しかし彼は、強くて純粋だけど、少し子供っぽい脳筋騎士様だった! 「護衛だ!」と宣言しては一日中手を繋いで離さず、他の男性と話しただけであからさまに嫉妬したり……。その過保護で独占欲の強い愛情表現に戸惑いながらも、仕事に疲れた美月の心は、彼の太陽のような笑顔に癒されていく。 やがて王の顧問となった彼女は、現代知識とPMスキルを武器に「魔女」の嫌疑を乗り越え、国を救う「キャメロットの天使」へ。 不器用で一途な騎士様から贈られる、甘すぎるほどの溺愛に満ちた、異世界シンデレラストーリー、ここに開幕!

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

処理中です...