最強スキルは勇者でも聖女でも賢者でもなく肝っ玉母ちゃん!?

紅葉ももな(くれはももな)

文字の大きさ
3 / 18

第二話『人族と魔族』

しおりを挟む
「勇者召喚きたー!」

「きたー」

「おまえらは少し落ち着け」 

 さっきまで由紀の背中に、しがみついていたのはいったいなんだったのか、勇者召喚という非現実的な、ファンタジーな単語に真っ先に反応したのは陸斗だった。

 テンション爆上げの陸斗(りくと)が喜びに叫びながら右腕を上げると、遥斗(はると)が棒読みで陸斗真似をしながら右腕を上げる。

 そんな二人の頭に蒼汰(そうた)はゴチンと握りしめた拳を振り下ろした。

「いってー!蒼兄ちゃん暴力反対!」

「はんたーい」 

 涙目の陸斗と遥斗を無視して、蒼汰(そうた)は私達家族を庇うように一歩前へ出る。
  
「私達は自宅のリビングから突然ここに拉致されました、誘拐犯に突然勇者になれとか、魔王や魔族を倒せと要求されても困ります」

「そうです、僕達を元いた場所へ返していただきたい」

 どうやらあまりに非現実的な状況に置かれたことで、星夜(せいや)の低血圧はどこかへ消し飛んでいったらしい。

 なまじ外見が整っているし、年齢的に現在反抗期真っ只中、不機嫌な時は笑顔でバッサリ切り捨てるそれが我が家の次男(魔王)様だ。

「まぁ、そんな悲しいことをおっしゃらないで?」

 それまで国王陛下の隣りにいた姫君が、ボリューミーなロングスカートのドレスを華麗に捌いてこちらへやってくると、星夜の腕に自らの細い腕を絡めて擦り寄った。

 その際にコルセットで寄せてあげた胸を押し付けるのも忘れないあたり、この姫様侮れない。

「ローランド王国第二王女キャスティ・ローランドと申します! せっかくこうしてお会いする機会に恵まれたのですもの、客間でお話いたしましょう? 皆様が置かれている状況や今後の事についてご相談させてくださいませ」

 上目遣いで目を潤ませ星夜を見つめ懇願する姫様は、一見儚げに見えるけれど、同性の由紀から見れば完全に星夜をロックオンした雌豹だった。

 そうこの手の女性に……星夜の歳上の彼女だと勘違いされて何度罵られたことか。

「はぁ、とりあえず移動しませんか?」

 奏音(かなと)を保育所へ送ってから高校へ行くつもりだったため、制服に割烹着姿の由紀はそろそろ地面に座るのがきつくなってきた。

 冷たい地面にスカートで正座を外側に崩して、ぺたりとお尻を付く形で座っているため正直お腹が冷え始めた。

 こんなことならスカートの下に、高校のしている体操服のスボンでも履いておけばよかったよ。  
  
「そうだな……では移動しよう」

 ざわめきが続く中、そう告げた国王が出口に向かって歩き出すと、お姫様が嫌がる星夜の腕をご機嫌で引いて行く。

 その後ろに鼻息荒く続こうとする陸斗を、遥斗が引き止めていた。
 
「姉ちゃん、奏音俺が抱っこしようか?」

 そう言って蒼汰(そうた)がこちらに手を伸ばした。

 確かにしっかりとしがみついた奏音を膝の上から降ろさなければ立ち上がることもままならない。
 
「ぼくおねぇちゃんの抱っこがいいもん!」

 由紀や蒼汰(そうた)のピリピリとした空気を敏感に感じ取っているのだろう奏音(かなと)は、割烹着の胸元を必死に掴んで離さない。    

「わかったわかった、奏音が姉ちゃんを守るんだもんな?」

「そうだよ!」

「奏音は偉いなぁ、でもそのまま貼り付いてたら姉ちゃん立ち上がれずに病気になるぞ?」

「えっ!? おねぇちゃんごめんなさい早く立って?」

 慌てて割烹着から手を離して、由紀の膝の上から飛び降りると、奏音は由紀の手を掴んで立ち上がらせようと引っ張った。

「奏音ありがとう、直ぐに抱っこしてあげるからちょっとだけ蒼汰(そうた)兄ちゃんに抱っこしててね?」

「うん!」

 由紀の体調を気遣う弟二人がかわいい。

「よしこい!」
 
 奏音は、蒼汰へと手を伸ばすと、蒼汰に抱き付いた。

 成長期真っ只中の蒼汰は奏音の両脇に、自分の両手を差し入れると、苦もなく奏音の身体を持ち上げる。

 だいぶ重くなった奏音を抱き上げるのは、なかなかに由紀の力では厳しくなってきているので、蒼汰に抱き上げてもらえるのはとても助かるのだ。

 まぁ……弟が五人もいるので皆それぞれ可愛いし、たまにどうしょうもなく苛立つこともあるが、なんだかんだで皆家族思いのいい子達なのだ。

 由紀は座り込んでいた石の床から立ち上がり、制服のスカートの汚れを手の平で払う。

「まぁ……はしたない」

「あんなに脚を曝け出すなど正気かしら」

 由紀が立ち上がった途端、今まで以上に外野が騒ぎ出した。

「異世界の女人はあのように素足を曝け出して暮らすのか、それはぜひ一度行ってみたいものだなぁ」

 どうやら膝上のスカートは、この世界ではあまりよろしくないらしい。

 男性陣からはねっとりとした色を含んだ視線が……女性陣からは批難を多分に含んだ視線が突き刺さる。

「では部屋を移動しステータスの確認をいたしましょう」

 にこやかに案内され連れて行かれたのは豪華な調度品が置かれた五十畳はありそうな部屋へと通された。

 由紀を見た侍女の一人が、慌てた様子でどこからか持ってきたマキシ丈のワンピースを渡された、別室にて着替えさせられる。

 よく見ればデザインは侍女たちが来ている制服と同じもののようだ。

 長テーブルの上座、ひときわ立派な椅子に国王と思われるおじさんが座り、星夜の腕にしがみ付いた王女が案内して、王様の左斜め隣に座ると星夜をその隣に半ば強引に座らせた。

「さあこちらに座ってくださいませ!」

「しがみ付かないでください」

 強引な肉食系女子に追いかけ回されるのが苦手な星夜が、本気で嫌がっているので助けに入ろうか迷ったが、とりあえずこの何も分からない状況で王女様に気に入られているうちは星夜は安全だろうと思い直す。
   
 長テーブルに座るように促され、それぞれが席へと案内され座らされる。

 星夜の隣に蒼汰が座り陸斗と遥斗が座る、由紀はその隣の席に座り、人見知りを発揮して不安そうな奏音を抱き上げて膝の上乗せた。

 長テーブルを挟んで反対側に豪華な衣服と宝石を身につけた、偉そうなおじさん達が次々に座っていく。

 きっとこの国の宰相とか、大臣とかそう言う役職についている人々だろう。  
 
「えー、皆様席に着かれましたので改めまして勇者様一向にご挨拶させていただきたいと思います、 私はこのローランド王国で宰相の任に着いていますワルテール・レイス侯爵と申します。 以後お見知り置き下さい」 
  
 王様の右斜め隣にから三つ目の席で立ち上がり頭を下げる。

 それから由紀達がなぜこの世界に召喚されたのか、レイス宰相から装飾語たっぷりに回りくどく説明を受けた。

 要約すると、この世界には多種多様な人種がおり、大まかに分類すると由紀達のような人間が多い人族とエルフやドワーフ、獣人や竜人など人間以外の人種で構成されている魔族がいるらしい。

 そして魔族を束ねているのが魔王であるらしい。

 魔族は凶暴かつ残忍で、人族の治める国々を侵略するために度々戦を仕掛けており、沢山の人々が今も苦しんでいるそうだ。
 
「お願いいたします!悪しき魔王を打倒し、この国を……人族をお救い下さい!」  

 宰相さんは長々と熱弁していたが、まぁ纏めるとこんなところかな。

 説明を聞きながら遥斗と陸斗が目をランランと輝かせて話を聞いている。

 あなた達、勇者召喚とか異世界転生転移好きだもんね。
 
「話はわかりました、仮にその魔王という方を倒したとして、私達は元の世界へと返していただけるのでしょうか?」

 それまで口を開かなかった蒼汰が、宰相さんへと問いかける。

 蒼汰は普段は家族や親しい友人には俺という一人称を使うが、こうして知らない人の相手をするときには、私を使う。

「残念ながらそれは出来ません、異世界から勇者様方を召喚することは可能ですが、元の世界へと戻られた前例がございませんので……」

「はぁ~? 人を拉致しておいて帰せないとは聞き捨てなりませんね」

 下だけフレームのある銀縁のアンダーリムタイプの眼鏡をクイッと上げて、星夜が不機嫌に言い捨てた。

 普段冷静であまり怒ることがない星夜の絶対零度の声に、由紀の隣で陸斗と遥斗が手を取り合っておびえている。

「せっ、セイヤ様? どうかなさったのですか?」

 もともと邪険にされていたものの突然、怒りを顕にした星夜にキャスティ王女が戸惑っている。

 心なしか部屋の温度が下がったような気が……いや、これ本当に下がってないかこれ?

「おねえちゃんなんか寒い……」

 腕の中で奏音が両腕で自分の身体を抱きしめこちらを見上げている。

「星夜、落ち着け奏音を見てみろ」

 蒼汰に促され奏音の顔を見ると、グッと両目をつぶり深呼吸を繰り返した。

 それまで漂っていた冷気が鎮まる。

「いやはや流石勇者様方ですな、鍛錬されておられるわけでは無いのに漏れ出た魔力だけでこれほどまで周囲に影響を及ぼされるとは」

「本当に素晴らしい」

「弟君を諫めることができる、素晴らしい兄弟愛ですな」 

「セイヤ様はお強いのですねぇ!」

 この国のお偉いさん達とキャスティ王女が星夜と蒼汰を次々に褒め称える。

「ご帰還に関しましては大変申し訳ございませんでした……しかし我々にはもう、異界から勇者様をお呼びするより他に道はなかったのです……」

 わかりやすく被害者は自分たちだと言わんばかりの誘拐犯たちだが、キャスティ王女だけはニコニコしている。

「勇者様方は最重要国賓として出来得る限りの便宜をお約束いたします、ですのでどうか我らを魔族の魔の手からお救い下さい」
     
     
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。 聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎ 望みはカフェでのスローライフだけ。 乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります! 全30話予定

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

異世界転移して冒険者のイケメンとご飯食べるだけの話

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社畜系OLの主人公は、ある日終電を逃し、仕方なく徒歩で家に帰ることに。しかし、その際帰路を歩いていたはずが、謎の小道へと出てしまい、そのまま異世界へと迷い込んでしまう。  持ち前の適応力の高さからか、それとも社畜生活で思考能力が低下していたのか、いずれにせよあっという間に異世界生活へと慣れていた。そのうち家に帰れるかも、まあ帰れなかったら帰れなかったで、と楽観視しながらその日暮らしの冒険者生活を楽しむ彼女。  一番の楽しみは、おいしい異世界のご飯とお酒、それからイケメン冒険者仲間の話を聞くことだった。  年下のあざとい系先輩冒険者、頼れる兄貴分なエルフの剣士、口の悪いツンデレ薬師、女好きな元最強冒険者のギルド長、四人と恋愛フラグを立てたり折ったりしながら主人公は今日も異世界でご飯を食べる。 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】 【途中から各ルート・エンドに入ります。特に正解ルートはないので、自分の好みのキャラのルート・エンドを正規だと思ってもらって大丈夫です】

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

処理中です...