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前編

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ここは貴族平民とわず優秀な生徒を教育する名門ジーニア学園。

半年に1度行われる学園内交流パーティにてその騒動は起こった。






「男爵令嬢のアミィ様は魅了の魔法を使っています!」






終始穏やかな雰囲気で進行していたパーティに突如響く告発。


その主は侯爵令嬢のカトリーヌであった。

皆の注目の中カトリーヌはさらに言葉を続ける。




「我が婚約者であるディーク様に対して彼女は魅了を使いわたくしから略奪しようとしていたのです!ちなみにデューク様は魅了の効果が切れるまで自宅にて監禁状態になっています!」




カトリーヌの言葉に騒然とするパーティ。

多くの物がアミィの起こしたとされる行為に憤りを覚えていたが、一部の者たちの反応は違った。




「…カトリーヌ嬢それが事実であるなら確かに由々しき事態ではあるが、証拠はあるのかい?」




ざわめく人々の中からこの国の第一王子ミシェルが現れた。

カトリーヌはミシェルに対して礼をすると彼の質問に答えた。




「はい、もちろんにございます。我が婚約者ディークの証言と学園内での目撃情報、そしてアミィ様が魅了魔法を使えるという鑑定記録がこちらにございます」




いつの間にか現れたカトリーヌの執事がミシェルに資料を渡す。

素早く内容を確認したミシェルは少し考えるそぶりをした後に口を開いた。




「なるほど。アミィ嬢を陥れる卑劣な輩がいることがよく分かりました」

「!?どういうことですの!わたくしが集めた証拠が偽物だというのですか!」




声を荒げるカトリーヌだったが、ミシェルは優しく笑うと顔を左右に振って否定した。




「いいえ、この資料は偽物ではありません。いや偽物ではないからこそ悪質と言えよう」

「どういう…ことですの?」



困惑するカトリーヌ。




「その資料は重要な情報を抜いてあなたが誤解するようにしてあるということです」



周りで聞いている人々の中から一人の少女がミシェル王子の隣に歩いてきた。

現在魅了魔法を使いカトリーヌの婚約者ディークを略奪しようとしたと言われている男爵令嬢のアミィだ。



「誤解ってどういうことですのアミィ様」

「確かに私が魅了の力を持っていたのは事実ですが、5才の時に大神官さまに魅了魔法を剥奪していただいています。つまり魅了魔法はもうないんです」

「魔法の剥奪が出来るのは神に認められた大神官のみだ。また剥奪した時に神殿にしっかりと記録を残すことが義務図けられている」



アミィの回答にミシェルが付け加える。

つまり、カトリーヌの資料にはアミィに魅了魔法があると認定された資料しかなく剥奪記録が抜かれていたのだ。

この魔法の認定資料と剥奪資料は一緒に保管されるため見落とすことはまずありえない。



「ですがディーク様やほかの方の証言はどうなるのでしょうか?」



真実が明らかになるにつれて少し落ち着いてきたカトリーヌがさらに質問する。

答えたのはミシェルだった。



「これはアミィ嬢ではなくディーク殿の問題なんだ。こちらの瓶を見てくれ」



そういって懐から取り出したのは薄いピンク色をした液体の入った小瓶だった。

ミシェルが言うにはこの小瓶は惚れ薬の一種で位置で流通しているものだという。

薬を飲んで最初に見たものを好きになったように錯覚する薬で、成分そのものが無害なのもあって今まで気が付かれずに幅広く流通していたのだ。



「どうやらディーク殿はこちらを防御強化薬と間違えて常飲していたみたいなんだ」

「は?え?ええええええええええ!?」



ミシェルの告げた真実に淑女らしからぬ声を上げるカトリーヌ。

しかし会場にいるほとんどのものが彼女と同じ気持ちであった。

なぜなら防御強化薬は緑色で惚れ薬とは全く違う色をしていたからだ。

さらに補足するようにアミィが口を開いた。



「…デューク様は薬をいつもロッカーに入れていて授業が始まる前に飲んでいたんです。そして飲んだ後に最初に見るのは隣のロッカーを使っている私の顔というわけでして…」

「なんてことですの。わたくしの婚約者がおバカすぎてつらい」



真相をまとめるとこうだ。

なぜか惚れ薬を防御強化薬と間違えて常飲していたデュークが薬の効果でたまたま隣のロッカーを使っていたアミィに惚れていただけで別に魅了されていたわけでは無い。

だが自分が惚れ薬を飲んでいると知らないデュークは急にアミィのことが好きになってしまったことを不自然に思い魅了魔法を使われているのでは?という考えたのだ。

また第三者の目撃情報も薬の効果が出ているデュークがアミィに迫っている様を見かけたという証言であった。

ちなみにデュークの所属する騎士科は怪我防止のために防御強化薬を授業前に飲んでおくことを推奨しているため、薬を飲んでいても不自然に思うものはいなかったのである。



「結局は誰も悪くなかったってことですのね…私ったら恥ずかしい。でもいったい誰が何の目的で資料をいじったのかしら?」



恥じらうカトリーヌにミシェルとアミィは優しく笑う。が、すぐに厳しい目になり会場のとある場所をにらみつけた。



「当事者なんだからいい加減出てきたらどうだい。ケヴィン殿?」

「!?」



そういってミシェルが指さした先には会場からこっそり抜け出そうとしていた一人の青年・ケヴィンがいた。

彼は伯爵家の次男でデュークのクラスメイトで親友だった。



「いくら自分の失敗が恥ずかしいからって罪をでっちあげるのはどうかとおもいますよ。私魅了の力はもうないんですけど!」

「!俺は悪くない!薬を間違えたのが恥ずかしいだけだったんだ!だからばれないように資料を抜いたんだ!ほんのちょっとごまかしただけ!なのにまさかカトリーヌ様がパーティで告発なんて始めるとは思わなくて…悪いのは内々で処理せず大事にしたカトリーヌ様と俺に薬の調達を頼んだデュークなんだ!!」



自分は悪くないと言い訳をするケヴィンだったが、騒動の原因なのでもちろん許されるはずはない。



「あのね?ケヴィン様。魅了魔法ってかつて国を1つ崩壊させたとされるくらい危険なもので各国で対応マニュアルも作られているの」



アミィは魅了魔法について説明する。

魅了魔法は古くから存在する魔法で発現条件がいまだ不明なレア魔法でもある。

使い手によって違いはあるが基本的に特定条件を見た相手を魅了し、意のままに操る魔法である。

魔法の効力は絶大で、100年ほど前には王族が全員魅了されたせいで大国が滅んでしまったことさえある。




そのためマニュアルが作られたのだが、マニュアルの1つに魅了魔法による犯罪を告発する場合はなるべく人が多い場所など、すぐに魅了の条件を満たせない状況下で行うことがはっきりと書かれている。

つまり今回魅了魔法がらみと判断したカトリーヌが様々な学年の生徒や教師が集まるパーティで告発したのは正しい行動であったのだ。



「つまり悪いのは君だけってことだよケヴィン殿?他者を陥れ婚約者を騙しパーティを台無しにした責任は取ってもらうよ」



王子がパチンと指を鳴らすと外で控えていた警備兵が入ってきてケヴィンをどこかへ連れて行ってしまった。



「騒がせてしまったね。私は彼の後始末をするから皆はパーティを楽しんでくれ!アミィ嬢カトリーヌ嬢。悪いが二人も一緒に来てくれ」












学園内廊下




「もしかして殿下やアミィ様はわたくしが告発するのをご存じだったのですか?」



今思えばパーティ内には多数の教師がいたにもかかわらず黙って成り行きを見ているだけだった。

魅了がらみの話題であれば真っ先にやってこなければ本来おかしい。



「その通りだよ。君やデューク殿が何かしら調べている様子なのが気になってね念のためにさぐっていたんだ。本当はあらかじめ止めてあげるべきだったんだけど、じつは君が今回のパーティで告発することに気が付いたのは開始直前で根回ししかできなかったんだ。申し訳ない」



止まって頭を下げるミシェルにカトリーヌは慌てて否定した。



「いいえ、騙されていたとはいえ魅了魔法の疑いをかけてしまうなんてとんでもないことですわ。根回しいただけただけでもありがたいです」



アミィとミシェルに頭を下げるカトリーヌ。



「カトリーヌ様頭を上げてください。あなたが善良で優しい人だって知ってますから!カトリーヌ様には全然怒ってないですし!…私が起こってるのはバカケヴィン様だけですので!」



握りこぶしを作り怒りをあらわにするアミィ。

カトリーヌはアミィと話すのは今回が初めてであったが、とても素直で心地よい性格の少女だと感じた。

それと魅了魔法に警戒していたとはいえ本人のことをろくに調べずに告発したことを恥ずかしく思うのであった。





その後別室に移動した三人は今回の件をそれぞれの視点からまとめた資料を作成し、学園長と国王に提出した。

本来が学園内で収まるはずの話ではあるのだか、魅了がらみの問題は些細な物であっても国王に報告する義務があるためだ。

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