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第四話
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全てが始まったのは
クリスティーナが4歳になったばかりの
まだ何もわからない無邪気な女の子だった時
「すまない…。私が不甲斐ないばかりに……」
アメリアに向かって頭を下げるジェームズをクリスティーナはぽかんと見つめていた。
よくわからないけど、二人はとても悲しそうな顔をしている。
どこか痛いの?悲しいことがあったの?
クリスティーナが尋ねても、二人は辛そうに微笑みかけるだけだった。
ジェームズは屈んでクリスティーナに目線を合わせた。
(まだ幼いクリスティーナになんと説明すればいいんだろう。この小さな身体に大きなものを背負わせなければならないのか…)
黙ったまま自分を見つめるジェームズにクリスティーナは不思議に思い
「おとうさま、どうしたの…?」と尋ねると、ジェームズは目を潤ませた。
「クリスティーナ…、よく聞きなさい。クリスティーナはウィルフレッド王子の婚約者に選ばれたんだ」
「こんやくしゃ…?」
クリスティーナが聞き返すと、そばに立っていたアメリアが泣き崩れてしまう。
使用人たちがアメリアに駆け寄って慰めている様子を見て、
それは良くないことなんだと、クリスティーナは幼心に思った。
ジェームズを見れば「すまない…すまない…」と繰り返すだけ……
婚約者が何かわからないクリスティーナ。
落ち着きを取り戻した大人達に説明されて、自分が王子と結婚してお姫様になれると理解する。
絵本の中のお姫様は
『王子様と結ばれて幸せに暮らしました』
と言われているのに、なんでみんなは悲しんでいるんだろう?
不思議で仕方なかった。
そして迎えた初めての顔合わせ
クリスティーナは王子様に会えるのを楽しみにしていた。
両親に連れられて入ったお城もキラキラしているし、庭も綺麗なお花がいっぱいある。
ここに住んでいる王子様はどんな人なんだろう?仲良くなれるかな?
わくわくしながらジェームズに手を引かれて歩いていくと、白くて可愛いテーブルが見えた。
何故か椅子には座れずに、それを眺めて待っていると
ぞろぞろと偉そうな男が人を引き連れて歩いてきた。
「待たせたな」
髭の生えた男が声をかけると、ジェームズは頭を下げたので、クリスティーナも一緒に頭をペコッと下げる。
「利口そうな娘だな。ウィルフレッドの相手に丁度いい」
髭の生えた男…アレキサンダー王は満足そうに頷き、後ろに隠れている息子に前に出て挨拶をするように言う。
背中を押されて出てきたのは、金髪碧眼の可愛らしい男の子。
まるで絵本から飛び出してきた天使のようなウィルフレッドに、クリスティーナは感激した。
しかし…
可愛らしい見た目からは想像もつかないような暴言が、ウィルフレッドの口から出てくる。
「このブスはだれだ!みにくい者の近くにはいたくない!あっちへ行け!」
家族や使用人、領民たちからは「可愛い」としか言われて来なかったクリスティーナは、生まれて初めて暴言を吐かれて衝撃を受けた。
怖くなってしまい、ジェームズの後ろに隠れる。
「これこれ。ウィルフレッドと比べてしまうと見劣りするだろうが、クリスティーナは美しい部類に入るのだよ」
ウィルフレッドを咎めるどころか、クリスティーナを貶すような発言をするアレキサンダー。
どうしたら良いのかわからないクリスティーナは、両親を見上げた。
ジェームズもアメリアも微笑んではいるものの、いつもの笑みとは程遠いもので、クリスティーナは怖くなった。
慌てて目線を下げると、クリスティーナの目の前にはジェームズの固く握られた拳。
クリスティーナは、何故ジェームズが自分に謝っていたのか、何故アメリアが泣き崩れたのか、なんとなくわかった気がした。
目の前にいる王も王子も、絶対に好きになれない。
そう思った。
ウィルフレッドとクリスティーナの婚約が(不本意ながらも)無事に整い、クリスティーナには様々な教育が施されるようになる。
まだ幼いうちはと、屋敷に家庭教師が派遣され、来る日も来る日も勉強漬けの毎日だった。
知らないことを知れること。出来ないことが出来るようになること。
元来負けず嫌いな性格だったのか、ジェームズ達の心配をよそに、クリスティーナは思いの外この生活を楽しんでいる。
ただ、どうしても好きになれない物があった。
それは月に一度王城で行われるウィルフレッドとの交流。
「ブス」「話しかけるな」「あっちに行け」
ジェームズもアメリアもいないので、頼れる大人は王城に勤める世話係のみ。
彼らが王子に物申せるわけもなく……
ウィルフレッドを嗜めることも、クリスティーナを庇うこともせず、ただそこに居るだけ。
最初は屋敷に帰ってから泣いていたクリスティーナだったが、両親も使用人達も、謝って辛そうな顔をする。
クリスティーナは次第に泣かなくなった。
そして、少し大きくなって体が出来上がって来た頃
クリスティーナは屋敷ではなく、王城で政務や外国語など、難しい勉強を始める。
週に一度は王妃ロザリアから王子妃の教育を受けるはずだったのだが、
「有事の際にはあなたがウィルフレッドを護らなければならないのです」
「護衛や騎士たちは王族を優先して護ります。彼らの手を煩わせないように、自分の身は自分で護れるようにしなさい」
ロザリアに言われて、いつの間にか体術や剣術などを習う時間になってしまった。
ロザリアは剣を振るうどころか、持ち上げることすらできないのでは?
クリスティーナはロザリアの細腕を見て思ったのだが、意味のわからないロザリアやウィルフレッドの自慢話を延々と聞かされるだけの時間よりは有意義に過ごせると考えて、何も言わずに了承した。
ずっと机に齧り付いて勉強漬けの毎日だったので、体を動かすことが楽しいと感じていたクリスティーナ。
強くなって忌々しいウィルフレッドを懲らしめてやろうと考え、自分についた騎士に言われるがままに走り込みや腕立て伏せなどの訓練に勤しんでいた。
しかし、騎士団の中にいる数少ない女性騎士を見て、考えを改める。
屋敷に帰ったクリスティーナは、すぐさまジェームズに頼み込んだ。
話を聞いて一大事だと考えたジェームズは、人伝に優秀な女性の武闘家を探し出した。
屋敷にやって来たのはライラという小柄な女性。
3年という契約で、住み込みでクリスティーナに稽古を付けるようになる。
何処にそんな力があるのかと思わせるような、屋敷に勤める護衛と手合わせしても、体格のいい護衛達を投げ飛ばしてしまう実力を持っていた。
「純粋な力では、女性は男性に勝てません。自分に合った戦い方をするのです。相手の力を利用するのです」
ライラはクリスティーナに教え終わるまで、常にそう言っていた。
クリスティーナが城の騎士団で見たもの…
それは、父ジェームズよりも一回り以上太い腕と足を持つ女性騎士の姿だった。
クリスティーナの理想とする女性は母アメリア。
女性騎士も格好いいとは思うけど…
自分は公爵令嬢だ。筋肉でムキムキの身体にはなりたくない。
こうしてクリスティーナは、ライラに教えを請い、王城では素直に騎士から技術を習い、小柄ながらも下っ端の騎士たちを打ち負かす程に成長していった。
クリスティーナが4歳になったばかりの
まだ何もわからない無邪気な女の子だった時
「すまない…。私が不甲斐ないばかりに……」
アメリアに向かって頭を下げるジェームズをクリスティーナはぽかんと見つめていた。
よくわからないけど、二人はとても悲しそうな顔をしている。
どこか痛いの?悲しいことがあったの?
クリスティーナが尋ねても、二人は辛そうに微笑みかけるだけだった。
ジェームズは屈んでクリスティーナに目線を合わせた。
(まだ幼いクリスティーナになんと説明すればいいんだろう。この小さな身体に大きなものを背負わせなければならないのか…)
黙ったまま自分を見つめるジェームズにクリスティーナは不思議に思い
「おとうさま、どうしたの…?」と尋ねると、ジェームズは目を潤ませた。
「クリスティーナ…、よく聞きなさい。クリスティーナはウィルフレッド王子の婚約者に選ばれたんだ」
「こんやくしゃ…?」
クリスティーナが聞き返すと、そばに立っていたアメリアが泣き崩れてしまう。
使用人たちがアメリアに駆け寄って慰めている様子を見て、
それは良くないことなんだと、クリスティーナは幼心に思った。
ジェームズを見れば「すまない…すまない…」と繰り返すだけ……
婚約者が何かわからないクリスティーナ。
落ち着きを取り戻した大人達に説明されて、自分が王子と結婚してお姫様になれると理解する。
絵本の中のお姫様は
『王子様と結ばれて幸せに暮らしました』
と言われているのに、なんでみんなは悲しんでいるんだろう?
不思議で仕方なかった。
そして迎えた初めての顔合わせ
クリスティーナは王子様に会えるのを楽しみにしていた。
両親に連れられて入ったお城もキラキラしているし、庭も綺麗なお花がいっぱいある。
ここに住んでいる王子様はどんな人なんだろう?仲良くなれるかな?
わくわくしながらジェームズに手を引かれて歩いていくと、白くて可愛いテーブルが見えた。
何故か椅子には座れずに、それを眺めて待っていると
ぞろぞろと偉そうな男が人を引き連れて歩いてきた。
「待たせたな」
髭の生えた男が声をかけると、ジェームズは頭を下げたので、クリスティーナも一緒に頭をペコッと下げる。
「利口そうな娘だな。ウィルフレッドの相手に丁度いい」
髭の生えた男…アレキサンダー王は満足そうに頷き、後ろに隠れている息子に前に出て挨拶をするように言う。
背中を押されて出てきたのは、金髪碧眼の可愛らしい男の子。
まるで絵本から飛び出してきた天使のようなウィルフレッドに、クリスティーナは感激した。
しかし…
可愛らしい見た目からは想像もつかないような暴言が、ウィルフレッドの口から出てくる。
「このブスはだれだ!みにくい者の近くにはいたくない!あっちへ行け!」
家族や使用人、領民たちからは「可愛い」としか言われて来なかったクリスティーナは、生まれて初めて暴言を吐かれて衝撃を受けた。
怖くなってしまい、ジェームズの後ろに隠れる。
「これこれ。ウィルフレッドと比べてしまうと見劣りするだろうが、クリスティーナは美しい部類に入るのだよ」
ウィルフレッドを咎めるどころか、クリスティーナを貶すような発言をするアレキサンダー。
どうしたら良いのかわからないクリスティーナは、両親を見上げた。
ジェームズもアメリアも微笑んではいるものの、いつもの笑みとは程遠いもので、クリスティーナは怖くなった。
慌てて目線を下げると、クリスティーナの目の前にはジェームズの固く握られた拳。
クリスティーナは、何故ジェームズが自分に謝っていたのか、何故アメリアが泣き崩れたのか、なんとなくわかった気がした。
目の前にいる王も王子も、絶対に好きになれない。
そう思った。
ウィルフレッドとクリスティーナの婚約が(不本意ながらも)無事に整い、クリスティーナには様々な教育が施されるようになる。
まだ幼いうちはと、屋敷に家庭教師が派遣され、来る日も来る日も勉強漬けの毎日だった。
知らないことを知れること。出来ないことが出来るようになること。
元来負けず嫌いな性格だったのか、ジェームズ達の心配をよそに、クリスティーナは思いの外この生活を楽しんでいる。
ただ、どうしても好きになれない物があった。
それは月に一度王城で行われるウィルフレッドとの交流。
「ブス」「話しかけるな」「あっちに行け」
ジェームズもアメリアもいないので、頼れる大人は王城に勤める世話係のみ。
彼らが王子に物申せるわけもなく……
ウィルフレッドを嗜めることも、クリスティーナを庇うこともせず、ただそこに居るだけ。
最初は屋敷に帰ってから泣いていたクリスティーナだったが、両親も使用人達も、謝って辛そうな顔をする。
クリスティーナは次第に泣かなくなった。
そして、少し大きくなって体が出来上がって来た頃
クリスティーナは屋敷ではなく、王城で政務や外国語など、難しい勉強を始める。
週に一度は王妃ロザリアから王子妃の教育を受けるはずだったのだが、
「有事の際にはあなたがウィルフレッドを護らなければならないのです」
「護衛や騎士たちは王族を優先して護ります。彼らの手を煩わせないように、自分の身は自分で護れるようにしなさい」
ロザリアに言われて、いつの間にか体術や剣術などを習う時間になってしまった。
ロザリアは剣を振るうどころか、持ち上げることすらできないのでは?
クリスティーナはロザリアの細腕を見て思ったのだが、意味のわからないロザリアやウィルフレッドの自慢話を延々と聞かされるだけの時間よりは有意義に過ごせると考えて、何も言わずに了承した。
ずっと机に齧り付いて勉強漬けの毎日だったので、体を動かすことが楽しいと感じていたクリスティーナ。
強くなって忌々しいウィルフレッドを懲らしめてやろうと考え、自分についた騎士に言われるがままに走り込みや腕立て伏せなどの訓練に勤しんでいた。
しかし、騎士団の中にいる数少ない女性騎士を見て、考えを改める。
屋敷に帰ったクリスティーナは、すぐさまジェームズに頼み込んだ。
話を聞いて一大事だと考えたジェームズは、人伝に優秀な女性の武闘家を探し出した。
屋敷にやって来たのはライラという小柄な女性。
3年という契約で、住み込みでクリスティーナに稽古を付けるようになる。
何処にそんな力があるのかと思わせるような、屋敷に勤める護衛と手合わせしても、体格のいい護衛達を投げ飛ばしてしまう実力を持っていた。
「純粋な力では、女性は男性に勝てません。自分に合った戦い方をするのです。相手の力を利用するのです」
ライラはクリスティーナに教え終わるまで、常にそう言っていた。
クリスティーナが城の騎士団で見たもの…
それは、父ジェームズよりも一回り以上太い腕と足を持つ女性騎士の姿だった。
クリスティーナの理想とする女性は母アメリア。
女性騎士も格好いいとは思うけど…
自分は公爵令嬢だ。筋肉でムキムキの身体にはなりたくない。
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