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第二十話
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目が覚めた俺は、嘗ての仲間たちを弔った。
ザックをシヴァの隣に眠らせてやる。
何が起きたかも理解出来なかったザックは、きっとそう望むから…。
俺は自分の名前を捨てて生きていこうと思った。
でも、ザックやアーク達が呼ぶ『ウィル』
みんなとの思い出は捨てられず、俺はウィルとして生きていくことに決めた。
俺が向かった先は王都。
村を襲った国王に一矢報いるつもりだった。
酒場の給仕をしながら情報を集めても、あいつの噂は良いものばかりでシヴァに騙されたのかと疑った。
でも「今は鳴りを潜めているが、残虐な性格だ」と言う爺さんに出会った。孫娘を殺されたと言う。
話を聞くと、村を襲った時と同じだった。
恋人がいるからと言って夜の相手を断ると、激高して嬲り殺したらしい。
俺の母さんを斬り付けるあいつは笑っていた。
あいつを野放しにしておけない。他にも不幸になる人が出てくる前に、息の根を止めてやる。
俺は入念に調べて城に忍び込んだ。
数には敵わなくて、返り討ちにあった俺は命からがら逃げ果せる。
ふらふらと手負いの身体を引き摺りながら裏路地を歩いて、そこで意識を失ってしまった。
気付いたら、話をしてくれた爺さんの家にいた。
「気が付いたようだね」
「手当てをしてくれたのか…。迷惑をかけたな。すぐに出ていくよ」
俺がベッドから起き上がろうとすると、爺さんに無理をするなと止められる。
「他にも居候が居るから気にする必要はないよ。家に人が居るのは嬉しいんだ」
爺さんは孫娘を殺されて、家族は誰もいないそうだ。
「起きたんだ?怪我の調子はどうだ?」
明るい声で若い男が部屋に入って来る。
「鍛えてる男って重いから、運ぶの大変だったんだよ」
これが俺達の出会いだった。
「お前、一人で城に忍び込んだんだろう?馬鹿だな」
爺さんの横に立った若い男が笑う。
「あんたには関係無いだろう?」
そう言うと、二人の顔が曇った。
「AJは孫娘の恋人だったんだよ」
「爺さんに国王の話を聞いて回ってる男がいるって聞いてな。悪いけど後をつけさせてもらったんだ」
そのお陰で倒れた俺を家に運べたと、笑って言う。
「あんたはあいつが憎いと思わないのかよ!なんで戦いに行かないんだ!」
叫んだ俺の頭に手を乗せて、若い男は真面目な顔をした。
「私だって憎いと思っているさ。今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい…。でも、俺には剣を扱えない。人には人の戦い方があるんだよ」
そっと頭を撫でて、また笑う。
「生き急ぐな。一人で出来ることには限界があるんだ」
「もう少し休みなさい。その傷では頭も働かないだろう?明日にでも話をしてあげるよ」
二人は部屋から出て行き、一人残された俺は握り拳に力を入れる。
(あいつの所為で俺は記憶を失って、忌々しい名前を付けられたんだ。殺し屋として、化け物として育てられたんだ…)
自分が殺したアークや城の騎士達の顔が脳裏から離れない。
『お前は立派な化け物だよ』
シヴァの言葉が頭に木霊する。
翌日、俺達3人は話をすることになった。
「まずは自己紹介からだな。私はエイドリアン・Jr・ロンバート。AJと呼んでくれ」
「儂はアランだよ。爺さんで良い」
「俺は………、ウィルだ」
AJは公爵子息で、見聞を広めようと各地を旅していてらしい。そこで町娘と出会って恋に落ち…
そして、彼女は無惨に殺された。
「私はウィルを止めるつもりもないし、城に忍び込む気もない。各々でできる事をして協力しようじゃないか」
怪我が回復してから、俺は酒場で情報収集を再開した。
国王暗殺の算段を立てても、警戒されて隙がない。
「そう焦るな。好機は必ず訪れる」
AJは良いのかよ。
恋人を目の前で殺されて悔しくないのかよ。
なんで平気そうに笑ってられるんだよ。
「私には隣国の公爵という立場があるんだよ。それを捨てる事はできないんだ。私が表立って動けば戦争にまで発展してしまうだろう。私情で国まで巻き込みたくはない」
何かに堪えている様なAJの顔を見て、俺は何も言えなくなった。
命は惜しくない。でも、無駄死にはしたくない。
毎日城に忍び込んで機会を伺っても、隙を見せない国王に苛立ちが募る。
その時からクリスの存在は知っていた。
理不尽な王族達の要求を飲み込み、難なくこなしていく。
冷たい表情で何を考えているかわからない。
あいつの息子と婚約するくらいだ。同じ穴の狢だろう。
そう思っていた。
クリスの悪い噂話が市井に流れ始める。
どうして気位の高い奴は隠れて悪事を働くんだろうな…。
しかしAJの一言で状況が変わった。
「これは作られたものかも知れない。探ってみたらどうだ?」
城に忍び込んでクリスを監視しても、不快な気持ちになるだけ。
勉強や剣術に明け暮れる毎日。その努力は認めよう。
でも、隠れて立場の弱い女を虐めてるんだろう?
親の権力を振りかざしてるんだろう?
俺と同じ名前を持つあいつの息子。
鏡ばかり見て、ろくに仕事もしていない王子よりはマシだ。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
そんなある日、AJが一通の手紙を持って言った。
「婚約は白紙になって、令嬢はフォーリュに移住するらしい」
「本当かよ?そんな情報は何処にも無かったけど…」
「剣で戦えない私にはココがあるんだよ」
AJは自分の頭を指差して答える。
「上手いこと接触して城の内情を探るんだ。父上に手紙を書いたから、これを届ける事を理由に近付けば良い。私の予想が当たっていれば、仲間に引き込めるかも知れない」
俺は国王に用があるだけで、他の人間…
女を虐めるような奴に構っている暇は無い。
「布石を打て。ずっと監視しているだけでは何も変わらないだろう?」
俺は城の情報とあいつの話を聞くためだけに、馬車でフォーリュに出発したクリス達の後ろを付けていたんだ。
ザックをシヴァの隣に眠らせてやる。
何が起きたかも理解出来なかったザックは、きっとそう望むから…。
俺は自分の名前を捨てて生きていこうと思った。
でも、ザックやアーク達が呼ぶ『ウィル』
みんなとの思い出は捨てられず、俺はウィルとして生きていくことに決めた。
俺が向かった先は王都。
村を襲った国王に一矢報いるつもりだった。
酒場の給仕をしながら情報を集めても、あいつの噂は良いものばかりでシヴァに騙されたのかと疑った。
でも「今は鳴りを潜めているが、残虐な性格だ」と言う爺さんに出会った。孫娘を殺されたと言う。
話を聞くと、村を襲った時と同じだった。
恋人がいるからと言って夜の相手を断ると、激高して嬲り殺したらしい。
俺の母さんを斬り付けるあいつは笑っていた。
あいつを野放しにしておけない。他にも不幸になる人が出てくる前に、息の根を止めてやる。
俺は入念に調べて城に忍び込んだ。
数には敵わなくて、返り討ちにあった俺は命からがら逃げ果せる。
ふらふらと手負いの身体を引き摺りながら裏路地を歩いて、そこで意識を失ってしまった。
気付いたら、話をしてくれた爺さんの家にいた。
「気が付いたようだね」
「手当てをしてくれたのか…。迷惑をかけたな。すぐに出ていくよ」
俺がベッドから起き上がろうとすると、爺さんに無理をするなと止められる。
「他にも居候が居るから気にする必要はないよ。家に人が居るのは嬉しいんだ」
爺さんは孫娘を殺されて、家族は誰もいないそうだ。
「起きたんだ?怪我の調子はどうだ?」
明るい声で若い男が部屋に入って来る。
「鍛えてる男って重いから、運ぶの大変だったんだよ」
これが俺達の出会いだった。
「お前、一人で城に忍び込んだんだろう?馬鹿だな」
爺さんの横に立った若い男が笑う。
「あんたには関係無いだろう?」
そう言うと、二人の顔が曇った。
「AJは孫娘の恋人だったんだよ」
「爺さんに国王の話を聞いて回ってる男がいるって聞いてな。悪いけど後をつけさせてもらったんだ」
そのお陰で倒れた俺を家に運べたと、笑って言う。
「あんたはあいつが憎いと思わないのかよ!なんで戦いに行かないんだ!」
叫んだ俺の頭に手を乗せて、若い男は真面目な顔をした。
「私だって憎いと思っているさ。今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい…。でも、俺には剣を扱えない。人には人の戦い方があるんだよ」
そっと頭を撫でて、また笑う。
「生き急ぐな。一人で出来ることには限界があるんだ」
「もう少し休みなさい。その傷では頭も働かないだろう?明日にでも話をしてあげるよ」
二人は部屋から出て行き、一人残された俺は握り拳に力を入れる。
(あいつの所為で俺は記憶を失って、忌々しい名前を付けられたんだ。殺し屋として、化け物として育てられたんだ…)
自分が殺したアークや城の騎士達の顔が脳裏から離れない。
『お前は立派な化け物だよ』
シヴァの言葉が頭に木霊する。
翌日、俺達3人は話をすることになった。
「まずは自己紹介からだな。私はエイドリアン・Jr・ロンバート。AJと呼んでくれ」
「儂はアランだよ。爺さんで良い」
「俺は………、ウィルだ」
AJは公爵子息で、見聞を広めようと各地を旅していてらしい。そこで町娘と出会って恋に落ち…
そして、彼女は無惨に殺された。
「私はウィルを止めるつもりもないし、城に忍び込む気もない。各々でできる事をして協力しようじゃないか」
怪我が回復してから、俺は酒場で情報収集を再開した。
国王暗殺の算段を立てても、警戒されて隙がない。
「そう焦るな。好機は必ず訪れる」
AJは良いのかよ。
恋人を目の前で殺されて悔しくないのかよ。
なんで平気そうに笑ってられるんだよ。
「私には隣国の公爵という立場があるんだよ。それを捨てる事はできないんだ。私が表立って動けば戦争にまで発展してしまうだろう。私情で国まで巻き込みたくはない」
何かに堪えている様なAJの顔を見て、俺は何も言えなくなった。
命は惜しくない。でも、無駄死にはしたくない。
毎日城に忍び込んで機会を伺っても、隙を見せない国王に苛立ちが募る。
その時からクリスの存在は知っていた。
理不尽な王族達の要求を飲み込み、難なくこなしていく。
冷たい表情で何を考えているかわからない。
あいつの息子と婚約するくらいだ。同じ穴の狢だろう。
そう思っていた。
クリスの悪い噂話が市井に流れ始める。
どうして気位の高い奴は隠れて悪事を働くんだろうな…。
しかしAJの一言で状況が変わった。
「これは作られたものかも知れない。探ってみたらどうだ?」
城に忍び込んでクリスを監視しても、不快な気持ちになるだけ。
勉強や剣術に明け暮れる毎日。その努力は認めよう。
でも、隠れて立場の弱い女を虐めてるんだろう?
親の権力を振りかざしてるんだろう?
俺と同じ名前を持つあいつの息子。
鏡ばかり見て、ろくに仕事もしていない王子よりはマシだ。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
そんなある日、AJが一通の手紙を持って言った。
「婚約は白紙になって、令嬢はフォーリュに移住するらしい」
「本当かよ?そんな情報は何処にも無かったけど…」
「剣で戦えない私にはココがあるんだよ」
AJは自分の頭を指差して答える。
「上手いこと接触して城の内情を探るんだ。父上に手紙を書いたから、これを届ける事を理由に近付けば良い。私の予想が当たっていれば、仲間に引き込めるかも知れない」
俺は国王に用があるだけで、他の人間…
女を虐めるような奴に構っている暇は無い。
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