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第二十一話
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クリス達の乗る馬車が盗賊に襲われていた。
(国を跨ぐのにあんなに目立つ馬車に乗って、あの人数の護衛じゃ足りないだろう…。お偉いさんはそんな事すら気付かないのか?)
俺は助けに入るつもりは無くて、最後を見届けてやろうと思っていた。
馬車からクリスが出てきて、勇ましく戦っている姿を見て関心する。自分より強い相手にも立ち向かっていけるのか…。
クリスが捕まった途端、気が付いたら身体が勝手に動いていて…、俺は助けに入っていた。
怖かったのか手が震えてるクリスを見て、村人達の叫び声を思い出して怒りが込み上げてくる。
呑気に馬車から出てきた父親ジェームズに向かって怒鳴った。
自分だけ馬車の中にいて娘を戦わせるような父親を庇うクリスを見て、噂が作られたものかも知れないと言っていたAJの言葉が頭を過ぎった。
(まぁいい。上手く接触する事が出来たんだ。あとは情報を貰ってすぐにイディオに帰ろう)
相手の懐に潜る術は心得ている。
俺はクリスに取り入ろうとして、事ある毎に話かけていた。
城の内部や王族のことを聞こうと思って近付いたのに、何も聞けないままフォーリュに入ってしまう。
ここで別れたら何も情報が得られない。
だから、俺はジェームズの方に取り入ろうと決めたんだ。
盗賊達のことを警備兵に伝えに行った帰りジェームズが俺の手を握って言う。
「本当にありがとう。君のお陰で助かったよ。クリスティーナのあんな顔も初めて見ることができた」
「いや、当然のことをしたまでだ。いつものクリスはあんなんじゃないのか?」
言い渋っていたが、俺の話術に乗せられて事の経緯を話しだした。
俺はクリスをずっと監視していたのに、何も見えていなかった。
冷たい表情の裏にどんな思いを隠していたんだろう…?
ずっと一人で堪えてきたんだ。
誰にも頼らずに、人一倍努力してきたんだ。
ジェームズの話を聞いて、噂を真に受けて真実を見ようとしなかった事を悔やむ。
クリスに対する印象が、いけ好かない女から可哀想な女に変わった。
王都まで一緒に行動するようになって
全部一人でやろうとするクリスが放っておけなくなった。
怖いくせに狼と戦おうとする姿も
俺に怒鳴られて落ち込む姿も
強がってる事がわかるから…
「何でも背負い込もうとするな。一人でやれることには限界があるんだ。もっと周りを頼れよ」
AJに言われた言葉をそっくりそのまま伝えた。
でも、クリスからは納得してない事が伝わってくる。
あの時の俺もこうだったんだろうな…。
自分がAJにしてもらったように、クリスを構い倒していた。
不満そうな顔をしていても、よく見れば口元は笑ってる。
情報を聞き出したいのに、利用しようと思って近付いたのに
俺は未だに何も聞けていない。
結局そのまま別れて、俺はAJの実家に向かった。
手紙になんて書いてあるのかは知らない。でも、それを読んだオリバー卿は落胆していた。
「倅は元気にやっているか?」
「あぁ」
「そうか…。まぁ、やるべき事が終われば帰ってくると言っているからな。親不孝者の息子を持つと大変だよ…」
「じゃぁ、俺はこれで…」
(手紙も渡したし、イディオに帰ろう)
帰ろうとした俺をオリバーが呼び止めて、隣のターナー領の様子を見てきて欲しいと頼む。
「急ぎの用が無ければ、少しでも手伝ってもらえるとありがたい」
俺は少し遠回りして帰る感覚でターナー領を通り過ぎようと思っていた。
それなのに…
ふらふらになりながら鍬を振るって、力が入らないんだろう。
鍬を杖代わりにして辛うじて立っているクリスを見て、思わず走って行ってしまった。
頑ななクリスを見て、俺は親が悪いと考えた。
怒らせたことを謝ろう思って屋敷に行くと、熱を出して寝込んだと聞かされる。
無理が祟ったんだろう。
俺はカッとなってジェームズ達を怒鳴りつけた。
「クリスがあんな性格になったのは、あんたらの所為だろう?誰にも頼れずに、一人で全部背負い込んで…。大人のあんたらがいて、何やってんだよ!」
クリスは自分がやらなきゃっていつも言っているんだ。
頼れって言っても、頼ろうとしない。
そうした事が無いから、どうやって頼って良いかわからないんだよ。
ジェームズ達は心に刺さる物があったのか、何も言わずに深く考え込んでいるようだった。
俺はクリスが心配で、毎日に様子を見に行っていた。
(クリスが元気になったらイディオに帰ろう)
顔にかかった髪を退けてやると、俺の手が冷たくて気持ち良かったのか、少し楽になったように見えた。
額に手を当てて、そっと頭を撫でる。
(俺はイディオに帰ってやらなきゃいけない事があるんだ。早く元気になってくれよ?)
やらなくて良いのに羊を連れて来て
やらなくて良いのに世話を買って出た。
あれからジェームズ達も変わったようで、屋敷で過ごすクリスは嬉しそうに家族と話している。
俺とは違ってクリスには家族がいる。
俺とは違って……
クリスが元気になってから出ていくつもりだったのに
世話を教えてから…
無理をしてないって思うまで…
自分に言い訳をして、ずっとターナー領に残っていた。
クリスを泣かせた日、自分が馬鹿だと思った。
(やらなきゃいけないって言った癖に、いつまでここに居るんだよ…)
次の日にクリスが来なくて、安心した反面つまらなく思って
「クリスは来なかったな…」
「クリスはまだ泣いてるのか…?」
「クリス」と何回も口に出していたからだろう。
牧羊犬が自分の名前をクリスだと勘違いしてしまった。
他の名前で呼んでも反応してくれなくて諦めた。
誰にも呼ばれなくなったら、新しい名前を覚えるだろう。
「名前を呼んでやれなくてごめんな」
(国を跨ぐのにあんなに目立つ馬車に乗って、あの人数の護衛じゃ足りないだろう…。お偉いさんはそんな事すら気付かないのか?)
俺は助けに入るつもりは無くて、最後を見届けてやろうと思っていた。
馬車からクリスが出てきて、勇ましく戦っている姿を見て関心する。自分より強い相手にも立ち向かっていけるのか…。
クリスが捕まった途端、気が付いたら身体が勝手に動いていて…、俺は助けに入っていた。
怖かったのか手が震えてるクリスを見て、村人達の叫び声を思い出して怒りが込み上げてくる。
呑気に馬車から出てきた父親ジェームズに向かって怒鳴った。
自分だけ馬車の中にいて娘を戦わせるような父親を庇うクリスを見て、噂が作られたものかも知れないと言っていたAJの言葉が頭を過ぎった。
(まぁいい。上手く接触する事が出来たんだ。あとは情報を貰ってすぐにイディオに帰ろう)
相手の懐に潜る術は心得ている。
俺はクリスに取り入ろうとして、事ある毎に話かけていた。
城の内部や王族のことを聞こうと思って近付いたのに、何も聞けないままフォーリュに入ってしまう。
ここで別れたら何も情報が得られない。
だから、俺はジェームズの方に取り入ろうと決めたんだ。
盗賊達のことを警備兵に伝えに行った帰りジェームズが俺の手を握って言う。
「本当にありがとう。君のお陰で助かったよ。クリスティーナのあんな顔も初めて見ることができた」
「いや、当然のことをしたまでだ。いつものクリスはあんなんじゃないのか?」
言い渋っていたが、俺の話術に乗せられて事の経緯を話しだした。
俺はクリスをずっと監視していたのに、何も見えていなかった。
冷たい表情の裏にどんな思いを隠していたんだろう…?
ずっと一人で堪えてきたんだ。
誰にも頼らずに、人一倍努力してきたんだ。
ジェームズの話を聞いて、噂を真に受けて真実を見ようとしなかった事を悔やむ。
クリスに対する印象が、いけ好かない女から可哀想な女に変わった。
王都まで一緒に行動するようになって
全部一人でやろうとするクリスが放っておけなくなった。
怖いくせに狼と戦おうとする姿も
俺に怒鳴られて落ち込む姿も
強がってる事がわかるから…
「何でも背負い込もうとするな。一人でやれることには限界があるんだ。もっと周りを頼れよ」
AJに言われた言葉をそっくりそのまま伝えた。
でも、クリスからは納得してない事が伝わってくる。
あの時の俺もこうだったんだろうな…。
自分がAJにしてもらったように、クリスを構い倒していた。
不満そうな顔をしていても、よく見れば口元は笑ってる。
情報を聞き出したいのに、利用しようと思って近付いたのに
俺は未だに何も聞けていない。
結局そのまま別れて、俺はAJの実家に向かった。
手紙になんて書いてあるのかは知らない。でも、それを読んだオリバー卿は落胆していた。
「倅は元気にやっているか?」
「あぁ」
「そうか…。まぁ、やるべき事が終われば帰ってくると言っているからな。親不孝者の息子を持つと大変だよ…」
「じゃぁ、俺はこれで…」
(手紙も渡したし、イディオに帰ろう)
帰ろうとした俺をオリバーが呼び止めて、隣のターナー領の様子を見てきて欲しいと頼む。
「急ぎの用が無ければ、少しでも手伝ってもらえるとありがたい」
俺は少し遠回りして帰る感覚でターナー領を通り過ぎようと思っていた。
それなのに…
ふらふらになりながら鍬を振るって、力が入らないんだろう。
鍬を杖代わりにして辛うじて立っているクリスを見て、思わず走って行ってしまった。
頑ななクリスを見て、俺は親が悪いと考えた。
怒らせたことを謝ろう思って屋敷に行くと、熱を出して寝込んだと聞かされる。
無理が祟ったんだろう。
俺はカッとなってジェームズ達を怒鳴りつけた。
「クリスがあんな性格になったのは、あんたらの所為だろう?誰にも頼れずに、一人で全部背負い込んで…。大人のあんたらがいて、何やってんだよ!」
クリスは自分がやらなきゃっていつも言っているんだ。
頼れって言っても、頼ろうとしない。
そうした事が無いから、どうやって頼って良いかわからないんだよ。
ジェームズ達は心に刺さる物があったのか、何も言わずに深く考え込んでいるようだった。
俺はクリスが心配で、毎日に様子を見に行っていた。
(クリスが元気になったらイディオに帰ろう)
顔にかかった髪を退けてやると、俺の手が冷たくて気持ち良かったのか、少し楽になったように見えた。
額に手を当てて、そっと頭を撫でる。
(俺はイディオに帰ってやらなきゃいけない事があるんだ。早く元気になってくれよ?)
やらなくて良いのに羊を連れて来て
やらなくて良いのに世話を買って出た。
あれからジェームズ達も変わったようで、屋敷で過ごすクリスは嬉しそうに家族と話している。
俺とは違ってクリスには家族がいる。
俺とは違って……
クリスが元気になってから出ていくつもりだったのに
世話を教えてから…
無理をしてないって思うまで…
自分に言い訳をして、ずっとターナー領に残っていた。
クリスを泣かせた日、自分が馬鹿だと思った。
(やらなきゃいけないって言った癖に、いつまでここに居るんだよ…)
次の日にクリスが来なくて、安心した反面つまらなく思って
「クリスは来なかったな…」
「クリスはまだ泣いてるのか…?」
「クリス」と何回も口に出していたからだろう。
牧羊犬が自分の名前をクリスだと勘違いしてしまった。
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「名前を呼んでやれなくてごめんな」
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