22 / 29
第二十二話
しおりを挟む
ジェームズにクリスの成人祝いに招待されて
ここではろくな物も買えないし、金も無いから俺は髪飾りを作った。
シヴァの元にいた時に学んだ事がこういう事に役立つとは思わなかったけど、使えるものは使おう。
クリスの好みがわからないから、なんとなく似合いそうな物をイメージした。
ターナー領の進捗報告をするついでに晩餐に招待されたと言うとオリバーが服を貸してくれた。
「エイドリアンが残していった物で申し訳無いが、これなら君でも着れるだろう」
渡された服は裕福な平民が着るような小洒落た物で、お忍びで街を練り歩く時に貴族だと気付かれないように大きいサイズに作ったそうだ。
屋敷の中に案内されて、悠然と歩くクリスを見て、れっきとした貴族なんだと思い知らされる。
綺麗なドレスを着て、化粧もして…
どこからどう見ても令嬢だった。
食事は豪華でどれも美味しかったし、みんなで話す時間も楽しい物だった。
それよりも、家族3人が楽しそうに話している姿を見れたことの方が嬉しかった。
でも、15歳という言葉で思い浮かんだのはザックの顔。
ここでのんびり楽しく過ごしている場合じゃなかった。
俺達を不幸のどん底に陥れたあいつを、絶対に許してはいけないんだ。
他にも被害が出る前に、誰かが…俺があいつを止めなきゃいけないんだ。
ここに来てから忘れかけていた、自分の本分をようやく思い出す。
でも、クリスになんて言おう…
いつ言えばいい…?
あんなに楽しそうに羊の世話をしているのに
家族との距離が縮まったと言って笑っているのに
俺はまたクリスを泣かせてしまうのか…?
クリスには笑っていて欲しい。
過ぎていく時間に焦る毎日。
ようやく決心がついた。
出て行くと伝えた時、クリスは笑って送り出してくれた。
泣かせなくて良かったと安堵した。
見送りには来てくれなかったけど、もう会うこともない。
これで良かったんだ。
俺は欲しかった情報も持って帰れずに、城に忍び込んで監視を続けていた。
国王や王子、王妃や聖女の現状を目の当たりにして…
(フォーリュにいる間に一体何が起こったんだ…?)
きっと、今まで取り繕っていた化けの皮が剥がれたんだろう。
国民達の不満も増すばかりで、すぐに隙を見せるに違いない。
嫌な事ばかりを耳にするようになって、憎しみも全て忘れられたあの時間が懐かしく感じる。
クリスが元気にやってくれていればそれでいい。
今は国王に一矢報いる事だけを考えよう。
監視を続けていると、あいつと王子が何やら話をしていた。
「何故わざわざこの僕が出向かないといけないのかな?」
「そう言うな。隣国との交流も王族としての立派な務めだ」
「僕たちよりも劣る国に行く必要ないと思うけどね」
「お前の素晴らしさを見せつけてやれば良かろう」
反吐の出そうになる会話に耳を疑う。
(それにしても、隣国か…。フォーリュじゃないと良いんだが…)
そんな願いも虚しく
AJが持って来た情報によると、今度フォーリュで大きな夜会が開催されるそうで、貴族は全員参加しなければいけないという。
俺は国王の事だけを考えれば良いのに、迷わずフォーリュに向けて出発していた。
王子に顔を見られてはまずいと思って、陰に隠れてクリスを見守る。
バルコニーに出てきたクリスは晩餐の日よりも着飾っていて、最後に見た時よりも大人になったと
そんなに月日は経っていないのに、時の流れを感じた。
バルコニーに出てきた王子がクリスに詰め寄っているのを見て、顔を見られても構わないと飛び出す。
「クリス!」
居ても立っても居られなかった。
二人で走って逃げて、屋敷の前まで話しながら歩いて…
オリバーが俺の名前を叫んで呼んだからだろう。
オリバーの息子だと勘違いしたようだった。
クリスの気持ちには気付いていた。
剣術も教えていたから最初は兄のように慕ってくれてると思ったけど、そうじゃないと気付いたのは誕生日に髪飾りをあげた時。
正直なところ、その気持ちは嬉しかった。
でも、俺は化け物なんだ。
クリスに近付いて良い人間じゃない。
復讐のために城に忍び込んで、ずっと監視をしていた。
情報を得るために近付いて、利用しようとした。
俺のこの両手は、血で染まってる。
繋いだままの手を放した。
何故か、クリスの手も汚れてしまう気がしたんだ。
静かに泣くクリスを慰める事も出来なくて、走って屋敷に入って行く姿を目で追うだけ。
バタン…
ドアが閉まって、そこからクリスが出てくるわけがないのに…
俺は暫くそこから動けなかった。
俺は気持ちを切り替えてイディオに帰った王子を追った。
「僕のクリスティーナはまだ見つからないの?これだから弱国は…。1ヶ月も猶予を与えるんじゃなかったよ。そんなに待てるわけないじゃないか!」
この時初めて俺達が居なくなった後の夜会での出来事を知る。
でも、王子はクリスを平民だと思っているようだった。
今のジェームズ達なら、クリスを死物狂いで守るだろう。
(泣かせるつもりは無かったんだけどな…。あれからどうしただろう…)
ここではろくな物も買えないし、金も無いから俺は髪飾りを作った。
シヴァの元にいた時に学んだ事がこういう事に役立つとは思わなかったけど、使えるものは使おう。
クリスの好みがわからないから、なんとなく似合いそうな物をイメージした。
ターナー領の進捗報告をするついでに晩餐に招待されたと言うとオリバーが服を貸してくれた。
「エイドリアンが残していった物で申し訳無いが、これなら君でも着れるだろう」
渡された服は裕福な平民が着るような小洒落た物で、お忍びで街を練り歩く時に貴族だと気付かれないように大きいサイズに作ったそうだ。
屋敷の中に案内されて、悠然と歩くクリスを見て、れっきとした貴族なんだと思い知らされる。
綺麗なドレスを着て、化粧もして…
どこからどう見ても令嬢だった。
食事は豪華でどれも美味しかったし、みんなで話す時間も楽しい物だった。
それよりも、家族3人が楽しそうに話している姿を見れたことの方が嬉しかった。
でも、15歳という言葉で思い浮かんだのはザックの顔。
ここでのんびり楽しく過ごしている場合じゃなかった。
俺達を不幸のどん底に陥れたあいつを、絶対に許してはいけないんだ。
他にも被害が出る前に、誰かが…俺があいつを止めなきゃいけないんだ。
ここに来てから忘れかけていた、自分の本分をようやく思い出す。
でも、クリスになんて言おう…
いつ言えばいい…?
あんなに楽しそうに羊の世話をしているのに
家族との距離が縮まったと言って笑っているのに
俺はまたクリスを泣かせてしまうのか…?
クリスには笑っていて欲しい。
過ぎていく時間に焦る毎日。
ようやく決心がついた。
出て行くと伝えた時、クリスは笑って送り出してくれた。
泣かせなくて良かったと安堵した。
見送りには来てくれなかったけど、もう会うこともない。
これで良かったんだ。
俺は欲しかった情報も持って帰れずに、城に忍び込んで監視を続けていた。
国王や王子、王妃や聖女の現状を目の当たりにして…
(フォーリュにいる間に一体何が起こったんだ…?)
きっと、今まで取り繕っていた化けの皮が剥がれたんだろう。
国民達の不満も増すばかりで、すぐに隙を見せるに違いない。
嫌な事ばかりを耳にするようになって、憎しみも全て忘れられたあの時間が懐かしく感じる。
クリスが元気にやってくれていればそれでいい。
今は国王に一矢報いる事だけを考えよう。
監視を続けていると、あいつと王子が何やら話をしていた。
「何故わざわざこの僕が出向かないといけないのかな?」
「そう言うな。隣国との交流も王族としての立派な務めだ」
「僕たちよりも劣る国に行く必要ないと思うけどね」
「お前の素晴らしさを見せつけてやれば良かろう」
反吐の出そうになる会話に耳を疑う。
(それにしても、隣国か…。フォーリュじゃないと良いんだが…)
そんな願いも虚しく
AJが持って来た情報によると、今度フォーリュで大きな夜会が開催されるそうで、貴族は全員参加しなければいけないという。
俺は国王の事だけを考えれば良いのに、迷わずフォーリュに向けて出発していた。
王子に顔を見られてはまずいと思って、陰に隠れてクリスを見守る。
バルコニーに出てきたクリスは晩餐の日よりも着飾っていて、最後に見た時よりも大人になったと
そんなに月日は経っていないのに、時の流れを感じた。
バルコニーに出てきた王子がクリスに詰め寄っているのを見て、顔を見られても構わないと飛び出す。
「クリス!」
居ても立っても居られなかった。
二人で走って逃げて、屋敷の前まで話しながら歩いて…
オリバーが俺の名前を叫んで呼んだからだろう。
オリバーの息子だと勘違いしたようだった。
クリスの気持ちには気付いていた。
剣術も教えていたから最初は兄のように慕ってくれてると思ったけど、そうじゃないと気付いたのは誕生日に髪飾りをあげた時。
正直なところ、その気持ちは嬉しかった。
でも、俺は化け物なんだ。
クリスに近付いて良い人間じゃない。
復讐のために城に忍び込んで、ずっと監視をしていた。
情報を得るために近付いて、利用しようとした。
俺のこの両手は、血で染まってる。
繋いだままの手を放した。
何故か、クリスの手も汚れてしまう気がしたんだ。
静かに泣くクリスを慰める事も出来なくて、走って屋敷に入って行く姿を目で追うだけ。
バタン…
ドアが閉まって、そこからクリスが出てくるわけがないのに…
俺は暫くそこから動けなかった。
俺は気持ちを切り替えてイディオに帰った王子を追った。
「僕のクリスティーナはまだ見つからないの?これだから弱国は…。1ヶ月も猶予を与えるんじゃなかったよ。そんなに待てるわけないじゃないか!」
この時初めて俺達が居なくなった後の夜会での出来事を知る。
でも、王子はクリスを平民だと思っているようだった。
今のジェームズ達なら、クリスを死物狂いで守るだろう。
(泣かせるつもりは無かったんだけどな…。あれからどうしただろう…)
41
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます
ぱんだ
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。
しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。
ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。
セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。
愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。
Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる