拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.

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第二十二話

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ジェームズにクリスの成人祝いに招待されて
ここではろくな物も買えないし、金も無いから俺は髪飾りを作った。

シヴァの元にいた時に学んだ事がこういう事に役立つとは思わなかったけど、使えるものは使おう。

クリスの好みがわからないから、なんとなく似合いそうな物をイメージした。


ターナー領の進捗報告をするついでに晩餐に招待されたと言うとオリバーが服を貸してくれた。

「エイドリアンが残していった物で申し訳無いが、これなら君でも着れるだろう」

渡された服は裕福な平民が着るような小洒落た物で、お忍びで街を練り歩く時に貴族だと気付かれないように大きいサイズに作ったそうだ。


屋敷の中に案内されて、悠然と歩くクリスを見て、れっきとした貴族なんだと思い知らされる。

綺麗なドレスを着て、化粧もして…
どこからどう見ても令嬢だった。

食事は豪華でどれも美味しかったし、みんなで話す時間も楽しい物だった。
それよりも、家族3人が楽しそうに話している姿を見れたことの方が嬉しかった。


でも、15歳という言葉で思い浮かんだのはザックの顔。

ここでのんびり楽しく過ごしている場合じゃなかった。
俺達を不幸のどん底に陥れたあいつを、絶対に許してはいけないんだ。
他にも被害が出る前に、誰かが…俺があいつを止めなきゃいけないんだ。

ここに来てから忘れかけていた、自分の本分をようやく思い出す。


でも、クリスになんて言おう…
いつ言えばいい…?

あんなに楽しそうに羊の世話をしているのに
家族との距離が縮まったと言って笑っているのに

俺はまたクリスを泣かせてしまうのか…?
クリスには笑っていて欲しい。

過ぎていく時間に焦る毎日。
ようやく決心がついた。

出て行くと伝えた時、クリスは笑って送り出してくれた。
泣かせなくて良かったと安堵した。

見送りには来てくれなかったけど、もう会うこともない。

これで良かったんだ。



俺は欲しかった情報も持って帰れずに、城に忍び込んで監視を続けていた。

国王や王子、王妃や聖女の現状を目の当たりにして…

(フォーリュにいる間に一体何が起こったんだ…?)

きっと、今まで取り繕っていた化けの皮が剥がれたんだろう。

国民達の不満も増すばかりで、すぐに隙を見せるに違いない。


嫌な事ばかりを耳にするようになって、憎しみも全て忘れられたあの時間が懐かしく感じる。

クリスが元気にやってくれていればそれでいい。
今は国王に一矢報いる事だけを考えよう。


監視を続けていると、あいつと王子が何やら話をしていた。

「何故わざわざこの僕が出向かないといけないのかな?」

「そう言うな。隣国との交流も王族としての立派な務めだ」

「僕たちよりも劣る国に行く必要ないと思うけどね」

「お前の素晴らしさを見せつけてやれば良かろう」

反吐の出そうになる会話に耳を疑う。

(それにしても、隣国か…。フォーリュじゃないと良いんだが…)


そんな願いも虚しく
AJが持って来た情報によると、今度フォーリュで大きな夜会が開催されるそうで、貴族は全員参加しなければいけないという。


俺は国王の事だけを考えれば良いのに、迷わずフォーリュに向けて出発していた。

王子に顔を見られてはまずいと思って、陰に隠れてクリスを見守る。

バルコニーに出てきたクリスは晩餐の日よりも着飾っていて、最後に見た時よりも大人になったと
そんなに月日は経っていないのに、時の流れを感じた。


バルコニーに出てきた王子がクリスに詰め寄っているのを見て、顔を見られても構わないと飛び出す。

「クリス!」

居ても立っても居られなかった。


二人で走って逃げて、屋敷の前まで話しながら歩いて…

オリバーが俺の名前を叫んで呼んだからだろう。
オリバーの息子だと勘違いしたようだった。


クリスの気持ちには気付いていた。

剣術も教えていたから最初は兄のように慕ってくれてると思ったけど、そうじゃないと気付いたのは誕生日に髪飾りをあげた時。

正直なところ、その気持ちは嬉しかった。

でも、俺は化け物なんだ。
クリスに近付いて良い人間じゃない。


復讐のために城に忍び込んで、ずっと監視をしていた。
情報を得るために近付いて、利用しようとした。

俺のこの両手は、血で染まってる。


繋いだままの手を放した。
何故か、クリスの手も汚れてしまう気がしたんだ。

静かに泣くクリスを慰める事も出来なくて、走って屋敷に入って行く姿を目で追うだけ。

バタン…

ドアが閉まって、そこからクリスが出てくるわけがないのに…
俺は暫くそこから動けなかった。



俺は気持ちを切り替えてイディオに帰った王子を追った。

「僕のクリスティーナはまだ見つからないの?これだから弱国は…。1ヶ月も猶予を与えるんじゃなかったよ。そんなに待てるわけないじゃないか!」

この時初めて俺達が居なくなった後の夜会での出来事を知る。
でも、王子はクリスを平民だと思っているようだった。
今のジェームズ達なら、クリスを死物狂いで守るだろう。

(泣かせるつもりは無かったんだけどな…。あれからどうしただろう…)
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