拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.

文字の大きさ
25 / 29

第二十五話

しおりを挟む
何か良い案はないかと考えていると、外から大きな笑い声が聞こえてくる。

クリスティーナが窓からそっと覗くと、四阿でロザリアとマリーが令嬢達を集めてお茶会を開いているようだった。

(暢気なものね…)

二人の服装を見れば散財具合が窺える。

大きな宝石を使ったネックレスや、レースを何枚も重ねたドレス。
キラキラと反射しているのは硝子?
いや、色とりどりの宝石の欠片をドレスにふんだんに散りばめたのか…

加減を知らない2人をどうやって抑えれば良いのか。
皆目検討もつかなかった。


考えても案は浮かんでこず、クリスティーナは書類の山に取り掛かる。
先程「本日の分です」と言って文官が荒に書類を持って来たので、仕分けたものと混ざらないように避けて置くように頼んだ。

クリスティーナは陳情書の数とその内容に頭を悩ましている。

(どれもお金と聖女に関するものが多いのね…)

聖女が現れたのに豊かになっていない。
生活が苦しくなった。
ドレスが購入できない。
給料が減った。タダ働きを強いられている。

どれもこれも似通った内容で、貴族家から提出された書類はどれも匿名の物だった。


机に何時間も齧り付いていたクリスティーナは、部屋に誰も居ないのをいい事に、身体を伸ばすついでに素振りの練習を始めた。

握っているのはペンだったが、何もないよりは良いだろう。

ウィルに教わった事を思い出しながら
ウィルのことを考えないように、無心になって身体を動かす。


気持ちがスッキリしたところで、再び机に向かう。

ひとつの山が無くなったところで今日の仕事を終わらせて
部屋で一人で夕食を取ることになった。

料理の腕は良いのだが、使っている食材が安い物なのだろう。
王城で食事をした事のないクリスティーナでも、以前の公爵邸で食べていた食事に比べてしまうと味が劣っているのがわかった。

湯浴みをして夜着に着替え、その日は就寝した。


翌朝、誰よりも早く目が覚めたクリスティーナは机の上にある書類の位置が少し変わっていることに気がついた。

疑問に思いながら近付くと、そこには1枚の用紙が置かれている。

(一体誰が…?でも、これは使えるわね)


クリスティーナは以前懇意にしていた商会に手紙を送り
それを受け取った商人は貴族家に手紙を認めた。

手紙を読んだ令嬢たちは商会の店舗に押しかけ、揃ってある物を購入して帰っていく。



そして、翌週開かれたロザリア主催のお茶会の場で…

令嬢たちはよく見ると同じではないのだが、似たような紫色のドレスを着ていた。
髪飾りやネックレスも同じ宝石を使用してあるのか、白く輝いている。

「なんでみんな同じ格好をしているの?」

マリーが近くにいる令嬢に尋ねると、驚いた顔で聞き返される。

「まぁ、聖女様でいらっしゃるマリー様はご存知ないのですか?」

「何よ。勿体振っていないで教えなさいよ」

「トランペ帝国で紫のドレスと白くて美しい石が流行の品だという噂を耳にしたのですわ。ねぇ?」

話を振られた隣りにいる令嬢も同じように答える。

「私もそのような噂を耳にしたもので…、恥ずかしながらお父様に強請ってしまいましたの」


そんなの知らない、聞いてない。
聖女の自分を差し置いて、流行りの物を着るなんて…
そんなの許せない。

喚き散らすマリーを宥めながら、ロザリアも同じ事を考えていた。

商会の者は何も言っていなかった。
せっかく王家御用達の店にしてあげたというのに…
格下の貴族達に先を越されて、狐につままれた気分だ。


何処で購入したのか尋ねると、全員が同じ商会の名前を出す。それは以前懇意にしていた商会で…

ロザリアはお茶会を早々にお開きにして、すぐに商人を城に呼び出した。


「我々独自の調査で帝国の流行を入手いたしまして、ここイディオにも取り入れた次第でございます。美しく気品のある王妃様と華やかで可憐な聖女様が着てくだされば、一目置かれることでしょう」

商人の耳障りの良い言葉と
見せられた貴族達よりも豪奢な宝石やドレスに気分を良くしたロザリア達。
商人の持って来た全ての品を買い占めた。


「流石、帝国で流行っている物は違うわね。品があって王妃の私にはピッタリだわ」

今まで持っていた物が急に下品に思えてきたロザリアは、全ての宝石をマリーに下げ渡す事にした。


「あんなおばさんが持っていた物なんていらないわよ。私は可愛い物が欲しいの。こんな派手でギラギラした物なんて聖女の私には相応しくないじゃない」

可哀想な側室にでもあげれば良い。
平民の彼女には到底買えない品なのだから。


こうして大量の宝石がクリスティーナの元に贈られた。

(偽物のガラス玉に喜んで本物の宝石を手放すだなんて、馬鹿な王妃様…)

クリスティーナはアルジャンに手紙を出した。


手紙を受け取ったアルジャンはすぐさま行動を起こし
クリスティーナの手元にある宝石はよく似たレプリカに変えられる。


返せと言われても、返ってくるのは偽物の宝石。
それでもロザリアは気付かないだろう。

差額は使用人達の給料として秘密裏に配られた。
税金は少しずつ引き下げられる予定だ。


商会を変えた事で二人の散財も治まるだろう。
ウィルフレッドにもそこの商会で美容にいい漢方か何かを買わせれば良いだけ。

こうして出ていくお金の問題を解決出来たクリスティーナだったが、残る問題はまだある。

騎士団の異様に高い給料。
村を襲った黒尽くめの男たち。
そして、クリスティーナに情報をくれた謎の人物。

敵なのか味方なのかもわからないが
あの二人が流行りに目がないことや、帝国で流行っている物が書かれていた。

藁にもすがる思いで手を打ってみたら
面白いようにことが進み、ロザリアの宝石が貰えるというオマケ付き。


(一体誰なの…?)

クリスティーナは差出人不明の手紙をもう一度読んで、それを暖炉の火に焚べる。

メラメラと燃えて跡形もなくなった事を確認して、再び書類の山に取り掛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。 ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。 失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。 ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。 こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。 二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

ぱんだ
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。

Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。

処理中です...