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第二十五話
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何か良い案はないかと考えていると、外から大きな笑い声が聞こえてくる。
クリスティーナが窓からそっと覗くと、四阿でロザリアとマリーが令嬢達を集めてお茶会を開いているようだった。
(暢気なものね…)
二人の服装を見れば散財具合が窺える。
大きな宝石を使ったネックレスや、レースを何枚も重ねたドレス。
キラキラと反射しているのは硝子?
いや、色とりどりの宝石の欠片をドレスにふんだんに散りばめたのか…
加減を知らない2人をどうやって抑えれば良いのか。
皆目検討もつかなかった。
考えても案は浮かんでこず、クリスティーナは書類の山に取り掛かる。
先程「本日の分です」と言って文官が荒に書類を持って来たので、仕分けたものと混ざらないように避けて置くように頼んだ。
クリスティーナは陳情書の数とその内容に頭を悩ましている。
(どれもお金と聖女に関するものが多いのね…)
聖女が現れたのに豊かになっていない。
生活が苦しくなった。
ドレスが購入できない。
給料が減った。タダ働きを強いられている。
どれもこれも似通った内容で、貴族家から提出された書類はどれも匿名の物だった。
机に何時間も齧り付いていたクリスティーナは、部屋に誰も居ないのをいい事に、身体を伸ばすついでに素振りの練習を始めた。
握っているのはペンだったが、何もないよりは良いだろう。
ウィルに教わった事を思い出しながら
ウィルのことを考えないように、無心になって身体を動かす。
気持ちがスッキリしたところで、再び机に向かう。
ひとつの山が無くなったところで今日の仕事を終わらせて
部屋で一人で夕食を取ることになった。
料理の腕は良いのだが、使っている食材が安い物なのだろう。
王城で食事をした事のないクリスティーナでも、以前の公爵邸で食べていた食事に比べてしまうと味が劣っているのがわかった。
湯浴みをして夜着に着替え、その日は就寝した。
翌朝、誰よりも早く目が覚めたクリスティーナは机の上にある書類の位置が少し変わっていることに気がついた。
疑問に思いながら近付くと、そこには1枚の用紙が置かれている。
(一体誰が…?でも、これは使えるわね)
クリスティーナは以前懇意にしていた商会に手紙を送り
それを受け取った商人は貴族家に手紙を認めた。
手紙を読んだ令嬢たちは商会の店舗に押しかけ、揃ってある物を購入して帰っていく。
そして、翌週開かれたロザリア主催のお茶会の場で…
令嬢たちはよく見ると同じではないのだが、似たような紫色のドレスを着ていた。
髪飾りやネックレスも同じ宝石を使用してあるのか、白く輝いている。
「なんでみんな同じ格好をしているの?」
マリーが近くにいる令嬢に尋ねると、驚いた顔で聞き返される。
「まぁ、聖女様でいらっしゃるマリー様はご存知ないのですか?」
「何よ。勿体振っていないで教えなさいよ」
「トランペ帝国で紫のドレスと白くて美しい石が流行の品だという噂を耳にしたのですわ。ねぇ?」
話を振られた隣りにいる令嬢も同じように答える。
「私もそのような噂を耳にしたもので…、恥ずかしながらお父様に強請ってしまいましたの」
そんなの知らない、聞いてない。
聖女の自分を差し置いて、流行りの物を着るなんて…
そんなの許せない。
喚き散らすマリーを宥めながら、ロザリアも同じ事を考えていた。
商会の者は何も言っていなかった。
せっかく王家御用達の店にしてあげたというのに…
格下の貴族達に先を越されて、狐につままれた気分だ。
何処で購入したのか尋ねると、全員が同じ商会の名前を出す。それは以前懇意にしていた商会で…
ロザリアはお茶会を早々にお開きにして、すぐに商人を城に呼び出した。
「我々独自の調査で帝国の流行を入手いたしまして、ここイディオにも取り入れた次第でございます。美しく気品のある王妃様と華やかで可憐な聖女様が着てくだされば、一目置かれることでしょう」
商人の耳障りの良い言葉と
見せられた貴族達よりも豪奢な宝石やドレスに気分を良くしたロザリア達。
商人の持って来た全ての品を買い占めた。
「流石、帝国で流行っている物は違うわね。品があって王妃の私にはピッタリだわ」
今まで持っていた物が急に下品に思えてきたロザリアは、全ての宝石をマリーに下げ渡す事にした。
「あんなおばさんが持っていた物なんていらないわよ。私は可愛い物が欲しいの。こんな派手でギラギラした物なんて聖女の私には相応しくないじゃない」
可哀想な側室にでもあげれば良い。
平民の彼女には到底買えない品なのだから。
こうして大量の宝石がクリスティーナの元に贈られた。
(偽物のガラス玉に喜んで本物の宝石を手放すだなんて、馬鹿な王妃様…)
クリスティーナはアルジャンに手紙を出した。
手紙を受け取ったアルジャンはすぐさま行動を起こし
クリスティーナの手元にある宝石はよく似たレプリカに変えられる。
返せと言われても、返ってくるのは偽物の宝石。
それでもロザリアは気付かないだろう。
差額は使用人達の給料として秘密裏に配られた。
税金は少しずつ引き下げられる予定だ。
商会を変えた事で二人の散財も治まるだろう。
ウィルフレッドにもそこの商会で美容にいい漢方か何かを買わせれば良いだけ。
こうして出ていくお金の問題を解決出来たクリスティーナだったが、残る問題はまだある。
騎士団の異様に高い給料。
村を襲った黒尽くめの男たち。
そして、クリスティーナに情報をくれた謎の人物。
敵なのか味方なのかもわからないが
あの二人が流行りに目がないことや、帝国で流行っている物が書かれていた。
藁にもすがる思いで手を打ってみたら
面白いようにことが進み、ロザリアの宝石が貰えるというオマケ付き。
(一体誰なの…?)
クリスティーナは差出人不明の手紙をもう一度読んで、それを暖炉の火に焚べる。
メラメラと燃えて跡形もなくなった事を確認して、再び書類の山に取り掛かった。
クリスティーナが窓からそっと覗くと、四阿でロザリアとマリーが令嬢達を集めてお茶会を開いているようだった。
(暢気なものね…)
二人の服装を見れば散財具合が窺える。
大きな宝石を使ったネックレスや、レースを何枚も重ねたドレス。
キラキラと反射しているのは硝子?
いや、色とりどりの宝石の欠片をドレスにふんだんに散りばめたのか…
加減を知らない2人をどうやって抑えれば良いのか。
皆目検討もつかなかった。
考えても案は浮かんでこず、クリスティーナは書類の山に取り掛かる。
先程「本日の分です」と言って文官が荒に書類を持って来たので、仕分けたものと混ざらないように避けて置くように頼んだ。
クリスティーナは陳情書の数とその内容に頭を悩ましている。
(どれもお金と聖女に関するものが多いのね…)
聖女が現れたのに豊かになっていない。
生活が苦しくなった。
ドレスが購入できない。
給料が減った。タダ働きを強いられている。
どれもこれも似通った内容で、貴族家から提出された書類はどれも匿名の物だった。
机に何時間も齧り付いていたクリスティーナは、部屋に誰も居ないのをいい事に、身体を伸ばすついでに素振りの練習を始めた。
握っているのはペンだったが、何もないよりは良いだろう。
ウィルに教わった事を思い出しながら
ウィルのことを考えないように、無心になって身体を動かす。
気持ちがスッキリしたところで、再び机に向かう。
ひとつの山が無くなったところで今日の仕事を終わらせて
部屋で一人で夕食を取ることになった。
料理の腕は良いのだが、使っている食材が安い物なのだろう。
王城で食事をした事のないクリスティーナでも、以前の公爵邸で食べていた食事に比べてしまうと味が劣っているのがわかった。
湯浴みをして夜着に着替え、その日は就寝した。
翌朝、誰よりも早く目が覚めたクリスティーナは机の上にある書類の位置が少し変わっていることに気がついた。
疑問に思いながら近付くと、そこには1枚の用紙が置かれている。
(一体誰が…?でも、これは使えるわね)
クリスティーナは以前懇意にしていた商会に手紙を送り
それを受け取った商人は貴族家に手紙を認めた。
手紙を読んだ令嬢たちは商会の店舗に押しかけ、揃ってある物を購入して帰っていく。
そして、翌週開かれたロザリア主催のお茶会の場で…
令嬢たちはよく見ると同じではないのだが、似たような紫色のドレスを着ていた。
髪飾りやネックレスも同じ宝石を使用してあるのか、白く輝いている。
「なんでみんな同じ格好をしているの?」
マリーが近くにいる令嬢に尋ねると、驚いた顔で聞き返される。
「まぁ、聖女様でいらっしゃるマリー様はご存知ないのですか?」
「何よ。勿体振っていないで教えなさいよ」
「トランペ帝国で紫のドレスと白くて美しい石が流行の品だという噂を耳にしたのですわ。ねぇ?」
話を振られた隣りにいる令嬢も同じように答える。
「私もそのような噂を耳にしたもので…、恥ずかしながらお父様に強請ってしまいましたの」
そんなの知らない、聞いてない。
聖女の自分を差し置いて、流行りの物を着るなんて…
そんなの許せない。
喚き散らすマリーを宥めながら、ロザリアも同じ事を考えていた。
商会の者は何も言っていなかった。
せっかく王家御用達の店にしてあげたというのに…
格下の貴族達に先を越されて、狐につままれた気分だ。
何処で購入したのか尋ねると、全員が同じ商会の名前を出す。それは以前懇意にしていた商会で…
ロザリアはお茶会を早々にお開きにして、すぐに商人を城に呼び出した。
「我々独自の調査で帝国の流行を入手いたしまして、ここイディオにも取り入れた次第でございます。美しく気品のある王妃様と華やかで可憐な聖女様が着てくだされば、一目置かれることでしょう」
商人の耳障りの良い言葉と
見せられた貴族達よりも豪奢な宝石やドレスに気分を良くしたロザリア達。
商人の持って来た全ての品を買い占めた。
「流石、帝国で流行っている物は違うわね。品があって王妃の私にはピッタリだわ」
今まで持っていた物が急に下品に思えてきたロザリアは、全ての宝石をマリーに下げ渡す事にした。
「あんなおばさんが持っていた物なんていらないわよ。私は可愛い物が欲しいの。こんな派手でギラギラした物なんて聖女の私には相応しくないじゃない」
可哀想な側室にでもあげれば良い。
平民の彼女には到底買えない品なのだから。
こうして大量の宝石がクリスティーナの元に贈られた。
(偽物のガラス玉に喜んで本物の宝石を手放すだなんて、馬鹿な王妃様…)
クリスティーナはアルジャンに手紙を出した。
手紙を受け取ったアルジャンはすぐさま行動を起こし
クリスティーナの手元にある宝石はよく似たレプリカに変えられる。
返せと言われても、返ってくるのは偽物の宝石。
それでもロザリアは気付かないだろう。
差額は使用人達の給料として秘密裏に配られた。
税金は少しずつ引き下げられる予定だ。
商会を変えた事で二人の散財も治まるだろう。
ウィルフレッドにもそこの商会で美容にいい漢方か何かを買わせれば良いだけ。
こうして出ていくお金の問題を解決出来たクリスティーナだったが、残る問題はまだある。
騎士団の異様に高い給料。
村を襲った黒尽くめの男たち。
そして、クリスティーナに情報をくれた謎の人物。
敵なのか味方なのかもわからないが
あの二人が流行りに目がないことや、帝国で流行っている物が書かれていた。
藁にもすがる思いで手を打ってみたら
面白いようにことが進み、ロザリアの宝石が貰えるというオマケ付き。
(一体誰なの…?)
クリスティーナは差出人不明の手紙をもう一度読んで、それを暖炉の火に焚べる。
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