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第二十六話
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マリーはイライラしていた。
それというのも、今日のお茶会で招いた貴族達はずっとクリスティーナの話ばかりしていたからだ。
「クリスティーナ様が戻っていらしてくれて良かったわ」
「えぇ、本当に。助言を頂けて我が家も大いに助かりましたわ」
「流石に筆頭公爵家で育った方は違うのね…」
いつもは自分のご機嫌取りをしようと褒め称えてくるのに
今日はマリーに見向きもしない。
「なによ!あの女は私を虐めていたのよ?それに今はただの平民じゃない!部屋に閉じ籠もっているだけのあの女に何が出来るっていうのよ!」
「言わせておけば良いじゃない」
ロザリアは自分が一番輝く白い宝石を身に着けていることに満足して、クリスティーナのことには興味がない。
顔を見合わせて苦笑いする貴族令嬢たちを見たマリーは更に苛立ち、挨拶もせずにお茶会から抜け出した。
「ウィルフレッド様!」
ウィルフレッドが執務室で鏡に見惚れているところにマリーが突撃する。
「どうしたんだい?今日は母上とお茶会の予定だっただろう?」
マリーは突然泣き出した。
「みんなが…、私じゃなくてあの女を褒めるの…。私をずっと虐めていた酷い女なのに…、部屋に閉じ籠もって何もしていないのに…。聖女として頑張ってる私よりもあの女が良いって言うの…」
「そうかそうか」
ウィルフレッドはマリーを慰めることもせず、満足そうに頷いている。
「ウィルフレッド様…?」
「クリスティーナも愛する僕の為に頑張っているみたいだね。側室にする日が待ち遠しいよ」
「側室…?」
そんな事は聞いていない。
マリーは怒鳴りたい気持ちを抑えてウィルフレッドに続きを促した。
「マリーにはまだ言っていなかったね。クリスティーナを側室にして執務を手伝って貰うのさ。僕はマリーと過ごす時間が増えるし、クリスティーナも僕のために働けるのだから幸せだろう?」
「お仕事をさせる為なのね?ウィルフレッド様が愛してるのは私だけなんだよね?」
ウィルフレッドは徐ろに立ち上がってマリーの眼の前に移動し、顔を覗き込む。
「何を馬鹿なことを言うのかと思えば…」
「ウィルフレッド様…」
じっと自分の目を見つめるウィルフレッドに抱き着こうとしたマリーだったが、ウィルフレッドは姿見の前に移動してしまう。
「僕が一番に愛しているのは僕自身さ。マリーは僕の横に立つのに相応しい聖女だからね。マリーのことは2番目に愛しているよ」
あまりにも物言いが衝撃的過ぎて、目も口も限界まで開くマリー。ウィルフレッドは鏡に夢中で気付くことは無かった。
「で、でも…、あの女は平民よね?側室なんかにはなれないわ」
「マリー…」
ウィルフレッドはようやくマリーの顔を見る。
「あの女だなんて言い方はよしてくれ。汚い言葉遣いは好きじゃないんだ」
「ごめんなさい…。でも、私は酷い嫌がらせを受けていたのよ?」
「やれやれ…」とウィルフレッドは両手を上げて首を振る。
「それも僕が魅力的過ぎるのが悪いんだよ。クリスティーナを責めるのは止めてくれ。反省した彼女は僕のために頑張っているじゃないか。それに…」
クリスティーナの髪が伸びた頃には貴族家に養女に入れるつもりだ。今の彼女ならどこの家も名乗りを上げるだろう。
変わった彼女は誰よりも美しい。自分の次にだが…。
ウィルフレッドの話を聞いたマリーはふらふらと執務を出ていき、自分の部屋に戻っていく。
(せっかく居なくなったと思ったのに…。貴族に戻るなんて冗談じゃないわ)
翌日、マリーはロザリアにどうにかしてもらえるように頼むのだが、ロザリアは聞き入れてはくれなかった。
「クリスティーナは正妃にはなれないのよ?側室になっても何の権限も与えられないのだから、良いように働いて貰えば良いじゃない」
側室の住む建物は別棟で、ロザリアがクリスティーナに会うこともない。
何かと気に食わなかったクリスティーナが視界に入らなければ、ロザリアには気にする必要も無かった。
(それが嫌だから言ってるんじゃない!)
以前のように嫌がらせを受けたと噂を流しても、会うことのないクリスティーナがどうやって?と、信憑性が無い。
(私は聖女よ?聖女の私が嫌だと言ったら止めるものでしょう?いくら側室だからって、あの女とウィルフレッド様を共有するなんてゾッとするわ)
マリーはウィルフレッドの側近達を呼び出した。
「あの邪魔な女をどうにかしなさいよ!」
「ですが、クリスティーナ嬢は側室であれば何の問題もないと思うのですが…」
「そんなの関係無いわよ。聖女の私が嫌だって言ってるの」
計画を立てる時間が欲しいと言ってなんとかマリーを宥めた側近達は、疲れた顔でコソコソと話し合っていた。
「どうする?」
「どうもこうも、クリスティーナ嬢は有能だ。側室なら大した力もないし、重要な書類も行かないようにしてある。最早脅威でも何でも無いだろう?」
「そうだよ。以前のように俺達の仕事を肩代わりさせればいい。別棟に引き籠もっているんだから、何もわからないさ」
「そうだよな。それにしても、誰のお陰で聖女になれたと思っているんだ。最近の態度は見過ごせないね」
人の気配を感じた側近たちは話を止め、何事もなかったかのように歩きだす。
彼らが向かうのはロザリアの私室。
「そう。あなた達にも言ったのね。私に任せておきなさい。あの子は単純だもの…。それよりも、クリスティーナは出しゃばったりしていないでしょうね?」
「はい。常に別棟の部屋で過ごしております。書類仕事ばかりをしているようで、これと言って不審な点もございません…」
「それなら良いのよ」
側近たちが出ていき、ロザリアは笑いを堪えることが出来なかった。
「ずっと目障りだったのよ。自分は何でもできますっていうあの目が嫌いなのよ。可哀想なクリスティーナ。何の権限も与えられず、簡単で面倒な仕事ばかりを与えられるのね…。いい気味だわ」
ロザリアは商人を呼び寄せ、マリーの望むままに買い与えた。それで溜飲も下がったのだろう。
マリーは暫くは大人しくしていた。
しかし、ある日突然不満が爆発する。
「最近少し丸くなったんじゃないかい?僕の隣に立っていたいなら、その可愛らしさは保ってくれないと困るよ」
ウィルフレッドにそう言われてしまった。
毎週のお茶会に、ここ最近はヤケ食いもしていたマリー。
自分でもドレスがキツくなったと感じていたが、まさか気付かれるとは思ってもみなかった。
ウィルフレッドに太らない薬を譲り受け、毎日飲むようになる。
就寝前にひと粒飲むだけだと言われていたのだが、早く効果を出したいマリーは朝晩で2回飲んでいた。
すぐに効果が出て、ウィルフレッドに褒められたマリーは毎日薬を飲んでいる。
(ウィルフレッド様に相応しいのは私だけよ)
それというのも、今日のお茶会で招いた貴族達はずっとクリスティーナの話ばかりしていたからだ。
「クリスティーナ様が戻っていらしてくれて良かったわ」
「えぇ、本当に。助言を頂けて我が家も大いに助かりましたわ」
「流石に筆頭公爵家で育った方は違うのね…」
いつもは自分のご機嫌取りをしようと褒め称えてくるのに
今日はマリーに見向きもしない。
「なによ!あの女は私を虐めていたのよ?それに今はただの平民じゃない!部屋に閉じ籠もっているだけのあの女に何が出来るっていうのよ!」
「言わせておけば良いじゃない」
ロザリアは自分が一番輝く白い宝石を身に着けていることに満足して、クリスティーナのことには興味がない。
顔を見合わせて苦笑いする貴族令嬢たちを見たマリーは更に苛立ち、挨拶もせずにお茶会から抜け出した。
「ウィルフレッド様!」
ウィルフレッドが執務室で鏡に見惚れているところにマリーが突撃する。
「どうしたんだい?今日は母上とお茶会の予定だっただろう?」
マリーは突然泣き出した。
「みんなが…、私じゃなくてあの女を褒めるの…。私をずっと虐めていた酷い女なのに…、部屋に閉じ籠もって何もしていないのに…。聖女として頑張ってる私よりもあの女が良いって言うの…」
「そうかそうか」
ウィルフレッドはマリーを慰めることもせず、満足そうに頷いている。
「ウィルフレッド様…?」
「クリスティーナも愛する僕の為に頑張っているみたいだね。側室にする日が待ち遠しいよ」
「側室…?」
そんな事は聞いていない。
マリーは怒鳴りたい気持ちを抑えてウィルフレッドに続きを促した。
「マリーにはまだ言っていなかったね。クリスティーナを側室にして執務を手伝って貰うのさ。僕はマリーと過ごす時間が増えるし、クリスティーナも僕のために働けるのだから幸せだろう?」
「お仕事をさせる為なのね?ウィルフレッド様が愛してるのは私だけなんだよね?」
ウィルフレッドは徐ろに立ち上がってマリーの眼の前に移動し、顔を覗き込む。
「何を馬鹿なことを言うのかと思えば…」
「ウィルフレッド様…」
じっと自分の目を見つめるウィルフレッドに抱き着こうとしたマリーだったが、ウィルフレッドは姿見の前に移動してしまう。
「僕が一番に愛しているのは僕自身さ。マリーは僕の横に立つのに相応しい聖女だからね。マリーのことは2番目に愛しているよ」
あまりにも物言いが衝撃的過ぎて、目も口も限界まで開くマリー。ウィルフレッドは鏡に夢中で気付くことは無かった。
「で、でも…、あの女は平民よね?側室なんかにはなれないわ」
「マリー…」
ウィルフレッドはようやくマリーの顔を見る。
「あの女だなんて言い方はよしてくれ。汚い言葉遣いは好きじゃないんだ」
「ごめんなさい…。でも、私は酷い嫌がらせを受けていたのよ?」
「やれやれ…」とウィルフレッドは両手を上げて首を振る。
「それも僕が魅力的過ぎるのが悪いんだよ。クリスティーナを責めるのは止めてくれ。反省した彼女は僕のために頑張っているじゃないか。それに…」
クリスティーナの髪が伸びた頃には貴族家に養女に入れるつもりだ。今の彼女ならどこの家も名乗りを上げるだろう。
変わった彼女は誰よりも美しい。自分の次にだが…。
ウィルフレッドの話を聞いたマリーはふらふらと執務を出ていき、自分の部屋に戻っていく。
(せっかく居なくなったと思ったのに…。貴族に戻るなんて冗談じゃないわ)
翌日、マリーはロザリアにどうにかしてもらえるように頼むのだが、ロザリアは聞き入れてはくれなかった。
「クリスティーナは正妃にはなれないのよ?側室になっても何の権限も与えられないのだから、良いように働いて貰えば良いじゃない」
側室の住む建物は別棟で、ロザリアがクリスティーナに会うこともない。
何かと気に食わなかったクリスティーナが視界に入らなければ、ロザリアには気にする必要も無かった。
(それが嫌だから言ってるんじゃない!)
以前のように嫌がらせを受けたと噂を流しても、会うことのないクリスティーナがどうやって?と、信憑性が無い。
(私は聖女よ?聖女の私が嫌だと言ったら止めるものでしょう?いくら側室だからって、あの女とウィルフレッド様を共有するなんてゾッとするわ)
マリーはウィルフレッドの側近達を呼び出した。
「あの邪魔な女をどうにかしなさいよ!」
「ですが、クリスティーナ嬢は側室であれば何の問題もないと思うのですが…」
「そんなの関係無いわよ。聖女の私が嫌だって言ってるの」
計画を立てる時間が欲しいと言ってなんとかマリーを宥めた側近達は、疲れた顔でコソコソと話し合っていた。
「どうする?」
「どうもこうも、クリスティーナ嬢は有能だ。側室なら大した力もないし、重要な書類も行かないようにしてある。最早脅威でも何でも無いだろう?」
「そうだよ。以前のように俺達の仕事を肩代わりさせればいい。別棟に引き籠もっているんだから、何もわからないさ」
「そうだよな。それにしても、誰のお陰で聖女になれたと思っているんだ。最近の態度は見過ごせないね」
人の気配を感じた側近たちは話を止め、何事もなかったかのように歩きだす。
彼らが向かうのはロザリアの私室。
「そう。あなた達にも言ったのね。私に任せておきなさい。あの子は単純だもの…。それよりも、クリスティーナは出しゃばったりしていないでしょうね?」
「はい。常に別棟の部屋で過ごしております。書類仕事ばかりをしているようで、これと言って不審な点もございません…」
「それなら良いのよ」
側近たちが出ていき、ロザリアは笑いを堪えることが出来なかった。
「ずっと目障りだったのよ。自分は何でもできますっていうあの目が嫌いなのよ。可哀想なクリスティーナ。何の権限も与えられず、簡単で面倒な仕事ばかりを与えられるのね…。いい気味だわ」
ロザリアは商人を呼び寄せ、マリーの望むままに買い与えた。それで溜飲も下がったのだろう。
マリーは暫くは大人しくしていた。
しかし、ある日突然不満が爆発する。
「最近少し丸くなったんじゃないかい?僕の隣に立っていたいなら、その可愛らしさは保ってくれないと困るよ」
ウィルフレッドにそう言われてしまった。
毎週のお茶会に、ここ最近はヤケ食いもしていたマリー。
自分でもドレスがキツくなったと感じていたが、まさか気付かれるとは思ってもみなかった。
ウィルフレッドに太らない薬を譲り受け、毎日飲むようになる。
就寝前にひと粒飲むだけだと言われていたのだが、早く効果を出したいマリーは朝晩で2回飲んでいた。
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