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第二十七話
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山のように積まれた書類に取り掛かるクリスティーナだったが、処理しても追加で運ばれてくる書類に終わりが見えない。
(これでは情報収集ができないわ。誰か一人でも協力してくれる人がいればいいのだけれど…)
建物の外に出ることを許されていないクリスティーナが会えるのは、世話をする侍女に書類を持ってくる文官、そして何かと相談しに来るアルジャンだけだった。
誰が味方になってくれるかもわからない現状では、迂闊に話しかけることすらできない。
そんなある日の朝、クリスティーナが目覚めると机の上に1枚の紙が置かれていた。
そこには市井に流れる噂や不満の声、ずっと欲していても手に入らなかった生きた情報が書かれている。
差出人不明の内容を鵜呑みにすることはできないが、もしこれが事実だったら?
自分を騙そうとしているのか、あるいは味方になってくれるのか…。
クリスティーナは寝る前に1枚の手紙を書いて机の上に置いた。
- あなたは誰? -
誰が来ても気配でわかるように目を閉じたまま耳を澄ませていたのだが、朝日が昇っても何の気配も感じなかった。
(そう簡単に来てくれるわけ無いわよね…)
気落ちするクリスティーナが手紙を処分しようと机に向かうと、そこに置かれているのは別の紙。
- 正体は明かせない。ただ、君を助けたいとは思っている -
寝ているふりをしてずっと起きていたのに、誰かが部屋にいたことにも気づかなかった。
相手が誰なのか。どのようにして忍び込んだのか。目的は何なのか…。
気軽に信じてはいけないとわかっているのに、この手紙が一筋の光に思えた。
クリスティーナはこの日から謎の人物と文通をするようになる。
欲しい情報を聞けば事細かに調べてくれる。
気をつける事、知っておいた方がいい事も事前に手紙に書いて教えてくれる。
しかし、相手の情報だけはどんなに些細な事でも教えてはくれなかった。
(あなたは一体どこの誰なの…?)
手紙を暖炉の火に焚べようとした時、微かに煙草の匂いがした。
あ…と思った時には火の中で燃えていて、確かめることは出来ない。
まさか…。
一瞬思い浮かんだ人物を頭の中から打ち消して、いつものように書類の整理に取り掛かる。
そんなはずない。
これは行き場のない不安が作り出した幻想。
会いたい。助けて欲しい。
心の奥に閉じ込めた感情が飛び出してきそうで、クリスティーナは一心不乱になって書類を読み込んでいた。
その頃のターナー伯爵領では…。
何処を探しても見つからないクリスティーナを心配して、ジェームズとアメリアは憔悴していた。
「何処へ行ってしまったの…?」
「まさか、ひとりでイディオに向かったのでは…」
必死に隠していたのに、もしかしたら知ってしまったのかも知れない。
「私はすぐにイディオに向かうよ。もしクリスティーナがそこに居るのなら、何としてでも連れて帰ってくる」
「あなた…」
「心配いらないよ。何があってもクリスティーナだけは絶対に君の元に送り届けるから」
イディオに行っていないことを祈りながら、もしそこに居るのなら迎えに行こうとジェームズは思い立った。
ジェームズが動きやすい服装に着替えて屋敷を出発しようとすると、オリバー卿が訪れた。
「良い知らせと悪い知らせがある…」
どんなに小さな情報でも欲しい。
ジェームズはオリバーを応接室に案内しようとしたが、オリバーは時間が惜しいからこの場で良いと言って話し始める。
「クリスティーナ嬢の居場所が判明した。やはりイディオに向かったらしい」
こうしてはいられないとジェームズは屋敷を出ようとするが、オリバーがそれを止める。
「今は別棟に軟禁されているようだ。髪が伸びるまでは安心していいと言っていた。その日まで猶予はあるだろう」
「一体誰が…?」
オリバーは答える代わりに手紙をジェームズに手渡した。
「私の倅だよ。今はイディオに居て、何やら企んでいるらしい」
手紙には、クリスティーナは別棟に軟禁されている以外は何不自由なく生活していると書かれていた。
王族や側近たちの執務を肩代わりさせられているみたいだが、特に問題ないらしい。
外には出られないが、ウィルフレッドを始め危険な人物も別棟に寄り付かない為、身の安全は保証されているそうだ。
最後に、今はこちらでなんとかするから、連絡するまで勝手に動かないで欲しい旨が書かれていた。
「放浪して迷惑ばかりかける馬鹿息子だが、あれはあれで頼りになる。クリスティーナ嬢が心配で今すぐにでも助けに行きたい気持ちも理解しているつもりだが、ここは倅を信じて待ってはくれないだろうか?」
ジェームズがアメリアを覗うと、アメリアは決意した表情で頷く。
「わかりました。何から何まで恩に着ます」
オリバーを見送ったジェームズとアメリアは悲しみに耐えていた。
時間をかけて絆が深まったと思ったのに、また離れ離れになってしまったクリスティーナ。
正直にウィルフレッドのことを話せばよかったのだろうか…?
自分たちで何とかするのではなく、3人で話し合っていれば…。
後悔してももう遅い。
勝手なことをしてクリスティーナを危険に晒させる訳にはいかない。
何もできずに、ただオリバーの息子からの連絡を待つことしか出来ない不甲斐なさ。
(こんな時にウィルがいてくれたら…)
今はもう居ないウィルの存在に縋り、
結局人を当てにしていることに気付いたジェームズは、なんとも情けない親だと自分自身を自嘲した。
「馬鹿息子が…」
オリバーはジェームズには見せなかった手紙を握りしめて
(これから国の情勢が大きく変わっていくだろう)
そう考えながらランダーズ王の元へと向かった。
(これでは情報収集ができないわ。誰か一人でも協力してくれる人がいればいいのだけれど…)
建物の外に出ることを許されていないクリスティーナが会えるのは、世話をする侍女に書類を持ってくる文官、そして何かと相談しに来るアルジャンだけだった。
誰が味方になってくれるかもわからない現状では、迂闊に話しかけることすらできない。
そんなある日の朝、クリスティーナが目覚めると机の上に1枚の紙が置かれていた。
そこには市井に流れる噂や不満の声、ずっと欲していても手に入らなかった生きた情報が書かれている。
差出人不明の内容を鵜呑みにすることはできないが、もしこれが事実だったら?
自分を騙そうとしているのか、あるいは味方になってくれるのか…。
クリスティーナは寝る前に1枚の手紙を書いて机の上に置いた。
- あなたは誰? -
誰が来ても気配でわかるように目を閉じたまま耳を澄ませていたのだが、朝日が昇っても何の気配も感じなかった。
(そう簡単に来てくれるわけ無いわよね…)
気落ちするクリスティーナが手紙を処分しようと机に向かうと、そこに置かれているのは別の紙。
- 正体は明かせない。ただ、君を助けたいとは思っている -
寝ているふりをしてずっと起きていたのに、誰かが部屋にいたことにも気づかなかった。
相手が誰なのか。どのようにして忍び込んだのか。目的は何なのか…。
気軽に信じてはいけないとわかっているのに、この手紙が一筋の光に思えた。
クリスティーナはこの日から謎の人物と文通をするようになる。
欲しい情報を聞けば事細かに調べてくれる。
気をつける事、知っておいた方がいい事も事前に手紙に書いて教えてくれる。
しかし、相手の情報だけはどんなに些細な事でも教えてはくれなかった。
(あなたは一体どこの誰なの…?)
手紙を暖炉の火に焚べようとした時、微かに煙草の匂いがした。
あ…と思った時には火の中で燃えていて、確かめることは出来ない。
まさか…。
一瞬思い浮かんだ人物を頭の中から打ち消して、いつものように書類の整理に取り掛かる。
そんなはずない。
これは行き場のない不安が作り出した幻想。
会いたい。助けて欲しい。
心の奥に閉じ込めた感情が飛び出してきそうで、クリスティーナは一心不乱になって書類を読み込んでいた。
その頃のターナー伯爵領では…。
何処を探しても見つからないクリスティーナを心配して、ジェームズとアメリアは憔悴していた。
「何処へ行ってしまったの…?」
「まさか、ひとりでイディオに向かったのでは…」
必死に隠していたのに、もしかしたら知ってしまったのかも知れない。
「私はすぐにイディオに向かうよ。もしクリスティーナがそこに居るのなら、何としてでも連れて帰ってくる」
「あなた…」
「心配いらないよ。何があってもクリスティーナだけは絶対に君の元に送り届けるから」
イディオに行っていないことを祈りながら、もしそこに居るのなら迎えに行こうとジェームズは思い立った。
ジェームズが動きやすい服装に着替えて屋敷を出発しようとすると、オリバー卿が訪れた。
「良い知らせと悪い知らせがある…」
どんなに小さな情報でも欲しい。
ジェームズはオリバーを応接室に案内しようとしたが、オリバーは時間が惜しいからこの場で良いと言って話し始める。
「クリスティーナ嬢の居場所が判明した。やはりイディオに向かったらしい」
こうしてはいられないとジェームズは屋敷を出ようとするが、オリバーがそれを止める。
「今は別棟に軟禁されているようだ。髪が伸びるまでは安心していいと言っていた。その日まで猶予はあるだろう」
「一体誰が…?」
オリバーは答える代わりに手紙をジェームズに手渡した。
「私の倅だよ。今はイディオに居て、何やら企んでいるらしい」
手紙には、クリスティーナは別棟に軟禁されている以外は何不自由なく生活していると書かれていた。
王族や側近たちの執務を肩代わりさせられているみたいだが、特に問題ないらしい。
外には出られないが、ウィルフレッドを始め危険な人物も別棟に寄り付かない為、身の安全は保証されているそうだ。
最後に、今はこちらでなんとかするから、連絡するまで勝手に動かないで欲しい旨が書かれていた。
「放浪して迷惑ばかりかける馬鹿息子だが、あれはあれで頼りになる。クリスティーナ嬢が心配で今すぐにでも助けに行きたい気持ちも理解しているつもりだが、ここは倅を信じて待ってはくれないだろうか?」
ジェームズがアメリアを覗うと、アメリアは決意した表情で頷く。
「わかりました。何から何まで恩に着ます」
オリバーを見送ったジェームズとアメリアは悲しみに耐えていた。
時間をかけて絆が深まったと思ったのに、また離れ離れになってしまったクリスティーナ。
正直にウィルフレッドのことを話せばよかったのだろうか…?
自分たちで何とかするのではなく、3人で話し合っていれば…。
後悔してももう遅い。
勝手なことをしてクリスティーナを危険に晒させる訳にはいかない。
何もできずに、ただオリバーの息子からの連絡を待つことしか出来ない不甲斐なさ。
(こんな時にウィルがいてくれたら…)
今はもう居ないウィルの存在に縋り、
結局人を当てにしていることに気付いたジェームズは、なんとも情けない親だと自分自身を自嘲した。
「馬鹿息子が…」
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そう考えながらランダーズ王の元へと向かった。
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