かみさまの朝ごはん

たかまつ よう

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おひさまのくやしなみだ

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 おばあさんは社に戻り、棚から木の箱をひとつ下ろしました。
 かまどには、まるでイクラのような、オレンジ色の豆粒が真ん中に置いてあり、ぽわぽわとした鈍い光を放っていました。その上に、なにかブリキのような、アルミのような、白っぽい金属の箱を乗せ、

「ぴゅう、ぷぷぷ」

と、口の中で唱えました。オレンジの豆粒は、んぽっとひとすじ、炎を出して、金属缶のような箱をあたためて行きました。
 金属缶の横にある扉を開いて、おばあさんは、先ほどの木の箱を開けました。中には白い雲がぎゅっとまとめて詰めてありました。
 げんこつの半分ほどの大きさにちぎって、細長く丸め、四角いバットに並べます。ちょうど4本、間を開けて並べられました。

 それを温まった金属の箱(のようなものです。オーブンの役目をします。)の中段に入れると、その上に、平たい鍋を乗せました。金属の箱の上に乗せられた平鍋は、じわじわと温まっていきます。おばあさんはそこに、くるみの油をとぷん、と流しいれました。
 
雲の入った木箱の下に、布の袋がかけてありました。その袋をはずして、中身を取り出したのはおじいさんです。
 「この前は、揚げる前に飛んでっちまったからね。私がすばやく!やってあげよう。」
 「あら、私もちゃんとすばやかったんですよ。」
 おばあさんは楽しそうに言いました。

 いつもおじいさんはそんな感じで、途中から手伝いだすのです。
 朝ごはんをふたりで用意するのは楽しいことでした。
 おじいさんが袋から取り出したのは小さなつむじ風でした。冬の木枯らしが、森や里のあちこちでらせんを巻いて消えていくのを、ふたりが追いかけ、固めて持ち帰ったものでした。
 
それを4つ取り出して、おじいさんは温まったくるみの油の中に並べました。
 薄青かったつむじ風は、油の中でじゅうじゅうときつねいろになりながら、ねじれた体をほどこうと少しあばれます。
 おじいさんは飛んでいかないように、つむじ風の真ん中をトングでそっと押さえていました。
 つむじ風があきらめて、すっかりきつねいろになった頃、下の金属箱からもいいにおいがしてきました。

「雲、焼けたみたいだぞ。」

 おばあさんは上の棚から、つやつやした草の茎を編んだかごを出しました。そこに金属箱から出したての、上がこんがり焼けた雲を並べ、冬の松葉を研いで作った、とてもよく切れる細いナイフで、縦に切り込みを入れていきました。
 おじいさんはその切込みをふっかり開いて、揚げたてのつむじ風を、油も切らないでざくざくとはさみこんでいきました。

「ほんの少し、塩をふるかい?」「ひとつは、おさとうがいいですね。」
 おじいさんは4本のホットドッグ?のうち、2本にぱらりと塩を振り、2本には樹液を煮詰めたしゃりしゃりの砂糖を乗せました。

 その間におばあさんは、かまどの中のオレンジの豆粒に、

「ほわ、るるる」

と、唱えると、ぼわぼわと燃えていた炎が小さくなり、また、イクラのようになりました。
 …このオレンジの豆粒は、「おひさまのくやしなみだ」です。
 
とおいとおい昔に、おじいさんはおひさまの近くまで出かけて行き、碁の勝負をしました。
 この、ひとつぶのくやしなみだを手に入れるために、おじいさんはなんと1年間、毎日、おひさまに挑戦したのです。
 おかげでおひさまとおじいさんはすっかり仲良くなり、いまでも何年かに一度はでかけていって、碁を打ったり、歌を詠んだり、楽しく過ごすのです。
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