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清潔指導チームと六ツ子
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内科検診が混むころには、ほかの検査はみな、受け終わっていますから、ミツバチたちはきびきびと片付けにかかっていました。
きれいになったところにつぎつぎと椅子が置かれ、清潔指導の大会場が、もう、できあがるところでした。
「今度はこどもたちを前に座らせてあげましょうね。」
ジョセフィーヌは車いすを押しているイタチのばあさんが、いちばん前を陣取る前に言いました。
椅子の並んだ会場のまえは、一段高い舞台が作ってあり、遅咲きツツジの花とタンポポの茎でできた拡声器が置いてありました。
生真面目なウシアブくんが、かちんかちんに緊張しながら、舞台下手からあらわれました。
すぅーーーー。ふいぃーーーーー。
ウシアブ君は、拡声器の前に立つと大きく深呼吸をしました。それが拡声器に乗っかって、みんなの注目を集める合図になりました。
「はい、みなさん、健康診断は終わりましたか?では、これからもずーっと病気にかからないで元気に過ごせるように、みんなで、清潔な身体の保ち方の練習をしましょう。」
ウシアブ君がそう言うと、舞台の両袖から『清潔指導チーム』のメンバーがたかたかたか、と軽やかに走ってきました。
メンバーは今回の運営委員が、さとやまむらの中でも手やからだををあらうのが一番うまくて、いつもそれを行っている、と思われる虫たちを選抜しました。医師団チームにも確認しましたが、同意見でした。
…舞台中央のウシアブ君の両脇に、きらきらとかがやくキンバエさん、イエバエさん(美しいキンバエさんの隣に立つので、イエバエさんはナズナの小さな花で花かんむりを作ってかぶっていました。ちょっとかわいく見えました)。
つやつやのクロバエ君と、しましまのニクバエくんは、舞台の端っこでみんながちゃんと見えてるか、気を配りながら並びました。
「さあ、みんな、あいさつするよ!こんにちはー!」
クロバエくんがずらっと並んだ子供たちにあいさつしました。
でも、ちょうどそのとき、ハツカネズミの六ツ子たちが、椅子に座っていることに飽きて、ガタン、バタン、と椅子を揺らし始め、つい、と立ち上がってどこかへ走っていった時でした。
他の子どもたちはそっちに気を取られて半分はクロバエおにいさんを見ていませんでした。
「おやー?声がちいさいなー。もう一度、やっちゃおうかな。こーんにーちはー!」
クロバエ君がそういう前に、舞台の下、客席の前に当たるところに、ヤマトゴキブリの五木先生が現れていました。
彼はにこやかに陽気な踊りをおどりながら、特にハツカネズミの六ツ子の気をひくように、ちょいちょいとちょっかいをかけてきました。
「さーあ、よいこたち、みんなであいさつをするよー。」
五木先生の長い触覚の先に、ちっちゃな金と銀のすずが付けてありました。
よそ見をして、今にも立ち上がりそうな六ツ子のニコルは、それを見つけて目を奪われ、ゆらーり、ゆらーりゆれ動く金と銀のすずを、食い入るようにみつめ始めました。それに気づいた六ツ子のワンダーとサンダーも、小さな手を伸ばして、右へ、左へ、夢中でからだをゆらしていました。
会場のあちこちに散らばっていた、六ツ子の残り3人もあわてて戻ってきました。みんな、この五木教授が大好きでした。
「タケトシせんせー、それちょうだい!」
さかさかさか…
五木教授は、3匹のハツカネズミのこどもたちをあっという間にもとの椅子に座らせました。
「こーんにーちはー!」
おかげで、ほかのこどもたちはクロバエおにいさんの方に視線を戻して、ちゃんとあいさつすることができました。
「みんなー、今日は身長や体重をはかって、去年よりずっと大きくなっていたかい?」
「はーい!!」
みんなは、大きな声でへんじができていました。
六ツ子たちは、お母さんネズミと五木教授があの手この手で座らせていました。
6人ひとりひとり、座らせていると、全員座ったところで最初の子が飽きてしまいます。
ハツカネズミの母さんは、みんなに迷惑をかけている、というすまなさで冷や汗、あぶら汗でおろおろしています。五木先生はハツカネズミの母さんに言いました。
「お母さん、迷惑は、かけてもいいんだよ。みんなに助けてもらうんだ。そして、自分も必ずだれかを助けるんだ。そして最後は『すみません』じゃないよ、『ありがとう』と言い合うんだよ。さとやまむらのみんなが、『思ったようにいかない』事に慣れるんだ。楽しむんだ。そうすれば、何もかも変わるんだよ。」
「はい…。」
ハツカネズミのお母さんには、教授のことばがよくわかりませんでした。でも、責められていないのだけはわかりました。
「ちゃーんと手をあらう練習ができた子には、ごほうびシールがもらえるんだよー。さ、先生がついてるから、前を向こうね。」
触角をぐるぐる回しながら、五木先生は根気よく六ツ子を椅子に座らせていました。
六ツ子のひとり、ゴータは触られるのが苦手なので、身をよじって逃れようとしています。
うーん、ふんっ!
右に左に身をよじるゴータくんの鼻先に、教授の触角が触れました。金のすずが、ちっちゃくリン…と鳴りました。
「あー、これこれ金のすず、いまはしゃべったらだめだぞう。しぃーっ!」
ありがたいことに一瞬だけ、ゴータくんの気持ちがすずに飛びました。
「ほら、ゴータも言ってあげて。」
「…。」
ゴータくんの動きが止まり、ちっちゃな声で「しー」と言いました。
「ゴータ、時々すずを見てやって。」
「ん。」
ゴータは椅子に座り直し、両手をちゃーんとお膝に置いて、五木先生のヒゲの先はかり見つめ始めました。
きれいになったところにつぎつぎと椅子が置かれ、清潔指導の大会場が、もう、できあがるところでした。
「今度はこどもたちを前に座らせてあげましょうね。」
ジョセフィーヌは車いすを押しているイタチのばあさんが、いちばん前を陣取る前に言いました。
椅子の並んだ会場のまえは、一段高い舞台が作ってあり、遅咲きツツジの花とタンポポの茎でできた拡声器が置いてありました。
生真面目なウシアブくんが、かちんかちんに緊張しながら、舞台下手からあらわれました。
すぅーーーー。ふいぃーーーーー。
ウシアブ君は、拡声器の前に立つと大きく深呼吸をしました。それが拡声器に乗っかって、みんなの注目を集める合図になりました。
「はい、みなさん、健康診断は終わりましたか?では、これからもずーっと病気にかからないで元気に過ごせるように、みんなで、清潔な身体の保ち方の練習をしましょう。」
ウシアブ君がそう言うと、舞台の両袖から『清潔指導チーム』のメンバーがたかたかたか、と軽やかに走ってきました。
メンバーは今回の運営委員が、さとやまむらの中でも手やからだををあらうのが一番うまくて、いつもそれを行っている、と思われる虫たちを選抜しました。医師団チームにも確認しましたが、同意見でした。
…舞台中央のウシアブ君の両脇に、きらきらとかがやくキンバエさん、イエバエさん(美しいキンバエさんの隣に立つので、イエバエさんはナズナの小さな花で花かんむりを作ってかぶっていました。ちょっとかわいく見えました)。
つやつやのクロバエ君と、しましまのニクバエくんは、舞台の端っこでみんながちゃんと見えてるか、気を配りながら並びました。
「さあ、みんな、あいさつするよ!こんにちはー!」
クロバエくんがずらっと並んだ子供たちにあいさつしました。
でも、ちょうどそのとき、ハツカネズミの六ツ子たちが、椅子に座っていることに飽きて、ガタン、バタン、と椅子を揺らし始め、つい、と立ち上がってどこかへ走っていった時でした。
他の子どもたちはそっちに気を取られて半分はクロバエおにいさんを見ていませんでした。
「おやー?声がちいさいなー。もう一度、やっちゃおうかな。こーんにーちはー!」
クロバエ君がそういう前に、舞台の下、客席の前に当たるところに、ヤマトゴキブリの五木先生が現れていました。
彼はにこやかに陽気な踊りをおどりながら、特にハツカネズミの六ツ子の気をひくように、ちょいちょいとちょっかいをかけてきました。
「さーあ、よいこたち、みんなであいさつをするよー。」
五木先生の長い触覚の先に、ちっちゃな金と銀のすずが付けてありました。
よそ見をして、今にも立ち上がりそうな六ツ子のニコルは、それを見つけて目を奪われ、ゆらーり、ゆらーりゆれ動く金と銀のすずを、食い入るようにみつめ始めました。それに気づいた六ツ子のワンダーとサンダーも、小さな手を伸ばして、右へ、左へ、夢中でからだをゆらしていました。
会場のあちこちに散らばっていた、六ツ子の残り3人もあわてて戻ってきました。みんな、この五木教授が大好きでした。
「タケトシせんせー、それちょうだい!」
さかさかさか…
五木教授は、3匹のハツカネズミのこどもたちをあっという間にもとの椅子に座らせました。
「こーんにーちはー!」
おかげで、ほかのこどもたちはクロバエおにいさんの方に視線を戻して、ちゃんとあいさつすることができました。
「みんなー、今日は身長や体重をはかって、去年よりずっと大きくなっていたかい?」
「はーい!!」
みんなは、大きな声でへんじができていました。
六ツ子たちは、お母さんネズミと五木教授があの手この手で座らせていました。
6人ひとりひとり、座らせていると、全員座ったところで最初の子が飽きてしまいます。
ハツカネズミの母さんは、みんなに迷惑をかけている、というすまなさで冷や汗、あぶら汗でおろおろしています。五木先生はハツカネズミの母さんに言いました。
「お母さん、迷惑は、かけてもいいんだよ。みんなに助けてもらうんだ。そして、自分も必ずだれかを助けるんだ。そして最後は『すみません』じゃないよ、『ありがとう』と言い合うんだよ。さとやまむらのみんなが、『思ったようにいかない』事に慣れるんだ。楽しむんだ。そうすれば、何もかも変わるんだよ。」
「はい…。」
ハツカネズミのお母さんには、教授のことばがよくわかりませんでした。でも、責められていないのだけはわかりました。
「ちゃーんと手をあらう練習ができた子には、ごほうびシールがもらえるんだよー。さ、先生がついてるから、前を向こうね。」
触角をぐるぐる回しながら、五木先生は根気よく六ツ子を椅子に座らせていました。
六ツ子のひとり、ゴータは触られるのが苦手なので、身をよじって逃れようとしています。
うーん、ふんっ!
右に左に身をよじるゴータくんの鼻先に、教授の触角が触れました。金のすずが、ちっちゃくリン…と鳴りました。
「あー、これこれ金のすず、いまはしゃべったらだめだぞう。しぃーっ!」
ありがたいことに一瞬だけ、ゴータくんの気持ちがすずに飛びました。
「ほら、ゴータも言ってあげて。」
「…。」
ゴータくんの動きが止まり、ちっちゃな声で「しー」と言いました。
「ゴータ、時々すずを見てやって。」
「ん。」
ゴータは椅子に座り直し、両手をちゃーんとお膝に置いて、五木先生のヒゲの先はかり見つめ始めました。
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