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で、だ。次試合はトーナメントの関係ですぐに始まった。闘技場で顔を合わせたアッサム様には一言言わせていただきたい。
「前の人の事前情報、ちょっと酷くないですか?」
「……、闘技場の中で、は、戦略のうち、だろ。本番はいつ、でもかんぺき、な情報が、入る、訳じゃ、ねぇし」
「?」
訓練の一環と言う事らしい。それよりも、アッサム様の状態が気になる。軽く頭を支えている様なアッサム様の顔色は良くなく、時々痛みが走る様に顔をしかめている。
「体調不良ですか?」
「いや、お前相手ならこれ位問題、ねぇよ」
さいですか。じゃ、心配するの辞めます。
「アンズさん、遊んじゃいます?」
『失格はだめなのー』
「……じゃ、作戦Aで……?」
開始ほぼ同時にアッサム様はなんと膝をついた。かすかに震えてもいる様だ。え?これも戦略?と思ったけれど、流石に彼がそんな卑怯な戦略を使うとは思えない。
「アッサム様?」
場合によっては中止にしないと。実は重大な病気かもしれないし。近づいて、様子を見ようとした時に彼の震えは止まって顔を上げた。これは
「くっ」
可能な限り飛びのいて引いたけど切先はお腹を掠めた。先程ナルさんに切られた部分を魔法で軽く強化していたからこれで済んだけれど、そうでなければトラウマレベルにざっくりいってたかもしれない。
顔を上げたアッサム様は明らかに正気を失っていた。
なんか、目の白目のところの色が可笑しいんですけど?!
「ぐ、あ、逃げ」
瞬間、苦しげな表情になって、完全に意識が無くなった訳でもなさそう。
何が起きてるの?逃げて、棄権しろってこと?アッサム様以外の相手で、ヤバくなった場合は場外に逃げて棄権する事になっていた。ただ、非常に心証が悪くなるなるので出来れば辞めて欲しいですねぇ、ともリオネット様は言っていた。
闘技場の外を見ても、異変に気付いている様子は無く、肝心のリオネット様が控えてるはずの席は、何故か空いている。
え、トイレ?今この瞬間?いや、でも、確かにアッサム様相手で安心して席外すって事はありえるかも。
逡巡は一瞬で、とりあえず時間を稼ぐべしと水球を打ちまくる。それらをアッサム様の周りに集めて、高温で蒸発、浮遊率を高めて冷やす。直接攻撃じゃないからセーフなはず。
水蒸気と細氷の乱反射で外からはほとんど見えなくする。その即席の目隠しの中に私は突っ込んでいった。
『どーするの?』
「アッサム様の状態異常を解く!」
白魔法は勇者の加護が無い、状態異常解除はアンズからももらってない魔法だ。それでもやるしか無い。強化させたクナイの鎖で彼の動きを抑えながら、アンズにサポートしてもらいつつ状態異常解除を唱える。
かなり久しぶり。でも、兄様に教わった数少ない魔法で、動物の錯乱はかなりの数をこなしていた。もちろん、人に対してやった事はありません!
「視開」
魔力の偏りを視て、自分の魔力を注いで不均一を正す。過剰な神経回路を抑えて、流れを整える。……、そして相手の精神の奥に沈む!
「?」
動物達の時とは違って、思いの絡まりの様な記憶の汚泥の様な物が内側から邪魔してる?流石にこれを今ここで正すのは無理だから、軽く切り離して応急手当てだ。
『カリン!』
アンズの叫び声のコンマ後に、ざくっと貫かれる感覚。
痛みは、感じない。息がひゅっと鳴った。
視線の先の、アッサム様は、正気に戻ってる。驚きを隠せない、感じ。
手で胸元に触れると、ブロードソードの根本が触れた。
肺を貫通したのか、そりゃアッサム様も近距離にいるわけだ。
「カリン!」
重たい苦しみが迫り上がってくる私を抱えて、アッサム様は走っているようだ。意識が途切れかけた瞬間、全ての痛みも痺れの様な感覚も霧散した。
「アッサム様?」
「てめぇ、無茶しやがる」
闘技場の結界を抜けて、負傷無効が現れたらしい。ノーダメージ万歳。
しかし、安堵で座り込んだアッサム様は、私を離さなかった。
ほわい?
「我ながら、完璧な結界をを構築したものです」
今の今までどこに行ってたんだと言いたいリオネット様登場。しかし、口を挟むより先に、アッサム様の言葉に驚く。
「で、うまく行ったのか?」
「上々です。愚妹も父上母上も皆捕らえました」
「え?」
見たこともない私の義理の家族達捕まってる?
「それから、愚妹の企みもその様子だと失敗した様ですね」
ふふふと笑うリオネット様に何から聞けば良いのやら。
「ソフィア・マンチェスターは勇者の格付けを決める神聖なる試合にて、不正工作を行い、その両親はその幇助で捕らえられました。愚妹はアッサムを勇者候補から落として夫にしたかった様ですね。ついでに新しい兄弟には『精神的に戦えない様な恐怖』を与えるつもりだった様です。ま、我々にはバレてましたけど」
「えーっと、えーっと、私、利用された的な?」
「悪かった、一発アウトにするには未遂じゃダメでさ。軽く影響出しておいても試合位こなせると思ったんだが、事前の試算より俺への影響が強く出ちまった。……怖かったろ?」
「いえ、特に」
「はぁっ?」
「いや、だって痛みは幻影って知ってましたし、なんかもう久しぶりの白魔法でいっぱいいっぱいで」
ぎょっとした表情のアッサム様は「おま、貫かれてんのに……?」とパクパクやってる。その横で、リオネット様は微笑んでいた。
「流石、カリン」
この人怖い。ドン引きだ。
しかしながら、試合は終わって格付けは確定となった。証拠があるから逮捕はできて、国営事業は滞りなく終わり、確かにある意味ベストなんでしょう。お家騒動あるとはつゆとも知らなかった私の心の中以外は。
クラリス陛下に勝者アッサム様が月桂樹の様な冠を授与されて、それでおしまい。凄く疲れた一日だったから、もう早く帰って寝てしまいたい。
しかし、その冠授与が長いこと長いこと。陛下とお偉いさんのリオネット様と、勝者のアッサム様で儀式的な何かを開催している。私負けたから帰っても良いかしら?なんて言えないし、言っても二位なので実はほぼ最前列にいるため船も漕げない。
「ぐあぁぁあ!」
そこに闘技場にまさかのモヒカンさん乱入。
ここの警備どうなってんの!と絶望してしまう。流石に陛下を守るべき?と思ってクナイを飛ばそうとするけど、クナイはびくとも動かない。
「あ、れ?アンズ?」
『すやぁ』
寝とるがな!
え、や、まぁ、アッサム様いるし大丈夫?とモヒカンさんの方を見ると警備兵が追いついていた。陛下まで距離も有るし、モヒカンさんは得物は不携帯。よかった、これで捕まるね。
「カリン、目を閉じて」
いつの間にか私の近くまで下がっていたリオネット様が私をローブの後ろに匿う様に手を広げて前に立った。
「ぐぁっ」
「え?」
「終わるまで動かないで」
何が?
何が起きているか知りたい気がする。でも、離れたここまで血の匂いが広がる様な何かを見ようとする勇気は無い。
誰も何も言わない。ただ、ぐっちゃぐっちゃと、肉の塊に刃を突き立てる音がするだけ。
「……私は下がります。カリンには私の介助をお願いします」
「え、あ、はい」
リオネット様は私が現場を見れない様にローブで遮りながら、それでも私が支えなければならない程フラついていた。
じっとりと汗をかいていて、元々白い肌が青く透けそうだ。
「……死罰を見るには貴女はまだ幼すぎる」
控えの部屋は風上で、あの臭いも届かない。恐ろしい事に喧騒は無く、それは遠いからでは無く当たり前の出来事だから周りが騒いでいない様だった。
「あの、先程のは?」
「あの者ですか?あの者は怨嗟にやられたのです。魔王が振り撒く邪気で、魔力が低い者が罹りやすい。通常なら捕まえて専用の施設に送られるのですが、陛下に害意を表した場合は即座に死罰にと決まっています」
「じゃあ、病気みたいなもの……?」
「ええ。その様な相手に死罰なんて、あちらの世界では考えられない。けれど、こちらではそれが現実です。う……」
その事実はショックを受けるのに充分だった。けれど、今、目の前のリオネット様の急激な体調悪化の方が私には大事だった。
「前の人の事前情報、ちょっと酷くないですか?」
「……、闘技場の中で、は、戦略のうち、だろ。本番はいつ、でもかんぺき、な情報が、入る、訳じゃ、ねぇし」
「?」
訓練の一環と言う事らしい。それよりも、アッサム様の状態が気になる。軽く頭を支えている様なアッサム様の顔色は良くなく、時々痛みが走る様に顔をしかめている。
「体調不良ですか?」
「いや、お前相手ならこれ位問題、ねぇよ」
さいですか。じゃ、心配するの辞めます。
「アンズさん、遊んじゃいます?」
『失格はだめなのー』
「……じゃ、作戦Aで……?」
開始ほぼ同時にアッサム様はなんと膝をついた。かすかに震えてもいる様だ。え?これも戦略?と思ったけれど、流石に彼がそんな卑怯な戦略を使うとは思えない。
「アッサム様?」
場合によっては中止にしないと。実は重大な病気かもしれないし。近づいて、様子を見ようとした時に彼の震えは止まって顔を上げた。これは
「くっ」
可能な限り飛びのいて引いたけど切先はお腹を掠めた。先程ナルさんに切られた部分を魔法で軽く強化していたからこれで済んだけれど、そうでなければトラウマレベルにざっくりいってたかもしれない。
顔を上げたアッサム様は明らかに正気を失っていた。
なんか、目の白目のところの色が可笑しいんですけど?!
「ぐ、あ、逃げ」
瞬間、苦しげな表情になって、完全に意識が無くなった訳でもなさそう。
何が起きてるの?逃げて、棄権しろってこと?アッサム様以外の相手で、ヤバくなった場合は場外に逃げて棄権する事になっていた。ただ、非常に心証が悪くなるなるので出来れば辞めて欲しいですねぇ、ともリオネット様は言っていた。
闘技場の外を見ても、異変に気付いている様子は無く、肝心のリオネット様が控えてるはずの席は、何故か空いている。
え、トイレ?今この瞬間?いや、でも、確かにアッサム様相手で安心して席外すって事はありえるかも。
逡巡は一瞬で、とりあえず時間を稼ぐべしと水球を打ちまくる。それらをアッサム様の周りに集めて、高温で蒸発、浮遊率を高めて冷やす。直接攻撃じゃないからセーフなはず。
水蒸気と細氷の乱反射で外からはほとんど見えなくする。その即席の目隠しの中に私は突っ込んでいった。
『どーするの?』
「アッサム様の状態異常を解く!」
白魔法は勇者の加護が無い、状態異常解除はアンズからももらってない魔法だ。それでもやるしか無い。強化させたクナイの鎖で彼の動きを抑えながら、アンズにサポートしてもらいつつ状態異常解除を唱える。
かなり久しぶり。でも、兄様に教わった数少ない魔法で、動物の錯乱はかなりの数をこなしていた。もちろん、人に対してやった事はありません!
「視開」
魔力の偏りを視て、自分の魔力を注いで不均一を正す。過剰な神経回路を抑えて、流れを整える。……、そして相手の精神の奥に沈む!
「?」
動物達の時とは違って、思いの絡まりの様な記憶の汚泥の様な物が内側から邪魔してる?流石にこれを今ここで正すのは無理だから、軽く切り離して応急手当てだ。
『カリン!』
アンズの叫び声のコンマ後に、ざくっと貫かれる感覚。
痛みは、感じない。息がひゅっと鳴った。
視線の先の、アッサム様は、正気に戻ってる。驚きを隠せない、感じ。
手で胸元に触れると、ブロードソードの根本が触れた。
肺を貫通したのか、そりゃアッサム様も近距離にいるわけだ。
「カリン!」
重たい苦しみが迫り上がってくる私を抱えて、アッサム様は走っているようだ。意識が途切れかけた瞬間、全ての痛みも痺れの様な感覚も霧散した。
「アッサム様?」
「てめぇ、無茶しやがる」
闘技場の結界を抜けて、負傷無効が現れたらしい。ノーダメージ万歳。
しかし、安堵で座り込んだアッサム様は、私を離さなかった。
ほわい?
「我ながら、完璧な結界をを構築したものです」
今の今までどこに行ってたんだと言いたいリオネット様登場。しかし、口を挟むより先に、アッサム様の言葉に驚く。
「で、うまく行ったのか?」
「上々です。愚妹も父上母上も皆捕らえました」
「え?」
見たこともない私の義理の家族達捕まってる?
「それから、愚妹の企みもその様子だと失敗した様ですね」
ふふふと笑うリオネット様に何から聞けば良いのやら。
「ソフィア・マンチェスターは勇者の格付けを決める神聖なる試合にて、不正工作を行い、その両親はその幇助で捕らえられました。愚妹はアッサムを勇者候補から落として夫にしたかった様ですね。ついでに新しい兄弟には『精神的に戦えない様な恐怖』を与えるつもりだった様です。ま、我々にはバレてましたけど」
「えーっと、えーっと、私、利用された的な?」
「悪かった、一発アウトにするには未遂じゃダメでさ。軽く影響出しておいても試合位こなせると思ったんだが、事前の試算より俺への影響が強く出ちまった。……怖かったろ?」
「いえ、特に」
「はぁっ?」
「いや、だって痛みは幻影って知ってましたし、なんかもう久しぶりの白魔法でいっぱいいっぱいで」
ぎょっとした表情のアッサム様は「おま、貫かれてんのに……?」とパクパクやってる。その横で、リオネット様は微笑んでいた。
「流石、カリン」
この人怖い。ドン引きだ。
しかしながら、試合は終わって格付けは確定となった。証拠があるから逮捕はできて、国営事業は滞りなく終わり、確かにある意味ベストなんでしょう。お家騒動あるとはつゆとも知らなかった私の心の中以外は。
クラリス陛下に勝者アッサム様が月桂樹の様な冠を授与されて、それでおしまい。凄く疲れた一日だったから、もう早く帰って寝てしまいたい。
しかし、その冠授与が長いこと長いこと。陛下とお偉いさんのリオネット様と、勝者のアッサム様で儀式的な何かを開催している。私負けたから帰っても良いかしら?なんて言えないし、言っても二位なので実はほぼ最前列にいるため船も漕げない。
「ぐあぁぁあ!」
そこに闘技場にまさかのモヒカンさん乱入。
ここの警備どうなってんの!と絶望してしまう。流石に陛下を守るべき?と思ってクナイを飛ばそうとするけど、クナイはびくとも動かない。
「あ、れ?アンズ?」
『すやぁ』
寝とるがな!
え、や、まぁ、アッサム様いるし大丈夫?とモヒカンさんの方を見ると警備兵が追いついていた。陛下まで距離も有るし、モヒカンさんは得物は不携帯。よかった、これで捕まるね。
「カリン、目を閉じて」
いつの間にか私の近くまで下がっていたリオネット様が私をローブの後ろに匿う様に手を広げて前に立った。
「ぐぁっ」
「え?」
「終わるまで動かないで」
何が?
何が起きているか知りたい気がする。でも、離れたここまで血の匂いが広がる様な何かを見ようとする勇気は無い。
誰も何も言わない。ただ、ぐっちゃぐっちゃと、肉の塊に刃を突き立てる音がするだけ。
「……私は下がります。カリンには私の介助をお願いします」
「え、あ、はい」
リオネット様は私が現場を見れない様にローブで遮りながら、それでも私が支えなければならない程フラついていた。
じっとりと汗をかいていて、元々白い肌が青く透けそうだ。
「……死罰を見るには貴女はまだ幼すぎる」
控えの部屋は風上で、あの臭いも届かない。恐ろしい事に喧騒は無く、それは遠いからでは無く当たり前の出来事だから周りが騒いでいない様だった。
「あの、先程のは?」
「あの者ですか?あの者は怨嗟にやられたのです。魔王が振り撒く邪気で、魔力が低い者が罹りやすい。通常なら捕まえて専用の施設に送られるのですが、陛下に害意を表した場合は即座に死罰にと決まっています」
「じゃあ、病気みたいなもの……?」
「ええ。その様な相手に死罰なんて、あちらの世界では考えられない。けれど、こちらではそれが現実です。う……」
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