【R18】二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。親友がTS転移でイケメンチートのサイコパスになってた話。

吉瀬

文字の大きさ
28 / 65

よろしく頼む

しおりを挟む
「いえ、お譲りいただけるなら嬉しいですが……」

 アッサム様を見やると、彼はアッシャーちゃんをリズさんに返した。

「俺に似た、俺の名の人形か。しかも、こいつには宿り主が居ない。アッシャーは髪色が違うしな。俺は守り人形もねぇ。すげぇな、出来過ぎだ。……ありがたく頂戴する」

 アッサム様が受け取ると、リズさんは「ご武運を」と添えた。

 本当は姉弟。たった1人きりだった家族。でも、ここでは貴族と平民で、男と女。彼はもう、アッシャーちゃんの様にリズさんに抱きしめられる事は無い。

「むぎゃぁ」
「お?眠いか、腹減ったか?思ったより長居だったな。退散するわ」
「そんな、もったいないお言葉!」

 アッシャーちゃんが可愛い声はこの時間の終わりを告げるものだ。慌てた付き添いの女性を軽く手で制してアッサム様が立ち上がったので、私も付き従う。軽い所作のアッサム様。私は後ろ髪が引かれまくりだ。

「じゃあな」
「お邪魔しました!」

 振り返るだけの挨拶だけをしたアッサム様の背中に、リズさんは立ち上がって、アッシャーちゃんは女性に預けて、それから深々とお辞儀した。

「どうかお体を大切に。またお顔を拝見できる日をお待ちしております」

 アッサム様は一瞬立ち止まった。だけど、もう振り返りも声もかけずにまた歩き出して部屋を出て行ってしまった。私は代わりに「ありがとうございます。失礼します」と頭を下げて、後に続いた。

 アッサム様も流石に泣いてるんじゃ……?

 扉を開けるとアッサム様は消えていて、私は教会に急ぐ。が、小走りなのにアッサム様に追いつけない。
 ようやく追いついたのは教会の中庭で、アッサム様は司祭様と談笑していた。
 彼は泣いてはいない。来た時と同じ、屈託ない笑顔だ。それが、どこか悲しい。

「……それで、司祭の集まりでも、原石の出身がどこだったかは誰も知りませんでな。アッサム様はマンチェスター出身と聞いておりましたので、不思議に思うておりました」
「ここ程門徒全員を把握してねぇんじゃね?それか、箝口令に忠実な司祭ばっかとか」
「しかし、過去1人も原石の出身地を知っている者もいない。それに、偶然こちらにいらっしゃるにしては、この教会の中庭は小さすぎるのでな」

 和やかに、けれど結構際どい話が聞こえてきて、思わず身を隠した。これって、つまり原石の周りの人は皆記憶を失うという事?

「じぃさん何が言いてぇんだよ?」

 冗談の様に笑ってアッサム様はかわした。あの司祭様はそれで諦めてくれるだろうか?

「いえ、ただ、次回はいつ偶然いらっしゃるのかと」

 含み笑いの声色で、この人は気がついたんだと分かった。覚えているんじゃ無くて、気がついている。アッサム様がここ出身だと気がついたって、そんな感じ。

「もう教会ここにはこねぇよ。父上と母上に会いにきたり、仕事ではサルフォードに寄るだろうが。だから、じぃさん、皆を頼むな」
「もう来ない?何故ですかな?」

 もう来ない?私はきっと司祭様と同じ表情になってたはずだ。そりゃしょっちゅうは無理だろうけど、リズさんの2人目とか、アッシャーちゃんのお誕生日とか、まだまだ会いに来れるんじゃ……

「俺んとこのじぃさんが言ってだんだよ。『2回は偶然だ。敏い者は気づくかもしれんが、偶然で通る。偶然を通せる。だが、3回はダメだ。3回は偶然にならん。ねぇさんを護るためだ、すまん』ってな」

 ハッとした。そうか、この敏い司祭様が言ったんだ、彼に。じぃさんと呼ぶアッサム様。親のいない姉弟だった彼らと司祭様の関係は恐らくとても近しい。2人きりの姉弟がどんな絆か知っていて、小さい時から見ていた司祭様が、それしか無いって彼に言って聞かせたんだ。

「……まさか、そんな」

 そして、司祭様も私と同じ結論に思い至ってる。

「そう言うこった。……じいさん、皆を頼んだ。俺はもう近くでは守れねぇから。カリン!隠れても無駄だ!帰るぞ!」

 名前を呼ばれて、全速力で駆けた。アッサム様は騎獣にすでに乗っていて、私はその後ろに飛び乗る。と同時に、急上昇した。すでに遠い地面の上で、司祭様はうずくまる様になっていて、輔祭さんが駆け寄るのが見えた。

「ちょっとだけ、回り道して帰るぞ。そんなんじゃ、俺がナルニッサに怒られる。奴はお前に関しちゃ見境ねぇからな」
「ひ、ぐ、ふぇっ、ず、ずみません」
「しかし、もうちょい可愛く泣けねぇの?」
「む、りですぅ」

 原石は忘れられる。それがどう言う事かをアッサム様やリオネット様は見てこいという事だったのか。私は原石の設定だから。見たところで、私にこの重みを装う事は無理だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

処理中です...