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「いえ、お譲りいただけるなら嬉しいですが……」
アッサム様を見やると、彼はアッシャーちゃんをリズさんに返した。
「俺に似た、俺の名の人形か。しかも、こいつには宿り主が居ない。アッシャーは髪色が違うしな。俺は守り人形もねぇ。すげぇな、出来過ぎだ。……ありがたく頂戴する」
アッサム様が受け取ると、リズさんは「ご武運を」と添えた。
本当は姉弟。たった1人きりだった家族。でも、ここでは貴族と平民で、男と女。彼はもう、アッシャーちゃんの様にリズさんに抱きしめられる事は無い。
「むぎゃぁ」
「お?眠いか、腹減ったか?思ったより長居だったな。退散するわ」
「そんな、もったいないお言葉!」
アッシャーちゃんが可愛い声はこの時間の終わりを告げるものだ。慌てた付き添いの女性を軽く手で制してアッサム様が立ち上がったので、私も付き従う。軽い所作のアッサム様。私は後ろ髪が引かれまくりだ。
「じゃあな」
「お邪魔しました!」
振り返るだけの挨拶だけをしたアッサム様の背中に、リズさんは立ち上がって、アッシャーちゃんは女性に預けて、それから深々とお辞儀した。
「どうかお体を大切に。またお顔を拝見できる日をお待ちしております」
アッサム様は一瞬立ち止まった。だけど、もう振り返りも声もかけずにまた歩き出して部屋を出て行ってしまった。私は代わりに「ありがとうございます。失礼します」と頭を下げて、後に続いた。
アッサム様も流石に泣いてるんじゃ……?
扉を開けるとアッサム様は消えていて、私は教会に急ぐ。が、小走りなのにアッサム様に追いつけない。
ようやく追いついたのは教会の中庭で、アッサム様は司祭様と談笑していた。
彼は泣いてはいない。来た時と同じ、屈託ない笑顔だ。それが、どこか悲しい。
「……それで、司祭の集まりでも、原石の出身がどこだったかは誰も知りませんでな。アッサム様はマンチェスター出身と聞いておりましたので、不思議に思うておりました」
「ここ程門徒全員を把握してねぇんじゃね?それか、箝口令に忠実な司祭ばっかとか」
「しかし、過去1人も原石の出身地を知っている者もいない。それに、偶然こちらにいらっしゃるにしては、この教会の中庭は小さすぎるのでな」
和やかに、けれど結構際どい話が聞こえてきて、思わず身を隠した。これって、つまり原石の周りの人は皆記憶を失うという事?
「じぃさん何が言いてぇんだよ?」
冗談の様に笑ってアッサム様はかわした。あの司祭様はそれで諦めてくれるだろうか?
「いえ、ただ、次回はいつ偶然いらっしゃるのかと」
含み笑いの声色で、この人は気がついたんだと分かった。覚えているんじゃ無くて、気がついている。アッサム様がここ出身だと気がついたって、そんな感じ。
「もう教会にはこねぇよ。父上と母上に会いにきたり、仕事ではサルフォードに寄るだろうが。だから、じぃさん、皆を頼むな」
「もう来ない?何故ですかな?」
もう来ない?私はきっと司祭様と同じ表情になってたはずだ。そりゃしょっちゅうは無理だろうけど、リズさんの2人目とか、アッシャーちゃんのお誕生日とか、まだまだ会いに来れるんじゃ……
「俺んとこのじぃさんが言ってだんだよ。『2回は偶然だ。敏い者は気づくかもしれんが、偶然で通る。偶然を通せる。だが、3回はダメだ。3回は偶然にならん。ねぇさんを護るためだ、すまん』ってな」
ハッとした。そうか、この敏い司祭様が言ったんだ、彼に。じぃさんと呼ぶアッサム様。親のいない姉弟だった彼らと司祭様の関係は恐らくとても近しい。2人きりの姉弟がどんな絆か知っていて、小さい時から見ていた司祭様が、それしか無いって彼に言って聞かせたんだ。
「……まさか、そんな」
そして、司祭様も私と同じ結論に思い至ってる。
「そう言うこった。……じいさん、皆を頼んだ。俺はもう近くでは守れねぇから。カリン!隠れても無駄だ!帰るぞ!」
名前を呼ばれて、全速力で駆けた。アッサム様は騎獣にすでに乗っていて、私はその後ろに飛び乗る。と同時に、急上昇した。すでに遠い地面の上で、司祭様は蹲る様になっていて、輔祭さんが駆け寄るのが見えた。
「ちょっとだけ、回り道して帰るぞ。そんなんじゃ、俺がナルニッサに怒られる。奴はお前に関しちゃ見境ねぇからな」
「ひ、ぐ、ふぇっ、ず、ずみません」
「しかし、もうちょい可愛く泣けねぇの?」
「む、りですぅ」
原石は忘れられる。それがどう言う事かをアッサム様やリオネット様は見てこいという事だったのか。私は原石の設定だから。見たところで、私にこの重みを装う事は無理だ。
アッサム様を見やると、彼はアッシャーちゃんをリズさんに返した。
「俺に似た、俺の名の人形か。しかも、こいつには宿り主が居ない。アッシャーは髪色が違うしな。俺は守り人形もねぇ。すげぇな、出来過ぎだ。……ありがたく頂戴する」
アッサム様が受け取ると、リズさんは「ご武運を」と添えた。
本当は姉弟。たった1人きりだった家族。でも、ここでは貴族と平民で、男と女。彼はもう、アッシャーちゃんの様にリズさんに抱きしめられる事は無い。
「むぎゃぁ」
「お?眠いか、腹減ったか?思ったより長居だったな。退散するわ」
「そんな、もったいないお言葉!」
アッシャーちゃんが可愛い声はこの時間の終わりを告げるものだ。慌てた付き添いの女性を軽く手で制してアッサム様が立ち上がったので、私も付き従う。軽い所作のアッサム様。私は後ろ髪が引かれまくりだ。
「じゃあな」
「お邪魔しました!」
振り返るだけの挨拶だけをしたアッサム様の背中に、リズさんは立ち上がって、アッシャーちゃんは女性に預けて、それから深々とお辞儀した。
「どうかお体を大切に。またお顔を拝見できる日をお待ちしております」
アッサム様は一瞬立ち止まった。だけど、もう振り返りも声もかけずにまた歩き出して部屋を出て行ってしまった。私は代わりに「ありがとうございます。失礼します」と頭を下げて、後に続いた。
アッサム様も流石に泣いてるんじゃ……?
扉を開けるとアッサム様は消えていて、私は教会に急ぐ。が、小走りなのにアッサム様に追いつけない。
ようやく追いついたのは教会の中庭で、アッサム様は司祭様と談笑していた。
彼は泣いてはいない。来た時と同じ、屈託ない笑顔だ。それが、どこか悲しい。
「……それで、司祭の集まりでも、原石の出身がどこだったかは誰も知りませんでな。アッサム様はマンチェスター出身と聞いておりましたので、不思議に思うておりました」
「ここ程門徒全員を把握してねぇんじゃね?それか、箝口令に忠実な司祭ばっかとか」
「しかし、過去1人も原石の出身地を知っている者もいない。それに、偶然こちらにいらっしゃるにしては、この教会の中庭は小さすぎるのでな」
和やかに、けれど結構際どい話が聞こえてきて、思わず身を隠した。これって、つまり原石の周りの人は皆記憶を失うという事?
「じぃさん何が言いてぇんだよ?」
冗談の様に笑ってアッサム様はかわした。あの司祭様はそれで諦めてくれるだろうか?
「いえ、ただ、次回はいつ偶然いらっしゃるのかと」
含み笑いの声色で、この人は気がついたんだと分かった。覚えているんじゃ無くて、気がついている。アッサム様がここ出身だと気がついたって、そんな感じ。
「もう教会にはこねぇよ。父上と母上に会いにきたり、仕事ではサルフォードに寄るだろうが。だから、じぃさん、皆を頼むな」
「もう来ない?何故ですかな?」
もう来ない?私はきっと司祭様と同じ表情になってたはずだ。そりゃしょっちゅうは無理だろうけど、リズさんの2人目とか、アッシャーちゃんのお誕生日とか、まだまだ会いに来れるんじゃ……
「俺んとこのじぃさんが言ってだんだよ。『2回は偶然だ。敏い者は気づくかもしれんが、偶然で通る。偶然を通せる。だが、3回はダメだ。3回は偶然にならん。ねぇさんを護るためだ、すまん』ってな」
ハッとした。そうか、この敏い司祭様が言ったんだ、彼に。じぃさんと呼ぶアッサム様。親のいない姉弟だった彼らと司祭様の関係は恐らくとても近しい。2人きりの姉弟がどんな絆か知っていて、小さい時から見ていた司祭様が、それしか無いって彼に言って聞かせたんだ。
「……まさか、そんな」
そして、司祭様も私と同じ結論に思い至ってる。
「そう言うこった。……じいさん、皆を頼んだ。俺はもう近くでは守れねぇから。カリン!隠れても無駄だ!帰るぞ!」
名前を呼ばれて、全速力で駆けた。アッサム様は騎獣にすでに乗っていて、私はその後ろに飛び乗る。と同時に、急上昇した。すでに遠い地面の上で、司祭様は蹲る様になっていて、輔祭さんが駆け寄るのが見えた。
「ちょっとだけ、回り道して帰るぞ。そんなんじゃ、俺がナルニッサに怒られる。奴はお前に関しちゃ見境ねぇからな」
「ひ、ぐ、ふぇっ、ず、ずみません」
「しかし、もうちょい可愛く泣けねぇの?」
「む、りですぅ」
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