【R18】二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。親友がTS転移でイケメンチートのサイコパスになってた話。

吉瀬

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 ガッという音がした。
 反応したのはナルさんだ。

 リオネット様に斬りかかったアッシャーをナルさんが止めていた。

「どけよ、ナルニッサ。リオンが居なけりゃ、この世界はソフィアの力で一発だ」
「……知っているから、止めているっ!」

 早いっ。

「堅牢」
「強化」

 兄様がこの空間を閉じた。これで兄様が死ぬか解除するまで、外に攻撃は漏れない。そして、リオネット様はナルさんの能力を限界まで上げた。でも、ナルさんは明らかに競り負けている。

「しゃあなし、やな」
「いけません!雨情!それは!」

 雨情が場にそぐわない、気の抜けた声を出して、リオネット様が止めた?

「ぐっ」

 ナルさんの動きが突然早くなり、アッシャーを押し切った。そして、索冥と二人でアッシャーから剣を弾いた。
 場が歪むかと思うほどの、色香が発動する。

「魔力か、体力が切れ、るまで、アッシャーは止められ、ます」

 索冥に抑えられたアッシャーはうめきながらも、それを振り解けない様だ。ナルさんと索冥が、アッシャーを止めた!
 喜ぶ暇は無く、ナルさんにもさっきの勇者の位を与える魔法が飛ぶ。

「私をお忘れかしら?」

 笑んだソフィアは、すぐに真顔に戻った。飛ばした魔法はナルさんに触れる前に無効化されていた。

「お前の相手は俺だ」

 兄様も魔法を飛ばす。ソフィアは精神系の魔法を使って来るが、同じく仔の統率のために精神系の魔力に特化した兄様が弾く。

「流石に一度見た物は効かない」
「男は傲慢だわ!」

 ぶぅんっと耳鳴りがした。ソフィアの力がぐんと増す。

「驚いた?怨嗟を受けられるだけ、受けたの。神様に私が壊れるギリギリまでの力をくださいってお願いしてね!」

 飛ばした魔法を兄様はギリギリで消す。二人の力は拮抗している。

 どちらに加勢すれば良い?アンズと私でどちらかを完全に抑えるとすれば……。

「ちぃっ、脳が、焼けてまう」

 雨情が叫んだ。

「それは使ってはいけないと言ったでしょう!視神経は脳の一部ですと!」
「どうしたの?!」
「雨情の能力ごとナルニッサに投射したんですよ。アッシャーを捕まえるまでのあの数秒で、雨情の視神経は焼き切れた」
「すま、んな、ちょお、頭痛とうて、戦力外やわ」

 音を拾ってこちらを見ているフリをしているのが分かった。雨情はもう、目が見えてない。

「騒がしい事だ」

 閉じたはずの空間に、クラリスは現れた。左手一つ振ると、一瞬でアンズは捕縛された。

「禅譲した、と聞き及んでいましたが?」
「リオネットとソフィーに、いかにこの世界が誤った物か教わってな。最早、妾は諦めた」

 壁一面に世界が映る。それは、この世界が生まれるより最も前の景色。全ては怨嗟により荒廃し、生きる事が困難な世界。一部の強い魔力を持ち得た者がその他を蹂躙する地獄。
 クラリスは白魔道士だった。世界を救うべく女王となる怨嗟を神より賜い、怨嗟の被害が最小となる方法を構築した。
 彼女にあったのは献身と慈悲の心のみ。知識も教養も、教育の機会は無かった。
 ただ子供が笑って外を走れる様な世界を作りたかっただけ。

 強すぎる己の力のため、個人を愛さない様に己は城という檻に入り、力のある者をコントロールし続けた、その期間は数百年。
 ひたすら孤独との戦い。

 それでも己の正しさを信じて粛々と過ごして来た。リオネットが現れるまでは。

「マンチェスターの兄妹のおかげで、目が覚めた。過ちに気づかせてくれた、礼を言おう」

 この世界のおかしな所をリオネット様はクラリス様に知らせ続けていた。

「ソフィアが陛下に何を仰ったかは知りませんが、いくらなんでも乱暴ですね」

 リオネット様の額から汗が流れる。

「アレは、お前も見たほうが良い」

 今度は壁で無くて、まるで何かの空間に放り込まれた感じがした。

 ソフィアさんの身に起きた事が追体験させられる。
 知力体力容姿に優れたソフィアさんが、ただ一点魔力が無かったというだけで両親から心ない扱いを受けた事。貴族の娘は従順である事と、魔力の強い子が産めるかどうかのみの価値しか無かった。仕方なく充てがわれた原石のアッシャーが、勇者候補となったため実質捨てられた彼女。アッシャーをそそのかしたのはリオネット様で、歪ながらも存在した彼女の価値居場所を奪ったのはリオネット様だった。

 ああ、そうか、と理解した。

 世界の根幹が揺らいだクラリスはリオネット様の策でリオネット様に依存させられかけていた。正義を見失い、正義のために頼ったリオネット様の冷酷な所業を知って、クラリスは絶望したのだ。誠心誠意作り上げた世界の、歪みを正してくれると想った相手が弱者を守らない様な人間だったから、人間全体を見限ってしまったのだ。

「……異世界でも、リオネットが女ゆえに手に入らぬ物があったろ?そうであって、何故ソフィアに寄り添えなかったのか」
「悲劇のヒロイン気質は嫌いなんですよ」
「同族嫌悪か、馬鹿馬鹿しい」

 クラリスは目を一旦閉じて、開いた。その余波で私とリオネット様は壁まで吹き飛ばされた。

「それぐらいしか逃げ場の無いという事を理解できなかった、リオネットの負けだ。お前は今は男で、もう怨嗟は呼べない。ここで、諸共終わりにしようぞ」
「私は諦めが悪い方なので」

 リオネット様はヘラっと気の抜けた顔で笑った。
 直後、私は外に飛ばされた。

 気がつくと、野外演習を行った林に私は座り込んでいた。
 リオネット様が逃がしてくれた?
 1番役に立ってなかったのに?

 考えろ、私。
 世界が終わる時に私だけ逃がしても意味はない。そうじゃない何かをリオネット様は私に託しているはずだ。

 それは、何?

 分かりきっている。

 リオネット様は『今は男で、もう怨嗟は呼べない』『聖女には桁外れの魔力が必要で、その素質を持つのは異世界の少女しかいない』

 私は異世界の少女で、こちらにくる時に怨嗟を呼んだ事がある。怨嗟の呼び方は難しくない。

 強い思い。そして、具体的な願い事。助けてや、辛い、では届かない。
 願いは心の奥底からの物で無くてはならない。偽りの願いは届かない。

 私は、……ソフィアやクラリスを叩きのめすことは望めない。だから、

「神様と話がしたい。そのために必要な魔力が欲しい」

 理由をそえて、魔力を要求する。私は祈った。
 天は応えて、私に魔力が注がれる。思った通り。
 普通は叶わない。過去にどれだけの人達が神様に問いたいと願った事だろう。けれど、そのスキルが無かったから、無理だから、魔力は注がれず叶わなかった事。

 偶然異世界に飛ばされて、そこが偶然魔力の濃い場所で、偶然私は魔力の素質の成長期で、そして、偶然私を育てたのが森の動物だった。
 
見開きみひらき

 予定調和。この力、今役に立てる。



『僕と話がしたい、か』

 遥か空から、求めて声は降った。

『これで今、君は多分この世界で一番魔力が強いよ。どうする?この力、武力に変える?それとも魔法の力に変える?』
「いいえ、あなたが私達にこれ以上怨嗟を、魔力を与えない様、お願いします。そして、……今まで我々に与えてくださった魔力を取り上げてください」

 これで、混乱は収まるはず。

『それは、難しい』
「何故ですか?」
『助けを求める声は大きくて、どれが君達を傷つける物か助ける物か、僕には分からない。僕も君達を傷つけたい訳じゃない。でも、分からずにただ、愛し子達の助けを求める声を無視するのには限界がある』
「こちらの世界に、力を望む者がいる限りは無理と言うことですか?」
『そうだね。可愛い子供の声が上がる限り、僕は眠らずにその声を拾う』
「眠る?」
『世界が整えば、僕は一旦眠る。そして、助けを呼ぶ声で僕は起きる。世界が自ら終わるその時まで、ただそれは繰り返される』
「では私が、あなたが眠れる様に願ったらどうですか?」

 空が一瞬静かになる。

「今、身に余る魔力を持ってしまった者達から強すぎる魔力を消して、その後私が貴方が眠り続ける様に願います」
『……出来なくは無い。魔力を与えた全員から返してもらうのは僕には出来ないから、神力を貸してあげよう。強い力が身を傷つけた子達から、力を凪いであげて欲しい。その後、僕を君が眠らせると良い』
「じゃあ、お願いします!」
『でも、本当にいいの?……』

 神様のその後の言葉に、私は言葉を失った。
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