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向上心
第143話
しおりを挟むコグモと共にロビーの掃除を終えた俺。
時間は、丁度お昼時だと言う事もあり、コグモとクリア、ゴブリン率いるゴブスケと共に狩りに来ていた。
「シカがいたぞ、ゴブスケ」
先行していた俺は、獲物を見つけ、ゴブスケの下まで戻って来る。
本当は俺が狩った方が早いのだが、今回はゴブスケが、リーダーとしての腕を見せる事と、道具の有用性を示す事の方が、優先だ。
「ヴァゥ」
ゴブスケは静かに声を上げると、俺の示した方向へ、木の上を飛び移りながら、移動していく。
その後に、自然と続くゴブリン達も、指示を与えられたわけでもないのに、統率が取れていた。
ゴブリン達は、俺達に比べて、体の大きさや重さがある。
その分、飛び移れる木の枝は限られて来るはずなのだが、それを瞬時に見極めて素早く移動していた。
また、仲間同士ぶつかる事も無く、リーダーを見失う事も無く、最小限の音と振動で移動していると言うのだから驚きだ。
流石はこの森で集団生活を行い、生き延びて来た種族である。
俺達も糸を放っては回収し、素早く木の枝を伝う。
しかし、あの体格から生み出される跳躍力には勝てない様で、どんどんと距離を離されてしまう。
これからも、素直に、背中に乗せて貰った方が良いだろう。
「あっ……」
「……!っと、大丈夫か?クリア」
糸の操作を誤ったのか、空中に放り出されたクリアをキャッチする。
これでも、速度を落としていたつもりだったのだが、まだ、この速度では、クリアには早すぎた様だ。
「大丈夫……。ありがとう」
クリアは俺の腕の中で、小さく呟くと、俺の移動の邪魔にならない様、蹲る。
「無理するなよ。シカの場所は俺も分かってるからな。ゴブスケならその場で仕留める事ができるだろうし、最悪、逃げたシカの痕跡を追えば、いくら離されても追いつける」
俺はそう言って、適当な木の上に体を落ち着けると、クリアを下ろそうとする。
「パパ……。このまま連れてって?」
腕の中で、小さく蹲ったまま、懇願してくるクリア。
心なしか、その瞳は、震えている気がした。
落ちそうになったのが怖かったのだろうか?
それとも。俺に大切にされているかを確かめている?
後者の場合は、甘やかしては良くない気がするが、前者の場合は、無理矢理やらせるのも、酷という物だ。
それに、移動訓練は、いつものスケジュールに組み込まれている。
無理に、今、行わせる必要も無いだろう。
「……分かった。今回は特別だぞ?」
そう言う俺にクリアは「ん」と、首を小さく縦に振った。
俺はしっかりと、クリアを抱き直す。
すると、クリアも、俺の胸に顔を埋め、しっかりと抱き着いてきた。
……子どもらしくて、可愛いな……。
「……甘やかしすぎると、痛い目を見ますよ?」
クリアの愛らしい姿に見惚れていると、いつの間にやら、隣に立っていたコグモが、ジト目で、俺に耳打ちをする。
「……分かってるって」
心の隙を突かれた気がして、歯切れの悪い返事を返す俺。
「何ですか?今の間は」
あぁ、こうなると、面倒くさい。
言葉の追撃を仕掛けて来るコグモから、俺は逃げる様に移動を開始する。
「あ!コラ!逃げないでください!」
俺はコグモの声を無視すると、腕の中で、小さく鼓動する温もりに、頬を緩めた。
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