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向上心
第160話
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「なぁ、やり難くないか?……最悪、俺は脱皮の様に、皮を剥いでクリアを糸ごと下に降ろせるが……。どうする?」
再びの沈黙に耐えかねた俺は、コグモに配慮する振りを装って、提案を持ち掛けた。
「いえ……。下手に動かすと、もっと絡まるので……。体勢が辛く無ければこのままでお願いします」
この空気が辛いだけで、体勢は辛く無い。
彼女の邪魔をするのも良くないので、俺は「あぁ」と答え、じっとするしかなかった。
真剣な彼女の顔が、吐息のかかる位置まで近づいて来る。
俺は思わず、その真剣な瞳に視線が吸い込まれる。
「……そう言えば、なんで、こんな事をしたんだ?」
空気に耐えきれなくなった俺は顔を逸らし、思わず聞かなくても良い事を聞く。
しまったと思った時には、もう遅い。
彼女の繊細な手先の動きに、ピクリと、不自然な動きが混ざった事からも、動揺している事が伝わってきた。
「いや!良いんだ!何でもない!気にしないでくれ!って、おわっと!!」
動揺した俺は、思わず足を動かして、体勢を崩してしまう。
そのまま、クリアから垂れさがる糸に絡まった俺は、すっ転んでしまった。
受け身を取ろうと動いた俺の手足には、舞い上がった落ち葉と糸が絡まる。
「……はぁ。何しているんですか……。全く……」
そう言って、彼女は呆れた表情を、片手で覆い隠す様に支えると、溜息を吐く。
「あは……。あははははは……」
とりあえずは、重たい空気にならなくて良かった。
俺は乾いた笑いで誤魔化そうとする。
「……あれはですね……。あれですよ……」
彼女が少し気まずそうに、恥ずかしそうに呟く。
……あれとは何だろうか?
「今、仲間の蜘蛛さん達がいないのも、同じ理由なのですが……」
あぁ、いつも、コグモの中にいる奴らか……。
しかし、どう言う事だろう?成長期で食べ盛りで、何でも食べたくなってしまうのだろうか?……違う種族の感覚は良く分からない。
「私達は、本来、卵の状態で冬を乗り切って、餌の豊富になった、春の終わりに卵から孵るんです……」
ふむふむ……。つまり、どう言う事だ?
「……あぁ!秋の終わりに産卵するわけか!」
ピンときた俺は、はしゃぐように答える。
しかし、恥ずかしそうにするコグモを見て、自身の軽率な発言に焦りを覚えた。
「そ、そうかそうか!仕方ないよな!他の種族でも産卵前に大食いになるやつは多いし、良くある事だ!これからは、我慢せずに、どんどん食えよ!」
何とか早口で誤魔化そうとするが、その内容はフォローになっているかどうか怪しかった。
「い、いえ、そう言う面もあるのですが、そう言う事ではなく……」
未だに、何かを言いたげに、もじもじとするコグモ。
なんだろうか?太ったり、人前で大食いするのが恥ずかしいのだろうか?
「……仕方ないさ。生理現象なんだからな……。俺だって、腹が減った時は我を失ったし、そう言うのは、言いっこなしだろ?」
コグモに遠慮して欲しくない俺は、彼女を安心させるように呟く。
「……仕方ない、ですか?」
不安げに、それでいて期待を込めるような瞳で、俺を見つめてくる彼女。
もう一押しだ。
「そうだ。仕方のない事だ。もし、それで、今回の様な事が起こっても、俺以外に迷惑を掛けなければ、絶対に怒らない。
……だから、一緒に対策を考えて行こうな……。いっぱい食べるとか……」
「……いっぱい、食べても良いんですか?」
「良いに決まっているさ!好きなだけ食べると良い!食べ物はいくらでも俺が……」
「嬉しい!」と言って、うつ伏せに転がる、俺の背中の上に飛びついてくる彼女。
……良かった。ちゃんと分かってくれたらしい。
俺は肩の力を抜くと、コグモが糸を解いてくれるのを、静かに待った。
再びの沈黙に耐えかねた俺は、コグモに配慮する振りを装って、提案を持ち掛けた。
「いえ……。下手に動かすと、もっと絡まるので……。体勢が辛く無ければこのままでお願いします」
この空気が辛いだけで、体勢は辛く無い。
彼女の邪魔をするのも良くないので、俺は「あぁ」と答え、じっとするしかなかった。
真剣な彼女の顔が、吐息のかかる位置まで近づいて来る。
俺は思わず、その真剣な瞳に視線が吸い込まれる。
「……そう言えば、なんで、こんな事をしたんだ?」
空気に耐えきれなくなった俺は顔を逸らし、思わず聞かなくても良い事を聞く。
しまったと思った時には、もう遅い。
彼女の繊細な手先の動きに、ピクリと、不自然な動きが混ざった事からも、動揺している事が伝わってきた。
「いや!良いんだ!何でもない!気にしないでくれ!って、おわっと!!」
動揺した俺は、思わず足を動かして、体勢を崩してしまう。
そのまま、クリアから垂れさがる糸に絡まった俺は、すっ転んでしまった。
受け身を取ろうと動いた俺の手足には、舞い上がった落ち葉と糸が絡まる。
「……はぁ。何しているんですか……。全く……」
そう言って、彼女は呆れた表情を、片手で覆い隠す様に支えると、溜息を吐く。
「あは……。あははははは……」
とりあえずは、重たい空気にならなくて良かった。
俺は乾いた笑いで誤魔化そうとする。
「……あれはですね……。あれですよ……」
彼女が少し気まずそうに、恥ずかしそうに呟く。
……あれとは何だろうか?
「今、仲間の蜘蛛さん達がいないのも、同じ理由なのですが……」
あぁ、いつも、コグモの中にいる奴らか……。
しかし、どう言う事だろう?成長期で食べ盛りで、何でも食べたくなってしまうのだろうか?……違う種族の感覚は良く分からない。
「私達は、本来、卵の状態で冬を乗り切って、餌の豊富になった、春の終わりに卵から孵るんです……」
ふむふむ……。つまり、どう言う事だ?
「……あぁ!秋の終わりに産卵するわけか!」
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しかし、恥ずかしそうにするコグモを見て、自身の軽率な発言に焦りを覚えた。
「そ、そうかそうか!仕方ないよな!他の種族でも産卵前に大食いになるやつは多いし、良くある事だ!これからは、我慢せずに、どんどん食えよ!」
何とか早口で誤魔化そうとするが、その内容はフォローになっているかどうか怪しかった。
「い、いえ、そう言う面もあるのですが、そう言う事ではなく……」
未だに、何かを言いたげに、もじもじとするコグモ。
なんだろうか?太ったり、人前で大食いするのが恥ずかしいのだろうか?
「……仕方ないさ。生理現象なんだからな……。俺だって、腹が減った時は我を失ったし、そう言うのは、言いっこなしだろ?」
コグモに遠慮して欲しくない俺は、彼女を安心させるように呟く。
「……仕方ない、ですか?」
不安げに、それでいて期待を込めるような瞳で、俺を見つめてくる彼女。
もう一押しだ。
「そうだ。仕方のない事だ。もし、それで、今回の様な事が起こっても、俺以外に迷惑を掛けなければ、絶対に怒らない。
……だから、一緒に対策を考えて行こうな……。いっぱい食べるとか……」
「……いっぱい、食べても良いんですか?」
「良いに決まっているさ!好きなだけ食べると良い!食べ物はいくらでも俺が……」
「嬉しい!」と言って、うつ伏せに転がる、俺の背中の上に飛びついてくる彼女。
……良かった。ちゃんと分かってくれたらしい。
俺は肩の力を抜くと、コグモが糸を解いてくれるのを、静かに待った。
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