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向上心
第164話
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「うわぁ~……!こんな物で、本当にとれるんですね」
川に沈めていたカゴ罠を引き上げたコグモさんが、驚いたように呟く。
ふん……。楽しそうに、はしゃいじゃって……。
地球の記憶がある私からしたら、こんな事、想定内だ。
「おい!見てみろクリア!この魚面白いぞ!」
「どれですか?」
パパのはしゃぎ声につられて、かけて行く私。
そこには、古代魚の様に、強靭な顎と、鎧のように固い体を持つナイフのような体をした魚がいた。
「カッコ良くないか?!」
「カッコイイです……か?」
私には良く分からない。
と言うか、パパとそれを取り巻く人達以外に関しては、あまり興味が向かないのだ。
極端な話をしてしまえば、パパ以外、正直、どうでも良い……。
「お!こっちには、手が生えた様なのがいるぞ!」
カゴを次々とひっくり返していくパパ。
その中には大きなハサミを持つカニや、前足の様な物が生えた魚、鋭い棘を生やした甲羅を持つカメなどがいた。
まぁ、確かに、過去の記憶では見た事の無い生き物ばかりだが、そんな事を言い出したら、地上にだって、見た事の無い生物は溢れている。
今更感で満載だった。
「……もう、ルリ様ったら……」
背後から聞こえてきた、呆れる様な声に、ビクリと肩を震わせる私。
楽しそうにはしゃぐパパを観察している内に、いつの間にか背後を取られていた様だ。
私は振り向かず、恐怖で硬直しかけた脚をゆっくりと前に進める。
「クリア様」
「は、はいっ!」
急に肩に手を乗せられ、体が硬直するどころか、変な声が出てしまう。
「そんなに怯えないでくださいよ……」
そう言って、硬直した私の体を抱き寄せるコグモさん。
怯えた所で、私からは逃げられないと言う事なのだろう。
「わ、私は、怯えてなんて、いません!」
そうは言って見る物の、声も足も震えている。
パパから距離が離れた今、このまま口を塞がれ、後ろの森に、サッと引きずり込まれてしまえば、私はそこまでだろう。
万事休すとは正にこの事だ。
「……本当は、先日の件、夢じゃない事は分かっているのでしょう?」
優しく私にささやきかけて来るコグモさん。
これは誘導尋問だ。
私がはい。と答えれば最後、森の中へ引きずり込まれて、消息不明になる事は目に見えている。
「な、何の事でしゅか?」
声の震えから、思わず噛んでしまう。
我ながら、演技が下手過ぎて、冷や汗がダラダラと溢れて来る。
「……まぁ、そう言う事にしたいなら、それで良いのですが……」
そう言って、彼女が肩を掴む手を緩めた瞬間に、私はロケットの様に駆け出すと、パパの陰に張り付いた。
「おっと……。どうしたんだ、クリア?」
パパが飛びついて来た私と、私の目線の先で、何事も無かったかの様に、ニコニコするコグモさんの間に視線を泳がせる。
彼女は、完全に、私が、先の件を夢でないと判断している事に気付いている。
あの女の狙いは、一体なんだと言うのだろうか?
まさか、私も隷属させて、生きる保存食にするつもりなのだろうか?
私は逃げ出したい気持ちに駆られるが、パパを置いて、一人逃げる訳には行かない。
パパは私をここまで、彼女の魔の手から逃しつつ、育て上げてくれたのだ。
それに、パパがいない生活なんて考えられない。
見捨てるなんて、ありえなかった。
私の熱い視線を笑顔で返すコグモさん。
パパを取り返すのが先か、私が支配されるのが先か。
私の戦いは、まだ始まったばかりだった。
川に沈めていたカゴ罠を引き上げたコグモさんが、驚いたように呟く。
ふん……。楽しそうに、はしゃいじゃって……。
地球の記憶がある私からしたら、こんな事、想定内だ。
「おい!見てみろクリア!この魚面白いぞ!」
「どれですか?」
パパのはしゃぎ声につられて、かけて行く私。
そこには、古代魚の様に、強靭な顎と、鎧のように固い体を持つナイフのような体をした魚がいた。
「カッコ良くないか?!」
「カッコイイです……か?」
私には良く分からない。
と言うか、パパとそれを取り巻く人達以外に関しては、あまり興味が向かないのだ。
極端な話をしてしまえば、パパ以外、正直、どうでも良い……。
「お!こっちには、手が生えた様なのがいるぞ!」
カゴを次々とひっくり返していくパパ。
その中には大きなハサミを持つカニや、前足の様な物が生えた魚、鋭い棘を生やした甲羅を持つカメなどがいた。
まぁ、確かに、過去の記憶では見た事の無い生き物ばかりだが、そんな事を言い出したら、地上にだって、見た事の無い生物は溢れている。
今更感で満載だった。
「……もう、ルリ様ったら……」
背後から聞こえてきた、呆れる様な声に、ビクリと肩を震わせる私。
楽しそうにはしゃぐパパを観察している内に、いつの間にか背後を取られていた様だ。
私は振り向かず、恐怖で硬直しかけた脚をゆっくりと前に進める。
「クリア様」
「は、はいっ!」
急に肩に手を乗せられ、体が硬直するどころか、変な声が出てしまう。
「そんなに怯えないでくださいよ……」
そう言って、硬直した私の体を抱き寄せるコグモさん。
怯えた所で、私からは逃げられないと言う事なのだろう。
「わ、私は、怯えてなんて、いません!」
そうは言って見る物の、声も足も震えている。
パパから距離が離れた今、このまま口を塞がれ、後ろの森に、サッと引きずり込まれてしまえば、私はそこまでだろう。
万事休すとは正にこの事だ。
「……本当は、先日の件、夢じゃない事は分かっているのでしょう?」
優しく私にささやきかけて来るコグモさん。
これは誘導尋問だ。
私がはい。と答えれば最後、森の中へ引きずり込まれて、消息不明になる事は目に見えている。
「な、何の事でしゅか?」
声の震えから、思わず噛んでしまう。
我ながら、演技が下手過ぎて、冷や汗がダラダラと溢れて来る。
「……まぁ、そう言う事にしたいなら、それで良いのですが……」
そう言って、彼女が肩を掴む手を緩めた瞬間に、私はロケットの様に駆け出すと、パパの陰に張り付いた。
「おっと……。どうしたんだ、クリア?」
パパが飛びついて来た私と、私の目線の先で、何事も無かったかの様に、ニコニコするコグモさんの間に視線を泳がせる。
彼女は、完全に、私が、先の件を夢でないと判断している事に気付いている。
あの女の狙いは、一体なんだと言うのだろうか?
まさか、私も隷属させて、生きる保存食にするつもりなのだろうか?
私は逃げ出したい気持ちに駆られるが、パパを置いて、一人逃げる訳には行かない。
パパは私をここまで、彼女の魔の手から逃しつつ、育て上げてくれたのだ。
それに、パパがいない生活なんて考えられない。
見捨てるなんて、ありえなかった。
私の熱い視線を笑顔で返すコグモさん。
パパを取り返すのが先か、私が支配されるのが先か。
私の戦いは、まだ始まったばかりだった。
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