異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

文字の大きさ
168 / 172
向上心

第167話

しおりを挟む
 「おい!待て!クリア!」
 走り去ろうとするクリアを絡めとろうと、俺は糸を飛ばした。
 
 「駄目ですよ。ルリ様」
 しかし、それはコグモから伸びるムカデの尻尾によって叩き落されてしまう。
 
 「なにすんだよ!コグモ!」
 俺は彼女に食って掛かりつつも、森の中へ進んで行くクリアを、見失わない様に走り出す。
 
 「大丈夫です。安心してください。クリア様には私の仲間が一人、ついていますので、その子が発するフェロモンで大体の位置は分かります」
 そう言って、俺の横を並走してくるコグモ。

 しかし、そんな事を言われても、心配な物は心配だ。
 もしもの事があったらと思うと、気が気ではない。

 この世界は、ほんの一瞬で大切な人の命を奪うのだ。
 彼女に構っている暇は無かった。
   
 「……はぁ……。ルリ様は本当に分からず屋なんですから……」
 コグモは走りながらやれやれと言った様に、片腕で頭を抑えると、もう片腕をこちらに伸ばして、手のひらを向けて来た。
 
 「お!おい!」
 その手首から糸が発射される事は予想できた。
 予想は出来たが、コグモのべとべとな糸は、触れるだけで接着されてしまうので、叩き落とす事も出来ず、かと言って、こんな至近距離では避ける事も出来ない。
 
 「はい!捕獲完了です♪」
 彼女は嬉しそうに笑うと、糸を巻き上げ、俺を、その両腕の中に、お姫様だっこの要領で、抱きかかえた。
 
 「ん~~~!ん~~~~!」
 すまきにされ、口まで塞がれた俺は、芋虫の様に動く事しかできない。
 一層の事、この体を捨てて、コアから直接コグモの神経を……。
 
 「ルリ様?私が信用できませんか?」
 彼女は俺を見ずに、足を進めながら問うてくる。

 真剣な表情で、クリアの後を追いながら、そんな事を言われては、反抗的だった俺の心も揺らぐ。

 「冷静になって下さい。クリア様はあの小さな体で、ただがむしゃらに走っているだけです。私達が糸を駆使すれば、余裕で追いつけますよ……。ほら」
 彼女はそう言いながら、木の上に登る。
 そこからは、確かに、俯きながら走るクリアの姿を確認する事が出来た。
 
 「……このまま、しばらく後を付けながら、見守りますよ」
 木の上を伝って、一定の距離を保ちつつ、クリアに気付かれない様に後を追うコグモ。

 俺には、そんな事をする理由が分からなかったし、なにより、クリアの安全を確保する為、いち早く、その身柄を抑えてしまいたかった。
 
 「……あのままクリア様を捕まえて、どうするつもりだったんですか?」
 未だに攻撃的な視線を送る俺から何かを察したのか、クリアの方を見ながら、淡々とした声で、質問してくるコグモ。
 
 (そんなの、捕まえてから考えれば良いじゃないか!)
 俺は糸を通してコグモに伝える。
 
 「……では、今、考える時間があります。考えてみてください。クリア様はルリ様に捕まった後、どうすると思いますか?」
 
 そりゃあ、まぁ、捕まれば抵抗するだろう。
 抵抗して、怒って、それでも、時間が経てば落ち着いて、いつも通りに……。

 ……いつも通りに戻るのか?クリアの心は成長してきている。そもそも、いつも通りなんてものが存在するのか?
 
 クリアは何故、あんなにも怒ったのだろうか?
 その原因が分からない限り、本当の解決は見えないのではないか?
 
 「……お互いに、距離を置く事も大切です。ずっと近くにいては、見えない物もありますから……」
 彼女は、俺に、と言うよりは、自身に語り掛ける様に呟く。

 それは、リミアが姿を消した時の話だろうか?
 それとも、俺がコグモ達を置いて、ゴブリン達の前で気絶していた時の話だろうか?
 
 ……でも、そうだ。彼女の言う通りだ。
 このままでは問題を先送りにするだけで、何の解決にもならないだろう。

 お互い、距離を置く時間が、考える時間が必要なのかもしれない。
 俺の為にも、クリアの為にも。
 
 ……確かに、この距離なら、クリアに襲いかかるであろう脅威も、ある程度、事前に把握でき、かつ、迅速に対応できる位置だろう。
 
 (……もう大丈夫だ。糸、解いてくれ)
 俺の声に、コグモはこちらに顔を向け「はい!」と、笑顔で答える。
 彼女の元気な笑顔を見ていると、この過酷な世界でも、俺たち家族は、何とかうまくやっていける気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―

やまだ
ファンタジー
12/9 一章最後に番外編『雨の日のあだ名戦争』アップしました。 ⭐︎二章より更新頻度週3(月・水・金曜)です。 朝、昼、夜を超えてまた朝と昼を働いたあの日、救急医高梨は死んでしまった。比喩ではなく、死んだのだ。 次に目覚めたのは、魔法が存在する異世界・パストリア王国。 クラリスという少女として、救急医は“二度目の人生”を始めることになった。 この世界では、一人ひとりに魔法がひとつだけ授けられる。 クラリスが与えられたのは、《消去》の力――なんだそれ。 「今度こそ、過労死しない!」 そう決意したのに、見過ごせない。困っている人がいると、放っておけない。 街の診療所から始まった小さな行動は、やがて王城へ届き、王族までも巻き込む騒動に。 そして、ちょっと推してる王子にまで、なぜか気に入られてしまい……? 命を救う覚悟と、前世からの後悔を胸に―― クラリス、二度目の人生は“自分のために”生き抜きます。 ⭐︎第一章お読みいただきありがとうございました。 第二章より週3更新(月水金曜日)となります。 お楽しみいただけるよう頑張ります!

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...