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冬に向けて
第170話
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「……やっと眠ったか……」
現在、日も暮れ、リミアの部屋のベッドの上。
眠ってしまったクリアは、それでも俺の腕を離さなかった。
「……ルリ様。ちょっと良いですか?」
それを待っていたかの様に、窓辺に移動させた椅子から、月を眺めていたコグモが手招きしてくる。
クリアはあれから、俺に隠さない程、彼女を警戒していた為、こうやって気を遣って、距離を取ってくれているのだ。
クリアには申し訳ないが、ゆっくりと、その抱擁を引き剥がして、ベッドから降りる俺。
丸机の周りに配置されている椅子を持ち出すと、俺も、コグモと共に、月を見上げられる位置へ、椅子を配置する。
「座らせてもらうな」
「はい」
彼女は、こちらを向き、優しい笑顔で答えると、再び、無言で月を見つめ始めた。
隣に座れば何だかのアクションを起こしてくると思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
待つべきか、声を掛けるべきか……。
「…………月、綺麗だな」
悩んだ末に、結局、気まずさから、当たり障りのなさそうな内容で声を掛けてみる。
「そうですか?木々の葉に隠れて、あまり見えませんが……」
意地悪な事を言って来るコグモ。
「じゃあ、何を見てるんだよ」
俺は拗ねた口調で問いただす。
「別に、何も……。ただ、色々な目で外を見ていただけです」
色々な目?他の生物の目で、外を見ていたと言う事か?
「そうか……。どんな感じだ?」
俺は興味半分、話の繋ぎ半分で話を聞いてみる。
「そうですね……。色々な見え方があるんだなぁ……。って、思いました」
それはそうだろう。色々な生物の目なのだから、変わらない方がおかしい。
「皆が皆、同じものが見えれば良いのに……」
一人、呟くように続けるコグモ。
皆が皆、同じように物を見れたら……?
少なくとも、俺とコグモとクリアは同じ構造の目を保有している。
だから、見える物も同じなはずで……。
だから何だ?
頭の悪い俺には、コグモの言う事が良く分からなかった。
「……夜も寒くなってきてしまいましたね。そろそろ閉めましょうか」
俺が「あぁ」と気の無い返事を返すと、彼女はこちらに背を向けたまま、立ち上がる。
彼女は何を考えているのだろうか。
俺は窓を閉める、彼女の背中を見つめる。
糸を通して、無理矢理に彼女の頭の中を覗けば、分からない事も無いだろうが、それは、何か違う気がした。
でも、そうしない限りは、本当の彼女の心を知りえる事なんて、できないのだろう。
俺は、コグモが、クリアを甘やかしてはいけないと言うのは、クリアを自立させる為だと考えてはいるが、実際はそうでないかもしれない。
クリアが俺を見つけて泣きついて来たのだって、ただ心細くなって泣きついて来ただけで、その反動で、俺からより離れなくなっただけだと思っている。
しかし、その内情は、分からない。
それこそ、解釈を間違えていれば、リミアの様な事件につながりかねないのだ。
ここは、心を鬼にしてでも、彼女の思想を読み取るべきか?
そんな事を考えていると、作業を終えた彼女が、こちらに振り返る。
「あの……。前も言いましたけど、じろじろ見ないで欲しいのですが……。私、微弱な音の反響で、背後に居ようと、見えるんですよ?」
「わ、悪い悪い……。ちょっと考え事をしていてな」
とてもじゃないが、教えらる様な内容ではなかったので、少しテンパる。
「あら、残念です。前の様に、私に見惚れていたのかと思いました」
そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、最終的に俺の眼前まで近づいて来るコグモ。
「少し、シても良いですか?」
彼女は俺の耳元で妖艶な声を出す。
する。と言うのは、きっと、あの事だろう。
「あ、あぁ……」
何とも言えない、複雑な気分になる俺。
「ありがとうございます。……では、クリアも寝ている事ですし、部屋も汚れますから、地下の空き部屋にでも移動しましょうか」
「それとも、外が良いですか?」と、笑顔で提案してくる彼女。
俺は、難しい事を考えていた自分自身がばかばかしくなり、脱力しながら「地下室で」と、答える。
「承りました♪」
楽しそうな彼女に腕を引かれ、地下へ連れ去られる俺。
これから行われるであろう行為に、俺は頭を抱えざるを得なかった。
現在、日も暮れ、リミアの部屋のベッドの上。
眠ってしまったクリアは、それでも俺の腕を離さなかった。
「……ルリ様。ちょっと良いですか?」
それを待っていたかの様に、窓辺に移動させた椅子から、月を眺めていたコグモが手招きしてくる。
クリアはあれから、俺に隠さない程、彼女を警戒していた為、こうやって気を遣って、距離を取ってくれているのだ。
クリアには申し訳ないが、ゆっくりと、その抱擁を引き剥がして、ベッドから降りる俺。
丸机の周りに配置されている椅子を持ち出すと、俺も、コグモと共に、月を見上げられる位置へ、椅子を配置する。
「座らせてもらうな」
「はい」
彼女は、こちらを向き、優しい笑顔で答えると、再び、無言で月を見つめ始めた。
隣に座れば何だかのアクションを起こしてくると思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
待つべきか、声を掛けるべきか……。
「…………月、綺麗だな」
悩んだ末に、結局、気まずさから、当たり障りのなさそうな内容で声を掛けてみる。
「そうですか?木々の葉に隠れて、あまり見えませんが……」
意地悪な事を言って来るコグモ。
「じゃあ、何を見てるんだよ」
俺は拗ねた口調で問いただす。
「別に、何も……。ただ、色々な目で外を見ていただけです」
色々な目?他の生物の目で、外を見ていたと言う事か?
「そうか……。どんな感じだ?」
俺は興味半分、話の繋ぎ半分で話を聞いてみる。
「そうですね……。色々な見え方があるんだなぁ……。って、思いました」
それはそうだろう。色々な生物の目なのだから、変わらない方がおかしい。
「皆が皆、同じものが見えれば良いのに……」
一人、呟くように続けるコグモ。
皆が皆、同じように物を見れたら……?
少なくとも、俺とコグモとクリアは同じ構造の目を保有している。
だから、見える物も同じなはずで……。
だから何だ?
頭の悪い俺には、コグモの言う事が良く分からなかった。
「……夜も寒くなってきてしまいましたね。そろそろ閉めましょうか」
俺が「あぁ」と気の無い返事を返すと、彼女はこちらに背を向けたまま、立ち上がる。
彼女は何を考えているのだろうか。
俺は窓を閉める、彼女の背中を見つめる。
糸を通して、無理矢理に彼女の頭の中を覗けば、分からない事も無いだろうが、それは、何か違う気がした。
でも、そうしない限りは、本当の彼女の心を知りえる事なんて、できないのだろう。
俺は、コグモが、クリアを甘やかしてはいけないと言うのは、クリアを自立させる為だと考えてはいるが、実際はそうでないかもしれない。
クリアが俺を見つけて泣きついて来たのだって、ただ心細くなって泣きついて来ただけで、その反動で、俺からより離れなくなっただけだと思っている。
しかし、その内情は、分からない。
それこそ、解釈を間違えていれば、リミアの様な事件につながりかねないのだ。
ここは、心を鬼にしてでも、彼女の思想を読み取るべきか?
そんな事を考えていると、作業を終えた彼女が、こちらに振り返る。
「あの……。前も言いましたけど、じろじろ見ないで欲しいのですが……。私、微弱な音の反響で、背後に居ようと、見えるんですよ?」
「わ、悪い悪い……。ちょっと考え事をしていてな」
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「あら、残念です。前の様に、私に見惚れていたのかと思いました」
そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、最終的に俺の眼前まで近づいて来るコグモ。
「少し、シても良いですか?」
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する。と言うのは、きっと、あの事だろう。
「あ、あぁ……」
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「ありがとうございます。……では、クリアも寝ている事ですし、部屋も汚れますから、地下の空き部屋にでも移動しましょうか」
「それとも、外が良いですか?」と、笑顔で提案してくる彼女。
俺は、難しい事を考えていた自分自身がばかばかしくなり、脱力しながら「地下室で」と、答える。
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